スペードの女王
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第二幕その三
第二幕その三
「そして花で編んだ冠。それを永遠に贈ってあげられるよ」
「お花を!?」
「そう、そして心を」
プリペーパを見て語る。
「それで君に永遠に贈り物を」
「ダプニス」
プリペーパはダプニスを見て言った。
「私はそれが欲しいわ。貴方の心が」
「プリペーパ」
「何と、お金は欲しくないのかい」
ズラトゴールはそれを聞いて驚きの声をあげる。
「君は黄金や宝石に囲まれるんだよ。それなのに」
「愛はそれとはまた別なのだから」
それがプリペーパの答えであった。
「だから」
「ううむ、僕の負けだな」
ズラトゴールは唸るしかなかった。
「君の心には。お金は必要ないのか」
「だって愛はお金では買えないから」
「そうだったのか、なら仕方ない」
彼は引き下がるしかなかった。
「では君達を祝福しよう」
「えっ」
ズラトゴールは早替わりをした。何とキューピットに変身したのである。
「貴方は・・・・・・」
「これが僕の本当の姿なんだよ」
キューピットは笑顔で二人に対して言った。
「それじゃあ」
「さあ、二人共一緒になって」
キューピットは周りに控えていた踊り子達も招き寄せる。ダプニス達の演技の間控えていた彼等を。
「愛を祝おう。愛は幸せなもの」
「幸せな二人に祝福を」
踊り子達も言う。
「永遠に幸せに」
「愛と共に」
愛を讃える劇であった。皆その劇を見て拍手を送る。だがゲルマンはそれを見てはいなかった。相変わらず沈んだ暗い目で考えに耽っていた。
「さっきの仮面の男達は一体」
チェカリンスキーとスーリンだったとは気付いてはいない。
「カードのことを僕にそそのかすのか?悪魔なのか、それとも」
「ゲルマン」
その考えは中断させられた。リーザがやって来たのである。
「リーザ」
「聞いて欲しいことがあるの」
リーザはそっと彼に囁く。
「この前貴方は御婆様に会いたがっていたわよね」
「うん」
その言葉に頷く。
「そうさ。ちょっと聞きたいことがあってね」
「御婆様もここに来ておられるわ」
「そうなのか。それじゃあ」
「けれどここにはいないの」
リーザは言った。
「じゃあ何処に」
「部屋で休んでおられるわ」
「じゃあその部屋に」
「ええ。それでね、ゲルマン」
リーザは恥ずかしそうに俯いて述べる。
「私決めたの」
「じゃあ」
「貴方と一緒になるわ」
彼女も遂に覚悟を決めた。
「貴方となら何処にでも」
「そうか、僕のものに」
「そうよ。全ては貴方の為に」
「わかったよ、僕もまた君のものだ」
「ゲルマン・・・・・・」
「だからこそ」
「どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
そこから先は言わなかった。
「ただ、決めたんだ」
彼は言う。
「カードをね」
「!?」
この言葉の意味はリーザにはわからなかった。
「それはどういうことなの?」
怪訝な顔をして彼に尋ねる。
「カードって」
「いや、何でもないよ」
それは顔にまで出ている陰の中に消した。
「気にしないで」
「そうなの。じゃあ」
「うん、またね」
一旦リーザと別れた。彼はリーザに教えられた今伯爵夫人がいる部屋に向かう。その中で呟く。
「三昧のカードの秘密」
彼はそのことを考えていた。同時にリーザのことも。
「それこそが僕がリーザと共に幸福になれるものだ。だから」
彼は宴の場から姿を消した。まるで影の様に。
その宴の場では俳優達が消えまた儀典長が出て来ていた。
「皆様、嬉しいお知らせです」
「あら」
「何かしら」
客達はそれに顔を向ける。儀典長はその中で述べる。
「陛下が来られます」
言わずと知れたロシアの主エカテリーナ二世である。かって公爵を愛人としていたあの女性である。
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