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灯り

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第一章

                    灯り
 何歳かというとわからない。生まれは武蔵の方だ。
 天海という僧については誰もがいぶかしむ、そんな人物だった。
 彼が仕えている徳川家光にしても時折幕臣達からこんな話を聞いていた。
「百二十歳なのか」
「はい、どうやら」
「百歳は優に超えているのは間違いありません」
「戦国の世のかなり前の頃の話をされていましたし」
「そのことを聞きますと」
「噂はまことであったか」 
 家光は難しい顔になり腕を組み述べた。
「それは」
「はい、しかし明智光秀という噂もありますが」
 この噂は以前からあったがそれはというと。
「これは違う様です」
「権現様もご生前に言っておられました」
 家光にとっては祖父であり幕府を開いた彼がどう言っていたか、幕府の長老の一人である大久保彦左衛門が言った。
「権現様は明智十兵衛と何度も会っています」
「おお、そういえば彦左衛門御主もだな」
「はい」
 大久保もその通りだと家光にその白髪頭で答える。
「何度か」
「まずが権現様のお言葉から聞こう」
 家光は二つの意見を聞くことにしてまずはそこからだった。
「何と言っておられたか」
「似ていないと、全く」
「左様か」
「それに明智十兵衛が織田家にいた頃に比叡山にいたとのことです」
 信長が焼き討ちしたその山だ。そこにいたというのだ。
「権現様は明智十兵衛の文と僧正の文も御覧にならえましたが」
「それもか」
「やはり違うとのことです」
「では御主はどうじゃ」
 家光は今度は大久保自身の考えを聞いた。
「どう思う」
「はい、顔は全く似ておらず」
 確かに天海は高齢だがそれでもわかることだった。
「文の字も似てはいますが」
「やはり違うか」
「はい、別のものです」
 それもだというのだ。
「それに明智十兵衛はあくまで武将で馬や鉄砲に秀でていましたが」
「僧正は仏事だからのう」
「明智十兵衛は仏事にはとてもあそこまでは」
「ではやはり違うか」
「全くの別人と思います」
 大久保もそう見ることだった。
「やはり」
「左様か。しかし出自がよくわからぬな」
「どうしてもですな、それは」
「僧正に関しては」
 大久保以外の幕臣達も話す。
「言葉の訛りもわかりにくいですし」
「東国の訛りもありますが」
「しかし都の辺りもあります」
「言葉かわもわかりませぬし」
「あの御仁は一体」
「どういった方でしょうか」
「余も気になっておる」
 家光自身もだった。そしてこう言うのだった。
「百歳、七十で古稀というがな」
「はい、古来稀です」
「そこまで生きるとなると」
「毛利朝臣は七十過ぎまで生きていた」
「そして伊達殿もご長命ですな」
「今もご健在です」 
 伊達政宗はこの時大名の仲でも長老になっていた。家光にとっては戦国の頃のことを教えてくれるよき爺である。
 だが天海はその彼等よりもなのだ。 
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