ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
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第三十八話
ブリギッドに粉したエーディンさんは、こちらも海賊風に変装したレイミアの部下達数人と共に町から少し離れた海岸へと、翌日まだ暗いうちからこっそりと移動し、身を潜めた。
そこには廃棄された漁師小屋と小さな入り江、陸地に近付けば多少の兵なら充分隠しておける藪や小さな洞穴があり、そこへ傭兵を詰めておく……いわゆる伏兵だ。
十日分ほどの保存食や水に投槍や短弓、地元の特性を活かしたものだろう、投網などを揃えて狙い撃ち出来るように備えておく。
この入り江は岩礁になっているので手頃な礫となる石も容易に手に入り、防衛戦にうってつけだ。
このような準備を終えてからは変装したエーディンさんがここに居ると言う事を発見してもらえるよう定期的に漁師小屋から現れてはきょろきょろ辺りを気にする仕草を行ってもらった。
かく言う俺は海賊風に変装したメンバーの一人で、エーディンさんのことを身を以て守る役なのは言うまでも無いが、レックスに手ほどきを受けた効率的な斧術の見せどころでもあるだろう。
もちろん剣も槍も漁師小屋には隠してあるし、今回はそれに加えて弓や投石の準備も抜かりは無い。
もし海賊が襲ってくるより先にブリギッドの側からのコンタクトがあった時にも俺が居ればいいだろうということもある。
ちなみにレイミアは町のほうで仲介者からの連絡を待ったり、他の傭兵隊との繋ぎがあるので町に待機している。
それに彼女が長く町を空けていたらマディノに潜伏している海賊側の密偵が怪しむだろう。
加えて、町の近郊でブリギッドを見かけたという噂を流し、彼女の配下はその探索に出払ったということにしてあるそうだ。
クロード神父とシルヴィアは町の礼拝所で神学をはじめ勉学に励んでもらうことにしたが、もし海賊が海岸に攻めてきたら怪我人の治療に駆り出されるのは間違いない。
海賊が襲来した時に連絡を務めるのはこの前レイミアが話していた騎兵副官のベオウルフの役割だ。
彼の上官はやはりヴォルツで
「この俺を顎で使えるのは、せかいひろしと言えど姐さんだけだ」
なんて言葉を残している。
彼の方は伏兵の指揮を任され、半日に1度互いに連絡を取るように取り決めてある。
……あとはどちらの獲物がかかるかを待つばかりなのだが。
「それにしても何故このような危険な策を志願されたのです?」
漁師小屋の周りの見張りを交代し、建物の中で手持無沙汰だった俺がエーディンさんに問いかけたのは、一緒に見張りに付いていた二人の傭兵達が既に寝息を立てていたからだ。
「そうですね……いろいろあるのですけれど、ミュアハ王子は口が固いでしょうか?」
「教えていただいたことを墓場まで持っていけと仰るならば否やはございますまい。それに……」
「それに?」
「先日皆さまにお話したこの世界を覆う影の話、やんごと無き方々の愛の話をお話したのは初めてです。私が最も信頼すべき祖国の者たちには未だ語ったことがありません。……あと2年ほどしたら開封してほしいと残してきた手紙には記しておきましたが、これは勘定には入らないと思います」
「……状況、そして相手を選んでお話される方ですものね、思慮深いと申しますか……、申したあと忘れてください」
俺の返事を待たずにエーディンさんは意を決したような表情で
「シグルドが……シグルド公子が、ディアドラ様とおっしゃいましたか、その方と結ばれると聞かされて胸が張り裂けんばかりに苦しくて……もうどうなってもいいと思うくらいの気持ちになってしまいましたの。 それに、わたし自身がヴェルダンの蛮族達に拉致されるだなんて身の毛もよだつようなお話を伺って……」
彼女は一度言葉を区切ってから唇を噛み
「あなた様のお話を信じなければ、こんな思いはしないで済むのでしょうけれど……そう、普通ならば痴人の妄想なんて、あ、ご無礼を……」
「いやいや、そう仰られたり思われたりしても致し方ないところです」
「でも、あなた様はわたしの姉のことまで御存じで……神父さまの妹様のことも、神父さまもあなたを御信じなされていて……もしかしたら、この先わたくしたちを騙すための布石であるのかもしれないと自分に言い聞かせても……でも、神父さまの聖杖の見立てと合致されているのならそんなことも無いでしょうし、それなら……もう生きているのもイヤに………」
エーディンさんの流す涙に胸が痛くなった。
「エーディンさま、シグルドさまのことですけれど」
「はい」
「シグルドさまは、あなた様のことを他の誰よりも愛しておいでですよ」
「で、でも、それならなぜ!」
「あなたが蛮族に攫われたと知った時、シアルフィにはまともな戦力がほとんど無かったために彼の家臣は皆、あなたさまの救出に反対と意見を具申することになるのですが……シグルドさまは自分の身などどうなっても良いとあなた様の救出に向かわれるのです。
自分一人で向かうと宣言なされてね。それくらい想っておいでなのですよ」
俺はポケットからハンカチを取り出すとエーディンさんに差しだし
「わたしもいつも思うんですが、愛する人には幸せになってほしいですよね」
「……ええ、それはもう、もちろん」
「そして、何もかも自分だけのものにして独占したいって思ってしまいますよね」
俯いて頷く仕草の彼女を確認して
「でも、自分の想いが成就しなくても、大切な人が幸せになってくれたらそれでいいって思うくらい愛してしまうって境地に至るくらいの愛だってあるんですよね」
俺は彼女の反応を待たず
「それにあの方はお優しいから、自分と同じように命がけであなたを想っている人の気持ちを慮る、そんなお人です。……話は前後してしまいますが、シグルドさまと同じように、エーディンさま、あなたのことが好きで好きで命がけで、そして親族や主家から縁を切られてでもお助けに向かおうとシグルドさまの軍に合流する人が何人もいるんです。言うなればシグルドさまご自身と同じと。
そんな人たちの為に自分は身を引いて行きずりの女性と結婚してしまい、あなた様から呆れられてしまおう、そしてあなたを慕う他の男達にも目を向けてもらおうと……いきずりの女性は結果的にグランベルの王女さまで、それを知るのはずっとずっと先の話になるのですが……」
じっとして思い詰めたような彼女に
「そんなお優しい方だから好きなのでしょう?」
「……ミュアハ王子は、口がうまくてずるいです」
泣きながら笑顔を見せている彼女は渡したハンカチで目元を拭いながらそんなことを口にした。
「それに、先日話したようにわたしのもくろみが上手く行って争いを止めることが出来れば、あなたさまの想いが成就することだって出来るでしょう」
すこし肩を抱いてあげると彼女は俺に安心したかのように身を預けた。
「先程申した事、取り消します」
「むむ? なんでしょう?」
「忘れずに、覚えていてください……」
アゼル!本当にごめん!
今までのエーディンさんは礼儀正しく、すこし固い方であったけれども、この出来ごとがあってからは笑顔を絶やさず、俺をはじめ漁師小屋での待機メンバーになにかと親しく声をかけてくれるようになって皆の士気も上がったような気がしてきた。
夜の見張り交代の時になにやら海側のほうに小さな灯りが一瞬見えて、それから消えた。
そのあとにも何度か灯いては消え、時々は長く灯り続け、しばらく消えていたかと思うとまた灯く……
「あれは海賊や海で暮らす人々の連絡の信号か何かでしょうか?」
……たぶんモールス信号的な何かなんだろうけれど、俺が一緒に見張りをしている仲間に問うてみた。
すると、わかりそうな人間は今休んでいるメンバーのほうに一人だけ居ると言うことですまないが起きてもらい、解読してもらった。
その内容は海賊の一団が迫っているので危険だという知らせだとのことだ。
俺は夜陰に乗じてヴォルツのもとを訪れそのことを告げ、もちろんベオウルフにも町のほうへ連絡に向かってもらった。
漁師小屋に戻りエーディンさんを起こし、町のほうへ避難するよう告げると彼女はそれを断った。
ここは激戦になるだろうから治療の杖が使える者は一人でも多くいたほうがいいし、敵を引き寄せる囮の自分が先んじて敵に矢でも射掛ければ一目散にこちらを目指してくるだろうこと、そして
「士官学校でのお噂通りなら、わたくしを守り通してくださいますこと疑いありません」
いままでより柔らかい表情で全幅の信頼を寄せてくれる彼女のその言葉に、俺はがぜんやる気が上がった。
本来なら海賊風の軽装で戦うはずが、やってくるのがわかったので万全に装備を整える。
浜風での錆びを避けるため、箱に仕舞っておいた鎖帷子の上衣を被り、胸当てと肩鎧、それに腿当てと脛当てを装着する。
煮込んだ固い革を重ねて出来たそれは堅牢でありながら軽く、革ゆえの柔軟性も残っているので武器の取りまわしも体捌きへの負担も比較的自由だ。
投槍を漁師小屋の壁に何本も立て掛け、魚箱をひっくり返したものの裏側に支えを付けて矢除けの盾代わりに漁師小屋の各面に備える。
小屋の外に幾つかある樽には投石用の石も蓄えられ、樽の蓋には金属製の握りが付いており、即席の盾代わりとしてある。
「お頭ー! お逃げください!」
そんな声と共に入り江に着いた端艇から、カンテラを持った若者が漁師小屋へと駆けてきた。
小屋の側と海岸、それに高台へと分散してそれぞれ配置していた見張り2人ずつとで囲んでしまうと、その若者は平伏して敵意が無いことを示し
「もうじき、ドバールとピサールが大軍で攻めて来るんです!はぐれたあと、オレはやつらの様子を探ってました。でも、お頭の、ブリギッド様の居場所が知れ無くて途方に暮れていたんです。でも昼間にここにいるのをお見かけして……」
「お名前を教えていただけませんか? 姉の為に力を尽くしてくださっているようで感謝いたします」
小屋から出てきたエーディンさんは、その後ヴェルリーと名乗るその若者に声をかけた。
「くっそ、マディノの傭兵隊かよ!騙された!」
一瞬で察して悔しがる彼を前にして
「あなたのように姉の近くで働いている人が間違えるくらいですから、わたくしの変装は完璧なようですね。それに、海賊達を殲滅できればあなたのあるじ、わたくしの姉であるブリギッドの安全にも繋がりますよ」
「……確かにそうかも知れません。でも、本当によく似ている」
「それはそうとして、敵の戦力や武装、それに到着想定時間などを教えてはくれませんか?」
俺がしゃがんで、平伏している彼となるべく視線を近づけ、そう告げると
「……マディノの傭兵隊には教えられない、敵対してても元は仲間だ。売れやしない」
「良い心がけです、では行動の制限をかけはしますが、お命を奪いはしません」
俺が彼の両手を縄で縛っていると
「ヴェルリーさんとおっしゃいましたね。わたくしはグランベルはユングヴィの公女エーディンと申します。わたくしには双子の姉がおりまして、そう、五歳のころでありましたか、海賊に連れ去られてしまいましたの……でも身代金の要求も無く、行方も杳として知れないまま今の今まで時が流れてしまいました。ねぇ、ヴェルリーさん、姉は、ブリギッドはあなたからご覧になってどんな方なのでしょう?教えてはくださいませんか?」
やさしげな声と表情で尋ねる彼女にこの若者は顔を赤らめ
「お頭は……ブリギッド様は、あなた様と本当によく似たお顔立ちではありますが、厳しく、強い方です。でも時々はあなた様のようにやさしげで……」
「わたくしはマディノの傭兵ではありません。ただ生き別れの姉を探す哀れな女なのです。もし、あなたにわたくしを憐れむお気持ちが少しでもございましたらお力を貸してはいただけませんか?」
既に俺は縄をかける手を休めていた、エーディンさんはそれをほどくと彼の手を握る。
顔を真っ赤にした彼はエーディンさんから照れたように視線を外すと
「お、お頭にはずっと世話になってました。あなた様がその妹さまなのでしたらオレがどうして断れるでしょう……やつらと戦うのにオレも参加させるのは勘弁してください。でも、知ってることは全部話します」
俺達みんなが彼に礼を述べると、彼は照れ臭そうにしていた。
情報を聞き出し、それをヴォルツへと知らせた。
そしてヴェルリーには一人護衛をつけ、町のほうへ向かってもらう。
海賊たちは明け方に襲ってくるであろうこと、そして人数のほうも詳しく知らせた。
打ち合せている内にベオウルフが戻ってきたので新しい情報を知らせ、再び町の方へと向かってもらった。
朝焼けはまだ訪れようとしてはいなかったが空は白みはじめ、カモメの鳴き声がちらほらと聞こえてくる。
水平線のほうに見える五隻の船影がじわじわと近付いてきた……
後書き
ほんとにほんとアゼルぅ~もうしわけねぇorz
でもレスターの髪色的にシグルドというのも…(フィン、レックスもいいですけれど)
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