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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第7話 破綻




「終わったな……」
「ああ……」
牧石と、目黒は空港内にある警察を出ると、ゆっくりと空港内を歩き始めた。



ここはサイキックシティ内にある唯一の空港で、かつては空港名に赤ん坊を運んでくるという逸話になった鳥の名前が冠していたらしいが、今の名称は「サイキックシティ国際空港」である。
サイキックシティ内では唯一の民間空港であることから、たんに「空港」という名称でも通用する。

牧石達は、エスカレーターで地下に降りると、併設されている駅に向かって歩き出す。
電車で帰宅するために。

学校から空港までの移動手段は、急いでいた為にタクシーを使用したが、学生にとっては結構な出費になった。
帰りは、普通に電車を使用することで、二人の考えは一致した。

昼間であれば頻繁に電車が到着するので、待ち時間は十分程度になるのだが、警察での事情聴取が長引いたことから、夜に変わったことで、次の電車の出発まで少し待たされている。

牧石は、電車が到着するのを待つ間、先ほどの事件を振り返っていた。



牧石の指摘に対して、目黒は素早く反応し、羽来の頭の上に乗っている銀行のカードを奪い取った。
「!」
羽来は、頭に手を置いてから、顔を赤くする。
「返しやがれ!」
羽来は目立つことを恐れずに、目黒に追及する。
「安心してください先生。
先生のものは、きちんと返しますよ」
目黒は、カードをポケットに入れると、右手で何かを羽来に返すような仕草をする。
羽来は、目黒からあわてて何かを受け取るような仕草をしてから、両手を頭に乗せた。

超能力者にしか見えないものなのか、と牧石は考えたが、問いただすような状況でもないので黙っていた。

「さて、牧石。
いこうか警察に」
「……ああ」
牧石は、目黒が口にした警察という言葉に少し違和感を感じたが、うなずいて目黒に着いていくことにした。

「待て!」
「羽来先生。
希望のものは入手しました。
すてきな旅行をお楽しみください」
目黒は、叫んできた羽来に対して、友人を見送りに来たときと変わらぬ笑顔を返した。

「……。
そうか、君たちも分け前が欲しいのだね」
目黒は、何かに取り付かれたような、妖しい笑顔で目黒達に話しかけた。
「いりませんね。
友人を裏切って手に入れたいと思うほど、羽来先生みたいに手段を選ばないほど金に困っていませんから」
目黒は優雅に皮肉を言いきると、呆然とした表情の羽来をおいて警察に向かって行った。

結局、羽来は目黒達の後をついていき、警察に自首した。
逃走用の資金が使用できなくなったこと、生徒達に対して、全額返済は無理でも、ある程度なら返済することで、刑が軽くなることを考慮したことによる。

羽来のどこまでも自分本位の性格に対して、牧石は何かを言いかけてやめた。
この男に何を言っても、絶対に自分本意の性格が直ることはないだろうから。


今日の出来事は、おそらく明日の朝刊にはニュースとして伝わることになるだろう。
ひょっとしたら、もう少しすれば電子情報で速報が、流れるかもしれない。



「目黒、電車が到着したようだ」
「ああ」
牧石と目黒は、多くの乗客と共に電車に乗り込んだ。
国際線が到着した影響か、乗客の中には多くの外国人の姿が見られた。


「なあ、目黒」
動き始めた電車の中で、牧石は目黒に話しかける。
普段は目黒から話しかけることが多かったが、警察を出てからはほとんどしゃべることはない。
「どうした、牧石」
「どうして、目黒はそこまでしなければならなかったのだ?
普通なら、羽来が怪しいと思えば、警察に相談するだけで十分だと思うぞ」
「そんなことはない、あの状態では警察は動けない。
怪しいと思うかもしれないが、被害が出ていない以上、逮捕までは踏み切れない。
逆に羽来に知られれば、証拠隠滅を優先し、被害がわからなくなる可能性もある。
もっとも、牧石が記録したデータのことを知っていれば、山場市議が警察に働きかけることも期待できたのだけどね」
目黒はため息をつく。

「いや、僕が聞きたいのはそんなことではない。
目黒がそこまで、動かなければならないと思っている理由が何かが聞きたかったのだ」
「……」
「別に無理して話す必要はないよ。
ただ、目黒が無理をしてないか、心配しただけだ」

目黒は牧石の言葉に強く反応し、そしてゆっくりと話し始めた。
「いや、あまりおもしろい話でもないし、長い話の割にオチもないから、ためらっただけだ。
なので、簡単に端折ると二つ理由がある。
ひとつは、この事件で学校が暗くなるのがいやだということ。
もう一つは俺の親が詐欺にあったことだ」
「そうか……」
「まあ、俺に借金の取り立ては来ないし、ここで生活する分には問題ないからね」
「そうか……」
牧石は、いろいろ言いたいこともあったが、
結局何も言えなかった。

「だから、辛気くさい顔をするな」
目黒は、笑顔で話しかける。
「そうだな」



やがて二人が乗った電車は、地下から地上に顔を出す。
高度に発達した都市の外観が、イルミネーションと共に姿を見せる。
観光客と思われる何人かの外国人が、歓声を上げながら熱心にカメラを窓に向けていた。



「なあ、目黒」
「どうした、牧石」
「ありがとな、気を使ってもらって」
牧石は、目黒に向かってお礼を言った。
「何の話だ?」
「転校初日の事だ」
「……」
目黒は黙っていた。

「誰も、僕に話しかけなかった。
最初は、他の転入生に関心があって話しかけないものとばかり考えていた。
だが、そうではなかったのだな。
あらかじめ、クラスメイトに僕が転入した場合に僕に話しかけないようにたのんでいたのだね。
僕が、記憶喪失であることや、孤児院で育ったことを説明することで生じる、空気を嫌ったのだな」
「よくわかったな」
目黒は苦笑した。

「まあな。
翌日にクラスメイトから普通に声をかけられたから、無視された訳ではないことぐらい気づく」
「よけいなお世話だったかな?」
目黒は少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「そうであれば、お礼は言わないさ」
「……。そうか、それは良かった」
目黒は安堵の表情を見せた。



「~♪」
牧石の携帯にメールの着信音が届く。
「?」
牧石は通常メールとの着信音とは異なることに驚いたが、メールのタイトルを見て納得する。
「レベルアップのお知らせ」と書かれたタイトルと、有名な国内RPGのレベルアップ音の着信音。
これは、牧石が携帯電話のアプリケーションとしてインストールした、サイレベル上昇時連絡サービスであった。

「おめでとう、牧石。
こんな短期間でサイレベルがあがるなんてすごいな」
目黒は、いつも以上に喜びの表情を見せる。
おそらく、会話の流れが変わったこともうれしかったのだろう。
「……ああ、ありがとう」
だが、牧石は素直に喜べなかった。

「どうした、牧石?」
「いや、最近勉強の毎日で、超能力の鍛錬を以前より減らしているのだよ。
最低限の精神統一は行っているが、短期間でレベルアップする事はありえない」
「そうだね……」
「……」
二人は、黙って外の景色を眺めていた。



「なあ、目黒」
「どうした、牧石」
目黒は牧石の話しかけに対して、少し疲れた様子を見せる。
「海外の旅行者は、誰もがあんなに薄着なのかい?」
牧石は、周囲に聞かれないように、声を落として質問する。

「薄着?」
「あの人なんか、水着と言うか下着だろう?」
牧石は、目黒の疑問に答えるために、長くきれいな金髪をした女性に視線を移す。

牧石の目から女性を眺めると、表面積の小さい黒い下着を身につけているようにしか見えない。
「何を言っているのだ、牧石?
お前が指摘している女性なら、紺色のスーツを着ているぞ。
お前は何を言っている?」
「どういうことだ?」
牧石は、目黒の言葉の意味を考えていた。

そして、最近自分の周りで起きた出来事を思い出す。


磯嶋とのやりとり……

時々襲ってくる疲労感……

急に、物にぶつかる……

目の前にあるのに「ない、ない」と言って探す……



「……そういうことか」
牧石はようやく、自分がレベルアップした理由を理解した。



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超能力開発センターに存在する、とある地下室。
そこは、研究所でも最大の機密施設であり、
その存在を知っているのは、非常に限られており、研究所でも所長と3人の副所長、そして、事務局長だけである。

地下室は、小さな講演会ができるほどの大きさで、室内にはさまざまなモニターや配線が乱雑に存在している。

地下室の入り口らしき扉から現れたのは、スーツ姿の男だった。
男は、ゆっくりと地下室の中央に歩み寄ると、目の前の白衣の男に話しかける。
「あいかわらずの室内だな」
スーツ姿の男は白衣の男に話しかける。

「気に入らなければ来なければいい。
専用回線も存在するのだから」
白衣の男は、どうでも良さそうな表情で答える。

「そういうわけにも行かなくてね。
政治家というのは、いろいろあるのだよ」
「政治には興味がないのでね。
まあ、君には感謝しているよ。
こうやって、好きに研究ができる環境を整えてもらったのだから」
白衣の男は、表情を変えることなく返事する。

「君が本当に感謝しているのなら、私の計画に協力して欲しいのだがね」
スーツ姿の男は、白衣の男に皮肉を込めて頼み込んだ。

「残念だが、研究時間は限られていてね。
申し訳ないが、君の頼みは聞けないね」
「……。君ならそう言うと思った。
では、一つ聞きたい。
あの預言に君は従うのかね」
「ああ、あの預言ね。
従うというよりも、どうあがいても変えることはできないだろう。
君もわかっているのではないか?」
白衣の男は、哀れむ口調で話しかける。

「君はいいのかい、それで」
スーツの男は、白衣の男に質問する。
「君の研究が終わるのではないのかい?」

「研究が終わる。
確かにそうかもしれない」
白衣の男は、笑みを浮かべる。
「人類の最後に立ち会えるという研究を実証できる機会を与えられるという意味では、すばらしいとは思わないかい?」
「お前は、研究に魂を売ったのか!」
スーツの男は怒気を込めて、白衣の男に叫んだ。

「何を今更。
私が研究に魂を売り払うことは、最初の計画に従ったこと。
それを忘れているのでは?」
白衣の男は、笑みを浮かべたまま、
「同じ理屈を通用すれば、君も私と同じと言うことになるのだけどね」
「お前は……」
スーツ姿の男は、両手の拳を強く握りしめたまま、怒りに身を震わせている。
拳から、赤い血が滴っていた。

「やれやれ、それでは明日の公務に支障を来すのではないのかね?」
「よけいなお世話だ」
「そうだね。
まあ、せっかくここまで足を運んでくれたのだ、みやげ話をしてあげよう。
あれらの預言は「決定事項」だが、細かいことはまだ決まっていない。
だったら、細部を君が望むように動かせばいいとは思わないかい」

「できるのか!
そんなことが!」
「それこそ、君じゃなければできないよ。
君はそれを使って、今まで政治の世界で戦ってきたのではないのかね?」
「……。
そうだな」
スーツ姿の男はうなずいた。
「君の言葉に、感謝する」
「別に。
こっちのほうこそ、好き放題やらせてもらっているのだ。
感謝しているよ」
「では、失礼する」
スーツ姿の男は、先ほどの入り口とは、別のところから帰っていった。

「さて、どうなるのかね、このサイキックシティは」
白衣の男は、つぶやくと目の前に散らばる資料を確認する作業を始めていた。 
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