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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
番外編:バトル・ロワイアル
  番外編 第五話 Bブロック予選

 
前書き
お久しぶりです!
やっと更新しましたBブロック予選、今回もどんでん返しで行きます! 

 
 ホークはため息をついた。
「お前、なんで開始直前にため息なんてついてんだよ。士気が下がるじゃねえか」
 斧を持った巨人、エギルの問いかけに、ホークはやはりため息混じりで答える。
「俺、ほんとなら特等席でのんびりとこの戦いを見てるはずだったんだよ。ったく、なんでこんなことに……」
 不満たらたらのホークを、ユカが非難するように軽く睨んだ。
「あんた自分でエントリーしたんでしょ? シャキッとしなさいよ」
「違うよっ! 師匠が勝手にエントリーしてきたんだ! あーもう、師匠も師匠だが、ヒースクリフもヒースクリフだ、全く。なんで本人以外のエントリーを安々と受け入れてんだか」
「師匠って……あー、あのアルゴね。あの人ならやりかねないわ……」
「だろ? なんで勝手にエントリーしたのかって聞いたらなんて答えたと思う? 『その情報は1000コルだナー』だってよ!? くそ、信じられない」
「あはは……。1000コルって、このバトロワの一般席が買えるじゃないの……」
 ここまで聞くと、ユカはもう苦笑いしかできなかった。エギルも呆れて、「信じられねえぜ」とでも言いたげに大げさに肩をすくめてみせる。
 よほど腹をたてているのだろう、ホークの語りはまだ続く。
「流石にむかついたから1000コル払ってやったよ、そうしたらな、師匠、『情報屋として、最前線のプレイヤーたちの実力は知っておかなきゃいけないダロ? でもナ、見てるだけじゃ実際の強さなんて分からなイ。比べる対象がいないもんナ。おれっちがエントリーしてパパッと調べて来てもいーんだガ、戦闘はター君の方が得意じゃないカ。つーわけで、おれっちは特等席でター君と他のプレイヤーの激戦を見ててやるから、しっかり戦ってくるんだゾー』だってよ! くそ、師匠が俺に仕事を依頼してるようなもんじゃないか! なんで依頼される側が1000コルも払わなきゃいけないんだ! しかも特等席の席代出したのも俺だぞ!?」
 激高しているホークの頭上のカウントダウンが0になり、【Battle Start!】の表示が中に踊った。

「だから俺は何が何でも決勝戦に進んで賞金を手にしてやる! ついでに賞品もゲットして師匠への土産にして、今度こそ師匠にぎゃふんと言わせてやるんだ! このまま1000コル取られ損なんてぜったい嫌だからな、覚悟しろ!」
 ホークの叫び声とほぼ同時に、アスナのアナウンスが響いた。
「時間です! 戦闘……開始!」

 激しく啖呵を切ったホークは、しかし開始と同時にハイディングを行い、その場から消え失せた。発言に行動が伴っていない気がするが、情報屋の戦いはハイディングが常である。
 ホークの《隠蔽(ハイディング)》スキルの熟練度がいくら高いとはいえ、ユカも一対一の戦いなら《聞き耳》スキルと《索敵》スキルでホークを見つけ出すことができる。しかし、エギルが突っ込んでくるこの状況では、とりあえずホークのことは置いておいてエギルから距離をおくことを考えたほうが良さそうだ。エギルの両手斧は攻撃力が非常に高く、もしその射程内に捉えられたら逃げ出す前にHPを削られることは想像に難くない。
 素早く計算を働かせたユカは、とりあえず《軽業》スキルでエギルの突進スキルからの回避を試みた。エギルは筋力値極振り型の戦士なので、突進の速度はそれほど速くない。地を蹴って進む初速度だけは速いが、長距離を突進スキルで埋めることはできず、その斧は空振りで終わった。
 今度はユカの反撃である。右手から毒を持った短剣が飛び、エギルの右肩を掠めて突き抜けていった。次々と飛ぶ短剣に、しかしエギルは動揺する様子もない。事前に対毒ポーションでも飲んでいたのか、毒はことごとく不発に終わった。そりゃそうよね、と彼女は内心でつぶやく。彼女がエギルのバトルスタイルをよく知っているように、彼も彼女のバトルスタイルを知っていて当然だ。対策を取るのは当然といえる。

 しかし、彼女はエギルを挟んで反対側から駆け寄ってくる一人の足音を聞き逃してはいなかった。
 ユカに気を取られていたエギルの背を、ホークの左手のソードブレイカーが切り裂き、更に回し蹴りが装備から露出した右腕を抉る。見事にクリーンヒットを決めたホークは、またすぐにハイディングを発動し、背景に溶けるように消えていった。
 エギルは思いがけない攻撃を喰らったにも関わらず全く動じてはいなかった。それもそのはず、彼のHPゲージは一割も減っていない。あまり知られていないことだが、槍を除く両手武器の中級スキルMODには、最大HPをブーストするという、他の武器種にはないものが存在するのだ。彼らが重鎧を纏わずとも、隙の大きい両手武器を満足に扱える理由は、そのHPの量に裏付けられた絶対的な自信が存在するからだ。多少のHPの減少は全くもって問題にはならない。

 情報屋であるホークはもちろん最大HPをブーストするスキルMODの存在も承知していたし、自分の攻撃ではろくにHPを減らせないことも承知していた。彼の狙いは他にあったのだ。
 エギルはちらりと自分のHPバーの下に表示されたバフ欄に視線を送り、内心で舌打ちをした。事前に飲んでおいた対毒ポーションと対麻痺毒ポーションの効果時間が急激に減少しているのを確認したのだ。
 対各種異常状態用のポーションは、対応する異常状態の攻撃を防ぐ度にその効果時間が減少するという特性を持っている。ユカのような投剣による攻撃の場合は高レベルの異常状態を防いでも大して減少しないのだが、直接斬りつけられたりした場合は話が別だ。状態異常を与える時間が長いぶん、よりたくさん効果時間を減らされてしまう。
 エギルはユカのバトルスタイルはよく知っていたが、ホークのバトルスタイルを知らなかったため、状態異常持ちの短剣で直接斬りつけられることに対して対策をとっていなかったのだ。ユカの攻撃に対応できるよう軽装で臨んだのが間違いであった。斬撃を防ぐならせめて金属製の鎖帷子などを装備しておくべきだった。

 エギルの動揺を見逃すユカではなかった。今度は麻痺毒を仕込ませた短剣を数本、ポーチから抜き出し、間髪入れず投げつける。エギルはそれを両手斧でガードした。ユカは取り出した分を全て投げ終わると、とりあえず残弾数を補充するためにメインメニューを開いた。もちろんエギルからは十分に距離を取っていて、たとえ最上級の突進スキルを利用してもユカの位置に来る前に回避ができる。またホークの接近は《聞き耳》スキルで確認できる。そう踏んだ上での行動だった。

 しかし、その油断が隙となった。ウィンドウに目を落としたユカは、嫌な予感に一瞬だけ視線を上げ、こちらに向かって一直線に飛んでくる両手斧を発見して思わず悲鳴を上げた。
 投擲スキル。《投剣》スキルの中級MODで、複雑なスキルツリーの奥深くに存在する、かなり特殊なスキルだ。動かすことのできるありとあらゆる物体、サンドウィッチから両手斧、果てにはプレイヤーまで、筋力値が許す限り持ち上げられるものならなんでも、投剣のように投げ飛ばせるというスキルである。エギルは基本的にはまさにピュアファイターなのだが、筋力値よりのプレイヤー故に逃走する隙を作るのが難しい。逃走時に意外と投剣スキルに頼る場面が多く、熟練度も400に到達するくらいには使っていたため、こんなMODも取得していたわけだ。
 即座に後ろに跳んだユカだが、右足から下をバッサリと斬り飛ばされ、HPも一気に三割ほど減ってしまった。部位欠損により立ち上がることができないユカは、補充した麻痺毒入り短剣を投げて牽制する。投擲して武器を失くしたエギルはそれらを避けつつ、ユカにとどめを刺すために近寄っていくが、ここで敏捷性の低さが裏目に出て、思った以上に短剣を喰らってしまった。対麻痺毒ポーションの効果が切れ、たちまちのうちに麻痺に陥ってしまう。

 さて、これでエギルとユカの両者が両方とも動けなくなってしまった。ホークはとりあえず部位欠損で動けないユカを置いておいて、解毒結晶ですぐに動けるようになるはずのエギルを先に倒すことにした。うまく動かない左腕でポーチをまさぐっていたエギルは、ホークの姿を認めて思わず苦笑した。
「お前、ずりいぞ」
「何言ってんだか。ハイディングの対策をしてないアンタが悪い」
「へへ、そうかよ。しゃあねえな、この試合は俺の負けだ」
 参ったよ、とエギルは呟いた。

「プレイヤー『エギル』の敗北宣言を確認した。直ちに退場したまえ」
 ヒースクリフのアナウンスにぼやきながら、エギルはとぼとぼと競技場を後にした。

 エギルが退場し、競技場内にはホークとユカのみが残された。ユカは部位欠損で相変わらず動けない状況だが、先ほどホークとエギルが話している隙に、持ってきた全ての短剣をオブジェクト化して自分の周囲に積み上げておいたため、彼女は現在武器に囲まれて要塞状態となっている。対するホークは投剣スキルを習得していないため、ユカに攻撃するには近寄るしかない状態だ。しかし迂闊に近寄ろうものなら、麻痺と貫通ダメージですぐに負けてしまうだろう。どちらも動けず、二人は睨み合ったまま静止した。

 五分が経過した。観客も静まり返り、二人の戦況を見守っている。ユカがちらりとHPゲージを確認し、部位欠損が回復する時間が迫っていることを確認するのと同時に、ホークが地を蹴った。
 ホークの鍛え上げた敏捷性のおかげで、二人の間がどんどん詰まっていく。両手で次々と短剣を投げるユカだが、ホークは先ほど彼女がエギルに短剣を投げた時の投げ方を見て、その癖を見切っていた。まるでどの位置に短剣が飛んでくるのか知っているかのようにそれらの短剣のほとんどを回避していく。それでもユカが放った十数本の短剣のうち、三本がホークの身体に突き刺さった。HPゲージの下にダメージ毒を示すアイコンが明滅する。二人の間があと10メートルほどに迫った時、ホークは自分の左腕付近に飛来する、緑色の麻痺毒に刀身を濡らす短剣を見た。

 刺さった、とユカは確信した。そしてその短剣は確かに左腕に突き刺さっていた。しかし、ホークの左腕ではなく、ユカの左腕に。
 ホークは、避けられない短剣を自らの短剣で斬り飛ばし、ピッチャー返しの如くユカに向けて放ったのだ。投剣スキルを持たないホークの、最後の手段だった。

 オーディエンスの歓声の中、ホークは倒れ伏したユカに歩み寄った。
「ずるいわよ」
 部位欠損からは回復したものの、今度は麻痺で動けないユカは息も絶え絶えといった様子で呟く。
「それ、エギルにも言われた」
「やるわね、アンタ」
「そりゃどうも。1000コルの恨みは怖いって覚えておくといいさ」
「1000コルの恨みかあ。ふふっ、バカねえ」
「バカで結構。あのさ、俺が毒で負ける前に降参してくれると助かるんだけど」
「嫌よ」
「それは残念だね」
 ホークは心底嫌そうに短剣を振り上げた。


「プレイヤー『ユカ』のHP半損を確認した。プレイヤー『ホーク』、決勝進出が確定。次の試合が始まるため、選手諸君はすみやかに退場したまえ」 
 

 
後書き
ど……どうしてこうなった……。
当初の予定ではユカさんが勝つはずだったのに、書いていたらなぜかホークさんが勝ってしまいました。ああもう、決勝戦がみんな接近戦キャラになっちゃうじゃないか! 予定が狂いっぱなしだ……orz

というわけでみなさん、次回は私のオリジナルキャラ二人+原作キャラというなんとも見応えのないCブロック戦ですので、説明回にしてしまいます。今まで一度も抜かなかったミズキの剣が活躍するかもしれない回です。コラボキャラは出てこないので、あまり期待しないでお待ちください。 
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