ソードアート・オンラインーツインズー
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SAO編-白百合の刃-
SAO36-白の妹、黒の兄
「そろそろ再開するか」
「そうだね」
兄の言葉に同意し、私も立ち上がる。
遅めのお昼休み。アスナとドウセツが作ったサンドイッチのお弁当を食べ終えた私達は再び刃を交じり合うことになる。そして特訓という名のデュエルを再び始める。
オプションは初撃決着モード。それをニ十回ほど、キリトとのタイマンデュエルを受託していた。
相手は最強の一角である『黒の剣士』キリト。この世界で唯一使える、黒と白の剣を持つ二刀流使い。そして私の双子の兄でもある。
特訓とはいえど、私と兄は本気で勝とうと刃を振るう。負けないし、絶対に勝つつもりでやっている。けど、正直兄に勝てる可能性なんか曖昧な自信でしかない。トータル的に考えて、私よりも兄は何倍も強い。この特訓で、私の得意な回避をこの数時間で掴みかけてきている。回避した先に兄が振るう剣があったのが何回もあった。私としてはこんな恐ろしいことはないと思うけど、それは私にも言える。この数時間で兄の二刀流はだいたい掴んできた。
あとは、頭を冷静に回し、判断を怠らず、どんな状況でも対応できる適応力に加え、確実に回避してからとどめを決める決定力さえあれば格上の相手だって勝てる、はず。
でも、どんな相手でも当たらなければ問題ないことは私の信念だ。思うがままに、必死でなんとかすれば大丈夫。私は回避をして一撃を与えるだけ。
それだけで十分だ。
「…………」
「…………」
兄との間合いを取り、数秒後デュエルの合図が鳴る。始まっているのにも関わらず、兄は動かないで静止している。私も同様に静止して兄の動きを伺いつつ、警戒心を高める。そのせいで妙に時間の流れが遅く感じた。
…………。
…………。
…………。
……静かすぎるわね。
静かすぎて不気味で恐怖だ。一歩でも動いたり、気を逸らしたりすれば全てが終わりそうなくらい緊張感が漂わせる。その原因は目の前にいる人物、私の兄のせいにしたい。
動けない状況。そんな痺れた状況を打ち消してくれないだろうか。そう思った瞬間、世界は動き出す。
先に仕掛けてきたのは兄だった。それに伴い私は対応の準備を向かい受ける。
兄は沈み込んだ体勢から一気に飛び出し、まるで滑空するように地面ぎりぎりに突き進み、右手の剣を左から右へと横に斬り払ってきた。
兄が一気にスピードをかけて攻撃することは、だいたい予想をしていた。でもそれは、私がそれを避けてくることを兄も予想しているのだろう。
ならば、状況を一転させるような流れを変え、兄が私に対する対処や予想をぶち壊そうではないか。仕切り直して流れを私に持ってこさせる。
私は今までやったことない技を使用した。せっかくの特訓だ挑戦できることは恐れずにやるべきだ。
薙刀を長い柄を垂直の柱のように地面へ突き立てる。そして少し助走をつけて、ポールダンス並みに円心に回りながら横から払う剣を回避して、勢いに乗ったまま兄を蹴り飛ばした。これには兄も、一瞬戸惑う。左手の剣で防ごうとしたけど、間に合わずくらってしまった。
その一瞬の隙を私は見逃さなかった。勢いを利用して、海老反りからの薙刀で振り下げた。
「われろ」
薙刀スキル『剛断』強引な力技のスキルで一気にケリをつける。
ケリをつけたらいいなという願望を抱きつつも、相手は最強のプレイヤー、ヒースクリフさんとまともに戦えた兄だ。その程度で決着つくわけがないという、現実を突きつけられる。
兄は私のお株を奪うかのように、ギリギリで回避して虚をついての左手の剣を振り下ろしてきたのだ。
それは承知済みだった。
『剛断』を使用したのは二つ。兄が剣で受け止めても強引に決められると思ったこと。もう一つは兄が避けてしまうことを予想してからの流れ。
普通なら、ほぼ決め手となる技の反動は少なからず大きく感じる。兄のギリギリの回避は思考を迷わせるような心理的な回避。私もギリギリで回避することは頭の中には浮かんでこなかった。その迷いが相手の一撃を与えてしまうだろう。
そんな時の保険用が私の思考にはあった。
『絶対回避』
私は確実に兄の一撃には避けられないと理解する。『絶対回避』で反動も一瞬の迷いも関係なく、後ろに剣が当たらないところのギリギリのところに下がって回避。
そして、すぐさまに薙刀スキルを発動させた。
鮮やかな黄色に輝きを放ちながら、三回やや下突き、柱を崩すように右から払うように斬る、薙刀スキル『落柱』を使用した。
それに対しての兄はというと、やはりというべきか、反応は早く、危なげに右手の剣で防ぐ。どうやら私が『絶対回避』を使用することをわかっていたようで、全てしっかりとガードされてしまった。
それもそうか。私の特性を知っていれば『絶対回避』はここしか使ってこないからね。
兄は薙刀を払って、剣を振る。起用に二つの剣を斬りつけたり、突いたりと二刀流を繰り出す。
「っ」
二本から繰り広げる剣舞は凄まじく、私は薙刀を水平に構え、刃と柄で防いでいたり弾いたりするしか対応ができなかった。まさに剣撃の雨、霰のようだ。
このまま受け身のままで対応していたら、押し切られる。
凄まじい速さの剣舞を見極めて、回避。
兄の左手の剣から繰り出す突きは上体を低くして、右回りをしながら兄の後ろに振り返らず、右脇の下から薙刀を突き出した。
……一撃が入った感触はない。素早く前に飛ぶ込み。柄を地面につけて勢いをつけて小ジャンプ、一回転して地面につけて兄との距離をとった。
「その反応速度、すごく厄介なんだけど?」
「キリカも人のこと言えないんじゃないのか?」
「ん?」
「その回避力……俺にとってはすげぇ厄介だ、ぜっ!」
間合いを詰めるために、兄は地面をおもいっきり蹴った。
「お互い様、って言うことねっ!」
私も地面をおもいっきり蹴り、迎え撃つ。
そして、黒の剣と白の刃が交差した。
●
『怒涛の快進撃』のギルドハウスで、アスナ、リズベット、シリカ……帰ってほしいセンリさんの四人が訪れ、みんなで一緒に昼食をいただいた。味の感想としては、基本的に酸味と甘みがしっかりとした味。スープはピリ辛味で差別化を果たし、サラダはやや薄味なもののメインがしっかりしているので丁度良かった。赤一色のフルコースにしてはバランスが取れていたと感心する。特にドリンクはレシピを提供してほしいと思えてしまうほど美味しかった。できればアユミに教えてもらうことにしよう。
「へぇ~……キリト君とキリカちゃん、そんなことやっているんだ」
昼食を食べ終えた後、センリさんがキリトとキリカは何をしているかと訊ねると、正直に一対一のデュエルで特訓をしていると伝えた。
「『黒の剣士』キリト君と『白の剣士』もとい『白百合』キリカちゃんのデュエルね……」
センリさんは微笑いながら大きな独り言を呟く。わざとみんなに聞こえるように独り言を呟いたに違いない。ただそれが、何をもって言っているのかはわからない。
「……何が言いたいんですか?」
「あら、聞こえちゃった?」
「白々しいです。苛立つのでやめてください」
「あたしはそんなつもりじゃないんだけどなぁ~。もう、ドウセツちゃんのおこりんぼさん」
うざい……。誰もセンリさんのぶりっ娘なんて望んでない。そんなうざいセンリさんに対して自然とため息をつく。日に日にうざくなってくるのはなんとかしてほしいわね。
「ドウセツの割には、ずいぶんと翻弄されているじゃない」
どこか嬉しそうな顔をしているリズは話しかけてきた。
「私にだって苦手な人くらいいるわよ……」
「へぇ~、あんたにも苦手な人いるんだね。でも確かに、ドウセツが苦手なのはなんとなくわかるわね」
わかっているなら、助けてほしいんだけど……。
でも、それを言ったらセンリさんの思うつぼになりかねない。センリさんは私の新鮮な反応を見て楽しむ人だ。それにここで助けを求めることはリズに借りを作ってしまうことになる。マイナスばかりしかないので、自力でセンリさんの思い通りにさせないように努力をするしかなかった。
「それで、わざわざみんなに聞こえるように独り言を呟いたセンリさんは何がしたいんですか?」
「なぁに、簡単なことよ。キリカちゃんの魅力をドウセツに語ってもらおうって言う、前フリ役を買ったのよ」
「結構です」
「え~つまんない」
「つまらなくて結構です」
「ちぇ」
センリさんは背を向けていじけ始めた。ご丁寧に誰がどう見ても小指で床にのの字を描くようにいじけている。
「あ、あのドウセツさん。センリさんがわかりやすく落ち込んでいますよ」
「別にいいわよ。どうせわざとだから」
「ええっ!?」
シリカはセンリさんのことを知らないから心配できるのよ。それに私は見逃さなかった。大げさに苦しそうに仕草をして、一瞬だけ微笑んでから頭を抱えて膝をつくあたり、わざとしか思えない。
「センリさん。その手は十五回も見ましたからいいです」
「ちぇ、そんなセンリお姉さんはドウセツの嫁の兄の嫁に抱きつくのであった」
「せ、センリさん!?」
アスナが代わりにセンリさんの犠牲となってくれたので一安心。その間にアユミが入れた紅茶はホロ苦い味わいに濃くのある甘みがある紅茶を頂いた。
「キリカちゃんの魅力ね~……」
センリさんが言っていたことをマリリーはぶつぶつと呟き、何故か私に向かって口にした。
「キリカちゃんの魅力と言ったら、笑顔が素敵なところよね~。ドウセツちゃんもそう思うでしょ?」
「なんで私に聞くんですか? そんなこと知りませんよ」
「そう?」
そうでありたい。
「キリカちゃんと一緒にいることの多いのは、ドウセツちゃんなのよ」
そんなことはない。私よりも一緒にいるのが多いのはキリカの兄であるキリト。一番は私ではない。知らないことだってたくさんある。
だけど……私でも、キリカの魅力は知っている。わかっている、本当はキリカの魅力を言えるってくらい、わかっている。でも言いたくない。単純にキリカを褒めることが……ムズ痒くて、恥ずかしい。
「それでも……知らないわ」
「そう? みんなはどう思うかしら?」
私の心情を悟ったのかは知らない。だからマリリーは私に訊かず、みんなに話を振り始めた。
「あ、でもマリリーさんの言っていることわかります。あたしもキリカさんの笑顔って、優しさがあって穏やかでお日様のようで安心するんですよね」
シリカは私がキリカの笑顔に対することを代わりに言ってくれたように話してくれた。
「リズさんはキリカさんの魅力ってありますか?」
今度はシリカからリズに話を振った。
ちょっとなにこの流れ。
「あたしから見てってこと? あんまり良くは知らないけど……キリトと意外と似てないけど、似ているよね」
「自分で言っていて矛盾していることに気がつかないの?」
「なんであんたはそういうところで一々反応するのかな!? あんたはあたしが言っている意味わかるでしょ?」
「わからないわ」
「嘘よ! 絶対にわかっているでしょ!」
「しつこい」
「嘘つくからでしょ!」
けして口にはしないが、実はリズの言った通りだった。それは兄妹だからというものもあるけど、言葉にできない共有できるものが二人には確かにある。
「キリト君とキリカちゃんって、表面的に言えば似てないかもしれないけど、根元は似ていると思うのよね」
それを答えるようにアスナが話し始めた。
「二人のイメージのようにキリト君は黒、キリカちゃんは白というように服装の色がそのまま表しているんだよ」
「意味わからねぇ」
エックスは当然、理解できていない様子だった。その他はなんとなくわかる感じではあった。そしてどういうことか、私はアスナの言っている意味を理解してしまった。
「なんとなくわかるけど……もっとわかりやすく言ってほしいわね」
その他を代表してマリリーが再度説明をアスナに求める。
「うーんとね、キリト君って雰囲気が飄々としていて掴みどころがないじゃない。黒のように色合わさったように、淡々としているのかマイペースなのか子供っぽいのか、またまた全部そうなのかって」
「あぁ……わかるわ、それ」
リズはアスナの言葉に同意する。確かに、掴みどころ
「キリカちゃんはキリト君と比べるとわりとわかりやいのよね。明るくて元気で真っ直ぐで……そんでわかりやすいくらいにお人好し全開、一つ一つ何色にも染められない白色のように」
「……そうかもしれないわね」
私はアスナがキリカの印象を答えに同意した。本当は口に出さずに心の中で同意するだけで良かったのに、思わず言ってしまった。
だってその白色のような性格に私は救われたと同時に私が…………いや、駄目ね、これは。まだ思わないほうがいいわね。
他のみんなも納得していた。全部が全部そうじゃないけど、だいたいそんなところだろう。キリカの過去を知っていれば、ただ白色だけで描かれた人ではないことを知っている。それは黒色だけではなく、白色もある兄も同じことでしょうね。
アスナが言う、根本的に似ているってことの意味は、表面的は対となる色ではあるけど、誰かに見せないように隅っこに小さくて時にそれが大きくなる白と黒を持っていることでしょうね。
「ちょっとドウセツ、聞いてた?」
「なにが?」
「キリト君とキリカちゃんの根本的に似ているところよ」
あぁ、そっか。まだ言っていなかったんだ。
「……アスナがそう例えたのは別にいいわ。それが本当にあっているかわからないわよ」
「でも、キリカちゃんのことは同意したよね?」
「あんなの適当に合わせただけよ。心の中ではこの人なに言っているのって嘲笑ったわ」
「またそうやって捻くれる」
むぅと頬っぺたを膨らませてアスナは怒りだした。そうよ、私はいつだって捻くれ者よ。それのなにが悪い。
「話は戻すけど、リズベットちゃんはキリカちゃんの魅力ってなんだと思う?」
「え? あ、あたし……言っていませんでしたっけ?」
「キリカちゃんはキリト君に似てないけど似ているのは果たして魅力なのかなって、センリお姉さんは疑問に思ったのさ」
「哀れね、リズ」
「哀れむな、そこっ!」
リズはうがーっと声をあげると、腕を組んで右手の一指し指を上下に動かして黙ってしまった。考えてもないなら、ないって言えばいいのにね。そこまでキリカを褒める必要なんてないのよ?
「……じゃあ、センリさんはキリカの魅力を入れるんですか?」
「可愛くて、綺麗で、優しい、ドウセツが惚れ込んだ人よ」
「それは戯言ですね。それ以外でお願いします」
「ドウセツのツンデレちゃんだから」
「デレなんてありませんから。あとツンデレでもないし、キリカのことなんて惚れ込んでもいませんから」
視線をセンリさんから反らすと視界にはアスナとリズがこちらを見て微笑んでいた。何よ、アスナもリズもニヤニヤして、バカなの? それともセンリさんに洗脳されているの? それだったら納得するわね。
「あの……センリさん」
「ん? なになに、どしたの?」
「その……ドウセツさんが参っているので、そのへんでやめてもらったほうがいいと思いますが……」
アユミは私がセンリさんにいじられているのに困っていると見たのか、私をいじらないでほしいと言った。その言葉は本当に助かった。しつこいセンリさんから逃げ続けるのは正直しんどくてうざったい。誰かがそう止めてくれればセンリさんはしつこく追うようなことはしない。
だけど……。
「別に参ってないわよ」
そんなことでも捻くれ者で自分の弱さを見せたくない私のいらないプライドが強がりを見せてしまう。それにセンリさんがいじってくるのも慣れてきた。そこまでして救いの手を差し伸べるほどでもない。
「ドウセツ! 俺の嫁が参っているって言ったら参っているんだよ。てか、参ってくれ、それが本当になるように!」
「そこまで必死になることでもないでしょ、却下」
無論、タカサの言葉に従うことなどない。というか、タカサの場合、私を助けるのではなくアユミの言ったことが余計なことではないと証明したいものだったので尚更従うことはしなかった。
なんかむしろ冷静になれた気がするわ。
「そうだね、これ以上ツンデレツンデレって言っちゃうと、あとでキリカちゃんにべったり甘えそうだからやめとくわ」
「やめる気なんてないですね」
「そう怒らないの。その変わり、ドウセツにはキリカちゃんの魅力をちゃんとみんなに伝えるから、機嫌直してね」
「別に不機嫌ではないですが、だからと言ってなんでも言っていいわけではありませんから。それに、その変わりの使い方間違っています」
「間違ってないわよ~」
にこやかなセンリさんは、キリカについての魅力の話を用意しているのか、得意気な顔で話始めた。
「それじゃあ、ここにいる半分以上は知らないキリカちゃんの特別に話しちゃいましょう、ね」
とりあえず戯言をぬかせばその場で斬り捨てるのみね。
●
「はあっ!」
兄は突撃してきて、右の剣が左斜めに下ろしてくるのを薙刀で下へ受け流す、その数秒遅れて兄は左の剣を突き出してきた。
妙にタイミングをずらしての剣撃……そう簡単にはやられてたまらないわよね。
左手は掴み直し、右手を放して、柄を上げるように兄の左手から突き出す剣を弾きだして、薙刀を振るう。今度はこちらの攻撃。それに対して兄は、滑り込むようにしゃがみこんで回避をする。そうすることで私の背後を取られてしまう危険性ができた。だから私はそうならないように、瞬時に行動に移す。できたことと言えば、剣劇の範囲内に入らないように前に進んで距離を取り、背中から斬られないようにすぐさま振り返って正面から受け止めるように体勢を整った。
幸いなことに、兄はそこから追撃はせず、こちらを様子見で距離を保っていた。
「す、少しは……気を抜いたほうがいいんじゃないのかな?」
「そっち、こそ……どれだけ回避の回転上がっていくんだよ」
この一試合、どれくらい時間が経ったのかわからない。感覚的には兄を倒すために戦っているけど一日かけても倒せないでいるような感じだった。当然、実際はそんなに時間はかけてはいないし、思っている以上に時間はかかっていないのかもしれない。私としてはそんな時空からさっさと抜けだして、日向ぼっこしたい。そしてそれは兄も同じだろう。
現状、お互いに全力を出し切っても、決定打を与えていられてなかった。兄は無駄に反応がよくて、隙を見つけたところを狙っているが防がれてしまうせいで勝てないでいる。私もなんとか回避で兄を勝たせないようにしているけど……ぶっちゃっけ、きつい。頭の回転がオーバーヒートして壊れるくらいに痛い気分だ。
「そろそろさ、休みたいんだけど?」
「なんだ? キリカはまだ上がれると思っているんだけど、ここでお終いか?」
「ここでおしまいにしたいの。上げれたとしても疲れることには変わりないのよ」
「それもそうだな。じゃあ俺も疲れてきたし、休むとするか」
「そうでしょ? でも……」
やっぱり私達双子だから、言葉も行動もハモってしまう。
「「お前を倒してからな!!」」
言葉がハモった時には、地面を蹴り飛ばしてお互いに前進していた。互いに全力で足を動かし、相手に勝つように刃を振るう。そこまでは兄と一緒だ。
私は徐々にスピード落としてから急ブレーキをかけるように立ち止まらせる。
「さっそくしかけてきたか!」
兄は私が先になにか仕掛けてくるのを読んでいたように、わざと私に聞こえるように発する。だが関係ない。読んでいたとしても、その次の兄の攻撃を回避すれば不利から有利に一転する。
私は薙刀スキル『刹牙』を使用して斬り払う。兄がこちらへ低空飛行で飛んでくる勢いのまま斬り捨てたら良いなとは思っていたけど、現実は思い通りにいかない。兄は私の攻撃を読んでいたので、左の剣で受け止めると、そのまま防ぎつつ、受け流して急速に接近してきた。そして射程内に入った瞬間、左の剣は強く弾き上げられてしまい、右の剣で右斜めに斬り下ろしてきた。
私はすかさず左側へ回避し、左の剣の突きを柄で叩き落とすように軌道を下に逸らす。その瞬間に兄の背後に回って、左から右へと斬り払った。
「終わりだっ!」
「なんのっ」
兄は後ろへ下がるように飛び、着地すると同時に地面を蹴り上げ、体勢を低く保ちながら右の剣で左から右へと斬り払ってくる。それを私はバックステップで回避する。兄は攻撃の手を止めずに左右の二つの剣を振るってくる。私はそれを小さく左右に回避して、避けられない剣撃は薙刀で防いだりして、隙を見つけたらこちらから反撃する。兄も同じく回避または防いでから攻撃というような感じで、互いの応酬が開始された。
兄は手を休めることもなく、むしろ上がってきている。ここで少しでも回避する速さ、薙刀を振るうスピードに手を抜かせたり、下げたりすれば私は負けてしまうだろう。
だからと言って、スピードを下げ、手を抜かなくても、兄の剣を振るう速さ、攻撃のスピードが上がっていくばかり。速さの差をつけらてしまったら、それに追いつけない私は負ける。
それなら……。
「はああああああっ!!」
こちらも上げるまでの話。兄を上回るように、回避する速さ、攻撃のスピードを上げる。
「うおっ!?」
兄が至近距離からの右の剣の突きをしゃがむように回避。薙刀の長いリーチからの突きのお返しをする。直撃にはならず、兄の右横腹をかすめる。兄は反撃の体勢素早くを整えようとした時だった。
「「あ……」」
思わずまたハモってしまう。だって、それはあまりにも唐突に、空気が一瞬で変えられるものが表示されるものだった。
「……俺の負けか」
デュエルを終了させる紫色に輝くシステムメッセージに目を通して、兄はゆっくりと二つの剣を背中つけている鞘に収めた。
決め手もないのに私が勝ったのは、小攻撃と弱ヒットだけで兄のHPバーの半分が下回ったからか。どういう形であれ、私は兄に勝った。
だけど、あまりにも呆気ない勝利と敗北。いまいち勝利の実感は湧かない私としては、あんまり気持ちのいい勝ち方ではない。兄としても今みたいな敗北は気持ち良いものでもないだろうし、兄の場合は負けてしまったから私以上に納得もしていないだろうし、府に落ちないところはあるだろう。
「これで10勝10敗か……」
「あんまり嬉しそうにないな」
「気持ちは、まだ9勝の気分だよ。さっきみたいに気持ち良い回避をして、綺麗に勝ちたかったのに…………たまたま運良くて勝った実感がわかない」
要望通りに試合は終わって日向ぼっこという休みができる。望んでいた結末と違った。上手くいかないと思いつつ、私はため息を吐きつつ芝生の上に座り込み、ちびちびとポーションを口に入れた。
「それにしてもお前……やる度に速くなっているな。特に長期戦に突入すると当てるのが難しい」
「難しいと言いながら、すぐに対応できているじゃない。嘘つきはアスナに嫌われるよ」
「別に嘘ついてないだろうが」
「まぁ、私としては疲れる前に即行で終わらせたいんだけどね…………長期戦になったとしても、当てられたら意味ないし、兄のように反応が良くて対応されちゃったら、こっちが疲れるだけだよ」
「それでも長期戦の方が勝率良いだろ。俺はまだ一回しか勝ってないんだぜ」
兄の言う通り、私の10勝は全部長期戦で勝ったものだった。負けたのは兄が言う長期戦一回と、それに入る前の九回目だ。SAOの二刀流使いにしてSAO最強であるヒースクリフと戦えた相手に10勝できることは我ながら良く勝てたなと実感する。
でも逆に言えば、一度も長期戦以外で勝てていない。長期戦に入る前にやられてしまえば終わりだし、得意と言われる戦いもできなくなる。そして二度がないまま終わることだってある。
なにはともあれ、回避し続ければ問題ない。当たらなければ私が負けることはない。
とりあえず今は……。
「しばらく休憩~」
細かいことは後回しにして、しっかりと休もう。あんまり深く考えず、空を眺めてボーとする時間が私には必要だ。
仰向けになって寝転がると、隣に座り込みポーションを飲み干した兄が訊ねてきた。
「そう言えば、お前妙に二刀流に慣れているよな」
「そりゃ、20戦もやれば慣れるって」
「いや、最初から慣れている感じだっただろ」
「そうなの?」
「対応が手慣れていたというか、完全に初見ではなかったような気がするんだが……」
「うーん……スラッシュリザードマンとか二刀流だからかな」
「モンスターとプレイヤーは違うだろ」
「それもそっか」
二刀流の兄と戦ったのは今日が初めだ。そして一試合目は私の負けだった。やはり二刀流を対処するのは難しく、ましてや兄が強すぎるのもある。でも思っていたほど、手こずるはなかった感じはあった。
心当たりがあるとすれば、イリーナさんと戦ったからかな。異なる二刀流だったけど兄と同等かそれ以上の強い相手と戦ったから、それで少しでも慣れたかもしれない。
でも、兄とイリーナさんの戦闘スタイル違うんだけど……そこは変わりないのかな。
「あ……」
ふと蘇った記憶。兄とイリーナさん、二刀流を扱うモンスターと違う強い相手と戦ったことがあった。
「どうした?」
「いや、プレイヤーみたいなボスと戦ったことあるんだけど、その相手も二刀流だったなーって」
「そんな奴、いたか? いや、それって裏ボスのことか」
「察しいいね」
「そう言えば、キリカから裏五十五層の話聞いてなかったな」
「なら、ついでにボス行くまでのエピソード聞く?」
「あんまり長すぎない程度には」
「そんな半日使って話さないわよ」
長すぎないことを注意しながら、私は上体を起こしてまだ語ったことのない、裏五十五層のエピソードを語りだした。
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