| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

形而下の神々

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

過去と異世界
  スティグマ

 その日の夕食後、サンソンの周りに人が群がっていた。どうやらシンバとの戦闘で得たモノを集落全体で分け合ってるらしい。子供達まで集まっているが、彼らは多分サンソンの武勇伝を聞きに行ってるのだろう。

 と、子供のうち一人が俺とグランシェの方に寄ってきた。まぁ彼の目にはグランシェしか写っていないのだろうが。

「ねぇグランシェさんってサンソンさんと決闘して勝ったって本当?」
「決闘って程ではないが、剣術では俺の方が強いみたいだな」

 すると子供は目を輝かせて言った。

「凄い!!サンソンさんは僕達の集落で一番強い先生なんだよ?」
「そうみたいだな。サンソンから聞いたよ」

 グランシェはお得意のドヤ顔。子供の目は相変わらずキラキラだ。

「凄いよね!!どうやってそんなに強くなったの?」
「ん~、いつも戦ってたらこのくらいにはなるよ。サンソンだって本気を出したら俺より強い。
彼の言う事をちゃんと聞いてたら強くなれるさ」

 おっ、グランシェなのに良い事を言う。

 俺は戦闘については全くの素人だが、日本にもよくある「先人を尊べ」という思想は万物において共通なのだろう。

 そこでふと、疑問に思った事があった。俺は子供たちの間に割って入り、グランシェに質問を投げかけた。

「そういえば、グランシェの先生ってどんな人なんだ?」

 グランシェからは先生だとかの話を聞いたことは無いが、まさか居ないなんてことは無いだろう。
 と、彼はドヤ顔を崩さないままで言った。

「あぁ、SASの英雄さ。プロフェッサーと呼ばれていた、サバイバル教官だ」

 プロフェッサー。大学の学位で言えば教授かそれ以上。あだ名が教授とか、凄いのか凄くないのかわからんな。

「じゃあ、俺はそろそろ寝かせてもらうよ。少し疲れた」

 そう言ってグランシェがレベッカとレミントのテントへ消える。子供の方も俺にはこれといって興味も無いようで、さっさとサンソンの方へ消えて行った。
 誰も居なくなってやることも無いから、仕方なく俺も早めに寝てしまった。


 翌朝起きると、なにやら辺りが騒がしかった。話を聞くと、これから物資補給も兼ねて向かおうとしている村で原子球が発見されたとのこと。

「原子球って何だ?」
「原子球ってのは色んな物質の性質を持つ完全な生命体だ」

 疑問をぶつけると、素早くサンソンが答えた。

「いくつもの原子を蓄えていてな、食事は不要だし植物みたいに日光が要るわけでもない。
ソレ単体でエネルギーを作りだし、エネルギーを消費する。
要するに完全に自家発電が出来る生命体なんだよ」
「ほぉ、そりゃあ凄い。で、何故それが見付かると大変なんだ?」

 自分の体内で自らに必要なモノを作り出し、それを消費するとか。それって結局何をしているのかよく分からんな。

「原子球は生命体たが見た目は黒いボールなんだ。
捕食もしないし危害も無い。ただ、体ン中に沢山の種類の原子を詰め込んでるから、それは俺達にとってはとてつもなく貴重な資源になるんだ」

 とてつもなく貴重な資源。要するに生命体とは言っているがどんな原子でも取り出せる便利なアイテムって訳か。

「ほぉ~」

 要は油田が見付かった的な奴だな。油田より相当スゴそうだけど。

「で、結局何が大変なんだよ」

 結局よく分からないままだし。しかしサンソンは、さも当たり前だと言わんばかりにこう答えた。

「とても有能で貴重な資源だ。これからそれを巡って争いが起きるぞ」

 争いと聞いて何だかただならぬ感じがしたので詳しく聞くと、過去にもたった一つの原子球を巡って国同士が争った事があったらしい。
 その時発見された原子球は特別大きくて貴重なものだったらしいが、そもそも原子球自体がとてつもない価値を秘めているとのこと。

「今回のはそれほど大きくはないが、大切な資源だ。奪い合いになる可能性は大いにある」

 サンソンはそう言うが、俺はまだ不思議に思う点があった。

「だったら避けて通れば良いんだろ?少しくらい遠回りしたところで、レミングスには関係ないだろう」

 そう、彼らの旅は特に目的がない。ただ一所には留まれないから移動しているだけなのだ。が、サンソンは困った顔で答える。

「いや、そうも言ってられんのだ。食料や消耗品はもう底を尽きかけている。その村を飛ばしてしまうと、多分この先の平原は抜けられない」


 おぉ……それはなんとも大変な話だ。……じゃなくて!ちゃんと備えとけよ!
 転ばぬ先の杖!備えあれば憂いなし!石橋を叩いて渡る!……あっ、最後のは逆の意味だわ。

 とにかくもうこうなっては仕方ないな。厄介事に巻き込まれなければ良いが……。

「まぁ、全ては族長が決めることだ。スティグマが来てなければ良いがな……」

 と、サンソンは締めくくる。が、また知らない単語だ。

「あの、スティグマって……」

「俺達と同じ様な奴らだよ。俺達レミングスは流動の矛盾から生まれたと言っただろ?
スティグマはまた別な矛盾を孕んだ一族だ」

 レミングスみたいなのがまだいるってのか。

「ほぉ、どんな矛盾だ?」
「物質の創造と、風化の矛盾だ」
「な、なんか強そうだな……」

 特に創造とか、程よくチートな香りがしますぜ。

「あぁ、奴らの能力はその辺の神器より使えるよ。しかも好戦的だから恐いんだ」
「そりゃ怖い!」

 確かに本当に怖い!マジ勘弁!
 と、俺の心境には全く気付かない様子でサンソンはレミングスの族長に会いに行ってしまった。

「何だかなぁ……」

 身の回りに普通に存在する常識。
 風は流れ、海は波打ち、日は昇り、それらは生命を育む。
 そうして緑が産まれ、動物はそれを食し、生命は広がる。

 これら全てに理由と理屈が存在し、また、これら全てが理屈の上で矛盾を孕む。
 その矛盾から生まれたのが奴らなのか。

「じゃあ矛盾が無いということを証明したら、コイツ等は消えてしまうのかな?」

 もうすぐ争いが起きるという村へ向かう最中はそんな事を考えていた。

 まだ俺は一滴たりとも血を流していない。グランシェも同じだ。

 生死を賭けた闘争もなければ、死線をくぐった訳でも無く。
 更には戦う術も俺にはない。

 グランシェも、公式やら神器やらの前では流石に無力だろう。


「学ばねば……」

 この世について、もっと知らなきゃならない。

「神様とやらよ……ここは何なんだよ、一体」

 俺達が出現したという例の神殿に向かって呟いた。
 と、その時神妙な空気をぶち壊す元気な声が耳に入った。


「おいタイチ!!もうすぐ着くってさ!!」

 相変わらず元気なグランシェだ。奴は一体、この状況をどう考えてるんだろう。
 そう思って見ると、ヤツはこちらに手を振っていた。

 ……どう見ても楽しんでるっぽいけどな。



 そして進行方向を見ると、煙がもくもくと上がっていた。争いの香りだ。もういやだ。

「マズイ事になりそうだな」

 隣で静かにサンソンが呟いた。
 
 

 
後書き
 ここまで読んで頂いてありがとうございます!
 書き溜めの方はちょうどこの章が終わった所まで進みました。この感じだとあと20話くらいでこの章は終わる予定です。そこで物語の8分の1くらいが終わりますので、結構長いお話になりそうです。
 読み飽きられないよう、尽力していきます!


 ──2013年05月02日、記。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧