八条学園怪異譚
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第二十三話 犬と猫その八
「それでここに来たんだけれど」
「夜の動物園にね」
「泉のことはもう聞いてるけれど」
送り犬は二人の後ろから言ってくる。
「この動物園の泉でありそうな場所ねえ」
「あるわよね、やっぱり」
「この動物園の中でも」
「あるよ」
答えはすぐに返ってきた。
「それも幾つかね」
「あっ、多いの」
「幾つもあるの」
「そうなんだ、例えば防空壕とか古墳とか」
そうしたものが挙げられていく。
「そういう場所だね」
「防空壕に古墳って」
「また随分と」
愛実と聖花は送り犬が挙げたそうしたものを聞いて顔を見合わせて話をした。
「あれよね」
「随分と歴史的っていうか」
「時代はそれぞれ全然違うけれど」
「歴史を感じさせるわね」
「この学園には歴史もあるよ」
実際にそうだと話す送り犬だった。
「明治のはじめの頃からあるしね」
「古墳はどうしてあるの?」
聖花が問うたのはこのことだった。
「あれって奈良とか大阪の他はあまりないものだけれど」
「まあそうだけれどね」
「ここにはあるのね」
「何か力のある豪族のものだったらしいけれど」
「その人のお墓なのね」
「それもあるよ。とはいってももう内部は発掘されて跡地はただの穴になってるから」
だから特におかしなものではないというのだ。
「そこに入ってみればね」
「ひょっとしたらなのね」
「うん、そもそもあの古墳にもね」
送り犬は聖花に話していく。
「出るから」
「古墳に妖怪?」
「幽霊だよ」
古墳にいるのはそちらだった。
「その弥生時代、いや飛鳥時代だね」
「古墳の主の人かしら」
「多分ね。その人の幽霊が出るから」
そうだというのだ。
「飛鳥時代の幽霊とか珍しいとい思うけれどね」
「確かに珍しいわね」
聖花も送り犬の話を聞いてそのことにふと気付いた。
「幽霊って戦国時代とか江戸時代の人が多いし」
「それにだよね」
「ええ、古くて平安時代で」
「奈良時代から先の幽霊って少ないんだよね」
「というかいないんじゃないかしら」
聖花は歩きながら腕を組み考えている顔になっていた、その間も顔は後ろにいる送り犬に向けたままである。
「奈良時代の幽霊とかって」
「ああ、そういえばいないね」
猫又もここで言う、猫又は二人の少し前にいる。
「妖怪にしても出て来るのって平安時代以降だね」
「そうよね、私も今気付いたけれど」
愛実もここで気付いた。
「何でかしら」
「平安時代以降に日本独自の文化が確立されていったから?」
聖花はこう愛実に言った。
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