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鋼殻のレギオス 勝手に24巻 +α

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一話

 学園都市ツェルニに在籍する一般教養科一年、ヴァティ・レンが極僅かの者以外には気付かれず姿を消したその日、グレンダンに災厄が舞い降りた。ナノセルロイド・マザーI・レヴァンティンとしての使命を遂行すべくグレンダンに侵入したのだ。
 先年に来襲したドゥリンダナとは異なりグレンダンそのものを包み込むような巨大な姿ではなかったものの、戦いの激しさは決して劣るものではなく都市表層の施設は全壊と言ってよい被害を受けることになった。
 それだけに留まらず都市内部で繰り広げられた戦いは、敵味方双方の尋常でない破壊力を持つ攻撃によってグレンダンという都市の機能そのものへの損傷も激しいものとなった。
 被害を受けたのは都市という物理的な面だけではない。
 人類において最強と言っても過言ではないグレンダンが誇る剣、天剣授受者にも多数の死者が出ることとなった。
 カウンティア・ヴァルモン・ファーネス。
 リヴァース・イージナス・エルメン。
 カルヴァーン・ゲオルディウス・ミッドノット。
 ルイメイ・ガーラント・メックリング。
 カナリス・エアリフォス・リヴィン。
 サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス。
 一度に六人もの天剣授受者が死亡するなどグレンダンの歴史において初めての事であり、これほどの実力を持つ武芸者が一度に死亡するような事態はこの世界が始まって以来無かったと断言できるほどである。
 これほどにも多くの犠牲を払いレヴァンティンを倒したにも関わらず戦いは未だ終息を迎えてはいなかった。
 頭上に位置する『月』、それが砕けたと思うと赤い炎に包まれたモノが降って来たのだ。
 その姿は四足の獣、都市よりも巨大な姿と燃え盛る炎に包まれその勢いは空を焦がさんとばかりに猛っていた。
 電子精霊の長、シュナイバルが予期し備えてきた災厄の姿がそこにあった。
 更には突如グレンダンを守るように、あるいは獣を包囲するように姿を現した都市群。そこからはツェルニの前生徒会長のカリアン・ロスの演説が響き渡り、前代未聞の大規模ネットワークを形成すべく念威端子がせわしなく飛び回っている。
 各都市の武芸者も出撃する準備を着々と整えつつあった。


 グレンダンから離れたところに出現したにも関わらずその巨大さゆえに距離感を破壊している獣を、グレンダンの外縁部から見る人影があった。レヴァンティンとの死闘を生き抜いた女王アルシェイラ・アルモニスと天剣授受者たちだ。
「まったく今度はあんなのと戦うなんて、大変さー」
 口調は軽いが表情は真剣そのものなのはハイア・ヴォルフシュテイン・ライア。だが緊張しているのは新顔の彼ぐらいで他の者はそんな様子を見せていない。
 ニヤニヤ笑っている女王を筆頭に無愛想にタバコをふかしたり不機嫌にしていたり、周りの都市にいい女性が居ないかと見ていたりと緊張感の欠片も無い。
「あれって、ニーナですよね」
『そうですね。ニーナ・アントークと見て間違い有りません』
 傍に浮かぶ蝶型の念威端子に問いかけるのはクラリーベル・ノイエラン・ロンスマイア。三王家たるロンスマイア家の人間でツェルニへ家出していたが強引に呼び戻され祖父と同じ天剣『ノイエラン』を与えられた。
 受けて答えるのは先年の戦いで死亡したデルボネの跡を継いだエルスマウ・キュアンティス・フォーア、かつてフェルマウスとしてサリンバン教導傭兵団の念威繰者であった彼女はニーナのことを知っていた。
 一般人には見えない距離まで離れてはいたが、武芸者のクララにははっきりと視認することが出来る。
 ショートカットにした金髪と学園都市ツェルニの制服、そして何より特徴的なのはその手に携えた二本の鉄鞭である。
「あれ、あの娘って廃貴族憑きよね」
「そうですよ、前に陛下が攫って来たじゃないですか。もしかしてもう呆け……っていきなり何するんです、陛下」
 以前リーリンを迎えに行った時、一緒に連れて来た本人である女王に軽口をたたこうとするが、言い切る前に残像が残る勢いでその場から飛びのく。一瞬の後、まだ残像が残るクララが立っていた場所が弾ける。
 並みの武芸者では目にも留まらぬ速度で手を向けたアルシェイラが、銃を形作った指先から衝剄を発射したのだ。
「忘れてなんか無いわよ。でも、あの子を気絶させたのも連れてきたのもリンよ。だって私の両手はリーリンで塞がってたんだもの」
「お前がそうしろと言ったんだろうが」
 責任を擦りつけようとするアルシェイラに苦虫を噛み潰したような顔で文句を言うのはリンテンス・サーヴォレイド・ハーデン、天剣授受者の中でも最強の呼び声高い男だ。
「それにしても随分と変わったものね、なかなか面白い事になってるみたいじゃない」
 リンテンスを無視してニーナに目を戻して呟く。人の言うことを無視するのはいつもの事なので周囲も気にせずその話題を終わったものとして扱う。
 話が終わるや否や飛び出そうとするクララをエルスマウが止める。
『クラリーベル様、そのまま出ては危険です』
「えっ、でもニーナは都市外装備を着てない様にしか見えませんよ」
『確かに隊長は都市外装備を着ていませんが平気みたいですね。ですが外が汚染物質に汚染されている事は確かですし、そのまま出たら焼かれますよ』
 新たな声の主はフェリ・ロス、ツェルニの学生でニーナが隊長を務める第十七小隊の隊員だが、レヴァンティンとの戦いの最中に何らかの方法でグレンダンに来て以来、念威繰者達のネットワークに協力している。同じ寮に住んでいるのでクララとも知り合いである。
「じゃあ急いでスーツを」
「その必要はありません」
 ニーナに追いつくべく都市外戦装備を取りに行こうとするクララを静かな声が止める。
 声の主はサヤ。グレンダンの『真の遺志』にして電子精霊の原型(オリジナル)、この世界が誕生した時から存在する少女である。
「サヤ、どういうこと?」
 女王アルシェイラ・アルモニスが尋ねるがそれはそこに集まっていた者全てが持った疑問だろう。
 だがサヤは答えることなく足を踏み出し、エアフィルターの境界を越えて獣に向けて歩き出した。



 ニーナ・アントークはグレンダンを出て獣へ向かっていた。エアフィルターに覆われた都市の外へ出た以上汚染物質に晒される事になるが、ニーナはその身から放たれる剄の波動で汚染物質の影響を受けずに行動することが出来た。
 通常の武芸者には到底不可能であるが今のニーナにはそれが可能となっていた。
 嘗てツェルニを暴走させた後に憑依され、暴走し自滅する恐れもあったが遂には自分の力とすることが出来た廃貴族『メルニスク』。
 幼少の頃に助け、助けられ今ではニーナ自身の一部となっている幼く名も無き電子精霊。
 シュナイバルの守護神としてアントーク家に古くから君臨してきた大祖父、ジルドレイド・アントークから受け継いだ四体の電子精霊『アーマドゥーン』『ジシャーレ』『テントリウム』『ファライソダム』。これらは無数の電子精霊の集合体であるがゆえに一体であっても通常の電子精霊以上の力を武芸者に与えることが出来る。
 六体もの電子精霊から力を受けそれを制御するという、電子精霊の長たるシュナイバルが、電子精霊達がこの運命に備えるため永い間にわたって導き出した最強の武芸者へとなろうとしていた。

 獣へ向けて足を進めるニーナだがあの獣にどこか既視感のようなものを抱いていた。周囲に多数の都市が出現し、念威を通して演説が響き渡っているのも耳に入ってはいるが意識にまでは届かない。
(なぜだ? 私はあれを見たことが、会ったことがあるような気がしてならない)
 あのような獣を見た覚えは無いが、吹き上がる炎から伝わる波動のようなものに何かを感じ、自問するニーナの内では他の者も声をあげていた。
 それは雄雄しき牡山羊の姿をした廃貴族メルニスクだった。
(おおおおぉぉぉ。あれこそ嘗て我が達しようと望んだ『極炎の餓狼』、復讐の獣、そして破壊の炎)
 その言葉に記憶を探るニーナ、するとグレンダンでの一場面が浮かび上がってきた。
 それはある時、今と同じくメルニスクが発した言葉だった。
 廃貴族となり復讐へ身を捧げようと志向していたが、シュナイバルに諭されたこともあり守護者の剣となる事を選んだメルニスク。そのメルニスクが目指した復讐の権化、それを宿した男との戦いの最中の事だった。

(気をつけろ、だが極炎の餓狼を従えた男だ)

「いや、まさか。だがやはりこの感じは……」
「そう、ディクセリオよ」
 メルニスクの言葉によって思い出したがあまりの事に直ぐには信じられず、思わず漏らした呟きに思いもよらぬ答えが返ってきた。
 その内容に驚いている訳ではない。ニーナ自身、そうではないかと行き着いていた事だからだ。
 だがその声の主はそうではない。
 昨年、グレンダンで繰り広げられたドゥリンダナとの戦いの際にディックと共に空に開いた穴に消えた少女。

 ツェルニの地下で眠っていた魔性の美しさを持つ少女、ニルフィリアだった。


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 23巻の最後でクララがツェルニに向かいましたがそこは無視しています。ご了承ください。

 この小説での勝手に強さランキング(当然上から強い順、アイレインとかは抜き)、基本的に原作準拠
 アルシェイラ、リンテンス  当然のトップ二強
 トロイアット、バーメリン、ニーナ  天剣、色々ブーストがかかったから
 クララ  天剣で剄量もあるが経験不足
 ハイア、レイフォン  天剣にしては絶対的に剄量が足りない、やっぱ全力を出せないしね
 エルラッド(出ないけど間に挟むにはちょうどいい)
 ゴルネオ、シャーニッドなど

 原作準拠のわりにレイフォンが低いんじゃないかと思うでしょうが仕様です。
 原作に正直にいくなら一段上げてクララと同じぐらいだと思いますが複合錬金鋼と連弾があれば十分に戦える、となって天剣という錬金鋼の価値が低下してしまったと感じているのでこの小説ではこうなります。(ぶっちゃけると私は複合錬金鋼は趣味じゃない、というか嫌いですので)
 
 

 
後書き
ちなみにこの小説とは関係ありませんが原作での天剣授受者の扱いについて思ったこと。
あれだけ何かあるのかなと期待していたが結局普通に使い捨てになってしまったことが残念。
ただ「天剣授受者12人を生贄に、『隻眼の死神』アイレインを召喚!」みたいな事にならなくって良かったとも思っています。

本物が発売される前にケリをつけたいとただ今思案中です。 
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