癖
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第四章
「ロシアだからな」
「アジア系もいる」
「そうなのですね」
「いや、違う」
課長は部下達に厳しい声で答えた。
「混血だ、ソ連特有のな」
「といいますと?」
「ロシア系とモンゴル系のですか?」
「歴史的にな。あの国は長い間モンゴル帝国の支配を受けていた」
彼もまたこの歴史を言うのだった。
「それでその時にかなりモンゴル人の血が入っている、ヒトラーもそれでソ連の人間を侮蔑していたという話もある」
「ああ、アジア系と混血したとして」
「それで、ですね」
「そうだ。ヒトラーは人種主義者だったからな」
それがヒトラーの代名詞にもなっている。ひいてはナチスの。
「元々スラブ人を蔑視していたことに加えてだ」
「混血もその対象にしていた」
「そうですか」
「だからソ連では充分に考えられることだ」
例え白人であってもだというのだ。
「外見が極めてアジア系の者がいることもな」
「ではまさか」
「あの大神という男は」
「ソ連からの」
「有り得る。戸籍も怪しい」
確かな証拠は掴めていないがそれでもだった。
「あの男がソ連から来ている工作員ということもな」
「ではマークを強めます」
「そうしますか」
「私自ら行く」
課長自身がそれにあたるというのだ。
「そして調べよう」
「課長ご自身がですか」
「行かれますか」
「相当慎重でできる奴らしいな」
若し大神が工作員ならというのだ。ここまで精密に隠れて潜入し日本人になりすましていることからこう考えているのだ。
「では私自ら行き、だ」
「調べられますか」
「ここは」
「そうする。ではだ」
こうして課長自ら大神、即ち中尉のマークにあたることになった。彼は朝から中尉の傍に密かにいてその仕草や喋り方を見ていた。だがそれは。
「何も変わりありませんか」
「日本人だな」
昼に朝食のカレーを食べながら情報を聞きに来た部下の一人に述べる。二人で公安の食堂で話をしながらだ。
「完全にな」
「そうですか」
「流暢な日本語だ」
その喋っている言葉についても言う。
「前原代議士の地元のな」
「方言も使っていますか」
「間違ってもロシア訛りはない」
見分けられる要素のそれがだというのだ、
「そして仕草もだ」
「ロシア的ではなく」
「日本的だ。箸の使い方もいい」
「じゃあやっぱり」
「日本人にしか見えない」
課長はカレーを食べながら言う。
「全く以てな」
「ではまさか」
「彼は工作員ではない」
「そうではないでしょうか」
「いや、工作員だと思う」
課長は鋭い顔でこう部下に述べた。
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