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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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ファントム・バレット編
Crimson Ammo.
  Raging bull

 
前書き
ついにレイの切り札が登場。

知ってる? 

 
弾道予測線の赤い雨を掻い潜り、敵に肉薄する。
足を払って体勢を崩させると、近距離から額を撃ち抜き残りのHPを吹き飛ばした。

「………っ!」

直後にその場から飛び退き、新たな敵に向き直る。

「やってらんねぇ……」

先程のサテライト・スキャンでキリトの無事を確認したのも束の間、近くに例の狙撃手(スナイパー)シノンがいたため、接近戦の途中だと踏んだやつらがそこにワラワラと集まってきたのだった。
ただ、キリトの事なので恐らく―――というか絶対、割と親しくなった(?)シノンをそのまま見捨てるとかいう事はしないだろう。
という推測の元、2人に群がる敵を極力排除し、かれこれさっきの軽機関銃使いで3人目なのだが……。

――タァン!!

「おっと……!?」

異様に精密な狙いに反応が遅れ、肩口に銃弾がかする。
それに冷や汗を掻く間も無く、2発、3発と追撃の弾が俺の体のギリギリ端を飛んでいく。

(音からして拳銃か……。かなりスキルが高いな)

8発間隔で数秒のラグがあることから、おそらく回転式拳銃。これ程の命中精度、速射力から考えて、種類は限られてくる……。

――タァン!!

「………ッ!」

――ヂンッ!!

右手の決勝用に用意した新たな拳銃《グロック34》で飛んできた弾を弾き飛ばす。続いて放たれた8発までの速射を全て撃ち落とし、間髪入れず、反撃に残弾9発をフルオートでばらまく。

グロック34の装弾数は17発と拳銃の中では多い方だ。故に、8発の銃弾を防御しても残弾で即座に打ち返せる。
というハンニャのアドバイスのもと購入、改造でフルオートを付けたグロック34は作戦通り、有効だったようだ。
岩陰から転がり出てきたテンガロハットのプレイヤーに今度はダブルイーグルのフルオート7発が襲いかかる。

しかし、テンガロハットを左手で押さえながら跳躍した。右手が霞むように動き、閃光がチカッ、と光ったその瞬間、さっき銃弾がかすった肩口に今度は直撃した。

「くぅ……!?」

さっきの8連射から現在まで実に4秒ちょっとの間隙。背にサイドアームの中距離ライフル(逆だろ!!)を背負っていることから、ライフルではなくあの拳銃で先程から俺を狙っていたのだ。だとすれば凄まじい高速リロードだ。

(その技術を現実世界でも使えるんだったらウチ《サジタリアス》に欲しいぜ……)

負け惜しみのような思考を追い払い、意識を集中する。弾道予測線を回避するために全神経を集中させた。
しかし―――、

――チカッ……

「くっ!?」

弾道予測線が出る前に飛来した弾丸が左脇腹を貫通し、HPが7割りを切った。

(なるほど……)

仮想世界―――例えばALOにおいて、超神速の斬撃、ないしは刺突などを行い、敵にダメージを与えた場合、システムの認識に多少のタイムラグが生じ、遅れてダメージエフェクトが発生する事がある。

そう考えれば、共通規格のGGOで弾道予測線を伸ばす前に銃撃を食らわす事は可能だ。
ただし、プレイヤーの仮想世界への適応率およびそこそこのAGIも必要だ。無論、銃の性能も……。

(違うな……)

否、と即座に否定する。VRMMOで最も重要なのは『心』の力。揺るがなき信念、自信の力だ。 テンガロハットの自信は言うまでもなくあの速射力、それを可能にしたプレイ時間と経験。






ならばそれに答えなければなるまい。






レイの……『紅き死神(デス・クリムゾン)』の自信、それは―――、






森林地帯では耐久値はともかくとして、障害物には事欠かない。
大木の陰に身を潜めると、グロック34をストレージに格納し、新たに銃を取り出す。
準決勝に用いたその黒い回転式拳銃を手に大木の陰から飛び出すと、一直線に相手へ突っ込んで行く。
その無謀とも言える突撃に相手は帽子の下で苦笑いする。

「……血迷ったか?」
「どうかな!!」

相手と同時に右手を閃かせて銃弾を発射する。
銃口同士はほぼ直線。それらが接触し―――、


敵の弾丸が圧倒的運動ベクトルの前に弾き飛ばされ、レイの放った弾丸はわずかに上方へ軌道をずらされテンガロハットのプレイヤーの首に命中した。
クリティカルエフェクトを撒き散らしながら宙を舞う、その敵に拳銃の照準を会わせると、容赦なく引き金を引く。

―ズドンッ!!

弾丸は眉間に命中し、テンガロハットが宙を舞った。
黒光りするその銃が木々の間から指す陽光に照らされ、その姿が鮮明になる。



全長、355mm

使用弾、.454カスールホローポイント弾

ブラジルのメーカー、タウラス社が開発した大型拳銃。

デザート・イーグル等が使用する、.45マグナム弾の約2倍の威力を誇るその銃の銘は―――、






――《金牛宮(タウラス)()暴れ牛(レイジングブル)






__________________________________________







Sideアスナ



レイが雨あられと降り注ぐ銃弾の嵐を掻い潜り射手を倒すと、それを見ていた仲間達が歓声を上げた。

「すごい。レイさん、今の人で3人目ですよ」
「お兄様だもの。当然です」

感心するシリカにセラが誇らしげにブラコンっぷりを発揮する。

「うーん、それにしてもお兄ちゃん中々映らないねー」

リーファがポニーテールを揺らしながら言うと、その隣に腰かけているシリカが猫耳を動かしながら応じる。

「ほんとに……意外ですよねえ。2人の性格からして本当なら真逆なはずですし」

そう。2人の戦闘スタイルは対極する部分が多い。
キリトが有無を言わさぬ特攻タイプなのに対して、レイは向かってきた敵を返り討ちにする迎撃タイプ。2人とも一撃必殺の重攻撃を好んで使うが、キリトは先手を取ろうとするのに対し、レイは隙を作ってから安全確実に当てる。

「いやいや、キリトのヤローも案外計算高ぇからな。策謀はレイだけの専売特許じゃねぇってこった。レイが参加者をテキトーに減らすまで隠れてる気かもよ?」

と、これは部屋の隅のバーカウンターに陣取ったクラインの台詞だ。それを聞いたアスナは思わず苦笑した。

「いくらキリト君でもそこまでしないわよ。……逆ならあり得なくないケド……」

小さく付け足した声に、左肩に乗る小妖精のユイが羽をパタパタさせながら言った。

「そーですよ、にぃなら高笑いしながら敵をバッサバッサ切りまくりです!」

もしこの場に本人が居たなら、「んなわけあるか!?」と、ツッコンでいただろうが、もちろん本人は居ない。

「あっはは、それはありそうだね。アイツちょっと戦闘狂の気があるから」

リズベットの言葉にセラは苦笑しながら頷き、全員がその場面を想像して、朗らかに笑う。
と、その時。

「おーっす。邪魔するぜ」

部屋にぞろぞろと入ってきたのはカイト、ホルン、ユウリ、アード、リオそして見慣れぬ影妖精(スプリガン)の青年だ。

「いらっしゃい、カイト君。ちょっと狭いけどごめんね」
「んにゃ、構わない。……今どんな?」
「そんな事よりカイト、そいつ誰よ?」

顔見知りの中に1人だけ馴染みの無い顔を見つけたリズがソファから首だけ向きを変えながら訊ねる。

「ん、リズは会ったことないのか?アスナ」
「友達に会いに行くのに護衛は付けないよ~。あのね、リズ。この人はロイド君。元Kobメンバーで……その、私の護衛だった人よ」

語尾が段々と小さくなったのは恥ずかしさ故か。紹介を受けたロイドは後頭部に手をやりながら全員に自己紹介した。

「あれ?でもあたし、ロイドさんらしき人を学校で見ないんですけど……?」

互いに大方挨拶を済ませた所で、シリカが疑問を口にする。

「それはだな、シリカ。コイツだけ選択科目を意図的に全部被らしてないからだ」
「オイコラ、カイト。人が気にしてる事を……」

実際、ロイドは普通に学校に居る。ただロイドは陽気で大らかな性格ではあるが、天然バカではない。彼なりの配慮もあって特にキリトやアスナ、レイとの接触を避けていたのだ。
『護衛』という言葉からアイツを思い出さないように、と……。

そうやって無理をしているのを見かねた螢が先日、竜斗(ロイド)を拉致して和人や明日奈に引き合わせた。
ありもしないわだかまりを取り払ったロイドはつい1週間前にALOを始めたのだった。

そんな他愛のない話をしている間に画面の試合は新たな局面に突入していた。
画面を16分している中央付近でレイがテンガロハットを被った拳銃使いと接戦を繰り広げる一方、その隣では【ダイン】というプレイヤーを【ペイルライダー】というプレイヤーが壊走させている。銃戦闘に関してはまるで素人のアスナから見てもどちらが有利かはっきり解った。

「あの人、強い……」

アードがスクリーンを見ながら呟く。全員がそれに同調しつつ、リズがふと思い付いたように疑問を口にした。

「しっかし、2人ともなんでまた、この大会に出ようって思ったのかしら」

2人が、ALOの仲間である水妖精(ウンディーネ)のメイジ、クリスハイト――の中身、総務省仮想課の役人、菊岡誠二郎からの依頼でGGOに赴いた事を知っているのはアスナ、リーファ、セラとユイだけだ。
妹2人の目から、返事は任せますの意図を汲み取ったアスナは、一瞬考えてから事のあらましを答えた。

内容は先日のデートの時に和人から伝えられたそのままだ。だが、アスナはそれが全て真実だとは考えていない。和人が真実の一部しか話さなかったのはそうせねばならない理由が何かあるのだ。

しかし今日、セラとあってから不安が際限なく湧き上がってくるのだ。それとなく確認したが、セラは『和人さんの護衛』としてレイがGGOに向かったということしか知らなかった。僅かな違和感がそこにはある。

事実ここ数日、胸の奥に、何か奇妙にざわめくものがあった。
2人への不信ではなく、漠然とした『嫌な予感』。平穏だった日常が少しずつ崩れていくような―――、

「おー、あの人強いね。なんか、こうして観てるとGGOもけっこう面白そうだなぁ。銃って自分で造れるのかな……」

ダイン対ペイルライダーはペイルライダーが圧勝し、それを見ていたリズが工匠妖精(レプラコーン)の彼女らしいコメントをする。思考が途切れ、アスナは思わず口を綻ばせた。

「リズまでGGOにコンバートするなんて言い出さないでよね。新アインクラッドの攻略、まだまだこれからなんだよ」
「そーですよ、リズさん!もうすぐ、やっと20層代のアップデートがあるんですから」
「そうえばそうだねー。……ところでアスナ?愛の巣を買うお金は貯まったかなぁ~?」

ホルンの目がキラーンと光り、意味ありげにアスナを見やる。

「あ、あと少し……」

赤く頬を染めながら顔を逸らすが、ホルンは意地悪くその正面を追尾してきた。

「その辺にしなさい」

ひょい、とカイトに襟首を掴まれ、ようやくホルンは大人しくなった。
画面に視線を戻すと、勝利したはずのペイルライダーがばったりと倒れた。
よく見ると、右肩のダメージ痕を中心に細かいスパークが這い回り、アバターの動きを封じているように見える。

問題の画面をフォーカスさせ、横たわるペイルライダーを拡大する。突然の麻痺転倒から既に10秒以上が経過しているが、フレームには他の誰も入ってこない。赤茶けた大地と鉄橋、その下を流れる川と彼方の森が砂塵に霞んでいるだけ――、

ばさっ。

と、突然のサウンド。全員がぴくりと体を動かす。画面の端からいきなり黒い布地がフレームインしてきた。カメラが徐々に引いていき、その人物を全身を映し出した。

揺れるボロボロにほつるたダークグレーのマント。内部を完全な闇に隠すフード。
ぼろマントは右手を懐に差し込むと、黒いピストルを一丁取り出した。

黒星(ヘイシン)五四式……。舐めてるんですか?」

セラが片眉を吊り上げて鼻をフン、と鳴らす。

「確か、旧ソ連陸軍が大昔に採用したトカレフを中国がコピーした粗悪銃、だったけ?」

セラの呟きに応えたのは意外にもロイドだった。

「ロイドさん、詳しいんですか?」
「いや、兄貴がガンマニアでGGOやってて……。名前は知らないけど、多分コレにも出てると……」

驚きの新事実だったが、セラはともかくという感じで説明に戻る。

「ロイドさんの言う通り、《黒星》シリーズはトカレフの模造品で、安全装置(セーフティー)もなく、暴発が多くてあまり使われませんでした。貫通性重視の鋼芯弾を使うので、威力も然程ではありません」

つまり、とどめに使うには少々物足りない、と言っているのだ。

「だよなあ、肩のでけぇライフルのほうがパワーあるよな」
「弾代ケチッてんじゃないかしら?」

リオとユウリのコメントに一同がううむと考える間にも、ぼろマントは黒星の後ろの金具をきりりと起こし、倒れているペイルライダーに銃口を向けた。
次に左手を持ち上げ、人差し指と中指の先で額、胸、左肩、右肩の順に素早く触れた。
ちりっ、とアスナの頭の内側で何かが小さく引きつれた気がした。まるで、何か良くない事が起こる前兆のように……。

ぼろマントが地面で麻痺するプレイヤーに向け、無造作に引き金を引いた。
乾いた銃声。放たれた弾丸はペイルライダーの胸の真ん中に命中し、ささやかなフラッシュを生んだ。ぼろマントは追撃する様子を見せない。

「何を……」

セラが再び口を開きかけた、その刹那、

クローズアップされたプレイヤーの顔が驚愕と恐怖の色で染まっていた。次の瞬間、ペイルライダーは倒れたまま体を硬直させ、直後ホワイトノイズ的なエフェクトに包まれて消失した。

ぼろマントはカメラの方を向くと、右手の拳銃を真っ直ぐ向けた。まるで、GGOとALOという世界の壁を――いや、仮想と現実の境界をも飛び越えて生身の自分を照準されているかのような感覚に、背筋がすっと冷たくなる。
フードの奥の闇で赤く光る両眼がちかちかと瞬いた。それと同期して、機械的なぶつ切れの声が画面から流れ出した。

「……俺と、この銃の、真の名は、《死銃》……《デス・ガン》」

冷たい無機質さの奥に生々しい感情の歪みを押し包んだようなその声を聞いた瞬間、アスナの記憶の深い場所にこれまでで最大の軋みが生まれた。

「俺は、いつか、貴様らの前にも、現れる。そして、この銃で、本物の死をもたらす。俺には、その、力がある」

きりっ、と黒い銃が小さく鳴く。セラ、アード、ロイドが反射的に得物に手を沿える。もし今あの銃の引き金が引かれたら仮想のスクリーンを砕いて弾が飛び出してきそうに思えたのだ。

「忘れるな。まだ、終わっていない。何も、終わって、いない。―――イッツ・ショウ・タイム」

そのたどたどしい英語を聞いた瞬間、最後の、そして最大の衝撃……。

――私は、あいつを知っている。場所は彼の浮遊城(アインクラッド)。終わっていない、というあいつの言葉にはその名が隠されている。

「う……嘘だろ……あいつ……まさか……」

クラインが嗄れた声が響き、部屋の沈黙を破った。

「クライン、知ってるの!?あいつが誰なのか!?」
「い、いや……昔の名前までは……。ただ……」

しかし、クラインは恐怖に耐えかねたという様子で黙り込む。

「……《ラフコフ》」

その沈黙を破ったのはアードだった。ついで、カイトが後を続ける。

「間違いないな。喋り方に聞き覚えがある。確か、リーダーの《PoH》といつも行動していた、幹部クラスのやつだ……」

旧SAO組はそれっきり黙り込んでしまう。

「あの……、《ラフコフ》って……?」

気まずそうに三度目の沈黙を破ったのはリーファ、セラも同様に厳しい顔つきで聞き耳を立てている。

「ええとね……」

隣に座るシリカがラフコフの猛威とその消滅について説明する。

「なるほど。それで合点がいきました」

聞き終えたセラは一度目を閉じると、険しい目付きになり、話始めた。

「今の話とリーファの話から推測するに、キリトさんとお兄様はGGOにあの人が居るのを知っていたのでしょう」
「えっ……?」
「お兄ちゃん、夕べ遅くに帰ってきてから様子がおかしかったんです……。もしかしたら……昔の因縁に、決着をつけるためにGGOに……」
「因縁、か……」

カイトが呟き、セラを見る。

「セラ、ちょっと小耳に挟んだんだが、元ラフコフメンバーの死亡者数の内、12人分の罪がレイに着せられている、と聞いたが、本当か?」
「………っ!?」

アスナだけではない。セラとカイトを除くその場の全員が驚愕のあまり、目を見開いた。

「……お兄様が?」
「ん……まあ、はぐらかされたんで、カマかけてみたんだが……。当たりかな?」
「これは……流石はカイトさん、と言っておきましょうか」

セラはしばしの沈黙の後、1年の時を経て螢/レイの真実を語り始めた。
 
 

 
後書き
ロイド君ついに再登場!クラディールは……まだまだカナ?

ついにお披露目タウラス・レイジングブル。
こいつは赤松中学先生の『いつか魔瞼のアリスベル』(電撃)から持ってきました。あ、「瞼」は違うかも……。

テンガロギャレットさんは先にレイが殺っちゃたので、死なない方針です。 
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