武で語るがよい!
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謝罪とフェレット
「キ~ンコ~ン♪カ~ンコ~ン♪」
あぁ、1時間目の授業の終了を宣言する鐘の音が聞こえてしまった・・・それはつまりバニングスさんが俺をボコリに来るという事を意味している・・・何という悲しい定めなのだろうか・・・。
「はい、それでは今日の1時間目の算数は以上になります、バニングスさん号令をお願いします」
「はい、起立、礼ッ!」
「「「「ありがとうございました」」」」
号令をするバニングスさんの声に、活気と怒気が混ざっている様に聞こえたのは、俺の幻聴だと思いたい……。そして、バニングスさんは号令が終わると共に、自らの手をコキコキと鳴らしながらこちらに近づいてきたので、俺は思わずその場から・・・メタルスライムの如く逃走した。
「あ! ちょっと待ちなさよアンタ!」
ふと後ろをチラ見すると、そこには逃走した獲物を狩るかのような猛獣が居た。
俺の肉体スペックは異常だから捕まることは無いが……それにしてもバニングスさん速いなぁ、50メートル走7秒台といったところだろうか?(まぁ、俺は50メートル走を本気(剃)でやれば0.8秒だが)。
ここでバニングスさんを振り切ることは容易い・・・容易いのだが俺とバニングスさんが同じクラスという問題がここで浮上してくる・・・それは何故だかお解かりだろうか?
クラスが一緒ということは、獲物を最初から視界に入れておくことができるということである。猛獣が授業という名の檻に捕らわれ、獲物をチラつかせている状況から解放されればどうなるだろうか?
当然獲物を追いかけるだろう・・・つまり! 今回のことが解決するまで休み時間に毎回毎回追い回されるということである・・・はっきり言おう、それは中々にメンドイ状況である
なら、その状況にしない為にはどうすればいいか・・・簡単であるこの問題(バニングスさんにボールをぶつけてしまった件)を解決すればいいのである・・・つまり俺がボコられればそれで解決である。だが、まずは話し合いをして謝罪をすることから始めようと思う、人は理解し合える生き物なのだから……
「待ちなさいって! 言ってるでしょうがぁ!」
……しかし、まずは話し合いの場を設けなければこちらの話は聞いてはくれないだろう。
なぜならば今俺の跡を追いかけてくる彼女は、息を荒げながら獲物を狙ってくる猛獣と化しているのだから……
そんな状況下の中で、俺の目にお馴染みの丸と逆三角形の青い何かが目に止まり
俺はそこに入った。その場所に入った瞬間、バニングスさんは苦虫を噛んだ様な顔をして俺を追うことを中断し、この聖地と廊下を隔てているタイルの一歩前でこちらを睨んでくる。
やはりこの場には流石に入って来れないようである……なぜならばここは男子トイレ……
女子にとっての完全不可侵領域の場である(今自分がかなり嫌なヤツになってるのは自覚してる)
だが、終わりよければ全てよしという言葉がある……というわけでこれから話し合いと行こうか!アリサ・バニングス!
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「・・・・・」
「・・・・・」
結論から言おう、ダメだった。
男子トイレにて話し合いの場を確立、俺トイレ側、バニングスさん廊下側
↓
俺さっきまでのことを謝る
↓
だが許してくれず、話し合いの場から脱出が不可能になった
↓
互いに沈黙 ←今ココ
「・・・・・アンタ…何時までそこに居る気?」
「・・・バニングスさんがその並々ならぬ怒気を静めていただけるなら、直にここを出るよ」
「・・・・私は怒ってないわよ?(コキコキ)」
「・・・・・ではなぜ手をコキコキと鳴らしているのでしょうか?」
「・・・・手癖よ?」
あはは・・・手癖な訳ないでしょうに・・・
これはもう話し合いでは納まりそうに無いな・・・はぁ・・・
あまり気は進まないが最終手段を使うしかないかぁ・・・
「・・・解ったバニングスさん・・・俺を殴るという事で許してくれ」
俺は辺りに人が居ないことを確認し、バニングスさんの前へ一歩前進した。
バニングスさんは『は?』とでも言いそうなほどに口をぽか~んとしている
当然だ、今まで殴られるのを回避する為に今まで逃亡したのに、今更になって
殴ってくれと自分から申し出ているのである、相手側からしたら怪しいの一言だろう
「・・・どういうつもり」
バニングスさんはこちらを警戒し睨み付けてくる・・・当然の反応である
だが、ここで俺の誠意を示さねばバニングスさんも納得できないだろう。
「俺がそもそもバニングスさんにボールをぶつけたのが問題だし……本当に悪いと思ってる。俺がバニングスさんの立場で同じことされたらって思うとバニングスさんが怒るのも、もっともな話だと理解したんだ・・・だから俺を殴るって事で今回の件は無かった事にして許して欲しい・・・」
俺は真剣な眼差しでバニングスさんを見つめ、自分が本気なんだと視線で訴える。
バニングスさんはこちらを睨み付けるのを止め、俺の真意を探るかのように真剣な眼差しで俺を見てくる。
「・・・ふ~ん、じゃあ覚悟しなさいよ」
どうやら俺の誠意が伝わったようである。
バニングスさんは一瞬呆れた様な顔をしてこちらを見たが、すぐさま俺を睨み付け、手をコキコキと鳴らしている。
「あぁ、やっちゃてくれ」
バニングスさんが腕を大きく振りかぶった辺りで、俺は来るべき衝撃に備えて目を瞑った。
ここでふと鉄塊を使おうか? と悩んだが、そんなことをすれば一般人のバニングスさんの手がこちらを叩いた反動で、骨折する可能性があるからそんなことはしない・・・。
今思えば、授業が終って直にバニングスさんに謝罪すれば良かったのでは? と後悔の念に囚われそうになるがもう遅い、今は来るべき痛みに備え目をきつく閉じた。
だが、何時まで経っても頬に来る衝撃は来なかった・・・・・・あれ? 何で殴って来ないんだ? 俺は恐る恐る目を開くとその刹那、バニングスさんにデコピンされた・・・はて?
「ハァ・・・一応アンタが反省してるって事が解ったから、今日はそれで許すわ・・・だけど!
今度またやったら本当に殴るわよ」
バニングスさんは目を閉じため息をして今回のことを許すと言葉を発した。
良かった、助かった等の感情が俺の中に芽生え始めるのだが・・・何かこう……自分で納得できないモヤモヤ感と言えばいいのだろうか? それとも罪悪感と言えばいいのだろうか?
取り合えずこのまま終るのは俺にとって後味が悪い……
「ありがとう、バニングスさん・・・でも一応けじめとして今回の件は貸しって事で何時か返すよ」
「ハァ・・・アンタって律儀ね」
「あはは・・・まぁ一応礼儀だからね」
自分で言っておいて、ちょっと恥ずかしかったので俺はバニングスさんから目を逸らし、自分の後頭部をポリポリと掻いた
「まぁいいわ、それじゃあ貸し一つって事にするわ」
「ありがとうバニングスさん」
「いいわよ別に・・・それよりも授業が始まるから早く教室に戻るわよ」
貸しを作るという事に了承したバニングスさんは、自分の腕時計をちらりとこちらに向けてくる。その時計が示している時間は何と9時59分・・・後1分で授業が始まろうとしているのである。
「ホントだ! 時間がヤバイ、早く戻ろバニングスさん!」
そうして俺とバニングスさんはまたもや走り、自分達のクラスへ足を運んで行く……
だが、その顔はさっきまでとは違い互いに納得したように顔を綻ばせていた。
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Side アリサ
神田 誠……クラスの男子に人気があって、いつもスポーツをして楽しんでいる男子だ……しかし彼は部活動には参加せず、自分がするのは友達とのスポーツや体育の授業ぐらいに止めている変わり者……そして、神田はスポーツだけではなく、成績も優秀な点がある。
前に行われた5教科のテストで私は486点だったのに対し、神田は私よりも高い492点
だった……それなのにも関わらず神田は『ヤベ! 小学生問題ミスったぁ!』とこの世の終わりみたいに絶望しているところを見た事がある。
……正直私にとっては不愉快だった、私が周りからよく天才だの神童だの色々と言われてきたプライドが傷ついたとかそういうのが理由ではなく。私は学校の授業を真面目に受け、さらに塾などの勉強を通して今の点数を出しているのに、彼は授業の時はいつも上の空……しかも塾などの習い事も一切やっていないのである……。
そんな何の努力もしていない彼の方が、努力をしている私よりも優秀という点に私は
不愉快と嫉妬をいつも抱いて彼を見ていた。
だが今日は不慮の事故・・・いや神田達が遊んでいるいたのが悪いのだが
嫉妬している、不愉快に思っている神田に攻撃されたと思うと、どうしても
自分を抑えれないほどの怒りを感じてしまい必要以上に神田を攻撃しようと
躍起になっていた。
彼が謝ろうが私はやられたらやり返すの精神で逃げる彼を追い掛け回した……だが彼は
在ろう事かその身を男子トイレに入れたのである。
これ以上は追いかけれない……と男子トイレの前で止まったら、彼は私にさっきまでの事を謝罪してきたのだ。
正直言って『謝るのなら早くその場を出ろ!』という気持ちでいっぱいだった……
そんな風に思っていると彼は突然私の前に歩み寄り殴ってくれと言ってきた。
……『こいつは変態なのかしら?』と自分の中で戸惑いが起きたがそれは違い
どうやら神田は自分の誠意を示してきたらしい……。
私は神田の目を見てそのことが真実だとわかった瞬間、なんだか自分のやっていること
がバカらしくなり神田を許してやることにした。
その後神田から『貸し一つという事にしてくれ』と言われたので、まぁ本人の気がそれで
済むならとその提案を承諾し私と神田の争いはそれで終った。
今回の一件で私の神田 誠とという人物の印象は多少なりとも変わり
不真面目なヤツから『人間関係については真面目なところも在る』という評価になっている。
……まぁ今回の事で幾分か不愉快というもは霧散していったが、それでも神田という人物への嫉妬という感情は消えないだろう……なぜならば私は負けず嫌いだから―――
「あれ? アリサちゃんお弁当食べないの?」
「本当だね・・・アリサちゃん具合でも悪いの?」
なのは、すずかの順に私に疑問と心配の声が聞こえてくる
どうやら長い間さっきまでの事を考えすぎていたようだ。
「大丈夫よ、なのはにすずか私は何処も悪くないから
ただちょっと神田のヤツの事を考えていたのよ」
私はため息を吐きながらそう口にした
「神田君? 神田君って今日アリサちゃんにボールをぶつけて来た男の子だよね?」
「にゃはは・・・あれにはびっくりしたの」
すずかは人差し指を顎に置き、神田という人物を思い出しながら語り
そしてなのはは、今朝起きたことを思い出しながら苦笑いをしている。
「そうよ、すずか、その神田からボールの件で謝罪をされたのよ
真剣に謝ってくるから許したんだけど『けじめだから』って言ってきて
貸し一つということで今回の件は納まったってわけよ」
今回の件で神田がどのような対応をしてきたか説明すると
なのはとすずかは驚いた様な表情をして、互いに顔を見合わせる。
まぁその気持ちは私も解るわ、いつもの神田の授業態度とか
を見れば誰もアイツが律儀なんて認識できるわけないもの。
「ほぇ~神田君って以外と律儀な人なんだね」
「うん、それには私も同意かな? 何時も授業中とかはよく上の空って感じで
それに神田君って言葉使いが少し乱暴な時があるから、なお更意外かな?」
なのは、すずかの順に自分が思った事をそれぞれ言葉にしている。
私自身アイツに律儀さがあるのを知ったのは今日だもの、無理もないわ。
「まぁ、すずかの言うことも色々と理解できるわ、
多分アイツと関わり合いの無い人間は皆そう思うはずよ、私もその一人だったし・・・
はぁーアイツは授業態度と言葉使いの改善をすれば客観的にまだマシになるってこと
が今回の事で分かったわ・・・・少々癪だけどね」
はぁ、自分で言ってなんだけど・・・なぜ私がアイツの評価を上げるような事を口にしているのだろうか? アイツに対する私の不愉快感が消えたことよって、神田という嫌いな人物が自分の中で肯定されていくからなのだろうか?
「……解らないわ」
「ん? 解らないって、何が解らないのアリサちゃん?」
ふっと気づくとなのはが私に問いかけてくる
……どうやら知らず知らずの内に口にだしてしまったようだ。
「な、なんでも無いわ! なのは!」
「クスス・・・変なアリサちゃん」
「にゃはは、すずかちゃんの言うとおりだね」
「わ、笑うなぁー!!」
その日学校の屋上では2人の笑い声と一人の必死な叫び声が休み時間ギリギリまで響き渡った。
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「以上で伝達事項を終ります、バニングスさん号令をお願いします」
「はい、起立、礼」
「「「「ありがとうございました」」」」
号令も終わりクラスの皆は各々教室を跡にしていく
「「アリサちゃん一緒に帰ろう」」
ふと、後ろを振り向けば既に帰宅準備が完了したなのはとすずかが立っていた
「ええ、一緒に帰りましょ」
私は二人の誘いに乗り一緒に帰ることにした。
まぁ、帰ると言ってもこの後私達は塾があるから大変なのだが……
そんなことを思いながら私は二人の後に続いて教室を後にした。
いつもは鮫島に車で向かえに来てもらって、私達3人で帰ったり塾に行ったりするのだが
今日はなのはの提案で、久しぶりに歩いて塾に行くことになり今は海鳴公園を歩いている
なのは曰く、この公園を横切ると近道ということでここを歩いているのだが・・・
「どうしたのよ、なのは?」
なぜかなのはが辺りをキョロキョロと見渡しながら何か思い耽っている様である
「うーん・・・何かここ何処かで見たようッ!? アリサちゃん、すずかちゃん何か聞こえなかった!?」
人差し指を顎に重ね、唸る様に言葉を発したなのはは突然何かに驚いた様に目を見開き、私とすずかに同意を求めてくる。
私とすずかは何か聞こえるのだろうか? と耳を澄ますが……
「何にも聞こえないわよ、なのは?」
「うん、私にも聞こえないかな?」
私とすずかはどうやら聞こえなかった様である・・・いや
なのはだけにしか聞こえない、というのはもはや幻聴なのでは?
「え!? で、でも確かに『助けて』って声が・・・ッ! こっち! こっちから聞こえたの!」
「え?ちょ、ちょっとなのは!?」
「な、なのはちゃん!?」
幻聴のなのか? と疑問に思っているとなのはは突然走り出した。
なのはは150メートル位走った辺りで唐突に止まりしゃがみ込んでいる
何か見つけたのだろうか?
「どうしたのよ、なのは?」
「アリサちゃん、すずかちゃんこの子怪我してるみたいなんだけど・・・」
そう言ってなのはは自分の体を少しずらし地面に倒れ込んでいる
動物を私とすずかに見せてきた。
この動物・・・恐らくフェレットは酷く衰弱していた
「この子かなり弱ってるわね・・・」
「可哀想・・・待ってて、今私の知ってる動物病院に連絡してみるから」
すずかはフェレットの状態を見ると直に携帯を取り出し獣医の先生と電話で会話し始めた。
私となのははすずかの電話が終るまでの間フェレットを心配してそれぞれ見守っていた。
Side out アリサ
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