『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第十八話
数台のトヨダ・AA型乗用車が帝国ホテルに到着すると、伊丹、樹、レレイ、ロゥリィ、テュカの五人は係員の案内の元、控え室へと案内された。
ヒルダ達は護衛の栗山と富田と共に別室へ向かう。彼女達は公式の使節ではないがそれでもVIPでもあり帝国との秘密交渉が出来るのである。
「お待ちしていました殿下」
ピニャ達を出迎えたのは特地駐留大使として就任した吉田茂であった。
「初めましてヨシダ」
軽い挨拶の後に吉田は切り出した。
「(……何としても帝国を救わねば……妾は仲介役に徹するのみ)」
ピニャはそう思っていた。そして話はトントンと決まっていき、捕虜の話へとなった。
「副大使の菅原です。捕虜ですが現在は我が国内の無人島の施設で収容しておりまして、数は約三千人」
「(三千……)」
身代金の事を考えていたピニャは捕虜の多さに愕然としていた。ちなみに、人外を入れれば約三千五百人になる。
「聞くところによればゴブリンやオーク等はそちらの世界で迷惑をかけているという事なので此方で適正に対処します」
菅原はそう言った。実際にゴブリンやオーク等はアメリカ等の諸外国へと内密に引き渡されている。
この話にはルーズベルトやヒトラーも飛びつき、早速研究施設に放り込まれるがそれは日本の知ったこっちゃじゃない。逆にアメリカ等の諸外国は日本からの思わぬプレゼントに驚いている。
実はこのプレゼントは二つあった。一つ目は今のゴブリンやオークであり、二つ目はテュカ達の紹介であった。
「捕虜の中には階級が高い人間もおりましてその扱いに苦労しています。我が国としてはそちらの求める形で捕虜を引き渡したいと思います」
捕虜にはそれなりに高い人間もおり、食事が不味いなので文句を看守に言いまくっている。看守はそれに耐えていたが限界というのもある。日本としては早くどうにかしたかったのだ。
「(み……身代金が高ければ三千人は……)」
「で、殿下。お気を確かに」
ピニャは思わず手を頭に添えてボーゼスが心配そうにする。
「……身代金はいかほどに?」
「身代金?」
ピニャの言葉に吉田はポカンとした。
「ハッハッハ、御安心下さい殿下。昔ならいざ知らず、我が国には身代金の慣習や奴隷制度は存在しておりません」
吉田の言葉にピニャは深い溜め息を吐くのであった。
「今回は金銭以外の譲歩を我が国は求めています」
「殿下のためにもこの名簿の中の指名される若干名は即刻引き渡しが可能です」
菅原はそう言ってピニャに名簿を見せた。そこへボーゼスが親友の夫君が銀座事件に参加していたので安否確認を求めてきた。
菅原も帰還するまでに翻訳を終了させておくと言って一応ながら大日本帝国と帝国の第一回の交渉は終了するのであった。
一方、樹達は外国人記者も入れての記者会見をしていた。樹達が(特にテュカ達の特地組)を見た時にカメラのフラッシュが光った。
「ビューティフル……」
「あれがエルフか……」
テュカを見た記者達は口々にそう言って驚きの声をあげた。対するテュカは自分に何故これほどにまで驚きの声が上がっているのか疑問に思っていたりする。
「それでは記者会見を行います。まずこの三人は勿論特地から来られた人達であり、強制的に連れて来たのではありません」
少佐の階級章を付けた陸軍側の佐官が記者達に日本語と英語で説明する。
「まずは外国から質問を許可します」
その言葉に多数の外国人が挙手をして佐官が指名する。
「ドイツから来ましたアルベルトです。ご紹介にありましたテュカ・ルナ・マルソーさんですが……耳は作り物ではないですよね? 良ければ動かさせてほしいのですが……」
「……こう? 触ってみます?」
『オォッ!!』
アルベルトの言葉を佐官がレレイに翻訳してレレイがテュカに翻訳する。それを聞いたテュカが髪を掻き分けて耳を動かすと記者達はまたも驚いてカメラのフラッシュを焚かせる。
「アメリカのニューヨークタイムズのロバートです。レレイさんは魔法を使えるとご紹介で言っているのですが……」
そう言ってレレイは魔法を見せてまたも記者達を驚かせる。
「朝日新聞ですが……ロゥリィ・マーキュリーさんが……肉体を持つ神……亜神であるとのことですが……」
朝日新聞の記者は本当の事か分からないのでしどろもどろになる。そこへレレイが補足を付けた。
「私は門の向こうでは「ヒト種」と呼ばれる種族で寿命が六十から七十前後で住民の多くはヒト種である。テュカは不老長命のエルフで、その中でも稀少な妖精種で寿命は一般のエルフより遥かに長く永遠に近いと言われている。ロゥリィはヒトではなく亜神――肉体を持つ神である。元はヒトで昇神した時の年齢で固定されている。通常一千年程で肉体を捨て霊体の使徒へ、そして真の神となる。従って寿命という概念が無いのである」
『………』
レレイの補足に記者達は口をパクパクと開けて唖然としていた。それはその通りだと思う。
「そ……それでしたら……非常に申しにくいのですが三人の年齢は……」
「九百六十一歳よぉ」
「百六十五歳」
「……十五歳」
『………』
またも沈黙する記者達である。
「(こりゃあ……諸外国の一面だよな)」
そう思う樹であった。この事は全世界の新聞のトップを飾る事になる。それは日本も例外ではなかった。
後書き
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