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緋弾のアリア 同居人は旅の魔法使い?

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第0弾 『あんた、アタシのドレイになりなさい!!』

「起きろキンジ、朝だ」

「…………おぉ?」

上から掛けられた声に、ベッドで熟睡していた青年……遠山
とおやま
キンジは目を覚ました。といっても、半覚醒くらいだろうか。
のっそりと動き、枕元の携帯を見ると、時刻は朝7時を示していた。チラリ、と自分を起こして来た同居人を見て、キンジはちょっとした愚痴を言う。

「なんだよジャンヌ、まだ7時じゃねぇか……」

「“もう”7時なのだがな。それより、そろそろ来る頃だぞ」

誰がだよ。そう訊くより速く、ピン、ポーン……と言う非常に慎ましいチャイムが鳴る。慎ましいが、キンジにとっては非常に嫌な予感がしてならない。

「まぁ、私が出て置くから、さっさと着替えて来るのだな」

正直行きたくない、と言うキンジの心境を知ってか知らずか――確実に前者だとキンジは思うが――エプロンに手に持ったお玉、そのお玉をヒュンヒュン回して彼の部屋から立ち去るジャンヌ。

そうしてトテトテと玄関へ向かい迷う事なく、ガチャリとその扉を開けた。

「待たせたな、白雪」

「あ、ジャンヌさん!!」

「済まないな、キンジもすぐに起きてくる筈だ。入っていてくれ」

純白のブラウスに、臙脂色の襟とスカート。シミ一つ無いそれに、長い艶のある前髪パッツンの黒髪。紛れもなく美人な彼女は、星伽
ほとぎ
白雪
しらゆき
だ。

ジャンヌの言葉に深くお辞儀をしてから玄関に上がり、脱いだシューズもしっかりと揃える。手に持ったお弁当は、朝早くからキンジの為に作って来たのだろう。

まさに、大和撫子と言う言葉が似合いそうな女性だった。

(……まぁ、キンジのこと以外ではな)

一人、それを口に出す事なく呟くジャンヌは、外見はかなり美人だ。その綺麗な銀髪を2本の三つ編みにし、つむじの辺りで結った、腰まで届くロングストレートの髪型。サファイアブルーの瞳は、濁りが無く美しく――まぁ、ジャンヌは紛れもない“男”なのだが。そう、男だ。大事なことなので三回言うが、彼は男である。

三回言ったが、今は特に関係ないので深くは突っ込まない。キンジに会ったのだろう、彼と白雪の話し声が聞こえて来た為、キンジの事は白雪に任せ、ジャンヌはキンジの部屋に再び向かった。

そうして、ぐちゃぐちゃのシーツと布団をキッチリ整え、ついでに彼の部屋をさらっと掃除し、朝ご飯を食べているであろうキンジの下へ行くと――

「ご、ごちそうさまっ!!」

――何故か焦った様子で逃げるように立つキンジに、深々かぁーーと三つ指をつく白雪。その光景を見て、キンジの“事情”を知っているジャンヌは何となく理解した。

そして、洗い物をする白雪から離れたキンジにゆっくり近づき、一言。

「今日の下着の色は、なんだった?」

「今日は黒――って、何を言わせる気だお前はっ!?」

キンジの叫びもなんのその、ジャンヌは平然と――そうか、ギャップがあって良いじゃないか、なんてセクハラ発言をやらかす。ただ、キンジをからかう為の物だったのか、特に引っ張る事も無くすぐに話を変える。

「そうそう今日の占い、お前の運勢は最悪だったぞ……恋愛運以外はな」

「……なんだ? その含みを持たせた様な言い方は」

「ふふっ、そこで私から“勘”を一つやろう」

フフン、と彼が男だと知らなければ思わず見惚れてしまう様な笑みを浮かべるジャンヌ。が、当然ながら同居人のキンジは彼の性別を知っているので、特に何も思わない。ただ、軽く詐欺だよな、とは密かに思っていたりはするが。

「今日、お前は女性との運命の出逢いを果たすだろう。それこそキンジ、お前の人生を変える様な出逢いを……な」

ピシッ、と指を突き付け得意げに語るジャンヌに、その時のキンジは信じる事なく、馬鹿馬鹿しい……と当たり前のように一蹴した。

だが――その事を、キンジはこの瞬間何故か思い出していた。そして言いたい――

空へとさらわれた彼の顔は、空から降ってきた少女の下っ腹に押しつけられて……その瞬間、二人は閃光と轟音、そして熱風に吹き飛ばされた。

ジャンヌ、一つ聞く――空から女の子が降って来るのが、運命の出逢いなのか?

きっと、困った笑みでこう返ってくるだろう――お前にとっての女難の中身までは、流石に予想できないな、と。









緋弾のアリア 同居人は旅の魔法使い?

第0弾 『あんた、アタシのドレイになりなさい!!』









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「――私の勘以外は、ほんの冗談だったのだが。本当に運勢最悪だったらしいな」

「……あぁ」

そう言ったジャンヌの呆れ気味の視線の先には、ソファーに突っ伏して弱々しく反応するキンジ。もう、疲れ果てた……と言う感じの彼だが、話を聞く限り確実に疲れているのだろう。

まず、彼の不幸はバスに乗り遅れた事だろう。その所為で“武偵殺し(ぶていごろし)”――その模倣犯の、世にも珍しチャリジャックに遭ってしまったのだから。

「だから私は言ったのだ、遅刻するからさっさと行け……とな」

「返す言葉も無い……」

ジャンヌの言葉も無視し、PCのメールをダラダラと確認していた所為で、彼はバスに乗り遅れチャリで通学したのだが……そのチャリには止まると爆発する爆弾に、併走するセグウェイにはUZI
ウージー
――簡単に言うと、短機関銃
サブマシンガン
と言う、ものの見事な『チャリジャック』に遭遇した訳だ。

「ま、ヒステリアのお前なら未だしも、普段のお前には些かキツい状況だな」

――ヒステリア・サヴァン・シンドローム。キンジ曰く『ヒステリアモード』のそれは、論理的思考力、判断力、反射神経までもが飛躍的に上昇する、一言で言うとスーパーモードだ。ただ、その発動条件が問題で、恋愛時脳内物質――ぶっちゃけて言うと“性的興奮”がトリガーとなって発動するのだ。

そして、キンジはこのヒステリアモードを嫌っており、特に女性に見せる事を頑なに拒む。

――ジャンヌとしては、いつものキンジとヒステリアのキンジ、どちらも変わらぬ親友兼同居人なのだが。

「で、さらに最悪なのが、助けてもらった女性にヒステリアモードを見せてしまい、誤解から交戦までしてしまった……と」

「い、今さらながら、改めて最悪だ……」

いろいろと省くが、チャリジャックを空から降ってきた女の子に助けてもらい、そこから武偵殺しの機械
オモチャ
と交戦し、なんだかんだヒステリアモードになったキンジがそれを瞬殺。何故かそこから誤解で、拳銃をブッ放しポン刀(日本刀)をぶん回す女の子と交戦。女の子はかなりの実力だったが、ヒステリアモードだったキンジは難なくそれをあしらった……と言う感じだろうか。

ちなみに、武偵殺しに関しては鑑識科
レピア
がセグウェイの回収し、探偵科
インケスタ
も調査を始めている。しかし、そんな事が日常茶飯事の武偵高では、殺人未遂“程度”の事は流されてしまうのが常だったりする。

そしてそこからさらにさらに。

「仕舞いには、その女の子がお前のクラスに転入。トドメにお前の隣を所望し、恋愛はくだらない発言に風穴宣言……か」

「唯一の救いは、俺のヒステリアモードに気が付いていない事だな……」

呟くキンジの顔色は相変わらず悪いが、少し救われたと言う表情も含まれている。まぁ、気が付かれていたら、こんなにノンビリはしていないであろう。

「しかし、神崎・H・アリア――双剣双銃
カドラ
のアリア。また、随分と厄介な者に絡まれたな、キンジ」

「知ってるのか!?」

「まぁ有名人だからな。お前より武偵高の事情に詳しい私なら、知っていて当然だろう?」

なんで武偵高所属のキンジより、ジャンヌの方が詳しいかは突っ込まないで於こう。

ふむ、とジャンヌは顎に手を当て考える。双剣双銃
カドラ
のアリア――成程、キンジを“監視”して尾

けていた視線はその所為か、と。彼女の知り合いに、それを可能にする人物もいる。

――となると、そろそろか。

「キンジ、お前に客だ」

ピンポンピンポーン。

「はぁ? なんで俺だって……」

ピポピポピポピポピピピピピピピピピピピピピンポーン!!

「――あー!! うっせぇな!!」

もはや悪戯かと思う程に、連打されるチャイムに業を煮やしたキンジが、疲れた様子で玄関へ歩いて行く。普段はジャンヌが出てくれるのだが、そのジャンヌが自分に客だと言っているので自分が出るしかない。

――で、数秒後にはキンジと“女の子”のやり取りが聞こえた訳ですが。暫くすると、なにやら足音がリビングに聞こえ、一人の少女が姿を現した。

「ん? あんたがこの部屋の同居人?」

ソファーに座るジャンヌを見た、噂の少女の一言目がそれだった。ピンクのツインテールに、高校生とは思えない小さな体型。そして瞳はジャンヌとは対照的な、赤紫
カメリア
色。

この人物が、噂の神崎・H・アリア。冷静に観察しながらも、それをおくびにも出さずに、にっこりと笑い挨拶をした。

「あぁ、初めまして神崎・H・アリア。私の事はジャンヌ……とでも呼んでくれ。キンジから話は聞いている、コーヒーでも出そう。ゆっくりしていって構わない」

「えぇ。そうさせて貰うわ」

ちゃっかり同居人から入室許可を貰ったアリアは、彼女のトランクを玄関に引き摺り入れたキンジには目もくれず、部屋の様子を窺う。そうしてバルコニーの前、夕日が差し込む窓の前で立ち止まったアリアが、クルリとキンジに振り返り――

「――キンジ。あんた、アタシのドレイになりなさい!!」

そう、高々に、ズビシィっと宣言した。それにキンジは――まぁ当たり前のように呆れ果て……と言うより、呆然とした表情になり、彼の後ろでコーヒーを準備しに行こうとしていたジャンヌが、少し振り向き、得意げな笑みを浮かべて、言った。

「――ほらな、ある意味『運命の出逢い』だろう?」

もし、キンジがその言葉をしっかりと聞いていたならば……きっと、そんな迷惑な運命いらねぇよ……とでも言った事だろう。

これは、武偵『遠山キンジ』とその同居人『ジャンヌ』が他の人物と共に紡ぎだす、歪んだ物語の――始まりだった。 
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