| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔弾の射手

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三幕その三


第三幕その三

 その頃婚礼の場でもある大会の場所では猟師達が集まっていた。そして領主である侯爵オットカールを囲んで酒を楽しんでいた。
「皆の者」
 気品のある長身で口髭を生やした髭と同じ黒い髭の男が猟師達に声をかけていた。彼がその侯爵オットカールその人である。
「今日は楽しもうではないか」
「はい!」
 彼等は杯を掲げてそれに応えた。
「この世で狩人の楽しみに優るものはなし、生命の杯は絶え間なく誰に向かって泡立ち溢れるのであろうか。それは最早言うまでもない」
 彼等は口々にこう言った。
「角笛の響きを聞いて緑の野を進み、森や沼を越えて鹿を追う。これこそ男の憧れであり王者の楽しみだ。身体は鍛えられ、食事は旨い。森や岩山が我々を出迎えその中に入る。そして全てが終わった後我等はこうして酒を共に楽しむ!」
 そしてその酒を一斉に口にした。
「狩の女神アルテミスが我等を護る。そして我等は誇り高き狼や猪をも倒す。これが王者の楽しみでなくて何と言おうか!」
「うむ、全くその通りだ」
 オットカールは彼等の声に目を細めていた。
「そして今日はそれだけではないぞ」
「はい」
 猟師達は彼の言葉に頷いた。
「素晴らしい婚礼がある」
「マックスの」
 皆オットカールの言葉に頷いた。
「その通り。私は今日という日をどれだけ待ち望んだか。私は二人が小さい頃から知っている」
「はい」
「クーノよ、覚えているな」
 ここでクーノに声をかけた。
「はい」
 彼はそれに応えた。
「忘れる筈もありません」
「そう、私がまだ髭も生えていない頃マックスもアガーテもほんの子供であった。その頃からマックスは凛々しく、アガーテは可愛らしかった」
「はい」
「幼いアガーテが狐に追いかけられている時にマックスが助けに入った。弓で仕留めたのだ」
「偶然側にあった弓で。あれは驚きました」
「それを見て思ったのだ。この二人は将来きっとこの村で名のある二人になると。そしてこの二人は結ばれるべきだと」
「つまり二人はその時から結ばれる運命だったのですね」
「私はそう思う」
 オットカールは猟師の一人の言葉に頷いた。
「そして今日のこの日だ。ようやく来たと言うべきか」
「はい」
 クーノはそれにまた頷いた。
「私もどれだけ待ち望んだことか」
「そう、ではそろそろはじめるか」
「試験射撃を」
「マックスはいるか」
「彼は」
 見れば森の中からやって来る。カスパールはそれを一同の端から見ている。
「おお、来たか」
「はい」
 マックスはオットカールの前にやって来た。
「申し訳ありません、遅れてしまいました。準備に手間取ってしまいまして」
「よい。準備がなくては何も出来はせぬからな」
 彼はそう言ってマックスを許した。
「そして」
 さらに辺りを見回した。
「女達はまだか」
「そういえば遅いですな」
 クーノも猟師達も辺りを見回した。
「ですがかえって好都合ですな」
「どうしてだ?」
 オットカールはクーノに問うた。
「娘がいないうちに試験が出来るからです」
「花嫁の前で自分の栄光を見せられるではないか」
「そう考える者もおりますが」
 クーノはここでこう断った。
「そうでない者もおります。とりわけマックスは」
 そう断ってから話した。
「善良な若者です。そして純粋です」
「それは知っているつもりだ」
「だからこそ娘を前にして試験をさせたくはないのです」
「緊張するということか」
「はい。ですからここは早く済ませたいのですが」
「そういう考えもあるが」
 だがオットカールはその提案には否定的であった。
「これは古いしきたいだ。それはわかっていよう」
「はい」
 クーノもそれは知っていた。試験射撃は花嫁となる娘の前で行うしきたりなのである。
「それはわかっているな」
「無論です」
「ならばよい。確かにそなたの気遣いはわかる。だがな」
 オットカールは言葉を続けた。
「そうした緊張にも勝たなければならないのだ。わかるな」
「はい」
「だがな」
 しかし彼はここで譲歩することにした。
「古い猟師達が別の考えならばそれを聞こう。どうだ」
 その古い猟師達だけでなく若い猟師達にも問うた。
「そなた達の考えを聞きたい」
 彼は人の話をよく聞く領主として知られていた。こうして他の者の意見もよく聞いたのである。
「はい」
 皆それぞれ口を開いた。
「早いうちに済ませるべきだと思います」
 一人がそう言った。
「ほう」
 オットカールはそれを聞いて眉を少し上に上げた。
「私もです」
 別の若い猟師もそう主張した。
「ここはクーノ様の御考えに賛成します」
「マックスに楽な気持ちで試験を受けさせてやって下さい」
「そして彼に花嫁を」
 皆すぐに試験をはじめることを主張した。
「わかった。皆の考えはよくわかった」
 オットカールは全てを聞き終え鷹揚に頷いた。
「決まったぞ、マックス」
「はい」
 再び彼に顔を向けた、マックスはそれに応える。
「今すぐに試験を行う。よいな」
「わかりました」
 マックスはここでは胸の中の不安を押し殺した。
「はじまるか」
 カスパールは何時の間にか木の上に登っていた。そしてそこからマックス達を見ている。
「丁度来ているし」
 下を見る。そこには着飾ったアガーテ達がいる。
「魔王の呪いからは逃げられんさ。地獄で仲良くな」
 ニヤニヤと笑いながらそれを見ていた。マックスはオットカールに挨拶をしていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧