フィデリオ
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第二幕その五
第二幕その五
「それは誰だ?」
「この二人です」
そう言って後ろからフロレスタンとレオノーラを招き入れた。レオノーラはフロレスタンを支え、フロレスタンはレオノーラに支えられながらフェルナンドの前にやって来た。
「まさか・・・・・・」
フェルナンドはフロレスタンの姿を見て驚きの声をあげた。二人は古くからの友人であったのだ。親友といってもよい。
「フロレスタンか!」
「フェルナンドか」
二人は互いの顔を見てそう言い合った。
「まさかこんなところで」
「久し振りだな、元気そうで何よりだ」
「どうしてこんな所に」
「君も大体想像がつくと思うが」
「・・・・・・そうか」
彼にもわかった。何故友がこんな場所にいるのかを。理解すると共に怒りがこみ上げてきた。
「閣下」
ピツァロが最後のあがきを見せた。
「お話を」
「黙っておれ!」
フェルナンドは彼を一喝した。それで黙らせた。
「今私は友と話をしている。貴様になぞではない!」
「・・・・・・・・・」
それで黙ってしまった。以後観念したのか項垂れているだけであった。フェルナンドはその間に友と話を続けた。
「無事で何よりだ。噂では死んだとさえ聞いていたが」
「実際に命を落すところだった」
「・・・・・・そうだったのか」
「悪魔に命を奪われるところだった。だが天使に命を救われた」
「その天使とは?」
「彼女だ」
そう言って自分の妻を指し示した。
「我が妻レオノーレだ」
「貴女が私の古くからの友を救い出してくれたのですか」
「はい」
レオノーラは笑みを浮かべてそれに答えた。
「それが願いでしたから。長い間捜し求めていまして」
「そしてどうやってここに」
「男に化け看守となっていたのです」
それはロッコが言った。
「では貴女がフィデリオ」
「ええ」
彼女はマルツェリーナの言葉に頷いた。
「御免なさいね、今まで隠していて」
「いえ、そんな」
マルツェリーナは驚きのあまりどう言ったらいいのかわかってはいなかった。
「まさかこんなことが」
「驚くのも無理はないさ」
ロッコは娘に対してそう言った。
「お父さん」
「何を隠そうわしだって驚いているのだからな。全く見事に騙してくれたものだ」
「しかしそれにより我が友は救われた」
フェルナンドはそれを聞きながらそう述べた。
「見事なことだ」
「閣下」
そこに将校が一人やって来た。彼が連れて来た者である。
「何だ」
「ドン=ピツァロはどうしましょうか」
「取調べを行え。事情がわかり次第処罰する」
「ハッ」
それを受けてピツァロは連れられていった。項垂れた彼は左右を兵士達に押さえられてその場を後にした。こうして悪は滅んだのであった。
「復讐の刃は正義のより阻まれる。そして正当な裁きが法廷において下される」
「万歳!万歳!」
囚人達も看守達もそれを聞いて万歳を叫ぶ。彼を讃えているのだ。だが彼は自分が讃えられるのをよしとはしなかった。
「いや、待て」
「何故でしょうか」
「私は讃えられるべきではない。讃えられるのはそなた達に愛を下された陛下と神に対してだ」
「神に」
「そうだ。皆陛下と神を讃えよ」
「はっ」
「そしてこの高貴なる女性を」
次にサオノーラを指し示した。
「身の危険を顧みず夫を救い出した彼女を。皆で讃えるのだ」
「フェルナンド」
「フロレスタン、私は君が羨ましい。天使に加護されているのだからな」
「そんな」
「皆天使を讃えよ!」
「はい!」
皆それに頷いた。
「神は常に我等と共におられる!そして天使も!」
「レオノーラ」
フロレスタンはその声の中妻に目をやった。
「あなた」
「今この声が聞こえるな」
「はい」
「皆が君を祝福してくれている。君を讃えているのだ」
「そう、貴女を」
フェルナンドも言った。
「愛が貴女を導かれたのでしょう。真の愛は恐れを知らない」
「はい」
レオノーレはそれに頷いた。
「私は恐れませんでした。愛の為に」
「そして私を救ってくれた」
「これを天使と言わずして何と言おうか。この様な妻を持つ我が友に祝福あれ!」
「フロレスタンに祝福あれ!」
皆それに続いて叫んだ。
「夫の命を救った妻を讃えよ!そして彼女をもたらした神を讃えよ!」
「神よ、感謝します!」
「この様な天使を彼に与えた恩恵を、そして正義の力を!」
「あなたはまた私のものとなったのね」
「そう、永遠に君のものだ」
フロレスタンとレオノーラは互いに抱き合った。
「もう離さないわ、永遠に!」
「最後の裁きのその日まで!」
「万歳!万歳!」
暗い刑務所に歓喜の声が木霊した。その声は何時までもそこに鳴り響いていた。
フィデリオ 完
2005・8・13
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