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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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レベル4 めぐろ の いもうと
  第1話 飛行船




牧石は、上空から下の景色を眺めていた。
眼下のサイキックシティは、多くの建物と、自然が調和しながら共存していた。

元兵庫県北部地域に存在する、サイキックシティは、1990年代前半に都市開発が始まった。
それから20年近く経過し、今では関西でも大阪市に次ぐ都市に成長している。

それにもかかわらず、自然との調和のとれた都市の姿となっているのは、都市開発を財政面で支えた森原財閥の影響があった。

超能力という、当時は全く解明されていない能力に対して、森原財閥当主であった森原無量(もりはらむりょう)は全面的に支援をした。

森原は、当時当選したばかりの国会議員を支援し、都市開発計画を推進するとともに、自身の子会社である森原都市開発が、広大な用地を取得した。


バブル崩壊後において、大規模な用地取得にばく進する森原に対して、周囲の視線は懐疑的なものだった。
森原に対する評価が一変したのが、グルーが予言した地震の情報を信じて、森原が被災予定地に全面的な支援を行ったことによる。

森原が行った数々の支援により、森原への支持や超能力への期待につながり、都市計画は順調に進んでいった。

その後、紆余曲折があり、森原も死んだが、森原が残した計画は実施され続けた。

森原の計画は多少修正されてはいるが、予知能力を使用していたからなのか、科学と自然の調和が図られたものになっている。
そもそも、バランスとは超能力の世界において宇宙の……

「ねえ、牧石。
飛行船の中で、どうして夏休みのレポートを考えているの?」
牧石は、かわいらしいけど、生意気な声を発する少女の声に反応して振り向いた。

見た目は小学校高学年くらいで、
「牧石、あたしは中一よ」

ショートヘアの少し明るめの髪型で、
「牧石、クールボブくらい覚えときなさい」

顔は、
「牧石、人の顔をじろじろ見ない。
だからといって、からだをじろじろ見るなら殴るわよ」
「了解です」
牧石は、疲れた顔でうなずく。

「牧石には、あたしみたいなかわいい女の子と一緒に飛行船に遊覧できる機会などないから、素直に喜びなさい!」
「わーい、うれしいな」
「牧石、せめて口に出す言葉のイントネーションくらいは、喜びを示しなさいよ!」

牧石は、目の前の女の子に対する反論の言葉を考えながら、今日の出来事を思い出していた。



牧石は、終業式から自室にもどると、携帯電話からサイレベルがレベルアップしたとの通知が来た。
牧石は、何かをした覚えはなかったが、樫倉に触れたときに能力を行使したことを思い出した。

レベルアップを確認した、牧石はこれからの事を考えた。

まずは、住居についてである。

牧石は、今まで研究所内で生活していたが、研究のためという理由があったからで、牧石を使用した研究が中止された現在、牧石が研究所で寝泊まりする必要性は全くない。

牧石も、保護者である磯嶋が休暇で不在となったことから、研究所の職員から受ける厳しい視線に疲れを感じていた。

牧石を胃袋の面で支えていた小早川さんからも、
「さすがに、今の状態で、これまでどおり、無料で食べさせてあげることはできないわ」
と、申し訳なさそうな顔をしていた。


牧石も、研究所を出る時が来たと考え、牧石の通う高校が斡旋しているワンルームマンションに引っ越すことにした。

牧石は未成年で、保護者である磯嶋がいなかったが、学校が身分を保障してくれたので、すぐに借りることができた。

牧石の引っ越し作業も、すぐに終わった。
研究所から近いこと、もともとの荷物の量が少なかったことから、研究所から借りた台車を2往復させただけで、牧石の引っ越しは終わった。

牧石は、磯嶋に報告したかったが、メールも電話もつながらないため、研究室に世話になったお礼と、新しい住所について書き置きをした。


牧石は、引っ越しをした先のワンルームマンションでこれからの事を考えていた。
超能力の基本的なトレーニングは、携帯電話にインストールしたアプリケーションで対応できるのだが、これまでのような成長を望むことはできないと、牧石は考えていた。

かといって、研究所に入り浸ることもできない。
目黒や福西、迫川が研究所に通っているのは月に一度であり、それも訓練が目的ではなく、超能力の測定が目的であった。

牧石は、自分が急に研究対象からはずれた理由がわからなかったが、元の世界に戻るためには、さらなるレベルアップが必要となる。

幸いレベル6に到達するには、あと2レベルとなっており、訓練方法さえ間違えなければ、問題なく到達するだろう。
あの神様の言葉が正しければ。



牧石は、いろいろ考えた結果、何も思い浮かべることなく、今日を迎えた。
今日は、目黒たちと遊園地で遊ぶことになっていた。
だが、遊園地で遊ぶ計画は、牧石が考えていたものと大きく違っていた。


牧石は、待ち合わせ場所に滝山マリヤの姿を確認した。
牧石は、滝山を実際に目にするのは初めてであったが、クラスメイトから伝え聞いた情報や、ポスターに掲示された写真を見たことがあったことから、見間違えることはなかった。

牧石は、制服姿ではなく白のワンピースに麦わら帽子という、いかにも令嬢らしい姿の滝山を眺めながら、ポスターに掲示された滝山よりも実物の滝山のほうが魅力にあふれていると、牧石は思った。

そして、牧石に対していらだちの視線が向けられていることに気づく。
それは、いつも以上に気合いを入れておめかしをした、樫倉からの視線だった。
「牧石、何を考えているの!」
樫倉には、テレパシーの能力はなかったが、おそらく、そのような意味のメッセージを送っているのだろうと牧石は思った。

「目黒よ、なぜ滝山さんがここにいる?」
牧石は、滝山と一緒になって会話をしている目黒を問いただす。

「それはだな、……」
「牧石よ、どうして目黒に質問するのだ?」
目黒が答えを言う前に、迫川と一緒に登場した福西が、牧石に質問する。

「?」
「その質問は、滝山さん本人に聞くべきではないのかね?」
福西は、まじめな表情で答える。
「え、えっと……」
牧石は初対面の滝山さんへ質問しようとしたが、緊張のあまり言葉が出ない。
そんな牧石を助けてくれたのは、
「マリヤからの話では、寂しそうに俺が遊園地のことを話していたから、日頃の感謝の気持ちを込めてついてきた、ということらしいのだが……」
という、目黒が何ともいえない表情をしながら回答し、滝山はうれしそうに頷いた。

「なるほど……」
福西は納得し、

「良かったね、修司くん」
と、迫川は心の底から目黒を応援し、

「……」
樫倉は、「せっかく楽しみにしていたのに、横から獲物を奪うつもりなの」という視線を、滝山に向けてとき放ち、

「このメンバーで、僕がひとりぼっちになったら、間違いなく泣ける自信がある……」
と、牧石は確信する。



それでも、牧石は自分が提案した事を自覚していたので、全員に視線を移しながら、
「集合時間より少し早いが、全員がそろったので……」

出発しようという言葉を、遮るような大きな声が牧石の背後から聞こえた。
「ごめーん、まった~」
と、言いながら、こちらに駆け寄ってきた女の子がいた。

メンバー全員が、
「誰この子?」
という、表情をするなかで、
「・・・・・・真惟(まい)、どうしてここにいる?」
目黒だけは、少し困ったような表情をしながら、女の子に質問する。

「あたしは、お兄ちゃんについてきたのだ」
女の子は、そう宣言すると目黒の腕にからみつく。
「真惟よ。
俺が出かけるときに、『ついてくるなよ、絶対についてくるなよ!』と、言ったはずだが?」
「うん、それって『ついて来い!』という意味だよね、お兄ちゃん!」

この世界でも、あの三人組のお笑い芸人達の人気は高かった。

「俺は芸人じゃない。
それに真惟よ、暑いから離れてくれ。
あと、みんなを前にして言うべき事があるだろう」
目黒は、からみついてきた女の子の腕をふりほどくと、女の子の頭に左手を乗せて、手を広げた右手を牧石達に向けて左から右へ動かす。

「黒井真惟(くろい まい)です。
お兄ちゃん共々、よろしくお願いします」
女の子は、「ぺこり」という擬音が出そうなお辞儀をした。


「……ああ、よろしく」
牧石は、返事を返しながら、
「黒井?」
と思わず口に出した。

と、同時に牧石はかつて目黒から自分の置かれた家庭環境が複雑であることを一度聞かされたことを思い出し、後悔した。

が、黒井真惟はうれしそうな表情で、
「だから、お兄ちゃんでありながら、結婚もできるのよ、牧石さん」
と、返事を返す。

だが、牧石は黒井の返事が自分に対して行われたものではないことを知る。
黒井が滝山と樫倉に対して、挑発的な目つきをし、それを受けた二人は「受けて立つ!」という状況であった。


「……この状況を、どうやって収拾すればいいのだよ……」
と、牧石は途方にくれていた。

迫川と福西については放っていても問題ないだろう。
すでに二人は、携帯電話から今日のイベント情報を確認しあっている。

目黒は、楽しそうな表情をしている。
どうやら、一人で遊園地という状況から逃れたことに安堵したようだ。
だが、三人に囲まれた修羅場の中心地にいることを、目黒は理解していないようだった。


牧石は、現実回避をするために、先ほど思った疑問点について、
「どうして、真惟ちゃんは、僕の名前を知っているのだ?
ああ、目黒が僕の事を話したのか?」
と、目黒に確認を求める。

「いいや」
目黒は否定し、
『牧石。
お前の心を読んだだけだ』
黒井も否定する。
「なに!」
だが、牧石は黒井から伝えられたテレパシーの内容に驚愕する。

『牧石、騒ぐな。
お前の考えはわかっている。
そこの樫倉とやらの約束を果たしたいのだろう?』
「あ、ああ……」

『安心しろ、牧石。
今日は、ただの顔見せだ。
兄の前で、ガツガツする姿を見せるつもりはない』
黒井は、牧石を諭すようにメッセージを送ったが、
「そ、そうですか」
牧石は黒井に、不安そうな表情を向ける。

『だから、感謝しろ牧石』
黒井は、目黒に向き直ると、
「今日が期限の飛行船のペア優待券をもらったので、お兄ちゃんといきたかったんだ。
ごめんねお兄ちゃん」
黒井は、少しだけ困った表情で目黒に謝る。
「なんだ、それなら前もって教えてくれたら……」

「券は、昨日もらったから」
「そうか」
目黒は黒井が言った言葉に、頷いた。

「でも、お兄ちゃんとじゃないのは残念だけど、余っているこの人を借りるね」
黒井は目黒を捕まえる。

周囲は、突然の黒井の行動に困惑する。
「え、ええっと?」
「それでは、みなさん楽しんでください」

牧石は、黒井に背中を押されるように、近くの飛行船乗り場に向かっていった。
「牧石、真惟を頼んだぞ!」
と、目黒が叫んでいた。


「……、まさかあんなに高いとは」
牧石は、乗船料金の高さに驚いていた。
牧石のサイレベルが4にあがったことから、大幅な割引料金の適用を受けていたのだが、それでも普通の学生には払える金額ではなかった。
これまで牧石が慎ましい生活をしていた成果であった。
「優待券の話が本当だったらよかったのに……」
「牧石。
本当だったら、今日の約束をキャンセルさせたわよ。
どんな手を使ってもね」
「そうだろうねえ」

「まったく、こんなかわいい女の子とデートできるのだから、少しくらい我慢しなさい」
「はいはい」
こうして、牧石は黒井と一日を過ごした。 
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