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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第二話

 
前書き
 今回は二話同時で。 

 
 翌朝7時。完全にのびていた竜二が自室で目を覚ます。

「ん?ここは……なんで……」
『おはようございます、我が主』
「あ、アスカか……」

 声に出してしまったのを慌ててごまかそうとしたのか、布団に潜ると念話に切り替える。

『お前が運んでくれたんか……すまんな』
『いえ。しかし昨日はお疲れでしたね』
『あーまぁな……しかし、わかっちゃいたけど俺の負け、かぁ……』

 竜二はため息をついた。

『あ、そうそう。今日ははやてさんたちに私のことも紹介お願いしますね?』
『ああまぁ……せなあかんかなぁとは思ってたけど、今日かいな?』
『早いほうがいいでしょう?』
『そら……な。ほな、とりあえず実体化しといて。そろそろ俺も起きるし』
『了解しました』

 そして、竜二がベッドから身を起こそうとベッドに手を着くと、何か柔らかく温かいものに触れる。

「ん?」

 そこにあったのは、黒いTシャツ姿のアスカ……の、豊満な胸だった。

「……おい」
「あら、朝から大胆ですね、我が主♪」
「……こんの、ドアホ!」
「キャン!?」

 竜二はアスカに強烈な拳骨を叩き込んだ。



「うう、ちょっとしたお茶目じゃないですかぁ……」
「うっさいわ。実体化しといてとは言ったけどお前あれはないわ」

 少し涙目のアスカに竜二がツッコミを入れつつも、二人でリビングに降りていく。
 すると既にはやてが起きだしており、台所にいた。朝食の準備をしているのだろう。

「あ、おはよう兄ちゃん。って、あれ?隣の女の人は……」
「おお、おはようさん。後で説明する。とりあえずシャワー浴びてくる」
「あ、なら私が背中を……」
「いらん。先に自己紹介してこい」
「ぶぅ~……」

 いつの間にか着替えを抱えていた竜二が風呂場に向かうと、アスカが不満そうに膨れるが、それはほんの一瞬。すぐに穏やかな笑みを浮かべてはやての方を向いた。はやてはどうやらこの状況を飲み込めず、きょとんとしているように見える。
 
「……まぁ、それは道理ですわね。改めまして、お初にお目にかかります。闇の書の主。私は八神竜二のパートナーであり、また「星天の書」の管制プログラムであるアスカと申します」
「星天の書……?闇の書と何か関係があるんですか……?」
「ええ。まぁ詳しくは、他の騎士たちが揃ってから始めましょうか」
「は、はぁ……あ、私は八神はやて言います」
「ええ、昨日聞かせていただきましたわ。まずは、そのお手伝いから致しましょうか」

 そういってはやての隣にならぶアスカ。

「あ、じゃあ……」

 使えるものは親でも使えという言葉がある。すぐに頭を切り替えて、アスカに指示を飛ばすはやてだった。



「おはよう……」

 寝起きの眼をこすりながらリビングにやってきたのはヴィータ。うさぎのぬいぐるみを片手に、あくびをしながら洗面所に向かう。

「おはようヴィータ。顔洗いや?」
「うん……」

 そして、階段をドタドタと降りてくる音がする。

「ごめんなさいはやてちゃん!寝坊しちゃって……」
「ええってシャマル」

 慌ててエプロンを着けるシャマルに苦笑するはやて。

「あれ、シグナムここで寝てたのか?」
「そうみたいやね~。ま、もうちょい寝かしたろ」

 そして、リビングのソファーで未だ眠るシグナム。彼女の足元には狼状態のザフィーラがいた。

「んで、そこではやての横にいる奴は誰なんだよ?」
「確かに……何か奇妙な魔力を感じるわね。あなたは誰なんですか?」
「ん?ああ、兄ちゃんが今シャワー浴びてるから、上がったら説明してくれるらしいけど……」
「いえ、その前に簡単に自己紹介はしておきます」

 そう言ってアスカは、騎士達に向かって会釈をすると、はやてに語ったことと同じことを語った。



「星天の書、ねぇ……」
「そんなものがあったなんて、私たちは知らなかった……」
「ええ、それはそうでしょう。星天の書は、今の我が主と契約するまで、一度しか起動しなかったのですから。それもあくまで、起動するかどうかの確認でしかありませんでしたし、実際に私の力が使われたことはここまで一度もありません」
「だが、その力は本物だ」

 そこに割り込んできたのは、いつの間にか目覚めていたシグナムだった。

「シグナム?」
「昨夜、私を連れて兄上殿は海岸に出た。そこで戦った時の記憶から言わせてもらうと、潜在的な魔力だけなら私たちの中では誰より上だろう」
「戦った……?どういうこと?」

 シャマルの質問を流すかのようにアスカが続けた。

「ええ、間違いないでしょう。私を造った魔導師が想定した最大ランクは、管理局によるとSSS+クラスということですから」

 これには一同絶句した。
 はやてだけは飲み込めていないようだったが。

「SSS+だと……正気か?そんなものを扱い切れる魔導師がいると?」

 シグナムが口を開くが、驚きからは脱しきれていないようだった。アスカも呆れ気味に返す。

「誰かいるだろうと思ったんでしょうが……現実にはいなかったようですね。事実管理局にも封印指定とされていますし」
「竜二殿でも不可能だろう……どう考えても普通の人間が扱える代物などではない」

 ザフィーラも続く。

「せや。俺も結局、アスカの力を使いきれてはおれへん」

 そこにシャワーを浴びて上下黒のスウェットに着替えた竜二が現れる。

「兄ちゃん、あのー……私全然ついていけてへんねやけど……」
「今から説明する。頼むから落ち着いて聞いてくれ。途中でキレんのはなしで」

 そういって竜二は、昨夜シグナムにしたものより深く突っ込んだ説明を始めた。

「まず星天の書ってのは、悪意ある改変を受けた闇の書を完全に破壊、または無力化するために作られたものらしい。延々と負の連鎖を続ける闇の書をそのままにはでけん、ということやろう」
「ならなんで管理局が星天の書を持ってないんだ?」
「その管理局という組織を俺はよく知らんねやけど、おそらく組織によって悪用されることを防ぐためやろうな。組織ってのは一枚岩じゃやってけん。真面目に仕事しとる人間もおれば、給料泥棒まがいの人間もおるやろう。ましてやお前らのその口ぶりやと、管理局の人間は魔法による戦闘能力も持ってるってことやろうから、闇の書の力やこの星天の書の力は喉から手が出るほど欲しいって奴がおっても不思議やない」
「なるほどなぁ……」

 ヴィータが相槌を打つ。

「また星天の書の能力は、管制プログラムでありユニゾンデバイスであるアスカと主が融合し、主の望む姿と力を主に与える、というものらしいんやわ。もちろん無尽蔵に引き出せるわけやなく、人によってリミッターがかけられるけどな」
「確かに、分不相応な力を手にした人間はその力に酔いやすい。何をするかわからないと考えればそれが妥当か」
「扱いきれるかどうか、も大事やしな」

 ザフィーラの返しにひと呼吸おく竜二。

「さて、俺が語れるのはここまでや。どんな風にして無力化するのかとかわからんし、闇の書のシステムはどんなもんかなんて、俺はアスカを通じてでしか知らん」
「では、私が続きましょう」

 それを引き継ぐアスカ。

「闇の書は改変された、と何度も申しておりますのは、もともと闇の書は、最初から闇の書などと呼ばれていたわけではないのです」
「確かに。みんなが闇って言うからどんな怖いものなのか想像してたけど、シグナムもヴィータもシャマルもザフィーラもみんなええ子やし……闇の存在とは思えへんのよ」
「それは俺も思った。闇に落ちたという割には、あまりにもまっすぐで綺麗すぎる。はやてが主であることもあるのかも知れんが」

 はやてに続く竜二に対し、シグナムが返す。

「では、本来はなんという名前だったのか、ご存知なわけですか?」
「いえ、流石に私もそこまでは覚えておりません。ですが、少なくとも対闇の書として私が生み出されたということは、闇の書が闇の書たる前の姿があるはずなのです。私はどうやら、その闇の書となる前の存在に合わせて作られた、とのことでした」
「守護騎士プログラムはなく、蒐集能力と管制プログラムのみ、ということか……」
「いや、本来は管制プログラムはおろか、戦闘能力すらなかったそうです。ただ、やはり兵器になるわけですから、戦闘能力が全くないのでは役に立たないということだと思いますが」
「ふ~ん……ところで、元に戻すってどうやってやんの?」

 はやてがアスカに質問した。
 もちろん、これが一番気になるところだろう。

「まず、闇の書を完成させ、主と管制プログラムを融合させます」
「何やて!?」
「はやて、どうした!?」

 アスカに掴みかからん勢いで車椅子に掌を叩きつけたはやて。

「そんなんあかん!闇の書を完成させるってことは、その過程で多くの人に迷惑がかかるんや!そんなことしたら……」
「ええから落ち着けはやて!おいアスカ、闇の書の魔力蒐集って、一体どんな方法なんや?」

 はやてをなだめながらアスカに聞く竜二。しかし答えたのはシグナムだった。

「一般的には、魔力を持つ生物のリンカーコア、つまり魔力源から魔力を直接抜き取るという方法が取られてきた。それが一番効率がいいからな」
「そして効率ということを考えていった結果、これまでは書が覚醒してからすぐに魔導師を襲っていきましたし……」

 シャマルが引き継いだそれを聞いてはやてが怒った理由を理解した竜二。どんな事情があろうが、そんなことをこの優しい少女が了解するはずがない。

「……それしかないんか?」
「いえ、魔力を蒐集できれば問題はないので、魔法攻撃を蒐集対象とすることも理論上では可能です。事実、これまでの書の主の中で、相手の攻撃に対応するために書の蒐集能力を盾にした人もいたことはいましたし、それに魔力を持つのは人間だけとは限りません。次元世界を探せば魔力を持つ生物もいます」

 シャマルの話を聞いて安心したはやてと竜二。

「なら、完成させるのはそれでいこう。で?」
「その後に、主が書の中の防衛プログラムを切り離すこと、だそうです。とりあえずこれで応急処置をとった後、守護騎士プログラムと管制プログラムのシステムを主のリンカーコアに移植する、ということだそうですが」
「できるんか?そんなことが。はやてに対する負荷がデカすぎじゃあ……」
「これまで闇の書の主として選ばれた人間は、皆リンカーコアが持つ最大魔力量が人並み外れて多い人ばかりでした。ですが、守護騎士を維持するために必要な魔力は、実際のところ把握できないので……」
「結局のところ、全部ぶっつけ本番ってわけか……」

 竜二のつぶやきに全員頷いたところで、竜二が一つ切り出す。

「なぁアスカ、今更なんやけどな……」
「なんでしょう?」
「このままやったらあかんのか?今のままでもとりあえず問題は何も発生してない。俺やアスカがここに来た意義はなくなるかも知れないが、今下手に動いて管理局にゴタゴタ突っ込まれたら……」

 竜二の問いにアスカは無表情で答えた。

「お気持ちはわかります。ですが我が主。その場合、はやてさんの身の安全が保証できません」

 これにはやてとザフィーラ、シャマルは絶句し、シグナムは驚きを口にし、ヴィータが食いついた。

「む……?」
「え……?」
「何、だと……」
「どういうことだよ、おい!」

 これに対して答えたのは竜二だった。

「……なるほど、闇の書と守護騎士たちの維持コスト、やな?」
「流石我が主、その通りです。守護騎士たちはともかく、闇の書は蒐集行為を行うことで機能するロストロギア。もし蒐集行為をしなければ、いつはやてさんが魔力不足によって倒れてもおかしくはないのです。もしかするとそれ以上のことが起きるかも……」
「なるほどな……できるだけ急ぐ必要あり、か」

 とりあえず、と前置きを入れ竜二が話をまとめる。

「まず当面の目標は、闇の書を完成させるための魔力蒐集。これについて、管理局の追跡を避けるためと、はやての意思を尊重し、対人戦闘はなし。いいな?」
「異論はないな」
「ああ」
「ええ」
「問題無い」
「よし。次にローテーションだな。いくらはやてのためとはいえ、それではやてを一人ぼっちにするのは本末転倒だ」
「いや、私は大丈夫やから……」
「黙らっしゃい。9年間も寂しい思いしてきてせっかく家族になったのに、それやったら意味あらへんやろ」
「ううっ……」

 これははやてのためなのだ、と竜二は自分に言い聞かせる。

「とりあえず、俺とアスカはできるだけ常駐するようにする。俺らの出番は最後の最後やからな」
「そうですね」
「せやから、後のみんなのローテーションはそっちで決めてくれ。そこまで俺は干渉せん」
「わかった」

 守護騎士たち全員が頷いた。

「とりあえず今すぐ確認せなあかんのはそこくらいやな。ほな、朝飯にしよか」
「そういえば、起きてからずっとこの話をしてたんですよね……」
「ほなご飯できてるから、後はお皿の用意とかお願いなー?」
「了解です」
「にしても腹減ったー……」

一気に所帯じみた会話になったが、切り替えが早いのはいいことだ、ということにしておこう。



 守護騎士たちと竜二たちが目的に向けての協働を約束して数日後、竜二はアスカとザフィーラを連れて、林の中にあるちょっとした広場へとやってきた。遊具がところどころにあるところを見ると、ここは公園なのだろう。週末ならば家族連れで賑わうのであろうこの場所も、平日の昼間とあれば閑散としている。

「さて、訓練とは言え、何をすればいい?」
「とりあえず、俺と組手をやってもらいたいんだわ。ケンカはそれなりにはこなしてきたけど、それはチンピラ相手でしかない。せやから、本物の戦士相手に自分がどんだけやれるか確かめたい」
「わかった。付き合おう」

 そういってザフィーラは、間合いをとって構えた。その立ち姿からはなにかしらの武術が垣間見える。対する竜二はボクシングスタイル風の構え。お互いに動きやすい服装ということで、二人ともジャージ姿にスニーカーだ。

「では、私が審判をとらせていただきます。しかしこれは訓練。私が危険と判断したらその場で止めさせていただきますのでご承知のほどを。どちらかが倒された時点で仕切り直しとします」
「了解」

 二人が頷いた。
 アスカは白のポロシャツに青いデニムのハーフパンツ、裸足に赤いクロックスとラフな格好。

「では……始め!」

 アスカの声に合わせて動き出すかと思ったが、お互いににらみ合ったまま動かない。

「来ないのか?」
「我は盾の守護獣。攻めは性に合わんのでな。そちらから来るといい」
「上等!」

 すると、まず竜二が間合いに踏み込み、右フックで顔を狙う。しかしザフィーラはよけもせず、左腕で受けた。そのまま右ハイキックで迎撃をしかけるが、それは竜二がバックステップでかわす。

「やるな!」
「ふん!」

 そのまま竜二は間合いを詰め、左ミドルキックで牽制するが、ザフィーラが右腕でガードした。すぐに脚を下げて切り替え、右ハイキックを繰り出すがまたもや左腕でガード。そのまま戻して右ミドルからローとキックを連続で繰り出すが、全てザフィーラが受け止めた。盾の守護獣の名は伊達ではない。

「クッソ、かてェ……」
「フッ、その程度か?」

 竜二は少し疲れたような呟きを漏らすが、ザフィーラに先日のシグナムと同じことを言われて反発心が沸いたか、食らいつく。
 
「まだまだァッ!」

 脚をそろえてジャンプし、空中から顔を狙って右足で蹴り込もうとするが、ザフィーラはバックステップの後、それを左足で受けた。

「うわっ!?」

 竜二は空中でバランスを崩すが、地面に叩きつけられる時に転がって勢いを殺し、片膝を立ててすぐ立て直す。この辺りはケンカ慣れしている所か。

「動きはまさに素人だな……だがそれでもこちらの動きにそれだけ対応できるのは評価できる」
「そらどうも……ッ!」

 竜二自身手加減されていることぐらいは把握していたから、そんなに腹も立てていない。ユニゾンしておらず、魔力による身体強化もしていない。つまり自身の身体能力のみで戦っている。それでここまでザフィーラについていけているから、むしろ充分以上とでも感じているのだろうか、疲れていても余裕は崩さない。

「身体能力はそれなりか。反射もまぁまぁ。素人にしてはなかなかのもの、と言えるだろう。だが、現状だとその程度だろう?」
「んじゃ、そろそろ本気で行きますかねっと!」

 竜二はそう言うと、右足を前に出して半身になる。ザフィーラは先ほどと同じ、守りの構えになった。その時、竜二は前傾姿勢になると、ザフィーラの懐に飛び込んだ。しかし、ザフィーラもすぐに対応すべく腰を落として姿勢を下げる。

「その動きはさっきも見たぞ!」
「さっきと同じなわけあらへんやろ!」

 迎撃せんとザフィーラが動く瞬間、踏み込んだ左足を軸に多少無理やりなサイドステップ。

「何っ!?」
「そらっ!」

 そのまま右足を軸に切り返すと、すぐに軸足を左足に戻してザフィーラに向けて肩から突っ込み、タックルをしかけた。

「ラァッ!」
「むうっ!?」

 勢いと体重に任せてザフィーラにぶつかるが、歴戦の勇士がその程度で倒れるわけがない。しっかりと踏みこたえた。
 だが、竜二もそれで終わったわけではなかった。そのまま接近してザフィーラの胸元を掴むと、強引に背負い投げに持ち込む。

「落ちろオラァ!」
「何だとッ!?」

 ザフィーラもこれにはその場で受身を取るしかなく、一瞬動けない時間を作ってしまう。さらにそこから竜二は左手で胸ぐらを掴んで無理やり引きずり起こすと、全力で右拳を顔面に叩き込んだ。
 これにはザフィーラも耐え切れず、地面に倒された。

「一本、ですね」
「手加減してもらって、やけどな」
「いや、それでもこれだけやるとはな……」

 立ち上がったザフィーラだが、素直に驚いていたようだった。
 
「いや、ガキ臭いマネしてもうたわ。一本取るだけならさっき投げたので十分のはずやのに、追撃入れてもうた」
「実際の戦闘なら、敵を完全に無力化することが重要だ。あの程度じゃむしろ足らんぞ」
「まぁせやろなぁ。俺もこれがケンカならあの程度じゃ止めん」

 そう言って笑い合う三人。

「さて、そろそろこちらから仕掛けて行くぞ?」
「攻めは性に合わんのでは?」
「守るために攻めることもあるのだ」

 ザフィーラが構える。先ほどと同じような守るための構えではなく、腰を落として体を沈め、重心を下げて動きやすくするためのもの。竜二も対応するために守るための構えをとる。

「……行くぞ!」
「おう!」

 すると、ザフィーラが一瞬で間合いを詰め、右ストレートを放つ。竜二はそれをサイドステップでかわしてすぐに反転し、後ろをとる。

「もらった!」
「ふん!」

 後ろから両手を組み、後頭部を狙って振り下ろす。しかしザフィーラも、空振りの後すぐに左足を軸にして反転し、その掌に合わせて左拳を放つ。

「ぐっ!?」

 迎撃され、手を弾かれる竜二が一瞬バランスを崩した。ザフィーラはさらに追撃するべく一気に間合いを詰める。
 しかし、竜二もそのままでは終わらない。すぐに体勢を整えてわき腹に右足を蹴り込んだ。

「オラァッ!」
「ウグッ!?」

 さらに右手で胸ぐらをつかみあげるが、ザフィーラが先に顔面に左拳をブチ込む。

「舐めるなァッ!」
「ぐはァッ!?」

 今度は竜二が吹っ飛ばされた。見事にきりもみ回転しながら地面に叩きつけられる。

「あら、ザフィーラさんの一本ですね」
「流石やでぇ……せやけどまだ終わらん!」

 倒れていながら乾いた笑いを漏らす竜二。すぐに上がり、再び挑むのであった。



 彼はまた別の日に、アスカとユニゾンした状態でシグナムと切り結んでいたりする。ここまで竜二が強さにこだわるようになったのは、先日彼女と戦った時に負けたというのが大きいだろう。
 実は、竜二が自身の魔力をアスカを通して使用できるように、アスカが彼のリンカーコアを開いていた。その時に彼女が測定した魔力は、最大でランクSオーバーだが、まぁ当然といえば当然の話、現状そこまで扱いきれてはいない。
 今のままでの自分では、いざという時にはやてを守れない。また、守護騎士たちがどんな時でもはやてを守れるのかというと、そんなことはない。彼が衝動のように力を求めるのはそれが一番の理由だったりする。とんだシスコンだ、と言われても無理はないだろう。

「では、今日もよろしく頼む」
「こちらこそ」

 日本刀と西洋剣。最近の竜二は我流剣術でもそれなりの形にはなっているとシグナムは言う。それでも古代ベルカの騎士には敵わないのだが。

「行くぞ!」
「っしゃおらァ!」

 剣を右足の足元に向けて突っ込む竜二。間合いを詰めると振り上げるが、振り下ろすシグナムには重力も関係して押し切られる。
 しかし、そんなことなど竜二は百も承知である。すぐに切り返すのではなく、右に流してバランスを崩させ、みぞおちに蹴り込んだ。だが、シグナムも食らってはいてもバックステップで威力を殺す。

「やるな……戦闘訓練を初めてから数日とは思えないほどの成長だ」
「どうも……ッ!」

 そして間合いを取り、にらみ合う体勢となった。



 訓練を始めた時の竜二は、アスカにこう語っていた。

「自分は弱いってことを認めることから始めたわ。だから頭下げて頼むし、受けてもらった以上は岩にかじりついてでも食らいついていく。そんくらいの覚悟なくして、闇の書を叩き直すとか言えん」

 それを聞いたアスカも、自身の魔力をできるだけ使えるよう、シャマルやザフィーラに訓練を見てもらっていた。また、マルチタスクの訓練も行っている。
 ちなみにマルチタスクとは、魔法術式の並列処理技能のことである。この能力が高い魔導士は複数の魔法術式を展開できるという性質上、戦闘を主とする魔導士には必須のスキルと言えるだろう。



 現在の竜二は、これまで培ってきた自分の戦い方に対するこだわりは捨て、ゼロから組み立て直している。生きるか死ぬかという瀬戸際で選択肢を狭める真似をしないためで、たまにはこんなこともしたりする。

「何っ!?」
「もろたッ!」

 剣を振り抜いた後、片手を腰に回してダガーナイフのようなものを取り出して突っ込んでいく。しかし、シグナムのバリアジャケットに弾かれてシグナムにけり飛ばされる。

「クソッ……流石にそれは固いな。やっぱ読まれてたってことか?」
「いや、今のは焦ったぞ。いつの間にそんなものを仕込んでいた?」
「武器はなんでも使えるようにならんとな」
「まぁ選択肢が増えるのはいいことではあるが、今のうちから変な癖はつけるな。まずきちんとした自分の基本となるスタイルを確立させてからの方が成長は早いぞ」
「うっす!」

 竜二は立ち上がり、吹っ飛ばされた剣を拾い上げ、再び構える。

「さてと、まだまだ行くで!」
「ああ。来い!」

 この二人は、まだまだ続きそうだった。なんだかんだで、戦うことそのものは好きなんだろう。
 ちなみに、ヴィータがほとんど関わらないのは、ほぼ常にはやてと一緒にいるからだとか。



 また別の日、竜二ははやてを連れて散歩に出ていた。といっても、竜二がはやての車椅子を押しながらだが。

「ええ天気やね……」
「ああ……そういや、こないだ借りてた本は返さんで大丈夫か?」
「へ?ああ、あれやったらこないだシグナムと返しに行ってきたんよ」
「そうかい」

 何気ない日常のワンシーン。仲睦まじい兄妹がたわいもない言葉を交わしている。

「兄ちゃんこそ、アスカさんと一緒やなくてええの?」
「あいつもたまには、そんな時間がいるやろ。なんか今日もシャマルと特訓とか言ってたし」
「ふーん……特訓て、何すんねやろ」
「さぁね」

 潮風に煽られながら海岸線をただ歩く。行くあてなどない。

「しかし、とんでもないことになったもんやなぁ……」
「せやなぁ……闇の書をなんとかせんことにはどん詰まりとは……」
「うちも流石にまだ死にたないわ……頑張らなあかんな?」
「……ああ。お前が諦めん限り俺も死力を尽くす。絶対死なさん」

 静かだが、確たる決意を秘めたはやてと竜二。

「ふふ……なんか兄ちゃんとおると、なんか力抜けるわ」
「そりゃお前、シグナム達の前やと、その年でオカンみたいな雰囲気出とるからな」
「オカンて何よ!これでもまだ小学生やねんで!?」
「ハッハッハ」

 シリアスじみた会話はやはり、この男には無理なのだろうか。どこかに笑いを持ち込みたがる。それでもどこか憎めないのはなぜなのだろう。

「あ、せや。このクソ暑い中やし、うまいアイスでも食いに行こか?」
「アイス?うん、行こ行こ!あ、でもみんなの分も買うてったらな。特にヴィータが何言うか」
「せやな」

 何はともあれ、仲のいいことに変わりはない二人であった。 
 

 
後書き
 ここはあまり編集する必要を感じなかったので、文章だけ直してそのまま。 
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