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八条学園怪異譚

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第二十四話 古墳その十四

「それでもこの人は寝るよ」
「ふうん、そうなの」
「寝ることはよいことじゃ」
 また声がした、そしてだった。
 飛鳥時代の女性貴族の服、万葉集そのままの姿の妙齢の美女が出て来た。切れ長の目に優雅な雰囲気である。
 その彼女が言ってきたのである。
「わらわは若い頃から睡眠は大事にしておる」
「えっ、若い頃からって」
 聖花はそのことを聞いてその貴族の幽霊に問うた。
「貴女は普通にお若いですよ」
「いや、わらわは八十で亡くなった」
 当時としてはかなりの高齢である。
「若い時の姿でおるだけじゃ」
「そうなんですか」
「こうした時幽霊はよい」
 自分の望むままの姿でいられるというのだ。
「まあ飲むことも食べることも出来ぬがな」
「本当は寝ることもですよね」
「昼は横になって目を瞑っているだけじゃ」
 それだけだというのだ。
「そうしておる」
「そうですか、それでなんですが」
「話は聞いておる」
 貴族の幽霊は自分から話を切り出した。
「泉を探しておるな」
「はい、それで古墳が」
「この古墳が泉ではないかというのじゃな」
「それはどうなんですか?」
「気になるのなら入ってみよ」
「いいんですか?」
「古墳はそうした場所になっておる」
 幽霊はわかっている感じで返す。
「今ではのう」
「はい、学術的に研究対象になっていますから」
 聖花がこう答える。
「古墳の中に一緒に埋葬されるものが考古学的価値がありますから」
「がらくたばかりだというのにのう」
「それが違うんです」
 幽霊と聖花の見解の相違だった。
「私達の時代から見れば」
「そうであるか」
「というかがらくたですか?」
「わらわから見ればな」
「そうなるんですか」
「ああしたものには興味はない」
 率直に言う幽霊だった。
「この古墳にも結構あったがのう」
「その埋葬品どうなったんですか?」
「この学び舎の博物館とやらにある」
 そこにだというのだ。
「全てそこに移された」
「考古学的な価値からですね」
「そういうことじゃ、まあそんなことはどうでもよい」
 本当にそうしたことには興味のない幽霊だった。
 そのうえでこう二人に言った。
「それで泉のことじゃ」
「中に入っていいんですよね」
「今申した通りじゃ」
 また聖花に言う。
「中に入るがよい、許す」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
 二人は幽霊の言葉を受けてそのうえで一礼してからだった。
 その古墳の中に入った、入り口から入ってそれで中を見てみると。
 ごく普通の古墳の中だった、暗い土の玄室があるだけだ。
 そこから何もなかった、それで外に出て幽霊達に述べた。
「ここも違ったわ」
「また別の場所に行くわね」
「残念だったね」
 送り犬が二人に慰めの言葉をかける。
「また次だね」
「ええ、今度は水族館に行くから」
「その後で植物園にね」
 既に行く場所は二人で決めていた、だから問題はなかった。 
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