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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第5話 超能力者が魔法世界に召喚されたようです




STAGE 1 VS 僧侶(プリースト)


草原に若い男女が、対峙していた。
少女は、男に向かって、敵意と侮蔑を掛け合わせた表情で宣告した。
「再び、私に挑むとは、愚かにも程があります。
まあ、だからこそ挑むのでしょうね」
痛烈な皮肉を投げかけられた男であるフェゾは、怒りに体を奮わすことも、屈辱に体を震わすことも、反論の為に体を振るわすこともせず、嬉しそうな表情で、少女に声を掛けた。
「貴女が女性であるかぎり、挑み続けますよ何度でも」
「知らないの?
しつこい男は嫌われることを」

少女は、天に向かって祈りを捧げる
「・・・・・・我が祈り、天に届け(ガールズプレイ)!」

だが、その祈りが天に届くよりも早く、少女はフェゾに抱きしめられる。
「!」
少女は、激しく体を左右に振るが、フェゾによりしっかり体を抱えられたことから、反撃ができない。
少女の眼前には、優しい表情のフェゾの顔が迫る、
「貴女にも良い夢を・・・・・・」

「止めて!」
少女の願いはかなわなかった。



フェゾは、自ら地面に投げ捨てたレイピアを拾い上げると、先ほど戦った、白い法衣を身にまとった少女に視線を移す。

少女は恍惚の笑みをフェゾに向けるが、フェゾの表情は冷ややかだった。
「約束通りに、夢を見せてあげました。
確かに貴女は、神に捧げられた身体でしたね。
よくわかりました」
フェゾは振り向くと、長いマントをたなびかせながら、荒野を後にした。



STAGE 2 VS 戦士(ファイター)



緑豊かな草原に二人が対峙していた。

だが、涼しい風やそこから薫るかすかな匂いなど、これから闘いに臨む二人には些事にすぎない。

「貴様が、氷の奇行師か。
ただの優男だな。
ある意味、魔王よりも質(タチ)が悪いと聞いていたが?」
自らの身体以上の大きさを誇る、大槌を振りかざしながら、息一つ切らすことなく男はフェゾに声をかける。

「鑑識眼のない相手、しかも男に語る言葉はありません」
フェゾは、レイピアを左手に構えると、呪文を唱える。

「フン!
その剣は飾りか」
男は大槌を構え直すと、フェゾに近づいていく。

「エーリヴァーガル!」
「!」
フェゾの言葉で、大槌を持つ男の足下が即座に凍り付き動けなくなる。

「ニヴルヘイムに流れる川を召喚した。
貴様には、私に触れることさえできないだろう」
「何をするかといえばこの程度、魔界の四天王を倒したワシに通用しない!」
「大粉砕!」
男は、目の前にある氷の川を、大槌で文字通り粉砕する。

「これで、ワシを妨げるものは何も無いぞ、奇行師よ」
「やれやれ、せっかく苦しまずに済ませようと思ったのに……」
フェゾはレイピアを手にしたまま、佇んでいた。
「なに、負け惜しみを言っている?」
男は、大槌を持ち上げようとして、周囲の状況の変化に気づく。
砕け散った川が再び凍り付いた上に、男の周囲に濃霧が立ちこめ始めた。

「何だこれは?」
「貴様は、何も考えずに、エーリヴァーガルを砕いてしまった。
せっかく氷に覆われた毒を自ら粉砕するとはかわいそうに……」

「ワシには、大旋風がある!
毒の霧など吹き飛ばしてやるわ!」
男は、大槌を持ち上げ振り回そうとした。
「な、なんだと……」
男がどんなに力を込めても、大槌は少しも動かなかった。

「もうすでに、貴様の身体に毒が回ったようですね。
それでは、ごきげんよう」
濃い霧により、男には輪郭しか見えないフェゾだったが、それも見えなくなってゆく。

「逃げるのか……」
男の声も、小さくなってゆく。
「ここで死ぬのか、ワシは……」
大槌を杖代わりにして、なんとか身体を支えていた男だったが、やがて力尽き倒れてしまった。



STAGE 3 VS 剣士(ソードマスター)



朽ち果てた古城は、かつての繁栄を偲ばせるものだったが、今を戦う二人の前ではただの背景に過ぎなかった。

「君が、氷の奇行師かい。
スタンを倒したと聞いたけど、あたしたち三騎士の中では最弱よ。
スタンを倒した程度で思い上がらないで」
細身の女性が、両脇から二つの剣を取り出すと、慎重に身構える。

「確かに貴女の方が強そうだ。
貴女なら、私の相手になるかもしれない」
フェゾは左手に持っていたレイピアを、城の石垣の隙間に差し込んだ。

「君の噂は知っている。
あたしを他の女と同じように思わないことね!」
細身の女性は、素早くフェゾに近づいた。
フェゾは、細身の女性の動きを素早く認識していたが、二本の剣の動きから逃れることができないでいた。

「あたしの攻撃の前では、君の得意な魔法も使えないようね」
細身の女性は、俊敏な動きでフェゾに触れさせないように動きまわると、フェゾのあちこちに剣先を当てていく。
フェゾは急所をはずしていくが、たちまちローブが血の色で染まってゆく。

「そこよ!」
細身の女性は、動きが鈍くなったフェゾにとどめの一撃を浴びせようとする。
「!」
フェゾは、その一瞬の動きを見切ると、細身の女性の懐に飛び込む。
「させるか!」
細身の女性は、左手の小剣をフェゾの腹刺そうとするが、金属音と共にはじかれる。
「小手か!」
「ご名答。
普通の攻撃だと、はじけないが。
威力が出せないこの状態だと、頼りになるのだよ。
お嬢さん」
フェゾは、反論しようとする細身の女性を封じ込めた。



「彼女でも、ないのか……」
フェゾは、突き立てていたレイピアを引き抜くと、呆然とする細身の女性と古城を後にした。



STAGE 4 VS 魔王(エルケーニヒ)



空に浮かぶ要塞。
球の上1/3を取り除いた状態で宙に浮くそれは、要塞という言葉以外に思いつくものはなかった。

「魔王の別荘にようこそ、フェゾ君。
それとも、氷の奇行師と呼んだほうがいいのかね?」
漆黒のローブを身に纏った人物が、目の前にいるフェゾに対して、低く音量のある声で問いかける。
「好きに呼べばいいさ。
それよりも、お招きにあずかり光栄ですとでも言った方が良いのかね」
フェゾは、漆黒のローブを身に纏う男にたいして、素っ気なく返事する。

「礼儀作法には疎いのでね。
正直どうでもいいよ。
まあ、我が四天王を打ち破った男を打ち破った相手を確認できれば、多少のことは目をつむるさ」

「ここは、お礼を言うべきところかな?」
「さあ、どうだろうね。
それよりも、フェゾ君のこれまでの闘いを見させてもらったよ。
なかなか、苦労をしているようだね。
よかったらフェゾ君の力になってもいいよ。
フェゾ君が戦っている理由を知っているのは、我をのぞいていないだろう?」
「好意はありがたいが、お断りする」
「そうかい、残念だね」

「君の素性を知っている、我を相手にする愚かさを悔やむがいい!」
魔王は、細長い杖をフェゾにかざすとフェゾを中心とした、円周上に火柱が発生する。
「二刀流のカレンとの闘いは見事だったよ。
こうして、身動きがとれないようにして攻撃すれば、我に近づくことはできないし、我が位置が火柱で把握できなければ、エーリヴァーガルの攻撃もできまい。
もっとも、毒の攻撃など我に通用するとは思わぬ方がいい。
なぜなら我は魔王だからだ!」


「少しは知恵が回るようだね。
でも残念。
この攻撃からは逃れられない」
フェゾはレイピアを一振りする。
「コメットフォール」

魔王は、フェゾの攻撃に対して身構えたが何も起こらないことに、失望を露わにする。
「何も起こらないではないか?
我を失望させた罪は重いぞ!」
魔王は、手にした杖を天にかざして、詠唱を始めようとした時、魔王は気づいた。
天から大きな物体が魔王の別荘に急激に近づいていることに。
そして詠唱段階に入った自分は、天体の落下から逃げる手段を失ってしまったことに。

テレポートで別荘から立ち去ったフェゾに対して、魔王は何もできなかった……。



STAGE 7 VS 科学者(サイエンティスト)



大きな町のはずれにある、寂れた街路。
道行く人など誰もいない、この場所に粉雪が静かに舞い落ちている。

粉雪により、かすかに白いものが混ざった濡れた地面の上には、闘いを迎えようとする二人の足跡しか残されていない。


「フェゾ君か。
この魔法世界においても、私がかつて生活していた世界の基準に照らしあわせても、キミの行動はあまりにも特異だ」
40を過ぎ、全身に疲労をため込んだ姿を見せている白衣を着た女性は、学術的な好奇心で目の前のフェゾに話しかける。
「貴女が、運命の人?」
フェゾは、これまでに出会った女性と変わらぬ笑みで女性に話しかける。

「だといいのだが」
女性は、自重するかのようにうっすらと笑みを浮かべると、
「20年ほど前に言われたら、頬を赤く染めたかもしれない。
10年ほど前ならば、相手の考え方をしっかりと知った上で、返事を考えたかもしれない。
5年ほど前ならば、多少の妥協と共に、差し出された言葉を受け入れたかもしれない。
時間とは残酷なものだと思わないかね?」
同意を求めるかのように、フェゾに話しかける。
「受け入れてくれないのですか?」
フェゾは少し悲しい表情を、女性に向ける。

「年寄りをからかわないで。
これまで、研究一筋で生きてきたけれど、それ以外は何も知らないお嬢さんのままという訳にはいかないわ」
「それでも、私の前に立つということは、相手をしてくれるということですね?」

「そうね。
戦いの相手なら、私でも務まるようだから」
女性は白衣のポケットから、ビー玉のようなものを地面にばらまいた。

「フェゾ君の戦いは、知っている。
私を一人の女性として認識してもらえるのなら、この戦術も使えるようね」

ビー玉のようなものは、周囲に白い煙を放ちながら巨大化していく。
「……これは?
召喚術!」
「噂に違わぬ博識ぶりだね。
君がここに現れるのを聞きつけて、招待したのさ」

「君たちは!」
「私から純潔を奪った罪は重いわ」
女性の前には、いつも身につける白い法衣の代わりに黒い法衣を纏った僧侶、レーシャがいた。

「君を倒すために、KATANAの代わりに魔剣を入手したわ。
あたしが受けた屈辱を晴らすために!」
レーシャの右隣には、まがまがしい呪いを発する、赤と黒の双剣を手にした、カレンが現れた。

「さて、先ほど別れたばかりで、登場するのはどうかと思ったのだがね。
すぐに復讐がかなえられるという僥倖には替えられぬものさ」
STAGE6で戦ったばかりの、魔法少女アーニャが先ほどと同じ服装で登場する。
だが、先ほど戦った時には黒髪黒目だったのに、銀髪赤目に変化していた。
「自分に課した制限を解除したときは、髪と目が変わるのだよ」
アーニャは、フェゾに解説してくれた。

「私たちを前にしても、さすがにそのレイピアを使わずにいられるのかしら?」
「問題ないとは、いえないが」
フェゾは、レイピアを後ろに投げ捨てると、
「自らの信条から、背を向けることは無理だろうね」
余裕の笑みを浮かべる。

「その余裕はどこから来るのかしら」
「さあ、どうでしょう?」
「戦闘開始よ」
女性のかけ声で戦いははじまった。


「あっけないものね」
「4対1でわね」
「制限解除したら、こんなものよ」
3人の女性たちは、地に伏せ、血を流すフェゾが瀕死であることを確認し、満足そうな表情を浮かべていた。
「これで、気分は晴れたかな?」
後ろから中年女性の声に振り向いた3人は不満そうな声を漏らす。

「納得いかないわ。
神に見放された私を支えて死ぬまで働いてもらわなくては」
「伝説のKATANAを入手するまでは、こき使うつもりだ」
「先ほどの戦いで壊れた城を、復元してもらうまで、放すつもりはありません」
3人の女性はお互いに、視線を交わして相手を牽制する。

「申し訳ありませんが、時間ですので帰ってもらいます」
中年の女性は、申し訳なさそうな声で3人に謝る。

三人はさらなる喧噪を発したが、中年の女性に言語として届く前に、もとの場所に帰還させられた。

「さて、この氷の奇行師をどうしましょう?」
「決めていないのかね?」
背後から、先ほど倒したばかりのフェゾの声がした。

「分身の術?」
振り返った女性の視線の先には、無傷な状態のフェゾがいた。
「まあ、そのようなものだが、おそらく勘違いをしていると思う」
「勘違い?」
「まあ、もうすぐでわかるだろね」
無傷なフェゾは、ゆっくりと女性のもとに、途中平然と自分と同じ身体をしたものを踏みつけて、反時計回りに近づいてゆく。
「1対1ならどうだろうね」
「私にも、攻撃手段はあります」
中年の女性は、先ほどの戦闘で使用した、重火器を取り出す。
威力は絶大で、瀕死の状態になる前のフェゾの動きを止めていた。

「食らいなさい!」
中年の女性は、死なない程度の威力に押さえた重火器の攻撃を無傷のフェゾに放った。
「そうだね、いただきます」
無傷のフェゾは、重火器の攻撃範囲を無視するようにゆっくりと女性のもとに向かう。

「バカな、死ぬ気なの!」
「自分としては、死ぬつもりはないのだが」
「!」
女性は、自分の背後の気配に振り向いたが、同時にすでに遅かったとあきらめの表情をみせる。

「まさか、君が本物なの?」
「本物という言葉には少し不満だが、あちらの方が偽物であることは間違いない」
瀕死のフェゾは、弱々しい声で、女性にささやいたが、女性を放さないようとする力は強かった。

「覚悟は、良いかな?」
「わかったわ。
……、優しくしてね」
「わかっている」
フェゾは、女性に抱きつくと口づけを交わした。


口づけを交わしたとたん、フェゾの身体が光輝き始める。
「……、これで呪いから解放される」
「!」
女性は、まぶしさと驚きで、身体を後ろに下げながら、フェゾがいた場所へと視線を動かす。

フェゾだった存在は、形を歪めながら、本来のフェゾの姿へと戻っていった。
「……そうか、君はあの時の雪だるまなのだね?」
女性は、もとの姿に戻ったフェゾを見て懐かしむ表情をした。
「……、ボクも思い出したよ。
お姉さん」

「フェゾ君は、・・・・・・。
……そうか、キミだったのか」
「お姉さん……」
「フェゾ君。
私はもう、お姉さんとは呼ばれない年になってしまったよ」
「それでも、ボクにとってはお姉さんです」
降りしきる粉雪の下で二人は強く抱き合っていた。



世界がセピア色に変化し、スタッフロールが流れ始める。
先ほどまで、フェゾと戦っていた中年の女性研究者は、いつの間にか一人の少女に戻っていた。

少女は、かじかんだ手をもむようにして暖めると、雪だるまを作る作業を再開した。

少女が作り上げた、雪だるまはいびつでところどころに、黒い土が混ざっているが、少女はできあがった喜びで満足そうにしていた。

少女は、雪だるまの頬に口づけすると、少女を迎えにきた母親の姿を確認し、母親の元に駆け寄っていった。

買い物をしたのか、荷物を抱えている母親から、小さな買い物袋を右手で奪い取り、左手で母親の右手をつかんだ。

少女は、母親の暖かい右手に満足したのか、大きく手を振りながら、母親と一緒に帰っていった。

残された雪だるまを視界の中央に残したまま視点が後ろ上空に下がっていく……。



「GAME OVER」
の文字を確認すると、牧石はヘルメットを脱いで立ち上がった。

「お疲れさま」
牧石は呼びかけられた、ミナコの言葉を無視して、洗面所に駆け込んだ。
牧石が向かった目的は、顔を洗うためだった。 
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