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転生者拾いました。

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霧の森
  有罪決定

東部王国 クスィー伯領 三重城

 朝から嵐に見舞われ精根尽き果てかけたころ、俺にあてがわれた部屋のドアが叩かれた。

「お待たせしました、カズヤ様。クスィー伯との面会の時間です。」
「…、ああ、はい。わかりました。」

 オレがどういう境遇にあるのかこれではっきりするだろう。そして一刻も早くセリナと合流しなければ。彼女の安否も教えてもらおう。
 世話係(男)に出された服に着替え、鏡を覗く。

「柄じゃないな。」

 いつも薄汚れたチュニックにズボンだったから、こうも煌びやか?なスーツは似合わない。

「よく似合っておいでです。」
「世辞はいいから。」
「世辞などではございません。本当に似合っております。」

 世話役(男)は穏やかそうな顔でとんでもないことを言う。エリザ姫といいこの男といいこの世界は歪んでいる。
 
「では、参りましょう。」

 世話役(男)の先導で広い廊下を歩き、ついたのはこれまた大きなドア。下から上まで5mはありそうだ。

「失礼します、旦那様。」
「し、シツレイシマス。」

 声が裏返ってしまうのもご愛嬌。
 ドアの向こうはまたもや広い部屋。どこまで行っても広いな、この屋敷は。その部屋で長い机に座る人が数名。今朝の騒動の主、エリザ姫のいる。

「ようこそ、三重城へ。主のアルバート・クスィーだ。」

 オレから見て対極に座っている男性が名乗り、世話役(男)が出て行った。

「カズヤ君、今朝のことは驚いただろう。」
「確かに驚きましたが。あれは何です?」
「うむ。エリザが君に会いたいと言ってな。」
「それだけですか?」
「勿論それだけではありません。あたくし、あなた様の噂を聞いて集会を起こしました。そこに居たあなた様に一目惚れしたからです。」
「集会?」

 確か半年ほど前にドラゴン退治を祝って盛大な集会が催されたような。まあ、集会と言っても話し合うようなことはせず事前に決まっていた報酬を渡し、後はお祭り騒ぎだっただけのことだ。

「さて、エリザとの婚姻はまたの機会にということで、」
「婚姻!?」

 婚姻…結婚すること。夫婦になること。一対の男女の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で、その間に生まれた子が嫡出子として認められる関係(広辞苑)。
 
 ……はっ!?なに?どういうこと?

「そのためにもやってほしい事の話だ。」
「い、いやいやいや。ちょっと待ってください!なぜオレが!?」
「言ったであろう。エリザが一目惚れしたからと。」
「それだけで!?」
「それ以上に何がある?」
「う……。」

 そのためにやってほしい事って既成事項ですか?やりませんよ?どんな手を使われようと、オレはセリナに惚れてるんだ。落ちるものか。
 セリナにはこっちから積極的にアプローチしないけど。まだ一か月もたってないんだし。

「さて、調査隊が面白いものを拾ってな。これだ。」

 伯が使用人に指示して彼に出させたのは一枚の旗だった。しかしそれには見覚えがあった。
 白地に赤い十字その交点から出る黄色い無数の線。間違いない、白光教会の連中が持っていた旗だ。

「『時見の魔法』で調べた結果、これが白光教会の旗印であることがわかり、この旗の記憶から君が見えた。そこで戦闘になったんだね?」
「ええ、そうです。」
「そこで君に頼み。いや、試練を与えたい。この連中を駆除して欲しい。」
「駆除?」
「そう、駆除だ。」

 この後伯による説明があった。要約すると人間至上主義を抱える彼らは自分たち亜人種に害を及ぼす恐れがあるため駆除して欲しいとのこと。その褒賞としてオレに爵位とエリザを与えるとのこと。
 無茶苦茶だ。しかも駆除だ。鎮圧ではない。文字通り無くして来いと言っている。
 ついでだがクスィー伯は人間ではない。エルフという種族だ。

「……。わかりました。やってみましょう。ただしオレとセリナとでやらせてください。」
「セリナ?ああ、あの女のこと?なぜあの貧弱そうな女とするのですか?あたくしの方が何枚も上手ですのに。」
「あいつはオレと同郷の人間だ。信頼するのは当然だろう。まだ会って間もない姫様とはできません。」

 しばらくオレ達の間に緊張が走る。エリザはオレを睨み付け、伯は何か熟考するように見える。それを黙って見るオレ。

「……いいだろう。その娘は先に帰らせた。良い結果を待っている。」
「はい。」

 使用人に案内され元来た道を戻り表門から出る。一度城を見上げてから歩き出す。

 いろいろおかしなことになってきた。転生二年目でこのイベント。普通なら転生してすぐに始まるはずのイベントが今起こるとは。
 転生してすぐならこのイベントも喜んで受けたが、今は守りたいものがある。自分の身だけ気にしていればいいわけではない。セリナを守らなければいけない。

 オレは町へと続く道を歩く。愛すべき者の元へ戻るために。 
 

 
後書き
カズヤ君は罪な男です。惚れている女がいるにもかかわらず勝手に女ができてしまう。

そういう意味で「有罪決定」です。


暗い想い、明るい提案
近づかない思いと近づく足音

次回 三重城にて 
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