| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百十九話 一枚岩その六

「信長には何か与えねばな」
「与えるといいますと」
「何をでしょうか」
 幕臣達は義昭の今の言葉に戸惑った、何しろだ。
 最早幕府には何もなく信長に支えられている状況だ、それでこう言うのだった。
「信長様、いえ織田殿に与えられるとは」
「一体何を」
「位じゃ。もう一度言ってみよう」
 将軍として言うのだった。
「管領の位をじゃ」
「織田殿に与えられると」
「その位を」
「それと副将軍じゃ」
 二つだった、与えるものは。
「二つならば文句はあるまい」
「ううむ、左様ですか」
「その二つをですか」
「織田殿に」
「何なら父と呼ぼうぞ」
 義昭はさらに言う。
「何しろ予を支える第一の臣じゃからな」
「どうでしょうか、それは」
「如何なものかと」 
 今の言葉には周囲も呆れを見せて止めた。
「あの、上様は将軍です」
「将軍となれば武家の棟梁ですから」
 だからだというのだ。
「それはお止めになられた方がよいかと」
「それがしもそう思います」
「ふむ、そうか」
 義昭は彼等の表情にあるものに気付かず素っ気無く返した。
「では止めておこう」
「織田殿も恐縮されますし」
「それでよいかと」
「では何を贈ればよいのじゃ」
 まだ将軍としての威厳は見せようとする。これは義昭を義昭たらしめているものなので当然のことである。
「一体」
「茶器で宜しいかと」
 ここでこれを勧めたのは細川だった。
「それで」
「うむ、茶器か」
「織田殿は無類の茶器好きですので」
「予は茶器にはさして興味がないのじゃがな」 
 これは義昭の好みである。
「ではじゃ」
「はい、ではそれで」
「あと着物を贈ろうかのう」
 それもだというのだ。
「絹のな」
「着物ですか」
「それじゃ。尊氏公の頃からのそれをな」
「ふむ、そうですな」
 細川もその話を聞いてからこう返した。
「それはよいかと」
「御主もそう思うな」
「はい、あの絹のよいものですな」
「応仁の乱でも残ったものじゃ、あれをやろう」
「ではその様に」
「信長も多くの宝を持っておるそうじゃがな」 
 茶器だけでなく書や武具も多く集めている、絵もあり天下人である信長には実に多くの宝が集まっているのだ。
「よいことじゃ」
「そのことは構いませぬな」
「予は他の者が何を持っておっても羨むことはない」
 義昭にはそれはない。
「だからじゃ。よいことじゃ」
「そう思って頂き何よりです」
「うむ、そこにじゃ」  
 義昭はさらに言う。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧