癖
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第五章
「私の直感ではな」
「そうですか。ではこのまま」
「マークしていく。奴の行きつけのサウナにもな」
「行かれますか」
「そうする。ではだ」
「健闘を祈ります」
「これを食べたらすぐにマーjクに戻る」
そうするというのだ。
「幸い奴は今この近くにいるしな」
「前原代議士の事務所はここのすぐ傍ですからね」
「暫く傍にいて調べる」
課長は中尉の正体を直感的に察してきていた。それで彼へのマークを続けることにしなかった、そしてだった。
中尉の行きつけのサウナにも入った。何気なくを装って同じサウナで表情を変えず汗を流した。そこでだった。
中尉も汗をかく、腰はタオルで巻き隠している。これは課長も同じだ。
そのうえで席に座っていたがやがてだった。
スペンサーは立ち上がった。そして。
入り口のところでそのタオルを横で半分に折って汗で濡れた身体をぱんぱんと何度も何度も叩きだした。それこそ身体中をだ。
そのうえで満足した顔でサウナを出た。それを見てだ。
課長は確かな顔で頷いた。暑いサウナの中に座ったまま。
そのうえで公安に中尉から事情聴取を行うことを内密に勧めた。だが鋭い中尉はこのことをすぐに察して。
前原に対して密かにこう言ったのである。
「勘付かれました」
「まさか」
「いえ、そのまさかです」
中尉の言葉は険しい。
「公安は私がソ連から来ている工作員であることに気付きました」
「戸籍でしょうか」
前原はすぐにそれに原因を求めた。
「あれを調べられたのでしょうか」
「そこまではわかりませんが」
それでもだった。
「公安は気付きましたね」
「ではどうされますか」
「このままでは私がソ連からの工作員とはっきりとされかねません」
その心配があるというのだ。
「それにです」
「私もですね」
「はい、貴方にも危険が及びます」
そうなるというのだ。
「ですから」
「今ならですね」
「はい」
中尉の見極めは早かった。それで。
「ソビエトに戻ります」
「そうされますか」
「捕まっては元も子もありません」
工作員としてそうなれば彼と前原の破滅だけではなかった。それこそ祖国にも実害が及ぶ、それを避ける為にjだった。
彼は決断した、まさに今のうちにだった。
「戻ります」
「今なら公安の包囲も緩いですから」
「明日にでも空で逃げます」
「では身支度をされて」
「またお会いしましょう」
もうこの時に別れの挨拶をしてだった。
中尉は実際に前原と別れ部屋を引き払い空からソビエトに入った。手続きの仕方もわかっていたので逃げることは容易だった。
こうして中尉は証拠も残さずソ連に帰った。だが。
工作活動は全て中断され一からやり直しになった。残った前原には公安がこれまで以上にマークをすることになった。
その公安の中でソビエト担当の面々が課長にこっそりと尋ねた。
「あの、それでなのですが」
「何故大神が工作員とわかったのですか?」
「それもソビエトの」
「サウナだ」
課長は何故わかったのか、それはこれからだと答えた。
「そこでわかった」
「あちらはサウナだからですか」
「それでなんですか」
「それもある」
中尉はどうしてもサウナから離れられなかった。ソビエトにいる頃からサウナに毎日入らないと気が済まなかったし日本でもだったのだ。
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