子虎迷走記
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第8話 気付いた心、互いの始まり 後編
前書き
かなり遅れました。
前回あんな終わり方しちゃったせいで書き辛かったんです……
最初っからクライマックスっ!!って感じになってしまう……
???視点。
暗い。
何も見えない。
苦しい。
体が痛い。
辛い。
ここはどこ?
助けて。
誰もいない。誰も見えない。
誰か……
体が沈んでいく。
光が見えないよ……
視点終了。
「ぐるルるるルルル」
変わり果てた相棒の姿に愕然とするレックス。
レックスの様子に仲間がユエの様子に気付く。
「お、おい。ユエの奴どうしたんだ?」
「分からないわ……いったいどうなってるの?」
ユエの様子に困惑する仲間達。
するとユエが動き出した。
「がアアああアあアアアア!!!」
いつもとは明らかに違う防御を全く考えない特攻のような動きで帝国軍に襲い掛かるユエ。
狂ったようにも見えるその動きに仲間達はさらに困惑する。
帝国軍の兵士は鎧をも軽々と切り裂き襲い掛かってくる子虎に恐怖する。
敵の攻撃を受けても全く痛む様子も見せず、自分の血と敵の血で毛を赤くしながらひたすら敵を倒す。
その様子にウィルは見ていられないと言った表情でレックスの服を掴み叫ぶ。
「先生!ユエはどうしちゃったの?どうしてあんな……先生?」
レックスの様子が変な事に気付き見上げるウィル。
「……」
レックスはただただ呆然とユエを見ていた。
ウィルは一瞬だけ止まり、涙を浮かべてレックスを叩いた。
「先生!しっかりしてよ!早くユエを止めないとユエが死んじゃうよ!!」
「……!ユエ!!」
レックスはウィルの言葉にハッとなったように叫ぶ。
一瞬だけユエが反応したが、すぐにまた敵に向かって行く。
その様子を見てレックスはどんどん苦しそうな顔になる。
「もうやめてくれ!ユエ!」
レックスの悲痛な叫びが戦場に木霊する。
ユエは止まらない。
ぼろぼろの状態で戦い続ける。
「止まってくれ!お願いだから……!」
レックスは叫び続ける。
喉が嗄れそうになるくらい。
「ガアあアアあああアアアア!!!」
獣の咆哮と帝国軍兵士の悲鳴が響く。
「ユエーーーーーーー!!!」
レックスの目から涙が零れ落ちる。
「―――――――――!!!」
ユエは理性を感じさせない咆哮をあげる。
レックスはその咆哮を聞いてはっとした表情になりユエ……と呟き、俯く。
血を撒き散らし戦う子虎を誰も止められない。
戦場は恐怖と悲鳴に包まれる。
レックスは俯いたまま歩き始める。
「先生……?」
ウィルが戦場に向かって歩き始めるレックスに声をかけるもそのままレックスは剣も持たずに歩き続ける。
そしてレックスは顔を上げる。
そこにユエが敵を倒しながら向かってくる。
ユエはそのまま、標的をレックスに移し……
「があアアあああアああああ!!」
血が飛び散った。
崩れ落ちるように膝をつくレックス。
「せんせぇぇぇぇぇ!!」
ウィルの叫びが戦場に響いた。
その瞬間、戦場の時が止まったかのようだった。
そんな中。
「がァ!?」
子虎の声がする。
レックスが子虎を抱きしめていた。
「声が……聞こえたんだ」
レックスは俯いていて表情は見えない。
「暗いよ、苦しいよって……迷子の子供が……不安そうに泣く声が聞こえたんだ」
ぽつりと呟く。
「俺は……君の声を知らない。でも……わかったんだ……」
ぽつりと涙が子虎に落ちる。
「君の……ユエの声だって……」
「があァ……」
子虎が苦しそうな声を出し、爪を立てる。
血が流れていく。
「俺はここにいるよ……だから、戻っておいで……」
「ユエ……」
子虎の目から涙が零れ落ちた。
その様子に敵の兵士達は今が好機と一斉に襲い掛かる。
そしてレックスに刃が振り下ろされた。
誰も助けられない状況に皆が絶望した。
レックスに刃が当たる瞬間。
金属音と共に敵の剣が吹き飛んだ。
そして戦場に似合わないのんびりした声が響き渡った。
「ちょーっと危なかったわねーでも、ジャストタイミングってとこかしらーにゃははははは♪」
「メイメイさん!?」
驚いた誰かの声が聞こえた。
何故か今までいなかったメイメイさんが突如レックスの目の前に現れ、敵の剣を弾き飛ばした。
敵は突如現れたメイメイさんに戸惑う。
そんな敵をメイメイさんは召喚獣で吹き飛ばした。
「よく頑張ったわね。この子をここまで引き戻すなんて正直ちょっと驚いたわ」
すっとしゃがんだメイメイさんは真面目な表情でレックスを見る。
「メイメイ……さん」
「はーい、喋っちゃだめよ。致命傷は避けてるけどかなりやばい状態だから。でも、ユエをこちらに向けて持ってくれないかしら?」
レックスはメイメイさんの目を見て素直にユエをメイメイさんに向ける。
それを確認したメイメイさんはカイル達の方に向く。
「少し時間稼ぎをお願いできるかしら?ほんとに少しのまで良いわ。それとそこの召喚師は何時でも先生を回復できるように準備して」
「なんだか知らねぇが、ユエを戻すのに必要な事なんだろ?だったら俺達に任せな!」
カイル達はそれに応じる。
メイメイさんに呼ばれたヤードも準備に取り掛かる。
それを見たメイメイさんはどこからか見覚えのある形の紫色の石を取り出しユエを見る。
「いくわよ。先生、ちゃんとその子を持っていてね」
それにレックスは何とか頷き答える。
それを確認したメイメイさんは呪文を唱え始める。
「……四界の力を秘めし石よ、今こそあるべき所へ帰らん。天地万象……四界天輪……龍命祈願……四元回帰……星の巡りよ……意思の子の力と心を取り戻したまえ……。王命に於いて、疾く、為したまえ!」
紫の石はふわりとユエの額に入って行く。
その瞬間、子虎の体が光り始めた。
すぅっと黒い毛並みは白くなると同時に傷はいつの間にか消え。
開かれた目は赤から元の金に。
子虎はするりと抜け出し、レックスの前に立ってレックスを見る。
レックスはそんな子虎を見て微笑み……
「おかえり……ユエ」
「ガウ!!」
子虎……ユエは元気良くそれに答えた。
レックスはその様子を見た後、ふらりと倒れてしまう。
「大丈夫ですよ。この人は私が死なせません」
待機していたヤードがすぐにレックスの治療を開始する。
それを見たユエはレックスを守るように敵に向き、咆哮した。
その瞬間、ユエの体は光り始め大きくなっていく。
光が消えるとそこには一匹の白い虎がいた。
力強い四肢、神秘的な白い毛並み。
虎、ユエは咆哮し敵に向かう。
その変化に周りは驚いて動きを止めていたが。
「お前らぼさっとすんな!ユエに続け!!」
「わ、わかってるよ!」
「ふふ、なんだかユエちゃんすごく逞しくなったわね。これは負けてられないわ!」
カイルの声にそれぞれが動き始める。
「僕達も行こうテコ!」
「ミャ!」
「こんどは僕が先生を助ける!」
ウィルもテコと共に戦場に向かう。
そして戦いは帝国軍が痛手を受け撤退と言う形で終わった。
それから次の日。
レックスは体の重みと手に暖かさを感じて起きた。
自分の上で丸まっている子虎と自分の手を握り締めて眠る生徒。
じっと見ていると二人は起きた。そしてレックスに抱きつき泣いた。
ウィルは自分の思っていた事をレックスに話し、レックスも自分の思っていた事を言う事で二人はお互いに気付き、絆を深めた。
そして……
「君の声は、今はもう分からない。けど、言いたい事はなんとなく分かるよ」
向き合うレックスとユエ。
「俺達は相棒だろ?」
ユエはまっすぐレックスを見る。
そして……
「ガウギャオウ!!」
「こちらこそ、これからもよろしく。ユエ」
これは、始まり。
お互いに気付き、思い、信じる。
絆の始まり。
後書き
まだまだ序盤なのに終盤のようだ……
どうしてこうなった……!
書いててこれでいいのか?と最終回一歩手前のようなこの雰囲気。ほんとに投稿を迷いました。
でも、この話のユエ視点の話を後々外伝で書くかも?
かなり短いものになりそうですが。
次、どんな風に書こうかな……
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