とある誤解の超能力者(マインドシーカー)
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第6話 追及
「何処へいく、目黒!」
「空港だ!」
「空港?」
「そうだ、奴の身柄を確保する!」
牧石は、眼鏡が落ちないように右手で支えながら疾風のように駆け抜ける目黒に、ついていく。
目黒は校舎を飛び出すと、校門の前で止まっていたタクシーに乗り込んだ。
目黒があらかじめ、携帯で呼び寄せたのであろう。
「奴って誰だ?」
牧石は、目黒に続いて乗り込むと、目黒に質問した。
「お前も知っている奴だ。
お前の未来を奪った男だ」
目黒の言葉に牧石は、驚愕の表情を体全体であらわす。
「し、知っているのか?」
牧石は真剣な表情で、目黒を見つめる。
牧石は誰にも自分の過去は伝えていない。
先ほどの目黒の言葉から考えると、瑞穂一樹がこちらの世界に現れたのだと、牧石は考えた。
前の世界で、牧石を絶望に陥れ、この世界へ転送させる原因を作った男。
牧石にとっては、「一度殴る予定の相手リスト」の一番上に記載されており、前の世界に戻らなければならない理由の一つでもある。
どういう方法でこの世界に現れたのかはわからないが、元の世界に戻る手間が省けたと、牧石は、残酷な笑みを浮かべる。
ふつうに考えれば、目黒がどうして、瑞穂の情報を知っているのかという疑問が浮かぶはずなのだが、興奮している牧石には考えることができなかった。
仮に誰かが牧石に、その事実を追求したとしても、牧石は、「瑞穂を殴ってから、聞き出す」と答えていただろう。
目黒は牧石が善良そうな学生から、復讐鬼に変貌したことに驚いていた。
本来であれば、目黒は牧石に事件の経過を伝える予定ではあったが、牧石をこれ以上怒らせて暴力を振るわれてはいけないと考えて、話しかけることはしなかった。
「これで、サイキックシティともお別れか」
羽来は、空港のロビーに到着すると、名残惜しそうにつぶやいた。
羽来の海外逃亡は、予定よりも3日早くなった。
原因は、目黒修司という生徒の行動にあった。
目黒は、滝山マリヤの転入騒ぎに介入すると同時に、生徒会や教師から巧みに、羽来の情報収集を行っていた。
そして、くじイベントの総合プロデューサーという訳のわからない役職をフルに活用して、羽来の行動を逐次把握していったうえで、イベントを利用して、詐欺被害防止の啓発活動を行っていた。
羽来は、警察の動きがないことを理由に、目黒の行動を無視してたが、目黒が牧石と交友関係にあることとを知ると、予定を早めて国外に脱出することにした。
幸い、活動資金の移動作業は終わっていたので、最低限の手荷物があれば、逃亡先の生活に困ることもない。
目黒は、皮肉にも本日のイベントに追われているはずだ。
羽来は余裕を持って、受付の方に進もうとしていた。
「待て、羽来!」
羽来は声のした方向に振り返ると、学校の講堂に本来いるべきはずの少年が目の前に迫ってきていた。
「待て、羽来!」
目黒は、受付に向かおうとする男に叫んでいた。
「?」
牧石は目黒が向かっている先の男を視認すると、疑問符が頭の上に発生する。
「瑞穂ではないのか?」
牧石は自分が早とちりしたことに気づく。
冷静に考えれば、別世界にいる瑞穂がこの世界にいることはあり得ないし、もしあったとしても、サイキックシティで瑞穂と目黒とが顔を合わせる接点もあるとは思えない。
牧石は、自分の心にある怒りのエネルギーが急速に下がっていくことを感じながら、目黒と羽来のもとへゆっくりと近づいていった。
「なんとか間に合いましたよ、羽来先生」
「教え子でもない相手に、先生と呼ばれる筋合いはないね」
羽来は、目黒の皮肉にあふれた声を冷静にかわした。
「余裕でいられるのも、今のうちです。
牧石、この男に解約を要求するのだ。
君が契約書を受け取ってから、8日は経過していないはずだ。
クーリングオフの権限を、この場で行使するのだ!」
目黒は牧石に視線を移した。
「契約?
なんのことだ?」
「牧石、今は冗談を言っている余裕はない。
投資信託の申し込みをしたのだろう?」
「目黒、その話を誰から聞いたのかは知らないが、契約は結んでいないぞ」
「なんだって」
目黒が驚愕の表情をしていた。
目黒は、知り合いの女子生徒が投資信託の話をしているのを聞いて不審におもい、調査を行っていた。
その結果、牧石と羽来がファミレスで会話をしていたことを知った。
そして、タクシーの中で交わした牧石との会話と牧石の表情から、羽来と契約し詐欺にあったと確信していたが、違っていたようだ。
目黒は、羽来に自分の目的を看破されることを恐れるあまり、牧石との接触を控えていたことが裏目に出たことを理解した。
どうして、牧石が復讐鬼の表情をしていたのかはわからないが、きちんと牧石と話をすれば、タクシーの中で戦術の変更をとることもできたのだ。
牧石は、苦悶の表情を見せる目黒を珍しそうにながめながら、話しかける。
「目黒、お前が何を考えているのかは、後で問いつめるとして、この情報が役に立つかい?」
牧石は、自分の携帯を取り出すと、ボタンを操作して、音声を流し始めた。
「それは……」
「投資契約に関するやりとりを記憶したものだ。
こんなこともあろうかと、携帯電話のマニュアルを読んでおいて良かったよ」
携帯から流れる音声は、ファミレスでのやりとりであった。
牧石は、以前瑞穂からの会話で、詐欺から身を守るための方法について、レクチャーを受けていた。
そして、会話のやりとりをきちんと残すことについても指導を受けており、牧石はサイキックシティでの裁判で証拠として使用可能なように、GPSデータと音声データとの連結ファイルを作成していた。
「よくやった、牧石!」
目黒にいつもの余裕の表情が戻ってきた。
それとは、対照的に羽来の顔からはゆがんだ表情をしていたが、強気な顔に戻った。
「それがどうかしたのかい?」
「これだけの証拠があれば、詐欺の容疑で逮捕できるだろう。
お前は理解できないのか?」
「理解できないのは君の方ではないのかね。
今の内容について錯誤があると証明できた内容があるのかな?
仮に君の主張が正しかったとしても、君たちは警察ではない。
私を拘束することは不可能なのだよ」
羽来は、余裕の表情で目黒を嘲笑していた。
目黒は、屈辱により肩をふるわせて、視線を下に向けている。
目黒は後悔していた。
自分だけで、事件を解決しようと考えたことが裏目にでたようだ。
もう少し早く、警察に情報提供をすれば良かったかもしれない。
だが、目黒が知っている投資契約していた相手は、きちんと配当を受け取っていることを理由に、目黒の言葉を信用しなかった。
逆に、配当目当てに解約を迫ろうとしたのではないかと疑われそうになったこともある。
配当による信頼を勝ち取った先生と、あまり交流のない生徒では、どちらを信用するかは一目瞭然であった。
最後の手段として、配当をもらっていないであろう牧石を説得して、一緒に警察に相談をしに行こうと考えていた。
だが、牧石の交付金の債権化には2週間程度かかるため、警察に相談するためにはそれまでの間、待つ必要もあった。
一方で、弁護士に相談して民事訴訟で訴える方法は取れない。
牧石には現時点で、損害は生じていないのだから。
目黒は、目の前の敵を見逃すことしかできない状況に歯ぎしりしていた。
そして、なぜ自分に予知能力がないのかと嘆いていた。
「どうする、目黒?」
牧石は心配そうに牧石を見つめた。
「……架空口座だ」
目黒は、後悔することをやめ、しばらく考えたのち、牧石にささやいた。
「架空口座?」
「奴は、海外で資金を使用するために架空口座を持っているはずだ。
本人の口座は、警察が即座に口座を凍結させるため、使用できなくなるからな」
「なるほど」
「架空口座の不正所持だけで、現行犯逮捕はできない。
だが、空港警察に拾得物の届け出を理由に連行させることができるし、こちらで確保すれば奴は計画を断念することになる。
ただ……」
目黒はためらうような口調だった。
「ただ?」
「可能性は高いが、奴が所持している確証がない。
下手に動けば、こちらが旅行の邪魔をしたということで、こちらだけ捕まる可能性がある……」
目黒は、どうすべきか悩んでいた。
こんな時、予知能力でもあれば自分はどうすればいいかわかるはずなのに、と目黒はできもしないことを考えていた。
「目黒、カードとは、あれのことか?」
牧石は、羽来の頭の上を指し示した。
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