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形而下の神々

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ナツキ・エンドーと白い女神
  ホワイトゴッデス~白い女神~

「これはっ!!」

 テーブルの上に鎮座した白い彫刻は、美しい女神の姿をしていた。

「ホワイトゴッデスじゃないか!!」

 俺が驚いていると、老婆は更に驚きに追い打ちをかけてきた。

「あら、ご存知?これを差し上げますわ」
「い、いや、悪いですよ。彼女の置き土産なんでしょう?」

 本当は喉から手が出る程欲しいがな。

「いいえ、これは貴方の物。私はコレを彼女から、親友のナツキから預かっていただけなんだもの」
「え、じゃあ余計に悪いですよ」

 すると老婆はクスリと笑って言った。

「いいのよ、貴方達に渡す物なんですから。ナツキは言ったわ。若い考古学者と軍人さんが、私の事を聞きに来たらこれを渡してあげてってね」

「…………ッ!?」

 俺達はTV屋としてここに来ていたはずだが。
 俺たちが目を丸くしていると、老婆はさも当たり前だという風に目を細める。

「貴方達、嘘が下手よねぇ……。そちらの貴方が持ってる万年筆は、オックスフォードの考古学者さんから頂いたものでしょう?」

 老婆は俺の愛用している万年筆を指して言う。確かにそうだ、これは俺が論文でA+を頂いた時に教授がくれたものである。
 その万年筆には"Oxford University"と刻まれていた。別に隠していた訳では無いが、決して見せびらかしたりはしていなかったはず。それを目ざとく見つけた老婆に、俺は素直な感心を向けた。

「えぇ、まあ……」

「ダメよ、そんな限定品を身に付けてちゃ。私がその教授と知り合いで、更には貴方の大先輩だって事は知らなかったようね」
「えぇっ!?先生のお知り合いだったんですか!?」

 おぉ、これはこれは……まさかの大先輩だったとは。
 

「私だって、昔は優等生だったのよ?それからそっちの貴方、スーツは1着しか持ってないのね?」

 A+は貰えなかったけど。と笑顔で付け足してから今度はグランシェを指して言う。
 グランシェも痛い所を見抜かれたのかしかめっ面で答えた。

「え?あ、ハイ。普段は着ませんから……」

「そのバッヂ、ちゃんと外さないと軍人さんって丸バレよ?」

 グランシェの胸元には確かにバッヂが付いていた。金と黒を基調にした、非常に美しいバッヂだ。

「あっ、パーティーの時に招待状の代わりに貰ったまま外すの忘れてた!!」

 小さく絶叫するグランシェ。まぁコイツは元よりこんなヤツだがまさか俺まで正体がバレるとは。老婆の方が何枚か上手だった様だ。
 と、すると突然老婆はまた遠い目をして言う。

「ナツキはこんなものじゃあなかったわ」

「はい?」

 聞き返すと、彼女は可愛らしく微笑んで答えた。

「彼女の観察眼は凄まじかったわぁ~……誰の嘘だって見抜いちゃう。もしかして、警察官にでもなったのかしらね」

 そう言ってホワイトゴッデスをこちらに差し出す。


「貴方が捜しているナツキ・エンドーは知らないわ。ただ、ナツキ・シライはこれを貴方達に残した。当時、まだ産まれてもいなかった貴方達に向けてね」

 彼女の眼には闘志にも似た何かが芽生えているようだった。いや、もしかすれば俺たちが今まで気付かなかっただけなのかも知れないが。

「……有り難く頂戴致します」

「さ、貴方たちにはまだやる事があるんでしょう?」

 ポン、と背中を叩かれ、俺たちは急かされる様に部屋を出る。
 そして、俺とグランシェが部屋を後にするかしないかの時、老婆はボソリと呟いた。

「もしかしたら本当に、ナツキは魔女だったのかもしれないわね……」

 その一言が気にはなったが、俺は部屋を後にした。





 部屋に帰ってから、老婆に貰った謎のホワイトゴッデスを眺めてみると不思議な点が幾つかあった。


 白い女神像とは言うが、ホワイトゴッデスは他の女神像とは違い手乗りサイズの小さい物が主流だ。そのため体は二等身であり、精巧なつくりではない。
 ちょうど日本で言う千羽鶴の様に、願掛け的な贈り物として用いられたのではないかと俺は推測している。

 女性の特徴として、乳房は男性と区別出来る程度には作られているが、ダルマにも似たその作りでは大した物でもない。見る人が見れば素晴らしい代物だが、何も知らない者からすればただの白い石ころ同然なのだ。


 ただ今回手渡されたホワイトゴッデスは、一瞬本当にホワイトゴッデスなのかと疑う程の精巧な作りになっていた。


 その身体に纏う薄いベールのシワは布の質感を見事に再現していて、キトンか何かで出来ているように思える。更には細く作られた長い髪の流れはとても自然で、葉っぱの形をした髪飾りがしてあった。
 凛々しく母性的な表情を浮かべた顔にはうっすらとした微笑みすら見て取れ、まさしく女神といった感じが漂いとても美しい。

 そして何より驚きなのはそれがニ等身でないことだ。

 スッと美しく伸びたその素足は息を呑むほど精巧に作られていて、しかも当時の人間とは思えないほどにスタイルは抜群だった。
 当時の造型技術ではたしてこれ程の物が作れたのだろうか。


「まるでモデルさんみたいだな」

 グランシェが呟いた。

「モデルかぁ……」

 俺は少しその言葉が脳裏に残る。何か見落としている。そんな気がするんだ。するとよほど暇なのか、またしつこくグランシェが言った。

「凄い綺麗だな、これをモデルに別な作品が作れそうなくらいだ」

「それだぁっ!!」
「うぇっ!? 何がだ!?」

 モデル。俺はその言葉にハッと閃きを感じた。

 ホワイトゴッデスは要は実在しない女神を象ったものだ。だからあやふやな石像が出来上がる。しかし今度のは全く違い、かなりの完成度なのだ。
 それはすなわち……。

「この石像にはモデルが居たんだよ!! 今までのモノは全て、実在しない女神を象った、いわば想像上の生物みたいなもんだ!!」

 だが、今回のは違う。確実に見える、感じられるモデルが居たんだ。例えば、白い女神の宗教。彼らの信じた思想の……。

「女性教祖……」

 宗教ならその教えを伝える人間が居る。この小さな白い女神像はその教祖を象ったものなのかもしれない。しかし、その女神像が遠藤菜月、もとい白井菜月に似ているなんて事はなかった。


 似てたら似てたで気色悪い気もするが……。


「なぁタイチ……」
「あぁ?何だよ?」

 と、今度はグランシェがなにやら閃いた様子で話しかけてくる。

「コレって、すげぇ発見なんじゃないの?」
「……まぁ、確かに今までにないタイプだけどな」

 何が言いたいのかよく分からんが、確かに凄いと言えば凄い。
 が、グランシェは何か別の事が言いたかったようで、煩わしそうに再び口を開く。

「いや、そうゆうんじゃなくてさ。
戦争の時だってそうなんだが、手の込んだ武器や仕掛け、有能なアイテムや兵隊は攻めに出すよりも守り、特に主要な場所や物を守る為に使うんだ」
「……何が言いたい?」

「だから、そういう手の込んだ作品って優秀な作品なんだろ?
だったら、その白い女神の宗教とやらの中枢に近い場所に置くんじゃないの?」

 いや、俺は戦闘の専門家であって宗教は考古学はわかんないけどね。
 グランシェはそう付け加えたが、確かに彼の言う通りだった。

 ヤツは正しい。もしかしたらこの小さな白い女神像は今まで発見されていなかった白い女神の宗教の中枢を担う場所に贈られたものかも知れない。
 そうなるとこいつはもの凄い事だ。もしかすると、宗教だけでなくドナウ文明の証拠すら発見できる可能性があるのだからな。
 この石の年代と種類を調べれば作られた場所が分かるだろう。発掘記録からは、もしかしたらこの宗教の中枢であった場所が分かるかも知れない。

 そしてその先には……遠藤菜月が居るのかも知れない……。


 俺の興味は昔っから白い女神の宗教とドナウ川流域の文明にのみ向いていたが今は少し違った。意味のわからないモノには昔から興味をそそられるのだ。

 遠藤菜月の正体を暴いてみたい。

 俺の中で緩やかに、しかし確実に硬くその思いは募り、固まっていった。 
 

 
後書き
 まいどご愛読ありがとうございます。
 ココに出て来る「白い女神」などの宗教的なお話は、半分は元ネタのあるフィクションなのであまり信じないでください。
 この後にも、何の科学的根拠もないような現象が僕の推論だけでガンガン起こります。
 一応、現象の説明も分かりやすく説明する事がありますが、間違ってる時もありますので丸々は信用しないでください。

 ……なんかすいません(汗)


 ──2013年04月17日、記。 
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