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戦国異伝

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第百十九話 一枚岩その十

 だがその鴨川をだというのだ。
「堤を設け橋もかけます」
「そうされますか」
「無論町も引き続き整えます」
 荒れた都を整えることも忘れていない。
「そして田畑も開墾し」
「茶も植えるとか」
「宇治の辺りは茶を植えるのに向いていますから」
 それでだというのだ。
「この国には茶を植えていこうと考えています」
「では茶がこれまで以上に飲まれていきますな」
「間違いなくそうなります」
「よいことですな。田畑も茶も増えるとは」
 明智も聞いて感嘆することだった。
「荒れていた都も山城も蘇りますな」
「蘇るのではなくさらに豊かにせよと」
 ここでこう言う信行だった。
「それが兄上のお考えです」
「そうなのですな」
「左様です。それでは」
「はい、それでは」
「この度はこの者達と共に働きましょう」
 あらためて彼等を指し示して言う、早速その土佐者達が名乗ってきた。
「それでは」
「福留儀重です」
 がっしりとした四角い顔の男だ。
「隼人とお呼び下さい」
「谷忠澄です」
 丸い目の男である。
「忠兵衛が幼名です」
「桑名吉成と申します」
 細面の色の黒い男だ。
「弥次兵衛という幼名です」
「非有です」
 最後は穏やかな顔の僧だった。見れば谷に似ている。
「宜しくお願いします」
「この者はそれがしの弟であります」
 谷が非有を指し示して明智に説明する。
「出家してこの名になっております」
「左様ですか」
「はい。では我等と共に都を治めましょうぞ」
「こちらこそ宜しくお願いします」
 明智は穏やかな物腰で応えた。そうしてだった。
 鴨川を治めることからはじめた、川の堤は順調に出来ていく、明智はきびきびと働く土佐者達、そして信行と共に汗を流した。
 昼には握り飯を頬張る、それを口にしながら福留にこう言われたのである。
「いや、都にははじめて来ましたが」
「如何でしょうか」
「噂では相当荒れていると聞いていました」
 応仁の乱で焼けてからそれっきりだった、その荒れ様は天下に知られていた。
「しかしそれが急に戻ってきていますな」
「はい、それも殿が政を為されているからです」 
 明智は共に白い握り飯を食らう福留に微笑んで述べた。
「それ故にです」
「左様ですな。我等もこうして政をすることにより」
「天下が治まってきているのです」
「戦ではなくですな」
「殿は天下布武を掲げておられます」
 このことは第一だ、信長は武で天下を統一するつもりだ。
 しかしその後にあるものは何か、信長はそのことも示しているのだ、
「ですが武だけで天下は治まりませぬ」
「それからもありますな」
「はい、文治です」
 布武の次はそれだというのだ。
「一つにした天下を治めることが肝心です」
「だからこそこうして政にも力を入れている、いや」
 ここで福留も気付いた。 
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