転生者とマテ娘と日常?
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悪魔と友人とリハビリと
「シュテル、此方は支度出来たぞ?」
「すいません、お待たせしました。」
俺は自作のオレンジシュークリームが詰まった箱を手に持ち、玄関でシュテルを呼ぶ。
このシュークリームは御近所の子供に絶大な人気があり、皮とクリームにふんだんにオレンジが使われている。しかしクリームの味を邪魔する訳でもなく、くどくないのにクリームの甘みはしっかり感じ、それゆえに幾らでも食べれてしまうというものなのだ。
ディアーチェが食べ過ぎて体重計に乗るのが怖くなったのは記憶に新しい。
閑話休題。
直ぐに出てきたシュテルと合流すると、二人で一緒に出掛けた。目指すは悪魔の居城、高町家だ。
俺の家で一騒動あって以来、俺達は高町のリハビリに付き合うようになっていた。
シュテルは興味本意、俺は無茶する高町のブレーキ、若しくはリミッターだ。
「今のままリハビリを続ければ、予定より早く治りそうですね。」
「やっと高町も復帰か。」
「はい。後は空への恐怖心だけですね。」
そう、恐怖心。人は死に瀕する事柄に遭遇した時、その場面がトラウマになる事が多い。火事で死にかければ火に恐怖心を持つように、なのはは飛ぶことに対して、もう一度飛べなくなることに対して恐怖心を持っていないかが俺達が心配している事だった。
「大丈夫ですよ、ナノハなら。」
「ずいぶんと肩を持つんだな?」
「私との再戦の約束も残っていますし、もし飛ぶことが怖くなれば地を這う事が怖いということを思い知らせます。」
口元を緩ませ笑みを浮かべるシュテル。笑顔は可愛いんだが、さらっと怖いこと言うなよ。
「あ、三崎君、シュテルちゃん。」
「何?アンタ達もなのはの家行くの?」
「バニングスと月村か?まあ、小用でな。」
「こんにちは、アリサ、スズカ。」
道すがらバニングスと月村に出会う。どうやら二人も高町の家に向かうようだ。
「三崎君、その箱?」
「ああ、シュークリームだよ。リハビリの休憩に食うかなって思ってな。」
「アンタねぇ…翠屋の娘にシュークリームとか…」
「なら、アリサは要らないのですね。残念です。アキラのシュークリームは絶品だというのに…」
「手作りなの!?」
「そう言えば…三崎君の料理ってはやてちゃんのプライド砕くくらいだとか…」
「月村、それは言い過ぎだと思うぞ?ま、ひとつ食ってみるか?」
箱からシュークリームを一つ取り出すと月村に手渡す。
「あ…凄い、オレンジの良い香り…いただきます。」
小さな口を開けてシュークリームを頬張る。
暫く味を堪能した後、急に月村は蕩けた表情を浮かべると俺の腕を掴んできた。
「ねえ三崎君…私の家でシェフになって…?」
「…Why?」
「ダメ…かな…?」
涙目と上目遣い、更には首を傾げるという三連コンボで俺を見詰めてくる。ちょっと待て、何かエロいぞ。
「スズカ!何を言ってるんですか!アキラには私という大切な家族が居るのですよ!?」
「ちょっと待てシュテル!何にディアーチェ達省いてんの!?」
「シュテルちゃんずるい!私も三崎君(の料理やお菓子)が欲しいよ!こんなに凄いんだもん!」
「待ってすずか!多分大切な言葉抜けてる!!」
睨み合う二人を何とか引き剥がし、俺とバニングスで落ち着かせる。暫くして落ち着いた二人は、俺に頭を下げてきた。
「すいません…動揺してしまいました。」
「ごめんなさい…」
「二人とも…人通りが少なかったから良かったけど、人の往来であんな会話は止めてくれよ?」
「「はい…」」
「それとシュテル。俺はお前達の前から居なくならねぇから心配すんな。」
そう言うと俺は、いつぞやのディアーチェにしたようにシュテルの頭を撫でた。多分こいつは俺が居なくなると思ったのだろう。
「あ…はい。」
頭を撫でられ嬉しそうに頷くシュテル。その姿を見たバニングスは、生暖かい目で見てきた。
「…んだよ?」
「別にぃ~?同情しようと思ったけど止めたわ。」
「さいですか。」
「それにしても、すずかがあんなになるなんて…味が気になるわね…」
「うーん…翠屋とは比べられない味なんだよね…」
「当たり前だ。翠屋のシュークリームを目指しても、美味いシュークリームは作れない。俺は俺のシュークリームを極めただけさ。」
翠屋とは違う、俺だけの極上のシュークリームをな。なお、レシピは門外不出である。
「凄いよ、一口食べただけで体が蕩けそうになるんだもん…。」
「ま、高町のリハビリの時に沢山食えよ。大分量作ったから。」
ヴィータとレヴィに頼まれて家用と八神家用に作るつもりだったが何処で何を間違えたのか、気が付いたら200個を越えていた。今の箱には40個ほど入っている。因みに、俺を生き返らせてくれた神様にも供えておいた。
翌日夢に神様が出てきてお礼を言われた。気に入ってくれて何よりだ。
「私達女子より女子力高いんじゃないの?」
「…将来が決まりそうなくらい料理が上手くなるとは、思ってもなかったさ。」
「へぇ…私にも食べさせなさいよ。」
箱に手を伸ばしてくるバニングスの腕を、月村とシュテルが掴んだ。その顔は笑ってはいるが…目が笑ってない。
「アリサ、貴女はアキラのシュークリームを馬鹿にしましたよね?」
「そんなアリサちゃんに食べさせるシュークリームは無いよ?」
「あ、暁…二人が怖いわ!」
「同情はしないからな?」
助けを求めるバニングスを切り捨てる。下手に庇ってとばっちりを受けたくはない。
先に歩を進めていると、三人ともキチンと着いてきた。バニングスは二人に挟まれ延々と俺のシュークリームに関して講釈を垂れている。
シュテルはともかく月村、お前は俺のお菓子食うのは初めてだろ。どうしてそんなに偉そうに語れるんだ?
「…はぁ…。月村、シュテル。それくらいで許してやれよ。バニングスがぐったりしてんぞ?」
「アキラが言うなら…」
「三崎君がそういうなら…」
「ほらバニングス、大丈夫か?」
二人が解放しても、尚もぐったりしているバニングスを支えてやる。バニングスは虚ろな目でブツブツと何かを呟いていた。耳を傾けてみる。
「暁様のシュークリームは最高暁様万歳暁様のシュークリームは至高暁様は正義…」
「手遅れだー!!」
二人とも、何を吹き込んだらこうなるんだよ!
俺は二人を軽く睨んでバニングスを連れて歩いた。先が思いやられるぜ…。
その後何とかバニングスを復活させて高町家にたどり着いた。
暫くバニングスが俺の腕を離さなかったのは、バニングスにとって黒歴史になるだろう。
「アリサ、すいませんでした…」
「ごめんね…アリサちゃん。」
「ホントに怖かったわ…」
もう俺の後ろで仲良くしている。やはり女の子は仲良くないとな。
俺は高町家の道場に向かうと、一礼して中に入る。道場というだけで体が反応してしまう辺り、自分が単純だと思ってしまう。
高町はレイジングハートと会話をしていた。
「よう、高町。待たせたな。」
「あ、暁くん。」
『おはようございます、レイジングハート』
『Good morning Bardion.』
挨拶をし、レイジングハートの近くにバルディオンを置く。バルディオンとレイジングハートは、二機で会話をしていた。
微笑ましく見ながらも、俺は高町に向き合う。
「うしっ、今日もデバイス無しでの魔力運用だ。」
「はいなの!」
力強く頷く高町。何故デバイスを使わないかと言うと、デバイスとは所謂魔法を使うための補助機であり補助機があればそれに頼ってしまう。
故に本来の技量に戻すためには、自分の魔力運用技術を取り戻してからではないと完治とは言えない。
俺は綺麗に洗った空き缶を手に取ると高町の頭上向けて投げる。高町は小さな魔力弾一つで空き缶を何度も何度も打ち上げる。
「60…61…62…」
「良い感じだな。辛そうにも見えないし、魔力も効率よくコントロールしてる。」
「そうですね。次は防御と集束の具合を見ましょうか。」
「バインドは完全にデバイス補助だからな。」
隣のシュテルと高町の魔力運用について分析する。リハビリの甲斐あってか、魔力運用が以前より上手くなっているような気がした。
「完っ全に私達蚊帳の外ね…」
「仕方無いよ、なのはちゃんのリハビリなんだから。」
月村って可愛いよな…等と思っているとシュテルに睨まれた。本当に思考を読まないでほしい。
「っ!150!」
目標回数と共に高町が大きな声で叫ぶ。すると空き缶は俺目掛けて飛んできた。俺はそれを打ち上げると、高町に向けて指示を飛ばす。
「高町!集束!」
「うん!」
高町は人差し指で空き缶に狙いを着けると、辺りの魔力を少しずつ集束させていく。それは一つの球体になったあと、光線になって空き缶を貫いた。
「うし。集束も問題なし…休憩挟んで防御と飛行だな。」
「ちょ…ちょっと厳しいの…」
「こんくらいでヘバんなよ。もう少しで復帰なんだからよ。」
「文句を言うなら一人でしてください。」
「にゃ!?シュテルちゃん酷いよー!」
「はいはい、じゃれてないで休憩しろ。」
シュークリームの箱を開けると、直ぐ様シュテルが一つを取る。素早く一口食べると、ふにゃりと顔が緩んだ。うん、可愛いな。
「…凄く美味しいの!でも…女として負けてる気がする…」
高町もシュークリームを食べては落ち込んでいる。美味いもの食ってる時は笑いながら食えば良いのに…。
月村とバニングスも食べて、顔を緩ませる。やっぱりリラックスは必要だな。
「本当に美味しいわね…あの時あんな事を言った私が馬鹿だったわ。」
「ま、俺も翠屋の娘にシュークリームはどうかと思ったけど…」
「アキラが暴走したのが悪いんですよ。」
「シュテルちゃん…暁くんいったい幾つ作ったの…?」
「200程ですね。」
シュテルの言葉に全員が俺を見る。…視線が痛いぜ。
「…これなら暁くんも翠屋で働けるかな…」
「ナノハ、アキラは私から離れないと誓ってくれました。」
何やら口論が起きてるが気にしない。今日もシュークリームが美味いなぁ。
「ではナノハ。次は防御のリハビリです。」
シュテルがパイロシューターを展開する。高町はレイジングハートを手に取ると、魔力弾の軌道をしっかりと見て行動を予測していた。
「私のパイロシューター、全力で撃つので防御してください。手を抜くと怪我をしますよ?」
「うん!どんどん来て!」
辺りを飛び交う魔力弾が接触する瞬間にプロテクションを放つ。強度も構成も問題は無いな。
その後数時間、シュテル達のリハビリは続いた。高町…落ちる前より強くなってそうだな。シュテルも驚いてたし。
「では、本日はこれで終わりです。防御のリハビリもこれで完璧ですね。」
「やっとここまで戻ってきたの…」
「御疲れさん。」
疲労の色を隠せない高町に労いの言葉をかけながら時計を見る。時刻は六時を指していた。
「今日は終わりだな。後は飛行系を…」
「あ、飛行系なら大丈夫だよ!もう前みたいに飛べるから!…あ…」
高町がしまったという顔をする。俺は頬を摘まむと、思い切り伸ばした。
「お前勝手にリハビリしたな?」
「ひ、ひてにゃいにょ…」
「ほほう…なら何であんな顔をしたんだ?」
「ひょひぇひゃ…ひたひひたひ!」
むにむにと引っ張り、離す。リハビリをするのは良いが、度を越すのだ。こいつはほっといたら無茶するばっかりだ。対策を考えないとな…。
思案をしながら道場の掃除をする。使った後は綺麗にするのは当然の事だ。
全員で掃除を済ませると、道場に鍵をかける。月村とバニングスには、迎えの車が来ていたので先に帰らせた。一応お嬢だしな。遅れたら親御さんが心配するだろうと思ったからだ。
「後は自主リハビリでも十分回復するけど、無理はするなよ?」
「うん、わかったの。」
「それではまた…」
「うん、また明日、シュテルちゃん、暁くん。」
俺は挨拶代わりに片手を上げて軽く振り、シュテルは軽く会釈して高町に別れを告げた。
やれやれ、色々疲れる一日だったな。
帰り道をシュテルと二人で帰る。そう言えば、二人で歩くのは久し振りのような気がする。
「アキラは…私達と居て楽しいですか?」
「ん?何だいきなり?」
「いえ…ナノハのリハビリがとても楽しそうに見えたので…」
「…お前らと居たら退屈しないから好きだぞ?」
「…ありがとうございます。」
不安げな表情を浮かべるシュテルの手を握り、心から思った事を話す。
シュテルは不安げな表情を解き、今日一番の笑顔を浮かべながら手を握り返してきた。
俺達はお互いの手の温もりを感じながら二人、自宅を目指して歩いていった。
おまけ
「ヴィータ、何を食べているのだ?」
「ん…暁が作ったシュークリーム。これがギガうまなんだ!」
「では私も一つ頂こう。」
「……え?シグナムって洋菓子食べたのか?てっきり縁側でお茶飲みながら和菓子食ってるような印象が…」
「ヴィータ、お前が私に対してどう思っているかわかった。そこに直れ!叩き伏せる!」
「ちょっ!?シグナム落ち着けって!」
「私が老けていると、親父臭いと言いたいのか!?」
「ちょ、ま…落ち着けぇぇぇぇ!」
数時間後、八神家のリビングに大きなたんこぶを作ったシグナムが沈んでいた。
後書き
悪魔とシュテルがコンビになったら凄そうと思っているマテ茶です。
今回はアリサ、すずか、なのはにスポットを当ててみました。暁くんの料理スキルの高さが羨ましい…。
因みにデバイスについての考察は、私の独自解釈です。
次回は、オリジナルの違法魔導師が事件を起こします。まだ出てないフォームが出るかも…
それでは、次回お会いしましょう。マテ茶でした!
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