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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第5話 予感




「まだまだ、正答率は低いが、感じを掴んだぞ」
牧石は、自室のコンピューターの前でトレーニングを行っていた。

卒業試験までは殺風景だった部屋も、最近では少しは生活感が現れてきた。

テーブルの上には、いろいろなものがおいてある。
牧石が入手した教科書や参考書。
目黒が用意してくれたテストの過去問集。
迫川が用意してくれたマンガ、もとい授業のノート。
そして、福西が用意した「安産」のお守り。

牧石が超能力の練習に取り組んでいるのは、決して勉強に飽きたからではない。
もちろん、多少の息抜きという意味合いは否定できないが、牧石自身の超能力に変化があったためである。

時間は一週間ほど前にさかのぼる。



「正答率が落ちている?」
「ええ、そうですね」
磯嶋と牧石が試験の結果についてやりとりをしていた。

牧石が卒業試験合格後、最初の能力テストをコンピュータールームで受けていた。

卒業試験までのように、最優先の権利が与えられているわけではないが、二人目の満点合格者ということで、牧石の検査をコンピュータールームで実施することに誰も異論を挟む人間はいなかった。
唯一文句を言いそうな天野は、現在休暇取得中である。

「やり方は、卒業試験の時と一緒よね?」
「ええ、そうでなければ9割という成績は出せませんから」
「たしかに、依然として高い成績率だけど、どうして落ちているのかしら?」
磯嶋はディスプレイに映し出される結果を
真剣に凝視しながら返事をする。
「マインドレベルを見る限り、前回より多少良くなっているし。
本当に牧石君は最高の被験者よ」
「……。
あまりすてきな言葉には聞こえませんね」

「そのおかげで、ただで三食昼寝は抜きの生活ができるのだから感謝したら?」
「ん?そ、そうですね」
牧石は、磯嶋の言葉にうなずいた。

「それにしても、磯嶋室長」
牧石は、磯嶋の胸についているプレートを確認しながら質問する。
磯嶋は、指導していた牧石が卒業試験を満点で合格したことにより主任研究員から室長に昇任していた。

室長に昇任して、給与が上がったり、専用の研究室を与えられたりしたのだが、それほど磯嶋はあまり喜んでいなかった。

もともと、この研究所の職員の給料水準が高いので、あまりお金をかけない磯嶋にとっては関係のないことだった。
せいぜい、広島の企業が製作した、燃費のあまり良くない車(とはいっても、技術革新により34km/Lにまで改善されている)の維持費と好きな野球球団のグッズを集めるくらいしか使い道はなかった。

また、研究室については、もともと分室として磯嶋に与えられており、昇任にともない第4研究室という正式名称が与えられたにすぎない。

「そんな、よそよそしい呼び方は勘弁してくれ。
君は私の保護者なのだから。
たとえば、そうだな……」
磯嶋は、データを凝視したまま考えている。
「……お姉さんとか?」

「磯嶋さん。
気になったことがあるのですが?」
牧石は、呼び名を元に戻した。
「どうした?
トレーニング中に、違和感でもあったのか?」
「違和感というよりも、予感と言ったほうがふさわしいと思うのですが、今なら普通のやり方でも、少しは当たると思います」
「少しは当たる?」
「ええ、カンのようなものですが……」
「気になるな。
よし、やってみよう。
いつものように透視、念力、予知の5セットづつよ」
「はい」
牧石は磯嶋の指導の元で練習を再開した。

「なるほどな……」
磯嶋は先ほどの牧石の結果を眺めながら、考えごとをしている。
「おもしろい結果だ。
正答率が1割にも満たないが、確かに以前のような全問不正解という状態よりは良くなっている」
「思ったとおりです」
牧石は、磯嶋にカードを手渡した。
「サイポイントが上昇した?」
牧石のカードには「LV:01 PSI:000001」と表記されていた。

「個人差にもよるけど、訓練を積めば成長する。
先ほどの訓練では成長しなかったけど、今の訓練では成長した。
これは、どいうことかしら?」
「もう一度、卒業試験の要領で力を使用すればわかると思います」

「サイポイントが下がった!」
「今し方使用した力は僕の能力だとすると、下がるのは能力を使用した副作用か、代償のようなものだと思います」
「代償・・・・・・。
そのようなものが必要な能力は聞いたことがないわ」
「普通に考えれば、サイレベルが低い僕が通常とは使い勝手が異なるとはいえ、ある意味強力な力を得ています。
身に余る力を行使した代償であれば、納得はできます」
「そうね。
これまでには無い能力だけど、存在しないとは断言できないわね。
そうなると、君の力はかなり問題があるわね」

「どういうことです?」
「一般的に、超能力を使用すればするほど、サイポイントが上昇し、サイレベルがあがっていく。
でも、君の能力はどの程度かは判らないけどサイポイントが下がる。
ということは、訓練によってサイレベルがあがらないことになるわ」
「……」
「逆に言えば、完成された能力とも言えるわね。
場合によっては、このまま生活するという方法もいいかも知れないわね。
依然、9割近い正答率を誇るのだから」

「いえ、この力は封印します」
「封印」
「僕は、この先を目指さなければなりません」
牧石は断言した。
普通にこの世界で生活することを決断したのであれば、磯嶋の提案を受け入れるのもいいだろう。

だが、牧石には元の世界に戻って一樹に文句を言わなければならない。
そのためには、はやくサイレベルをあげて神のレベルに到達しなければならない。
ここで立ち止まることは許されなかった。

「そう、牧石君には厳しい選択になるかもしれない。
何らかの理由によって使ってしまうことになったらこれまでの苦労はすべて失うことになる。
それでもいいの?」
「ええ、問題ありません。
だいいち、僕の力はコンピューターでの試験でしか通用しませんでしたから」
「通用しない?」
「ええ、試験が終わったあとで自室においてあったものを念力で動かそうとしたのですが無理でしたから」
「……そうなの」
「ええ、そうです」

「牧石君!」
磯嶋は、牧石に顔を近づけた。
「な、なんですか?」
「どうして、私に知らせなかったの!」
「えっ?」
「そんなおもしろい話、自分の胸にだけとどめるなんて!
判っていたら実験に協力してもらったのに。
ひどいわ、ひどいわ!」

「……。
ええと、ごめんなさい?」

「どうして、疑問型なの。
これから、実験の準備をするから、それまでは、そこで座って反省しなさい!」
「は、はい!」
牧石は、その日1日磯嶋の研究につきあわされることになった。



「さすがに、サイポイントも上昇しなくなったか」
牧石は、自分のサイカードを確認する。
サイカードには「LV:01 PSI:000250」と記されている。
最初の頃は、あまり上昇しなかったが、目黒たちと話をした後から急上昇した。
それも、200ポイントあたりから上昇は鈍くなり、260ポイントに到達してからは上昇することはなくなった。

磯嶋が牧石にした話では、300ポイントで次のレベルに上昇するらしいのだが、その手前で足止めを食らったことになる。
それでも、わずか一週間でここまで成長したこと自体は素晴らしいことも磯嶋から聞いていた。
ちなみに、編入試験では、超能力の実技試験はレベル1以下が対象であり、レベル2以上であれば実技試験を免除の上、高い評価をもらえるため、受験生にとって非常に有利となる。


「まあ、訓練だけでレベルがあがるほど、そう簡単には出来ていないということか」
牧石は、自らの考えを口にすると首を左右にする。
「そろそろ、勉強に戻るか。
最近ははかどっているけど、寝不足になるのが玉にきずだな」
牧石は、テーブルに広げられた迫川のノートを手に取ると、「第3話 等速直線運動と消しゴム」のページを開いた。

「信じられるか、これ1時間で仕上げたんだぜ……」
迫川のノートを眺めたときにつぶやいた目黒の言葉が、耳から離れなかった。 
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