ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第18話 神殺しは強過ぎです!!
前書き
今回は、ディル=リフィーナの話オンリーです。
ゼロ魔のゼの字も出て来ません。読む際は注意です。
そう言った話が駄目な人は、後書きだけ簡単に目を通す事をお勧めします。
ギルバートです。3度目ともなると慣れる物です。冥き途にやって来ました。
早々に死者の列を抜け階段を下り、リタとナベリウス(+ケルベロス)が居る場所へ移動します。歩きながら、魂と身体のリンクが生きている事を確認しました。リンクが生きている事を確認すると、次は肉体の状態をラインから確認します。
(肉体は、……かろうじて生きていますね。しかし、出血多量に身体の組織はズタズタになっています。今戻ったら、激痛でのたうちまわる事になるでしょう。……これで良くあのセリフが言えましたね。ギャグ補正でしょうか?)
「これじゃ戻れないですね。今戻っても無駄に痛いのは嫌ですし。……状況から見て、公爵夫人が治してくれるのを待った方が良いですね」
私は独り言を呟きながら、階段を下りました。
(ハルケギニアで、少なくとも3~4日は間を置かないと、痛い思いするか倦怠感で動けないかのどちらかですね。前回、ディル=リフィーナで3カ月過ごして、ハルケギニアで3日だったから、大雑把に計算してこちらの1月がむこうの1日に相当するとして……今回は3~4カ月位は、こちらで過ごした方が良いですね)
階段を下り切ると、そこには予想通り2人と1匹の姿が確認出来ました。
「お久しぶりです。リタ、ナベリウス、ケルちゃん」
私が挨拶すると、2人と1匹の視線が私に集まります。
「お久しぶり」
「…………り」
2人から返事が帰って来ます。ケルベロスは、尻尾を左右に振っていました。
(しかし、2人の反応が薄い様な? ああ、そう言う事ですか)
「今回も生霊ですよ」
そこで2人は、ようやく笑顔を見せてくれました。
(相変わらず2人は可愛いですね)
等と、不謹慎な事を考えてしまいました。そこで、何となく聞いてみたい事が出来ました。
「自分では幸運だと思うのですが、私は冥き途に来やすい様な気がするのです。何か心当たりはありませんか?」
流石に3回目ともなると、偶然とは考えにくいです。そう思っての質問でした。リタとナベリウスは、1度目を合わせると考え込んでしまいました。
暫く考えた後、リタが口を開きました。
「何らかの加護が働いている可能性があると思う。貴方の魂は、生まれ方からして特殊だから……」
リタが自分の意見を披露してくれましたが、私の質問から少しずれていました。
「……いえ、そうでは無く。ちょっと派手に気絶するだけで、ここに来てしまう様な気がするのです」
私の言葉に、リタは首をひねってしまいました。
「……リタ。……ズレ」
ここに来て、ナベリウスが発言しました。が、私は何を言っているのか分かりません。しかしリタは、その言葉に思う所があった様です。納得したように頷いています。
「あの。出来れば、分かりやすく説明して欲しいのですが……」
リタはこちらを向くと、頷いて説明を始めました。
「ギルの魂は、二つの魂が合成された物なのは良い?」
私は頷きます。
「元々の魂を材料としているとは言え、元の魂と別物になると思わない?」
私は再び頷きます。
「そうすると、魂と肉体にズレが生じる。その所為で魂が肉体から出やすくなったんだと思う」
「つまり私は、幽体離脱しやすい体質と言う事ですか?」
私の切り返しに、リタは頷いてくれました。
「それでギルは、これからどうするの?」
「身体の治療は、むこうでやってくれると思うので、ある程度回復するまでこちらに居ようと思います。すぐに戻っても痛いだけですし。そうですね……具体的には、こちらの時間で3~4カ月位ですね」
私の言葉にリタが頷きました。
「私達は、これから出かける予定なの」
私はその言葉に、落胆の色を隠せませんでした。
「そうですか、……仕方が無いですね」
私はそのまま今後の予定について、思案し始めます。すると、袖を引っ張られました。引っ張っていたのは、先程までケルベロスの上に居たナベリウスでした。(何時の間に)
「……一緒に……来る?」
ナベリウスの誘いに、私は如何するか正直悩みました。一緒に行く事で何らかの問題が発生しないか、心配になったからです。
「私も、ギルを連れて行く心算だけど」
リタも賛成の様です。私は念の為に、リスクについて2人に聞きました。どうやらリスクは、身体にすぐに戻れない事位の様です。訪問先は神殺しの屋敷なので、1人増えた位問題無いとの事。そこで私の腹も決まりました。
「では、私もご一緒します」
私の返事に、2人は笑顔で頷いてくれました。ただ留守番のケルベロスは、1匹だけ悲しそうにしていました。(ごめんな)
目的地は、レウィニア神権国の王都プレイアに在る神殺しの屋敷です。移動にかかる時間に、私は不安が有りましたが杞憂でした。王都プレイアは、冥き途から魔術城砦カラータに転移し、北北東に進めばすぐの位置です。
道中で私は、キョロキョロ・フラフラとおのぼりさん状態でした。
王都プレイアに到着し、早速中に入ろうとして止められました。
「私達が正面から行って、入れてくれる訳が無いでしょう」
そこで私達の面子に気付きました。ナベリウスは、魔神でソロモン72柱の一柱。リタは強力な呪いの魔槍にとり憑く、亡霊少女。私は一応生者に分類されるが、ただの幽霊。
(うん。王都に入れてくれる訳が無い)
私は(如何するの?)と、リタに視線を送ります。リタは黙って、ある場所を指さしました。そこは……。
……地下水路? ……いや、下水道でしょうか?
「ここを通ったら、臭くなりそうですね」
私は思わず、そう呟いてしまいました。
「この地下水路を通っても、私達“は”大丈夫」
リタにそう言われて、自分が霊体である事を思い出しました。そう、私達“は”大丈夫です。そこで大丈夫で無い人を見てみました。
ナベリウスは、何時もと変わらない表情をしていました。しかし、明らかに不機嫌オーラを放出しています。
(……これ以上、触れない方が良いですね)
私はそう判断し、地下水路に入ろうとしました。しかし、また止められました。
「ギルには、これを貸しておくわ」
そう言って渡されたのは、1本の剣でした。リタの説明によると、この剣はアーナトスと言うそうです。秘印術と神聖魔術を複合鍛錬した鍛剣で、アンデット等に有効との事。しかし私は、何故この剣を預けられたのか分かりませんでした。
見るとリタはいつもの槍(魔槍ドラブナ)では無く、柄に人が彫られた美しい槍(光槍ルナグレイブ)を素振りしていました。
ナベリウスは白猫の手形をしたグローブ(しろねこぐろーぶ)を、着けながら何か呟いていました。かろうじて聞き取れたのが、作法・教えてもらった・真似と言った単語でした。(何なのでしょう?)
私はアーナトスを振ってみましたが、振る度に身体を泳いでしまい、とても使えません。それを見たリタは、アーナトスの代わりに炎の鍛剣と言う剣を渡して来ました。この剣は、火炎の呪術処理をした長剣で、同じくアンデットに有効だそうです。こっちの剣は、まともに振れました。
結局私は理由を聞けないまま、地下水路に入る事になりました。しかし理由は、すぐに思い知る事になったのです。そこに居たのは、死者・死者・死者。ゾンビや浮遊霊と言った、多くのアンデット達でした。しかもこいつら、襲いかかって来るのです。
「なんで王都の地下水路に、こんなのが大量に居るんですかぁーーーー!?」
「知らないわ!! 文句は水の巫女に言って!!」
私の叫びに、リタは律義に答えてくれました。しかしそれで、戦闘が終わる訳ではありません。
リタは槍を巧みに操り、アンデット達を次々に屠って行きます。正直かっこいいです。
ナベリウスは「……にゃん」と、気合のかけらも感じられない声を上げながら戦っていました。正直に言わせてもらえば、お持ち帰りしたくなるほど可愛かったです。しかし攻撃を食らった相手を見て、思い直さざるを得ませんでした。食らった相手は、凄い勢いで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ、砕け散っていました。(……見なかった事にしておこう)
2人は私が1体相手に苦戦している間に、ダース単位で敵を減らしていきます。
私が3体目の敵を倒した頃には、敵の気配はすっかり無くなっていました。
(地下水路に居た敵が、みんな集まって来ていたみたいですね。最終的には、100体超えていたかもしれません)
私がそんな事を考えていると、2人は歩き出しました。私は置いて行かれないように、慌てて追いかけます。(1人でアンデットを複数相手したら、死亡確定だから)
やがて2人は、印が付いた一画で立ち止まります。
「ちょっと行ってくるわ」
リタがそう言って、天井に消えて行きました。暫く待つと天井の一角が開き、梯子が下りて来ました。私はナベリウスに「お先にどうぞ」と言いましたが、ナベリウスは首を横に振りました。私が(なんで?)と言う顔をすると、ナベリウスは「……見たいの?」と聞いて来ました。それで何故私が先か、良く分かりました。(ナベリウスの服装じゃ下から丸見えです)
私は浮遊できないのを不便に感じながら、梯子を登ります。(同じ霊体なのに、リタみたいに浮遊出来ないのは何でだろう?)登った先には、メイドさんが居ました。腰まで届くロングストレートの髪が特徴的なメイドさんは、おそらくエクリア殿でしょう。
私は手早く挨拶を交わし、入口からどきます。ナベリウスが上がって来ると、エクリア殿は挨拶を交わし入浴と着替えの準備が出来ている事を告げました。ナベリウスは勝手知ったる他人の家、すぐに歩いて行ってしましました。
エクリア殿は梯子を回収し、入り口をふさぎます。私はその工程を見ていました。
「どうかなさいましたか?」
「いえ。始めて来た人の家で、勝手に歩き回るのは如何かと思いまして。ナベリウスについて行くと、殴られかねませんし」
私が冗談ぽく答えると、エクリア殿は笑顔で頷いてくれました。
「では、ご案内いたします」
「お願いします」
エクリア殿に案内され、地下室から広間に移動します。広間に差し掛かったところで、掃除中のメイド2人と会いました。軽く挨拶を交わし、簡単に自己紹介をしておきます。予想はしていましたが、2人はシュリとサリアでした。
エクリア殿に館の造りと、各部屋の位置や裏庭などの事を説明してもらいます。そして最後に私が逗留する部屋に、案内してもらいました。(館の大きさは、ドリュアス邸と大差ないですね)
部屋の説明を一通り受けると、私は剣を振り回せる場所が無いか聞きました。
「それでしたら、裏庭をご使用ください」
「ありがとうございます」
私は早速裏庭に出て、炎の鍛剣を振ります。正直に言うと、地下水路でリタとナベリウスに圧倒的な差を見せつけられて、悔しくなったのです。暫く剣を振っていると、エクリア殿が話しかけて来ました。
「その武器に、不慣れなのではないですか?」
「分かりますか?」
「動きの型と武器が合っていませんでしたから。武器に合わせて動こうとして、無理な動きになっていると感じました」
あまりに的確な感想に、私は苦笑いしか出ませんでした。
「こちらを使ってみてはいかがですか?」
差し出されたのは、双剣でした。持ってみましたが、軽くて私にちょうど良い重さです。片刃で反りは有りませんが、直刀と思いば問題ありません。
(私が剣を振り始めてすぐに、私の動きの違和感に気付きこれを持ってきてくれたのか)
「ありがとうございます。お借りします」
私は双剣をお借りして、再び訓練に打ち込みました。
暫く素振りをしていると、また誰かが近づいて来ました。視線を向けると、赤い髪の美しい女性……いや男性がいました。彼が神殺しで間違いないでしょう。私は訓練を中止し、挨拶と自己紹介をする事にしました。
「はじめまして。ギルバートです。この度は、図々しくも……」
『長い前口上はいらないだの』
その時女性の声が聞こえました。その声の発信源は、目の前の男の腰にある短剣です。私が驚いているのに気付き、短剣が驚きの声を上げます。
『おぬし、我の声が聞こえるだの』
「はい。あなたがハイシェラ様ですね」
『そうだの』
「よろしくお願いします。……それと、あなたがセリカ様ですね。よろしくお願いします」
「セリカ・シルフィルだ」
セリカ様は名前だけ答えてくれました。手に剣を持っているので、訓練の為に裏庭に出て来たのでしょう。
「……あっ。すみません。場所を借りていました。お邪魔でしたら直ぐに退きますので」
私は訓練の邪魔にならない様に、後ろに下がりました。
「お邪魔でなければ、訓練を見学してもよろしいですか?」
「かまわない」
返事は直ぐに帰って来ました。私は邪魔にならず良く見える位置を確保し、飛燕剣を見極めようとします。剣戟の速さ・鋭さは、驚嘆に値するものでした。そしてそれを支える、足運び・腰の溜・腕の振りの連動は芸術的とさえ感じました。
私はセリカ様が訓練を終えるまで、ずっとその動きを目に焼き付けておきました。
夕食の時間になりました。料理が運ばれて来ましたが、美味しそうなのに食べられません。霊体である事を、これ程悲しく思った事は有りません。(うぅ……涙が出そうです)
この時にまだ会っていなかった、マリーニャさんとレシェンテを紹介してもらいました。レシェンテを紹介してもらった時、激しい違和感を感じました。
イメージより明らかに大きいのです。……レシェンテが。何がって、背がに決まって……すみません。実は胸も凄い事になっています。背はシュリを超えマリーニャさんに届く勢いです。(ちなみに胸は使徒の中で一番大きい)確か封印により、子供化しているだけと聞いています。力を幾分取り戻したと言うことなのでしょうか?
私が思っている事を、レシェンテが敏感に感じ取った様です。
「わらわが聞いた話より大人じゃから、驚いておるのじゃろう」
レシェンテが勝ち誇ったように言って来ました。周りの人間は、平然としている者・困ったような顔をする者・目を逸らす者・あからさまに顔に手を当てる者いろいろな反応が有りました。
「私は……私は……」とシュリ。
「うー……うー……サリアは……」とサリア。
シュリとサリアから、哀愁のオーラが漂って来ます。私はこの流れを不味いと感じ、話題を変更できないか思案します。そこで格好のネタが、自分自身にある事に気付きました。
(かなりの自爆ネタになりますが、この気まずい空気よりマシです。それにこの名前をからかう様な者は、ここには居ないでしょう)
都合の良い事に、次は私の自己紹介の番です。
「ギルバート・アストレア・ド・ドリュアスです。皆さんよろしくお願いします。それから、アストレアとは呼ばないでください。女名である事がトラウマになっていますので……」
この段階で何人か反応しました。
「アストレアはアストライアとも読みます。正義の大女神であり、星乙女と呼ばれたアストライアーが由来ですね」
(これでインパクトは十分でしょうか? 皆思考停止していますね。後は畳みかけます)
そこから、名前の由来に話題を強引に持ち込みます。父上が星の輝きに正義を約束し、この名前になった事を話しました。そしてその原因が、二つの欠けてしまった魂が融合した事であると話しました。
魂の融合の話になって、信じられないという声が上がりましたが、そこはリタとナベリウスが証人になってくれました。
これで先程までの気まずい雰囲気は、奇麗サッパリが無くなっていました。
私はここでようやく、一息つく事が……出来ませんでした。ハイシェラ様が、別の意味での爆弾を落としてくれたからです。ハイシェラ様の声が聞こえる事をばらされ、魔力も結構ある事もばらされました。
『ギル坊が女なら、迷わず使徒にするよう勧めるのだがの』
エクリア殿の通訳が終わると、全員の視線が私に集まりました。
『いっそ……女に改造するかの』
なんかトンデモナイ事を口走りました。何を考えてるんでしょうかこの魔神様。流石のエクリア殿も、この発言には顔が引き吊らせました。エクリア殿の反応に、周りの者達が引きます。エクリア殿は、この話題を無かった事にしようとしましたが、空気が読めない人が居ました。……セリカ様です。
「ハイシェラは、ギルバートを女に改造すると言っている」
セリカ様以外の全員の顔が引きつりました。
『……冗談だの』
流石にこの空気に耐えられなくなったのか、ハイシェラ様が弱々しく答えました。
「冗談だったのか?」
(セリカ様。空気読め無さ過ぎです!!)
この場に居る全員の思いが、この一瞬だけ完全に一つになりました。
次の日。私はセリカ様の飛燕剣を、二刀流で再現する練習をしていました。
マギが師匠から学べなかった物を、飛燕剣が埋めてくれる様な気がしたからです。そして何よりも、飛燕剣の芸術的な動きに惚れてしまったからです。
ひたすら昨日のセリカ様の動きを思い出し、二刀流に組み換え再現する練習をしました。思ったよりも労せずに、二刀流での再現は出来ました。セリカ様に飛燕剣を教えた師匠が、二刀流だったからかもしれません。
基本となる型(剣舞)を、ひたすら繰り返します。ある程度形になってきた頃、裏庭にセリカ様が来ました。
「その動き、飛燕剣の身妖舞だな」
「昨日のセリカ様の動きを、模倣させていただきました。この型いえ技は身妖舞と言うのですね」
セリカ様は頷いてくれました。この型から繰り出される剣戟は、もはや型ではなく技の領域です。まあ、私の動きは型にさえ届いていませんが……。そこでハイシェラ様が口を開きました。
『のうセリカ。ギル坊に飛燕剣を教えて見ては如何かの。御主にも良い刺激になると思うだの』
ハイシェラ様の言葉は、私にとって願っても無い事でした。
(セリカ様は了承するのでしょうか?)
と思っていたら、セリカ様は返事もせずに説明を始めました。
……そこから先は地獄でした。今の私は霊体のはずなのに、痛い・疲れる・ぶっ倒れるのは何故でしょう? ……理解出来ませんでした。
何とかその訓練に食らいついて行ったのですが、模擬戦が訓練に加わると更なる地獄へと変わりました。生の肉体なら、何度死んでいたでしょうか? 基本スペックが違いすぎるのです。いくら頑張っても、スピードについて行けないのです。本来なら二刀流に有利に働く手数で、圧倒的に負けているのは如何いうことでしょう?
そして唯一の楽しみであるはずの食事が、霊体である為出来ないのです。
悔しかったので、マリーニャさんにレシピと調理法を教えてもらいました。お返しにハルケギニアと地球のレシピを、教えてあげました。その所為でしょうか? 何時の間にかマリーニャさんと仲良くなり、気付いたら鍵開け罠回避等の盗賊スキルを習っていました。(魔法があれば必要無いのに。……でも、イメージには大きくプラスになります)後は狙撃戦術と錬撃術を習いました。こちらは理解は出来ましたが、私では体得は難しそうです。(後でディーネにでも教えてみようかな)
そんなある日、神殺しの屋敷に客人が来ました。レウィニアの騎士の様です。最近になってビヤールの洞窟に、凶暴な魔物が住み着いたので退治して欲しいと言う物でした。既に民衆に被害が出ている事と、討伐に送った騎士達が全滅したので恥を忍び依頼に来たそうです。
セリカ様はこの依頼を受ける様です。
依頼遂行中は、地獄から解放されると思っていました。しかし甘かったです。いつの間にか、私も同行する事になっていたのです。落ち込む私に、ハイシェラ様が言って来ました。
『諦めが肝心だの』
ビヤールの洞窟入り口近くまでは、全員で行く事になりました。移動中の雰囲気は、何処を如何見てもピクニックです。しかし当然と言えば当然ですが、地獄の訓練は移動中も続きました。しかし、これ以上に勘弁してほしい事がありました。
(セリカ様!! 私が寝ている横で、性魔術による魔力補給を始めないでください!!)
そうこうしている内に、目的地に到着しました。ビヤールの洞窟に入るメンバーは、セリカ様・リタ・私の3名です。大人数では動き辛い、と言うのが理由でした。
洞窟の中でも散々でした。セリカ様は雑魚を全て、私に丸投げして来たのです。訓練の成果を見ると言っていましたが、面倒くさかっただけとか言わないですよね? しかし文句は言えません。地下水道で戦ったアンデットよりも動きが良い魔物複数相手に、互角以上に戦えたからです。危ない時は、リタが助けてくれましたし。ただ、噴出するガスが煩わしかったです。
そんなこんなで、ビヤールの洞窟最深部に到着しました。
そこに待っていたのは、如何少なく見積もっても10メートル以上ある巨大なレットドラゴンでした。私はあんまりな状況に、セリカ様を見ます。
「戦ってみるか?」
「無理です!!」
セリカ様は残念そうにしていました。私はこの時、いったん引いて対策を練ると思っていました。しかし、セリカ様はそのままドラゴンに突っ込んで行ったのです。
セリカ様とドラゴンの戦闘が始まりましたが、私はその余波でまともに立っていることすら出来ませんでした。私はセリカ様の姿を必死に目で追いました。
そして私は見ました。セリカ様の飛燕剣・|枢孔身妖舞《すうくしんようぶ》が、ドラゴンを細切れにするのを……。(マジですか)
私が呆然としている間に、飛翔の耳飾りでビヤールの洞窟を脱出していました。
屋敷に帰還後も、私の地獄は続きました。そしてようやく、セリカ様の身妖舞(物凄く手加減した)を防ぐ事が出来たのです。
その時私はとても嬉しかったです。(例え物凄く手加減されていても)
私はこの時、セリカ様の反応が気になりました。褒めてくれるのでしょうか? 調子に乗るなと叱咤されるのでしょうか? それとも、何時も通り無表情なままなのでしょうか? しかしセリカ様の反応は、そのどれでもありませんでした。
無表情の顔に、一筋の涙が流れていました。口が僅かに動き「ダルノス」と、呟きました。二刀を使用した飛燕剣が、セリカ様の師匠であり親友だったダルノスさんをオーバーラップさせたのでしょう。
私は(辛い記憶を思い出させてしまった)と、申し訳なく思いました。
しかし、周りの反応は違いました。みんな口々に、私にお礼を言ったのです。セリカ様が、また一つ感情を取り戻したと……。
それからも地獄は続きました。むしろリタが参加するようになり、グレードアップしました。勘弁してください。……本気で泣きますよ。
今回私がディル=リフィーナに来てから、そろそろ3カ月半もの時間が経ちます。ハルケギニアでは、3日半と言ったところでしょう。リタとナベリウスもそろそろ戻らないと、上司に怒られるのではないでしょうか?
それとなくリタとナベリウスに聞くと、「長居しすぎたかも」「タルちゃんに怒られる」と返って来ました。次からはもっと早く気付きましょう。
その日の昼食後に、私が代表して明日にお暇すると挨拶しました。皆さん別れを惜しんでくれました。特にマリーニャさんは……
「次来る時はー、レシピいっぱい持ってきてねー」
……そうでも無かった様です。
話しかけて来るみんなの影で、セリカ様とエクリア殿が言葉を交わすとエクリア殿が退出しました。
リタとナベリウスは、詰め寄って来るレシェンテの対応に苦慮しているようです。流石レシェンテです。外見は大人になっていても、中身は変わっていませんでした。
何時の間にか、すがるレシェンテと対応に困るリタとナベリウスを、周りの皆が眺める構図が出来上がっていました。リタから目線で助けを要請されましたが、私は頑張れっと手を振ってあげました。
リタは本当に困っているのか、尚も助けを求めて来ます。今度はナベリウスと2人ががりで視線を送って来ます。「こう言う時何時も助けに入る、エクリア様は何処行っちゃたのかしらー」と、マリーニャさんが口にしました。仕方が無いので、代わりに私が助けに入る事にしました。
「はい。レシェンテ。そこまでです」
「わらわが説得しとるのに、邪魔するでない」
私はレシェンテの目を真直ぐ見て、言葉を話します。
「リタとナベリウスが居ないと、困ってしまう人達がいっぱい居るんだ」
レシェンテが、私の目をじっと見返してきます。
「早めに帰らないと、仕事が溜まって次来るまでに時間がかかってしまうんだ」
(涙いっぱい溜めた目で睨まないで、こっちが悪いことした気になるから)
「レシェンテなら分かってくれるよね。もう立派な、大人のレディーなんだから」
そう言って、優しく微笑んでみました。
「分かった。わらわは、大人のレディーじゃからな」
「ありがとうございます」
このやり取りで、レシェンテは機嫌を直してくれたようです。
「ところでエクリア殿は、何処へ行ったのでしょう?」
「では、わらわが探して来てやろう」
そう言ってレシェンテは、飛び出して行きました。
レシェンテを見送った後、私は「よし、なんとかなった」と呟きました。改めて周りを見ると、全員の視線が私に集まっていました。
「レシェンテの扱い上手いのね」
リタがそう言ってきたので、私は心外だと言わんばかりに反論しました。
「レシェンテは暗愚ではありません。ちゃんと言えば分ってくれるのです」
この反論にリタとナベリウスは、ちょっと落ち込んでいました。
暫く待つと、エクリア殿がレシェンテを連れて戻って来ました。
「私達よりギルバート様にお礼の品があります」
エクリア殿の言葉に、セリカ様が頷きました。
「わらわが付けてやるのじゃ」
どうやら贈り物は、装飾品の類の様です。
「目をつぶって首を出すのじゃ」
私はネックレスの類かと思い、目をつぶって首を差し出します。しかし、首に付けられた感覚は……首輪?
私は目を開けて、首元を手で確認します。……間違いなく首輪です。何故?
私が不思議に思っていると、首輪の正体をエクリア殿が教えてくれました。
「マルウェンの首輪です」
マルウェンの首輪……成長促進の加護が込められたマルウェンシリーズの中で、最も強力な加護を有する首輪。言うまでも無く超貴重品。
「よろしいのですか? このような貴重な品を……」
セリカ様は黙って頷いてくれました。その中に私への期待を感じ、感動で……
「うむ。こうしてみると、わらわがギルバートの主になった様じゃの」
……おこちゃまがぶち壊してくれました。(レシェンテ。お前は……)
急速に冷え込むこの場の空気に、レシェンテも自分の言葉が不味かった事に気付いた様です。とたんにオロオロし始めました。
私はこの光景に、不意に嬉しさが込み上げて来ました。セリカ様にとって、この平和な時間は何物にも代えがたい宝石となると思ったからです。そう思うと、レシェンテの失敗が急に可愛く思えて来ます。そしてオロオロする姿が、急に可笑しく思えて来ました。私は耐えられなくなり、つい……。
「フッ……ククククッハッハッハッハッ…………」
「笑うなんて酷いのじゃ」
急に笑い出した私に、レシェンテが抗議の声を上げます。しかしその笑いは、すぐに全員に飛び火しました。あのセリカ様でさえ、笑みをこぼしていたのです。
「酷いのじゃーーーー」
そう叫んでいるレシェンテでさえ、口元は笑っていました。
いよいよ出発の時間になりました。別れ際に、また遊びに来るように言われました。私も笑顔で了承しました。……まあ、別れの場所が地下室の地下水路(下水道)入口で無ければ、もう少し格好良かったのですが。
それから帰りは水場まで、ナベリウスがすこぶる不機嫌でした。この時襲ってきた魔物に、内心同情してしまった事は私だけの秘密です。
魔術城砦カラータに行き、転移でいっきに冥き途へと戻ります。
リタとナベリウスは、上司に帰還の報告をしました。この時は、軽い注意程度で済んだそうです。もう少し遅かったら、雷が落ちていたとの事。2人にお礼を言われてしまいました。
「では、また来ます」
私はそう言って、2人と1匹に挨拶をしました。
肉体に戻り、目を覚ますとまた夜でした。周りを確認すると、私が寝泊まりしているヴァリエール公爵邸の離れの様です。4日間寝ていたとなれば、当然お腹がすきます。結局私は、また厨房に忍び込むのでした。
食べている時に気付きましたが、マルウェンの首輪はハルケギニアに持ち込めた様です。現実の体に、確り付けられていました。割と細く宝石(マルウェンの石)が付いていたので、チョーカーで通用しそうです。よって、お気に入りのチョーカーで押し通す事にしました。
……マルウェンの首輪の効果。凄く楽しみです。
後書き
ナベリウスとリタの紹介で、神殺しセリカ=シルフィルに会いました。
彼から飛燕剣と言う剣技を習い、成長促進の効果があるマルウェンの首輪と言うアイテムを貰いました。
ご意見ご感想をお待ちしております。
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