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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第11話

呆気にとられる観客、地に伏せた竜胆、見下ろし、立ち尽くす俺。

大方の予想を覆した戦いは、俺の圧勝で終わった。

「俺の勝ちだ、竜胆」
「…っ、まだ私は…!」
「結果は出た。これ以上の行動には責任を持てん」

納得しきれない竜胆の気持ちは分からないでもない。しかし、敗けは敗けだ。事実を淡々と受け止めるべきだろう。

「一夏達に手を出さないなら、また何度でも相手をしてやる」

突っ伏したまま動かない竜胆にそう言い残し、ステージから立ち去る。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ハル、あれは…」

ピットに戻って早々に、ゼロが声をかけてきた。

「足を踏んだことか?必要だと思ったからやった、それだけだ」
「そんな汚い手段を使わなくても、ハルなら勝てただろう!?」

ゼロが声を荒げる。言いたいことは分かるよ、ゼロ。だけどな、いい子ちゃんじゃあ、勝てはしないのだよ。

「勝負に卑怯も汚いも無い。勝つためなら、全てが許されるのが戦いってものだ」

俺は勝利の為に手段を選ばない。罵られる覚悟もある。そうしなければ勝てなかった。

「気分が良くないのは十分理解はしている。でも、綺麗なだけじゃ、その内行き詰まるかもしれないってことは、頭に入れといてくれ」

項垂れるゼロ。一夏達はどう言ったら良いものかと、発言に窮している。

「…着替えてくる。先に引き上げてくれて構わない」

一夏達に告げ、更衣室で今回の戦闘を省みる。

客観的に見れば、決して誉められた内容ではない。しかし、得られた物も多い戦いになったのも確か。

頭の中で問題点、反省点を上げながら、俺は制服に着替えるのであった。

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智春が更衣室に消えたその頃、ゼロと一夏達は、ピットで向き合っていた。

「ワンサマー、お前はどう思っているんだ?」

ゼロは一夏に尋ねる。頭では智春の言うことが一面では正しいと理解している。しかし、心がそれを受け入れる事を躊躇っていた。

故に、一夏達の考えを聞きたかった。

「あれは序の口。俺達にやったのは、もっと凄かったから」
「そうだね。避けきれない、と思ったら即座に僕達を盾にしたり、視界を遮って、同士討ちを狙ったり」
「勝利の為ならどんな事をもいとわない、ある意味、純粋な勝負師ですわ」

一夏達は智春を各々評する。

「それでも、汚い手を使うのは…!」
「気持ちは理解いたします。しかし、丹下さんが先程述べた通り、勝負は全てが許されます。善悪清濁関係無く」

納得できないゼロに対し、セシリアが淡々と説く。

「一夏さん達を駆け引きの材料にし、試合日程を前日に伝えるという行為を向こうもした、これは正々堂々としていますか?」

ゼロに問い掛けるセシリアの言葉を、シャルルがまとめる。

「結局は、お互い『勝つために打てる手段を可能な限り打った』って事。君がどう思うかは自由だけど」

数舜の静寂の後、ゼロが口を開く。

「少し…、一人で考えてみる。悪いな」

口数少なく、ゼロはピットから立ち去っていった。

一夏達も、ゼロの背を見届けた後、各々去る。

着替え終わった智春が出てくると、誰も居ない筈のピットに意外な『客』が訪れていた。

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着替えの最中にも、ゼロと一夏達は討論していたようだが、やがて出ていったみたいだ。

さて、これからが大変だ。

何せさほど仲が良いわけでないオルコットに協力を得るために、一夏との1日デートのセッティングを請け負ったのた。

凰や篠ノ乃の目を掻い潜ったり、一夏の予定を調整したりと、やることが山程ある。

頭の中で、計画を組み立てながら更衣室を出ると、誰かが居た。

「お待ちしていました」
「シャルル…、じゃないな。妹の方か」

待ち人は、シャルルそっくりのシエル嬢。彼女とは面識がない為、少々面食らってしまう。

「丹下さんにお願いがあって、待たせていただきました」
「お願い?」
「はい、ボ…、ではなく、私に、ISをお教えいただきたく…、「無理」どうしてっ!」

意味不明な事を言われたので、断ったら豹変した。何だ?

「猫被ってるのがバレたの?『ボク』がお嬢様らしく振る舞おうとしたのがいけなかったのかな…?」

一人で呟き始めた。と言うか、猫被っていたのか。一人称といい外見といい、そっくりだな、シャルルと。

「は!?わ、わ!どうしよう!?全部見られた!?よし、こうなったら、改めて、ボクに指導を…「いや、無理」そんなぁ!!」

ガックリ肩を落とすシエル嬢。この短い時間で、この少女に対する評価をまったく別物にしなければならないとは、夢にも思わなかった。

「せめて理由を!」
「理由?未熟だから」

そもそも、俺自体がまだまだヴァンガードの性能を出し切れてはいない。

多少訓練の結果で良くはなったが、今日のでも六割そこそこだ。先は長い。

「それでも、今日の丹下さんは、ボクが描く理想そのものだった!だから教わりたいんだ、あの人と、シャルルと並び立つ為にも!」

どうやら、シエル嬢はシャルルに対して、多少なりと劣等感を抱いているようだ。だからと言って、首を縦には振らないが。

「申し訳無いが、どれだけ頼まれても、受けることは出来ない。他をあたってくれ」

シエル嬢の横を通り、ピットを出る。

「ううう…、いいもん、ボクが勝手に着いて行くもん!待って師匠!」
「誰が師匠だ!」

勢いよく追いかけられ、師匠呼ばわり。やってられない。

何とか振り切ったが、シエル嬢は諦めを知らなかったらしい。

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「師匠!お隣失礼します!」
「…師匠?」
「止めてよホント…」

翌日の朝食、一夏と談笑しながら朝食を楽しんでいると、空いていた隣にシエル嬢が座った。

速攻で朝食を終わらせ、教室に逃げた。

「師匠!お昼に行きましょう!」

昼休み、シエル嬢に捕まりそうになった。間一髪で一夏を盾にした。周囲の目が怖かった。

そして放課後。

「師匠師匠。そろそろ了承してくださいな」

シャルルそっくりの笑みで、洒落にならない事を抜かすシエル嬢。

今日1日、シエル嬢から逃げながら、考えていた。どうすれば、俺もシエル嬢も納得する結果を得られるかを。

「さあ、さあさあさあさあ!」

答えを迫るな、近寄るな、暑苦しくなる…、っは!来たぞ!我が頭脳に天恵が!

「喜べシエル嬢、俺が教える以上に効果的な手段が見付かったぞ!」

最高だ。最高の案を思い付いた。これを閃いてしまった自分を褒めちぎりたい。

「師匠、その手段は!?」
「うむ、それはだな…」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「…で?トモはそう言ったのか?」

後日、シエル嬢の雰囲気に何かを感じた一夏に聞かれたのであらましを寸分たがわず伝えると、苦笑いを浮かべた。

「何か問題あるか?『ゼロに丸投げ』」

そう、何も教えるのは俺でなくても良いのだ。気付いた俺はシエル嬢にこう言った。

『ゼロに教えを願い、吸収しろ。その後、必要ならば教える』、と。

ゼロならば、乙女の願いを無下にはしないし、何より、イケメン。

大事だからもう一度、ゼロはイケメン。

きっとシエル嬢はゼロに教わる途中でゼロの魅力にメロメロ、頭の中はゼロばかりになり、俺の事は忘却の彼方へ。

そして解放された俺はYEARR!な状態になるわけだ。

完璧すぎる。

「その結末がアレな訳だが…」

一夏と共にゼロの席に目をやると、和気藹々としたゼロと少女達の戯れが見える。

何と清々しい。

「いや、ゼロ顔がひきつってるからな!?って言うか、その爽やかな笑顔はなんだトモ!?見たこと無い爽快さだぞ!?」
「フッフッフッ。一夏、今の俺はとても気分が良いのだ。大半の事は許せる気がする」
『ならば都合がいいな』

!? 何奴!

慌てて背後から聞こえた声の正体を確かめると…、

「丹下智春。貴様を少しだけ認めてやろう」
「ぼ、ボーデヴィッヒ…」

正体は、腕を組みながら冷淡な視線を浴びせる、ラウラ・ボーデヴィッヒさんでした。冷や汗が止まらない。

「男など惰弱で軟弱だと思っていたが、貴様、中々どうして骨がある。楽しめそうだ…」

ニタァ、という擬音が居合いそうな感じで、口を歪めるボーデヴィッヒ。嫌な予感。

怯える俺の耳にボーデヴィッヒは口を近付け、

(今日の夜、第一アリーナに来い。遊んでやる)

最悪のプレゼントをいただいた。

「ウオオォォッ!!!」
「ほう、やる気満々というわけか。ますます楽しめそうだ」

半ば錯乱状態の俺を見て、珍しく機嫌良く立ち去るボーデヴィッヒ。

でもそんな事はどうでもいい!!

「ヘルプ一夏!」
「ゼロに押し付けたツケだな。頑張れ」

とってもいい笑顔で一夏に流された。

勿論他の人に頼める訳もなく、ただただ迫り来る恐怖に身を震わせるしかなかった。 
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