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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 混沌に導かれし者たち
  5-10信じる心、怯える心

 (くず)()れる少女をミネアが()()め、傷を、体力を回復する。

 傷がきれいに()え、体力も回復した少女が、ミネアの手を離れようとするが、ミネアが離さない。

 少女の肩を(つか)み、目を合わせる。

「ユウ。どんな戦い方をしたら、こんなにひどいことになるんですか。もっと、自分の身体(からだ)を、()(づか)ってください。」
「魔物が、強かったから。勝つのに、いちばんいいと思った。」
「そうしないと、勝てなかったんですか?」
「……ううん。たぶん、勝てた」
「それなら。ここまで、()(ちゃ)をしなくても、良かったでしょう。」
「……だけど、勝った。傷は、治せるし。負けたら、死ぬから。」
「それでも。治すことができても、傷付けば痛いんです。治療が遅れれば、(あと)が残ることもあります。たとえ死ななくても、あなたが傷付くのは。痛みを感じるのは。心配なんです。傷付くあなたを見て、私たちの心も痛むんです。必要以上に、自分を危険に(さら)すのは、やめてください。」

 心配。

(この前も、言ってた。シンシアも、言ってた)

 だけど、自分は勝ったのに。
 ふたりと(はぐ)れ、ひとりで()(ごわ)い魔物と()って、戦って。
 勝って、生きているし、死なないように、十分に気を付けた。

 魔物に確実に勝てるように、そのための知識と技術を教え込まれ、ずっと頑張ってきた。
 教えられた通りに、やった。
 まだ、自分は弱くて、完璧にはできないけれど。
 できる限りのことをして、そして勝った。

 もっと完璧にできるように、いつでも、なんにでも、デスピサロにでも、確実に勝てるようになるためには、強くならないといけない。
 強くなるにも、生き残るにも、戦わなければならないし、戦えば当然、傷付く。
 傷付けば、痛いのも当然のこと。


 ()けては通れないことなのに。
 なにを、心配するというのか。

「……よく。わからない」
「ユウ」
「おい、ミネア」

 話を続けようとするミネアを、マーニャが()める。

「その辺にしとけよ。いっぺんに言い過ぎても、仕方ねえだろ。嬢ちゃんがわかるには、時間が()りそうだ」
「……そうだね。早く用を済ませて、戻ってユウを休ませたい」
「傷なら、治った。ミネアが、治してくれたから」
「それでも、休息(きゅうそく)は必要なんです。疲れた心までは、治せません」
「……よく、わからないけど。必要、なのね」
「はい」
「じゃ、行くか。世界一の宝とやらを、(おが)んでいかねえとな。こんな面倒くせえ洞窟なら、それなりに、なんかあんだろ」
「そうだね。ここであったことを言うにしても、ここに来た証拠くらいないと。あの様子じゃ、とても信じてもらえそうにない」
「……おともだちに。()()まして、たのね。」

 少女の表情が、また固くなる。

 ()(とが)めたマーニャが、呼びかける。

「嬢ちゃん」
「……ゆるせない。」
「嬢ちゃん。奴らは倒したんだ。いつまでも、そんな顔してんな」
「……顔?」
「恐え顔してんぞ。ガキが、眉間(みけん)(しわ)なんざ、寄せるもんじゃねえ。ガキってのはな。面倒くせえことは大人に(まか)せて、笑ってりゃいいんだ」
「そう、なの?」
「そうだ」
「楽しく、ないのに。笑えない」
「ガキが笑えるようにしてやるのも、大人の仕事だな。とにかく、ややこしいことは考えんな。世界一ってのは(おお)袈裟(げさ)としても、それなりに綺麗なもんが、見られるかもしれねえんだ。それのことでも、考えてな」
「きれい、なの?……うん、わかった」
「では、本当にそろそろ行きましょうか」


 今度は、罠にも魔物の妨害にも()うことなく、洞窟を進む。

 途中、またも重い扉があり、三人がかりで息を切らして開け、最深部にたどり着き、宝箱を発見する。

「やっと、あったな……。これで、くだらねえもんだったら。あの野郎、承知しねえ」
「ものがどうかは、さすがに彼の責任じゃないだろう。開けるよ」

 宝箱を開けると、中から、薄い青色に(きら)めく、()(とお)った宝石が出てきた。

 少女が、その輝きに()()る。

「……きれい」
「まあ、綺麗は綺麗だな。しかし嬢ちゃんがあんな目にあって、この程度か。……割りに合わねえな」
「なにか、書いてあるね……信じる心?」
「ずいぶんと、また。皮肉が()いてんな」
「どういう、こと?」
「つまり、世界で一番、大切な宝物(たからもの)というのは、この宝石や、他の(もの)ではなくて。相手を、人を信じる心、だということです」
「……そう。(もの)じゃ、ないのね」
「わざわざ試しやがるとか、性格悪すぎだろ。何が楽しくて、こんな洞窟用意しやがったんだ」
「さあね。今、肝心なのは、この洞窟に(もぐ)った証拠が手に入ったことだから」
「それも、野郎が信じるかだな。無理じゃねえか?こんなもん見せたって、なんも変わんねえだろ。知ってたってわけじゃねえんだからよ」
「そうかもしれないけど。ものは手に入ったし、今のところ他に心当たりもないんだから。とにかく戻って、もう一度彼と話してみよう」
(ほね)()(ぞん)になりそうで、気は進まねえが。話してみなけりゃ始まらねえか。よし、じゃ、出るぞ」

 マーニャのリレミトで洞窟を脱出し、ルーラで砂漠の宿に戻る。


 再び、馬車の持ち主、宿の息子のホフマンの部屋を訪ねる。
 ミネアが扉を叩き、呼びかけるも返事がない。

 (ことわ)って扉を(ひら)き、中に入る。

 ベッドの若者が、布団(ふとん)から顔を(のぞ)かせる。

「……また、あんたらか。しつこいな」
「ホフマンさん。私たちは、あの洞窟に行ってきたのです」
「……へえ。それで?(たから)(もの)でも、手に()れた?おれを、笑いに来たのか?」

 マーニャが眉を動かし、ミネアがマーニャを(にら)む。
 マーニャは若者から顔を()らし、()える。

 ミネアが続ける。

「そうではありません。あの洞窟には、人の姿を写して人を騙す、魔物が()()っていました。私たちも、仲間の姿をしたものに、(おそ)われました」
「……それが、どうした」
「あなたを裏切り、襲ったのは、お友達ではなかったのでは?」
「そんなわけあるか。あれは、確かにあいつらだった。あいつらの顔をして、おれを、(あざ)(わら)って、楽しそうに、おれなんか!友達じゃなかったって!今さら、そんなことが!信じられるか!!」
「ホフマンさん、落ち着いて」
「どうせ、洞窟に行ったのも、嘘なんだろう!口でなら、何とでも言えるよな!適当なこと言って、馬車を(だま)()ろうっていうんだろう!帰れ!帰ってくれ!!」

 若者は身を起こし、激昂(げっこう)する。
 ミネアが、溜め息を()く。

 少女が、進み出る。

「おにいさん。これ。」

 宝石を差し出す。

「……なんだよ、これ」
「洞窟に、あったの。でも、宝物は、これじゃないんだって。」
「……やっぱり。洞窟に行ったなんて、嘘なんだな」
「ちがうの。これ、持って。見て、みて。」

 少女に宝石を押しつけられ、振り払うこともできず、若者は渋々(しぶしぶ)と宝石を受け取り、眺める。

「……これが。こんな宝石が、どうしたって言うんだ。……信じる心?……はっ、笑わせる」

 宝石が淡い光を放ち、若者を包む。
 宝石を見つめる若者は、気付かない。

「……おい」
「静かに」

 マーニャが言いかけ、ミネアが止める。

「……だけど、なぜだろう……この宝石を見ていると、心が洗われてくるようだ……」

 若者を包む光が、強さを増す。

「信じる、心……そうか!一番、大切な宝物って、人同士が、信じ合うことなんだね!」

 暗かった若者の顔が明るくなり、ベッドから勢いよく立ち上がる。

「おれが、間違っていたよ!おれを、あんたたちの仲間にしてくれないか!?もちろん、馬車も、一緒さ!」

 瞳を輝かせ、熱く訴える若者。

「……マジかよ。完全に、別人じゃねえか」
「すごい物だったんだね」
「ヤバい洗脳じゃねえだろうな」
「兄さんも、覗いてみたら」
「ふざけんな」
「本気なのに」

 ぼそぼそと話し合う兄弟。

「なあ、頼むよ!また、旅に出て、今度こそまともな男になりたいんだ!おれも戦えるし、迷惑はかけないから!」

 さらに熱心に、訴える若者。

「おい。どうするよ」
「体格もいいし、前衛(ぜんえい)向きみたいだね。助かることも、あるかもしれない」
「んじゃ、連れてくか」
「やった!」
「まって。」

 まとまりかけた話を、少女が(さえぎ)る。

「どうした、嬢ちゃん」
「ミネア。この人は、わたしたちと。おなじ、運命(うんめい)の、人?」
「……違いますね。」
「なら、だめ。」
「ど、どうして」
「死んじゃうから。」
「……?それは、旅に出れば、危ないこともあるだろうけど」
「ちがうの。わたしといると、みんな死んじゃうの。マーニャと、ミネアは、運命の人だから。だから、大丈夫なの。一緒に、いていいの。」
「運命……?」
「あなたは、ちがうから。だから、死んじゃうから。わたしと一緒に、きたらだめ。」

 混乱し、なおも()(つの)ろうとする若者を、ミネアが()める。

「ホフマンさん。少し、待ってもらえますか。私たちで、話をしますから。」
「あ、ああ。わかった、待ってるよ」

 善良な本質に目覚めた若者は、意味はわからないながらも、素直に引き下がる。
 三人は、一旦(いったん)、若者の部屋を出る。


 宿の休憩所に、落ち着く。

 ミネアが、(くち)()を切る。

「ユウ。ホフマンさんは、嫌いですか?」
「ううん。はじめは少し、落ち込んでたけど。いい人だから。だから、死んでほしくない」
「死ななければ、問題ないですか?」
「うん。だけど、だめだから。」
「ユウ。あなたと関わる人が、みんな死んでしまうわけではありませんよ」
「そうかも、しれないけど。でも、わからない。マーニャとミネアは、わかるから。」
「ユウ。確かに、私たちとの旅は、危険も多いでしょう。死ぬことも、あるかもしれません。だけどそれは、何も私たちとともにいるときだけに、限ったことではないんです」
「どういう、こと?」
「ここまでの旅で、何度も魔物に襲われましたね?」
「うん」
「それは、私たちだったからではありません。町を離れて旅をすれば、誰もが魔物に襲われます。ユウも私たちも、戦う力があるから、生きてここにたどり着けました。力のない者なら、それすらままなりません」
「……」
「私たちと一緒にいることで、危険になることも、確かにあるでしょう。でも、特別なことがない限り、一緒にいれば、かえって安全です」
「……でも。とくべつなことが、あったら。」
「そのときは、逃げてもらいましょう」
「え?」
「運命に守られた私たちは、滅多(めった)なことでは死にません。いざというときには、ホフマンさんには、私たちを置いて。自分を最優先にして、逃げてもらいましょう」
「……でも。」
「ユウ。親しくなった人を、失うのは(つら)いことです。でも、失うことを闇雲(やみくも)(おそ)れて、人との関わりを()けて、ひとりで生きていくことは、できません。ホフマンさんも、それなりに戦う力があるようですし、一緒に来たいと言ってくれているんです。ここは練習だと思って、連れていってみましょう」
「……練習?」
「ええ。ユウは、旅のことの他に、世の中のこと、人との関わり方も、学んでいく必要があります。ホフマンさんから、人との関わり方を学びましょう」
「必要な、こと」
「兄さんがルーラを使えますし、ホフマンさんにもキメラの翼を渡しておけば、滅多なことはないでしょう。連れていきませんか?」
「……ほんとに、ちゃんと。逃げて、くれるなら。」
「では、ホフマンさんに、お話をしに行きましょうか」
「うん」


 再び、ホフマンの部屋を訪れる。

「お待たせしました、ホフマンさん。条件はありますが、それを守ってくれるなら、ぜひあなたについてきてもらいたいです」
「本当かい!なんでもするよ!なんでも、言ってくれ!」
「では。滅多なことはないとは思いますが、もしも本当に危なくなったときは。私たちを置いて、逃げてほしいのです。」
「えっ?……いや、それはできないよ。おれは、もう人を疑ったり、裏切ったりしないって決めたんだ。ついていくからには、あんたたちのために、命だって()けるよ」
「それなら、連れて行くことはできません。」
「どうして」
「ホフマンさんのお気持ちはありがたいのですが、こちらにも事情がありまして。私たちのためを、というか、彼女のためを思うなら、自分の命を最優先にして、絶対に()()びてほしいのです。死ぬ覚悟は、必要ありません。むしろ、迷惑です」
「……」
「理解しにくいことを言っているのは、わかっています。それでも、これは大事なことなのです。もう一度聞きますが、その条件を守ってでも、私たちと来てくれますか?」
「……」

 黙り込むホフマン。

 マーニャが口を挟む。

「うだうだ悩んでんなよ。守れるなら連れてく、できねえなら置いてく。それだけだ。来るのか、来ねえのか」
「……本当に、それが、彼女の。ユウさんの、ためなんだね?」
「ああ」
「……わかった。約束するよ。おれは、絶対に自分の命を守る。絶対に、死なない。どうやっても、生き延びる。だから、連れていってくれ」
「ユウ、いいですか?」
「……うん。本当に、絶対に、約束してね。」
「ああ。ただ、おれも一度は死にかけたんだ。自分の限界くらい、わかってる。絶対に死なない範囲で、あんたたちの役に立つよう頑張るから。そこは、認めてほしい」
「ま、そりゃ当然だな」
「では、よろしくお願いします」
「ああ……いや、はい!みなさん、よろしくお願いします!」

 決意も新たに、ホフマンは口調を改める。

「うん。よろしくね、おにいさん……ホフマン、さん」
「よろしくお願いします!ユウさん、マーニャさん、ミネアさん!ところで、みなさんお疲れですよね?砂漠(さばく)()()しはきついですし、まだ日も高いです。親父に言って部屋を用意しますから、夜まで休んで、それから出発しませんか?ぼくも、その間に準備ができますし。疲れがひどいようでしたら、もう一泊してもらってもいいですが」
「砂漠の南には、温泉の町があったよね。どうせゆっくり休むなら、そっちがいいかな」
「だな」
「では、夜までの休憩で、お願いできますか」
「任せてください!食事は休む前にしますか?起きてからにしますか?」
「あとでいいよね」
「ああ」
「わかりました!では、一旦失礼します!」

 ホフマンは、颯爽(さっそう)と部屋を出ていく。

「本当、別人だな。一時は、どうなることかと思ったが。役に立ちそうじゃねえか」
「本当だね。良識(りょうしき)のある人が増えて、助かるよ」
「あ?なんか言ったか?」
「言ったけど、もういいよ。だいたい(あきら)めてるから」


 用意された宿の部屋で三人は休み、ホフマンは身仕度(みじたく)と、馬車の準備を整える。

 日が落ちる頃、三人は起こされ、準備の整った食堂に案内される。

 食堂では、宿の主人が待ち構えていた。

「おかげ様で息子も立ち直ったみたいで、どうもありがとうございました。息子を、よろしくお願いします。たいしたものはありませんが、どうぞ召し上がってください。」
「すみません。ありがたく、いただきます」
「悪いな。まあ、息子のことは任せな。っても、連れてくだけだがな」
「また、そんな言い方を。でも実際、たいしたことはできないと思いますが。」
「息子が命を落としかけた洞窟から、無事に帰って来られるみなさんと、ご一緒させてもらえるのですから。こんなに、心強いことはありません。」
「まあ、命の保証だけはしてやれるか。普通ならわざわざしてやるようなもんじゃねえが、今回は嬢ちゃんの希望もあることだしな」
「約束、したから。逃げて、くれるのよね」
「逃げる……?おい、どういうことだ。」

 怪訝(けげん)な顔をし、ホフマンに向き直る主人。

「えーと、それは……」

 約束はしたものの、理解はできていないため、父親の(とが)める雰囲気に説明ができずに()(よど)むホフマン。

 ミネアが、()()す。

「こちらの都合で、少しお願いしたことがありまして。息子さんには何も問題ありませんから、どうぞお気になさらず」
「そ、そうですか。なら、いいのですが。」


 食事を終え、宿の主人に見送られ、馬車のもとに向かう。

「みなさん!もうご存知(ぞんじ)でしょうが、こいつが馬のパトリシアです!こいつ共々(ともども)、改めてよろしくお願いします!」
「パトリシア。この子も、一緒なのね。……大丈夫、かな」
「大丈夫です!パトリシアは賢いですから!いざというときには(つな)を切れば、しっかり()()びます!」
「そう。大丈夫、なのね。よろしくね、パトリシア。」
「では、行きましょう!」 
 

 
後書き
 運命の仲間では無い、人との交流。
 温泉の地で、すれ違う人々。

 次回、『5-11温泉とおねえさんとおにいさんたち』。
 6/29(土)午前5:00更新。 
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