100年後の管理局
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第二十五話 格闘、神聖防御
前書き
一週間とちょっとぶりの更新になります。
今回は、相手の理不尽な強さについて触れています。
そこを読み取ってもらえれば幸いです。
「まさか、ヴィヴィオお婆様から習ったストライクアーツがこんなところで役に立つなんてな。」
誠也は腕を前に掲げ、戦う構えを見せる。
勝てる見込みがひとかけらしかなかったとしても、管理局員として、地球の住人の友人として、あがき続けなければならない。
誠也の元々の戦闘スタイルは後方からの支援射撃と一撃必殺の砲撃を使った遠距離戦闘だ。
近距離戦闘は専門外もいいところ、と言っていい。
純粋な格闘技術のみならひさめには敵わずともアリスよりは強いが、近接戦闘の経験値やノウハウ、さらに言えばそのほかの近接に必須の魔法については大幅に負けているため、近接戦闘であれば二人には絶対に敵わない。
ただ、誠也が五、六歳の時、誠也の祖母である高町ヴィヴィオが半ば興味本位で教えたストライクアーツに対し意外と親和性が高かったというだけの話である。
所詮は下手の横好き。専門の人には敵わないのだ。
『距離ハトラナクテイイノカ?少シクライナラ待ッテヤルガ。』
「いらない。今の状態なら遠距離で戦うより近距離で戦った方が勝ち目がある。」
機械王の提案をすっぱりと断る誠也。
武装もなく、近接格闘も苦手である誠也ならば、距離をとって戦う方が有利に戦えると思われがちだが、実際はそうではない。
遠距離で戦う際に最も必要とされるのは、相手に接近されない技術である。
管理局に存在する多くの遠距離戦闘型は何らかの高機動力や敵を欺く手段を持っている場合が多い。これらは相手が接近してきてもそれを回避するための手段である。
ただ、誠也にはそれがない。
空を飛べず、一キロメートル四方という狭い戦場では、己の肉体で距離を取り続けるのは至難の業だ。しかも機械王はその巨躯に似合わず機敏である。
普段誠也が遠距離型として成り立つのはアクセルシューターのような牽制用の魔法が相手に通用するからである。
しかし、機械王にはアクセルシューターが牽制用としてすら機能しない。
このことを考えると威力を減衰させず砲撃を叩きこめる近距離戦に持ち込んだ方がまだ希望が見えるのである。
『ナラバ、ヤロウカ。』
「望むところだ!」
二人の距離が一息に零になる。
「誠也っ………!」
アリスは先ほど来た道を全力で駆け戻っていた。
追手に追われている時から観測し続けていた誠也の魔力。
それが先ほど轟音と同時に急激に減少した。
これの意味するところはいくつかあるだろう。
ただ、最悪のパターンであった場合、アリスは後悔してもしきれない。
だからアリスは全力で駆け抜ける。
「誠也っ………お願いっ………!」
今も戦闘音がここまで響き、誠也の魔力は徐々にではあるが減少し始めている。
一体どんな魔法を使うことになっているのかは分からない。
ただ、凄まじい激戦になっているだろうことだけは予想ができる。
「無事でいて!」
黒き稲妻は駆け抜ける。幼馴染のために。
繰り出される右拳を右ステップでかわしやり過ごす。
さらに一歩踏み込もうとするもすぐそこには左腕が迫りくる。
すると今度は、ならばと言わんばかりに状態を屈め、前傾姿勢で前に踏み出す。
迫り来ていた左腕は背中をかすめて通り過ぎる。
懐に飛び込んだ誠也はそのまま機械王の左の腰元まで跳び上がる。
実はこの場所、今この一瞬に限って言えば、どんな攻撃も届かない場所である。
右腕からは距離が遠い上に機械王の体そのものが盾になり、のばされた左腕は瞬時に引くことができず、人と同じ構造を持つがゆえに足も決して届かない。
絶好の攻撃のタイミング。
逃す手などありはしない。
「神聖蹴撃!!」
右足に全力で魔力を込め、空中で体を一回転。
遠心力と大魔力、身体強化の恩恵によるキック力。
その全てを合わせた一撃が炸裂する。
『グウッ!』
さすがにノーダメージではいられなかったのか、わずかにその巨躯が揺らぐ。
しかし、それも一瞬の事。
引きのばされた左腕が凄まじい勢いで引かれ、その肘が誠也に迫りくる。
誠也はすぐさま目の前に居る機械王を思いっきり足蹴にしてその場を離脱する。
誠也のいた場所を左肘が通過し、誠也は少し離れた位置に着地する。
着地した直後、一瞬も休むことなく誠也はまた跳び上がる。
今度は相手の胸元めがけてである。
本当ならこれは悪手と言っていい手である。
相手にとって最も殴りやすい位置に向かって飛んでくるのだ。
格好の的と言っていいだろう。
勿論そんなことを見逃す機械王ではない。
容赦なく、その右腕が飛んでくる。
しかしその瞬間、誠也はにやりと笑った。
迫りくる右腕に自身の両手をかけていく。
そして右拳が体に直撃する直前、跳び箱の要領で右腕をかわして機械王の右腕を蹴り頭部まで一気に跳躍する。
そう先ほどの悪手は誠也の誘いであった。
相手の頭部めがけてバカ正直に直進したところで何らかの手で迎撃されるのがオチである。
ならば、相手の胸元に向かって跳び、相手の攻撃を利用して相手の頭部まで飛び上がることにしたのだ。
しかもこの手は、相手の攻撃をかわした後のため、さらなる反撃を受けにくい利点もある。
実際、誠也が頭部まで一気に迫っているせいで、機械王は反撃の左腕を繰り出しにくく、今回は繰り出すことができなかった。
誠也は振りかぶった右腕に砲撃魔法を載せる。
「セイクリッド――」
これから繰り出す砲撃は、自分の本当の全力とは程遠い威力しか出せていないだろう砲撃。
でも、近接戦闘という極度にチャージタイムの取れない戦闘の中においてはなかなかの一撃だと誠也は思っている。
これだけの威力なら、頭部の破壊を果たすには十分だろう。
拳がヒットする直前、砲撃魔法を開放する。
「ブレイザ――――!!!!」
「ハァ……ハァ……つ、着いた」
全力で駆け抜け息を切らすアリス。
「待ってて、誠也!」
息をつくこともなく、すぐさま戦闘音のする方へ駆けだすアリス。
しかし、それは横から迫る影によって停止させられる。
「くっ!」
その攻撃をかわすため、後ろに下がることを余儀なくされる。
『我ラガ王ト勇者ノ戦イノ邪魔ヲサセルワケニハイカヌ。』
先ほどとは明らかに風格の異なるロボットがアリスの前に立ちふさがった。
しかもそれは一体ではない。五体ものロボットがアリスの前に立ちふさがっているのだ。
「………私は急いでいるの。そこをどいてもらえないかしら?」
『断ル。邪魔者ヲ入レルナ、コレガ王ノ命令ダカラナ。』
「そう………。ならあなた達全員を壊してでも押し通る!」
リンカーコアから供給される魔力を解き放つ。
その魔力はアリスの変換資質である雷へと変化し、わずかに放電現象として周囲に漏れ出ていた。
「バルディッシュ!」
『Yes, sir.』
両手に二振りの雷剣が握られる。
それらを構え、アリスは叫ぶ。
「悪いけど、さっさと片付けさせてもらうわ!!!」
『オモシロイ!ヤレルモノナラヤッテミロ!!』
こうして五体と一人の戦いが始まった。
誠也が頭部を狙ったのには勿論理由がある。
一つは単純に相手の“目”を奪っておきたかったからだ。
誠也は頭部にある紅い宝玉が恐らく機械王の目になっているのだろうと判断し、その目を奪うために頭部にディバインバスターを打ち込むことにしたのだ。
そしてもう一つ理由がある。
それは、相手の“本体”を打ち抜くためである。
誠也は機械王が再生を行った時点で、恐らく機械王の根幹を為す何らかの本体があるのだろうと予想した。そしてもしも人間と似たような感覚で本体を隠しているのなら、頭か左胸のあたりに本体が隠されていると判断したのだ。
だから、少々危険な誘い技も使って頭部へと砲撃を当てた。
しかし、
「なっ!?」
誠也の目の前にあるのは先ほどと何ら変わりない機械王の姿。
深紅の瞳は攻撃の前と何ら変わらずギラついていて、鋼の頭も傷一つつかなかった。
誠也は理不尽とも言えるその防御力の高さに驚愕してしまう。
そして機械王はそのタイミングで左の拳を誠也めがけて放つ。
誠也は空中にいる上に、足場となる物が近くにないため、その拳をかわせず吹き飛ばされる。
誠也は相当な勢いで地面にたたきつけられ、砂埃がもうもうと舞う。
恐らく無傷では済まないだろう勢いで誠也は地面に叩きつけられたが、機械王は油断しない。
先ほどはこれと同じような状態で油断し、右腕を奪われてしまったのだから。
しかし、そんな機械王の予想とは裏腹に、砂埃が晴れた後、誠也は無傷でそこに立っていた。
『ホウ……、無傷カ。』
誠也の意外な頑丈さに驚く機械王。
誠也は機械王に無傷である理由を示す。
「さっきは気が動転していて使うこともできなかったが、今回はそうもいかない。」
「相手の攻撃の軌道を読み切ってその攻撃が直撃する一瞬、そこに魔力を集中させる。」
「集中させた魔力はその密度を高め、防御魔法の効果を何倍にも引き上げる。」
誠也は戦闘の構えを取り、戦闘続行の意思を示した。
漏れ出る魔力が桜吹雪のように周囲を舞う。
「これがヴィヴィオお婆様直伝の瞬間防御!『セイクリッドディフェンダー』だ!!!!」
後書き
書く時間を確保できない中で、何とか更新にこぎつけることができました。
次回更新は未定となります。
まあ、今までも未定でしたが………
今後も見捨てず読んでいただけると嬉しいです。
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