戦国異伝
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第百十九話 一枚岩その十二
「どうもかなり的確に動いておったそうですし」
「何者でしょうか」
「今もわからぬ」
信行は動きやすい服で腕を組み答えた。
「どの寺から来たのかな」
「そういえばですが」
非有がここでこの寺の名前を出した。
「一つ気になることがあります」
「というと何じゃ」
「はい、南禅寺ですが」
この寺の名前が出た。
「あの寺の住職である金地院崇伝殿についてですが」
「崇伝殿か」
信行も彼の名前は知っていた、だがそれでもだった。
「いや、あの御仁は滅多に表には出ぬからな」
「勘十郎様もお会いしたことがありませぬか」
「うむ、ない」
都を取り仕切る彼もだというのだ。
「何度か会おうとしたがな」
「それでもですか」
「どうもその都度おらんかったり病になっておるわ」
「居留守ではないでしょうか」
こう思ったのは非有だけではなかった、他の土佐者達もこう言う。
「勘十郎様に対して非礼であると思いますが」
「それも考えられますな」
「何かの考えがあって会わぬのでしょうか」
「そうでは」
「謎に包まれた御仁じゃ」
信行は彼のことをそうした者だと思っているのだ。
「表には出ぬしその素性もはっきりせぬ」
「しかしその学識は相当なものとか」
明智が言ってきた。
「雪斎殿にも比肩するとか」
「それを聞くと相当な者であることは間違いない」
信行は真剣に考える顔になっている。
「禅僧として相当な者じゃな」
「南禅寺は名札の中の名札ですから」
非有も述べる。
「相当な識見とがなければ」
「なれるな」
「はい、なれませぬ」
まさにそうだと信行に述べる。
「あの寺の住職には」
「それはわかるのだが」
「それでもですな」
「はい、拙僧もその素性は知りませぬ」
このことは非有もだった。
「何時何処で生まれたのかも」
「その生まれた家もじゃな」
「公卿の方の御落胤でしょうか」
非有はこんなことも言った。
「そうした話もない訳ではないので」
「あるにはあるがな」
ここで信行は言葉の音を少し落として述べた。
「しかしじゃ」
「はい、これ以上はですな」
「言わぬ方がよいな」
皇室に話が及ぶことを避けたのである。
「そうした方がよい」
「わかりました、それでは」
「南禅寺はわからぬ」
信行は唸る様に述べた。
「あまりにも謎が多いわ」
「あれだけの名札にしては」
「一度雪斎殿に聞いてみたいが」
「いえ、おそらくです」
明智はその雪斎に聞いてもだというのだ。
「雪斎殿ですから」
「今のあの寺のことは御存知ないか」
「おそらくは」
「面妖な話じゃな」
信行はまた唸った。
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