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牧場の娘

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第七章

「よし、じゃあいいな」
「いえ、ですから嫌いじゃないって」
「嫌いじゃないってことは好きなんだな」
 これがオーナーの解釈だった。
「それで充分だ、じゃあ付き合えよ」
「何かよくわからない展開ですけれど」
「しかし悪い話じゃないだろ」
「何ていいますか」
「そういうことでな。いや、これで牧場も安泰だ」
 オーナーはあくまで自分で強引に話を進めていく。羊というよりは牛だった。
「それじゃあ頼むな」
「ですか」
「さて、アマンダともよく話してくれよ」
「はあ、それじゃあ」
 こうしてだった、アマンダと何度も話すことになった。
 牧場で共に働きながらこう言うのだった。
「あのさ、俺でいいんだよね」
「いいわよ。というか智和性格いいからね」
「いいか?」
「いいわよ。裏表はないし正直だし筋も通ってて」
「何かべた褒めだな」
「その通りだからよ。智和はいい男よ」
「だからか」
「そう。一緒にいたいなってね」
 笑顔で彼に言うアマンダkだった。
「思ったからよ」
「だからなんだな」
「私と一緒にいるのが嫌ならいいけれど」
「いや、それはな」
 そう言われるとだった、智和もこう言う。
「別に」
「だったらいいでしょ、それじゃあね」
「それじゃあか」
「一緒にいてもいいと思うけれど」
「ううん、成り行きだな」
「成り行きでもいい成り行きならいいでしょ」
「そういうものか?っていうか」
 智和は犬達に餌をやっていた、鶏のささみを与えながらのことだった。
「日本にいる時と変わらない感じだな」
「日本でも成り行きなの」
「そうなんだよな」
 考えながら言う。
「何だかんだでな」
「というかね」
「というかって?」
「あんた二年位前はここに来ると思ってた?」
 アマンダはこう彼に問うた。
「そんなこと考えてた?」
「いや、全然」
 これが智和の返事だった。
「全く考えてなかったよ」
「そうよね。私だっておじさんのところに養子に入るなんて思いもしなかったから」
 彼女にしてもそうだというのだ。
「同じよ、人間なんてどうなるかわからないのよ」
「だからか」
「そう、私はこの牧場に養子に入って」
「俺も働きに来たんだな」
「こんなの全然考えられないから」
 人ではとてもだというのだ。
「成り行きね。そしてその成り行きが」
「神様っていうんだよな」
 智和は笑って言った。ニュージーランドもキリスト教の国であることを意識してそのうえでのこの言葉だった。
「そう言うよな」
「そうよ、神様がね」
「その成り行きを動かしてるんだな」
「人間なんてちっぽけなものよ」
 こうも言う。
「それこそね
「ちっぽけ、そうだよな」
 智和はここで周囲を見回した、羊達がいる牧場の周りは見渡す限りの緑の平原だ。そこに白い羊達が雲の様にいる。
 その平原と羊達を見ながら言うのだった。 
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