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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)

作者:BK201
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第二十八話 Die dümmsten Bauern ernten die dicksten Kartoffeln.

 
前書き
タイトルのドイツ語は「愚者に限って運がいい」という意味です。誰が愚者なのかはあえて考えてないですけど。 

 

―――諏訪原大橋―――

「Panzer―――」

「クッ、ハアアァァァ!!」

螢は左手に持っている炎剣によってパンツァーファウストの一撃を受け流す。実力差が明確である以上、螢がザミエルの攻撃を真っ向から受け止めるのは下策である。
故にこの場において有効な手段は奇策の類であり、ある意味それは成功しているといえた。
二刀を使う上で利点を挙げるとするなら単純に手数が増えることである。片方を防御にもう片方を攻撃に使い分けるなどといった単純な策から攻守の切り替えによる不意打ちなど彼女の戦闘方法はまさに千差万別であった。

「ウオォォォ―――!!」

故に櫻井螢の戦い方は武に通ずるエレオノーレであっても…いや、だからこそ有効だったといえる。もし仮に一刀で型通りの攻撃を行っていたならば、近接戦闘に於いても遥かに格上であるエレオノーレに立ち向かうことすら許されないだろう。

「ツ―――!」

出鱈目な型であるが故に対応し難い。定石通りの対応が出来ないと言う事である。故にエレオノーレは螢の接敵を許してしまった。
右手に握った姉同然であった彼女の剣を振りかぶる。雷速のその太刀筋は完全に敵を捉えたと、少なくとも櫻井螢はそう感じた。だが、

「あ、グッ……アアアァ!?」

突如、横から銃撃を受けた螢。その攻撃は広く、そして火力もこれまでの小火器とは桁が違うと理解させられる。そう、接近を許したのではなく、あえて接近させた。戦いの上で兵は自らの成功を確信したときほど隙を見せる。それに対して手痛い反撃を繰り出したのだ。

「フン、近づくのは良いが、そう易々と攻撃を通させるとは思うな。接敵を許してもそれに対応する策を用意するのは当然だろう」

そもそも雷速程度の速度など白い凶獣と戦い続けたエレオノーレは当の昔に馴れていた。そして前回の戦いで僅かとはいえ傷を負わせた以上、油断や手抜きなどといった行為はしない。
曲がりなりにもエレオノーレは螢を相対するに値する敵と認めたのである。であればそこに容赦などという言葉はありはしない。エレオノーレは今まさに兎を狩る獅子と化している。

「機関銃ッ……!?」

横から撃ち抜かれた銃の正体はまさしく螢が呟いた通りのモノだった。マウザー・ヴェルケMG34機関銃とグロスフスMG42機関銃。ナチスドイツの中でもメジャーな銃の一種であり、その凶弾の猛攻は幾人もの敵を撃ち殺した脅威の武器ともいえる(特にMG42はヒトラーの電動のこぎりという異名を残すほどである)。大隊規模の部隊に対し、配備される数はおよそ十二挺。多いとはいえないが毎分千発を超える銃撃の弾雨は猛攻としか言いようが無かった。

「数こそ多くは無いが、威力に関しては申し分あるまい」

防ぐ、躱すなどといったことは当然間に合わず、螢に出来たことは精々身を捻って受ける面積を減らすことぐらいであった。そして彼女は吹き飛ばされ、自身の実力不足に歯噛みせざるを得ない状況に顔を歪める。油断も慢心も無い彼女に付入る隙は無い。
既に二刀のによる戦いの癖や動作も把握していた。一度の接敵は認めようとも近づかれたときの対応そのものは完璧である。寧ろ態と接敵を許すことでその動きすらも頭にいれる。
元来接近戦でエレオノーレに勝とうと思うことそのものが無理からぬ話である。彼女を相手取るならば真っ向から打ち勝つだけの力が無ければならないのだろう。それでも螢は武器を手放すことなどせず、むしろ剣をより堅く握り締める。

「フフッ―――」

「貴様、何を笑っている?」

突然、笑みをこぼす螢。別段、勝機を見つけた等といったものではない。ただ何となく藤井蓮との会話を思い出してしまったのだ。

(初めて会った時にはベイにボロボロされてて、数日たっただけで形成にまで至ったことに嫉妬して……その前にタワーで少佐を案内している途中にも会ったけ。
ホント、馬鹿みたいに足掻いてて、私なんかよりずっと強くてさ……貴方からしたら大したことじゃないんだろうけど、私の顔が好みだって言うし。
……別に貴方の好みなんて如何でも良いけど綺麗だって言われたらやっぱり嬉しいじゃない。ちょっとだけお洒落とかにも気を使ってみようかしら)

そんな凡そ戦場で考えるようなことではないことを思い浮かべて、でもたったそれだけの事で戦えるような気がしていた。

「何度でも言いますけど、女としての自分を捨てた貴女にだけは負けられません」

「小娘風情が何を語れる。どいつもこいつも私の忠誠を恋だなんだと、それは私だけでなくハイドリヒ卿への侮辱だ。気に入らんよ、知った風な口を利き、部下を愚弄し、挙句私の忠をそのようなものと一緒にすることも。全く持って腹立たしい」

ルーンが描かれ、後ろに陣が精製される。感情の走るままとまでは行かずともそこに容赦というものはなかった。おそらく螢では耐えれぬであろう威力の砲。だが螢はそれを前にしても気概は全く変わらなかった。

「せめて華々しく散らせてやる。貴様の思想とやらは気に入らんが貴様は一端の戦士ではあった。口先だけのブレンナーとは違うと認めてやる」

「戦士?冗談じゃないですよ。私は唯の恋する乙女なんですから」

だからか、互いに相対しつつも空気が違った。方や煌びやかに燃える劫火であり、方や柳の様に凪いでいる燈籠であった。

「放てェいッ!!」

「ハアアァァァ――――!!!」

放たれる互いの必殺。しかし、エレオノーレは大きな過ちを犯した。櫻井螢を相手に手を抜いた心算は無かったのだろう。だが、それでも彼女は全力で螢を撃つべきだったのだ。一つの影が戦場を犯すこととなるのを防ぐために。



******



―――教会―――

俺は戦いというものにこそ生きる価値があるものだと常日頃から感じていた。死が最も近づいてくるその瞬間に俺は生きていると実感する。それは俺がティトゥスという存在になってからも同じことだった。

「死ねや、オラァッ―――!」

「ハハッ、甘いねぇ。そんなにとろくさいんじゃ一生掛かっても当たらないよ」

司狼に付いた理由も自分と似通った部分があったからだ。その生き様そのものもそうだけど何より直感が俺に囁いていた。彼は自分と同類だと。自らに似通った、宿主を殺すものだ。正確に言えば違うだろうし、それはあのラインハルトにも同様に感じたことではある。それでも俺からしてみれば付くべき相手はアルフレート風情ではなくこいつだとそう感じたのだ。

「Let's partyってな、おっ死ね!」

火力で劣るティトゥスが囮となり、本命を司狼が放つ。司狼に意識が集中すればティトゥスが一撃を放つ。そしてそれを邪魔しようとすれば当然の様にそれを止める司狼。
会って数日とは思えないほどの連携を見せながら攻撃し続ける二人。とは言いつつもそれには当然裏がある。

《はい、それじゃあ次は司狼が牽制役よ》

(ヘイヘイ分かってますよ。にしても相変わらず器用つーか細けえよな。所有権は取れなかったとは言え、意識だけをオレして司令塔やるなんてよ)

そう司狼とティトゥスが互いに合わせられる理由は本城恵梨依の存在である。彼女は聖遺物の所有権を奪い合いながら敗北こそしたが意識自体は残っており、司狼はそれを利用したのだ。

《そりゃ私だってこんな面倒なことやりたくないけどさー、アンタがそれ言う?まあ仕方ないからあんた達は黙って私の言うこと聞いて馬車馬のように死ぬ気で働きなさい》

「やっぱり酷いブラック企業だよ。でも気張らないと死んじゃうし、それなりに頑張らさせていただきますよっ…と、そんじゃまあいきますかねぇ!」

『物質生成(Die Generation des Materials)』によって生成される武器の類には聖遺物としての加護が付いているが、当然それらは聖遺物そのものと比べれば一段も二段も劣る。だが同時にそれでも相手にダメージを負わせる為の対策を当然立てていた。
意識を集中させ生成に時間を掛ける。ティトゥスの聖遺物は人器融合型であり同調率にはムラが在る。だからこそ意識を沈め、集中させたときにそれに見合う威力を発揮する。

「撃ち抜かれて死んじゃいな」

そして放たれた弾丸の威力は明らかに先程までとは違っていた。だが、

「ハッァ!抜かせェッ!」

ヴィルヘルムは杭を足元から突き出し、杭の上に佇立する。前回の焼き直しのような戦いに期待外れだったかと思うヴィルヘルム。竹馬などと皮肉られたが、それの対策すら出来ていない二人に対してヴィルヘルムは若干気落ちし始めていた。

「なあ、テメエ等待ってやったってのにその程度なのかァ?あん時みてえに少しは俺を満足させろよ。絶頂さしてみろよ。じゃねえと―――何も出来ねえままに死んじまうぞォォオオォォォォッ!!!」

「うわっと、まだまだ……やれるに決まってるだろ」

「オーケー、だったらテメエが満足しておっ死ぬまでやってやろうじゃねえか」

ジャラリ、司狼は鎖だけでなく針や石版、車輪、桎梏、短刀、糸鋸、毒液、椅子、漏斗、螺子、仮面、ほかにも様々な拷問具が取り出す。武器兼鎧の捨て身の連撃。これも前回の焼き直しに等しいが今回は互いに相違点が存在する。

「じゃあそこまで分が悪くもなさそうだし、俺も試してみようかな」

そう言って造り出されるのは彼が使い古した記憶のある小火器の類。それは銃だけでなくグレネードや地雷、手榴弾、単純に火薬の類も用意されていた。

「クハッ、ハハハ、カハハハ、ハハハハハハハハハハッ――――オイオイ、またそれをやり直すってのかァ?良いぜェ、つまんねえ戦い方されるよりは百倍ましだ。正面から潰してやるから来なァ」

「行くぜェ!!」

二人の連撃は互いの隙を埋め合わせるような布陣で展開される。ティトゥスの機銃が飛び交う中で毒液が撒布され、司狼が石版を宛がえばそれを突破した先に爆発物を待機させる。その状況は見た目の上では拮抗しているかのように見えた。
躱し、防ぎ、放ち、潰し、穿ち、切り裂く。ヴィルヘルムはこれを余裕を持って繰り返しているだけに過ぎない。拮抗しているということは賭けにでた司狼達にとって圧倒的に不利であることに他ならないのだ。
拮抗とは互いが打ち消しあっていることに他ならない。それは即ちヴィルヘルムは何時までもこの連撃に耐えることが出来るということである。しかし、司狼達は違う。
司狼の武器は壊されればフィードバックを受ける。つまりは負担が掛かり続けることなる以上、永続的な使用は不可能であり、ティトゥスもまた人器融合型である以上、同様に負荷が掛かり続けるのだ。
よってこの戦いは長引きば長引くほど司狼等にとって不利になることは変わりない。ヴィルヘルムから攻めることはしないが、攻勢が止めばその時点で司狼達の敗北であることに違いは無い。

《ちょっと司狼、こりゃ流石に不味いんじゃない?》

「心配すんなよ恵梨依。まだまだやれるって」

「というか死にそうになったら主導権奪っちゃえばいいじゃない?」

《それだ!》

「それだ、じゃねえだろ」

心配した様子のない恵梨依の声を聞きながら、根拠のない自信をもって司狼はそう言い、ティトゥスはそれを茶化し、三人は軽口を叩き合う。こうも余裕を保てるのは思想そのものもそうだが、何より彼等にとって今ここで自分が死ぬはずが無いと、そんな結末は知らないとそう確信できるからだった。

「これで終いか?ハッ、つまんねえ幕引きだなァ」

司狼とティトゥスの攻撃は総て迎撃され、ついにその攻勢は終わりを告げた。そして、ヴィルヘルムは止めを刺そうと消耗した彼等に近づく。

「だがまあ、この戦いは楽しかったぜ。俺を満足させるには十分な成果だ。誇れよクソガキ共」

「誰が―――」

司狼もティトゥスもこれほどの窮地に立たされても諦めなどなかった。ここまでの戦いを理解している。だから、

「直接止めを刺そうと近づいたのが君の最大の失敗だろうね」

司狼の胸を貫いた腕が何かに鋏まれる。ヴィルヘルムはそれが何なのかを理解する前に腕を引く。だがそれは僅かに間に合わず鋼鉄(Eiserne)の処女(Jungfrau)が牙を剥いた。

「ガアアァァァアアッッ!!??テメェ―――――――!!」

それはヴィルヘルムの右腕を喰い千切り、さらに横に回りこんだティトゥスと正面の司狼によって十字砲火による追撃がヴィルヘルムを削り殺そうとする。

「アアアアアァァッッ!――――――テメエ等ッ舐めてんじゃねえぞォォォォ―――!!!」

何かが崩れ去る音が聞こえる。司狼も恵梨依もティトゥスもそれに逸早く感づいた。

「なッ!?」

「―――ッ!!」

《嘘、でしょ?》

僅かな本当に僅かなブレであったが既知がこの一時、この場所においてのみ崩れさった。
 
 

 
後書き
MG42ってやっぱりドイツ兵器の中じゃロマンと堅実性にあふれるいい武器だよね。って友人と話したら「は、何言ってんの?STG44に決まってんだろ」という話になって、会話途中で別の友人が「もうMP40でよくね?」って言って論争になった。
いやまあDies殆ど関係ないけどね、この話。 
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