ルサールカ
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第一幕その三
第一幕その三
「白銀のお月様」
ルサールカは夜空を見上げた。そこには白銀の光をたたえる月があった。その優しい光を夜空に照らしていた。青い湖にも銀色の光を与えている。
「あの人もお月様の下にいるのですか?だったらこの想いお伝え下さい」
月に対して語り掛ける。
「貴方を抱き締めたい、例えそれがほんの一時だとしても。そして夢の中私のことを想って欲しいと。私の願いをあの人にまでお届け下さい。そして」
さらに言う。
「私はここで待っていると。あの人にお伝え下さい。それが私の願いです」
月は何も語らない。その優しい光をルサールカに見せているだけだ。
「あの人と私の想いが混ざり合うように。お願いします」
そこまで言うと姿を湖の中に消した。中へ中へと入っていく。
湖の中は一つの世界だった。精霊達の家々があり皆そこで楽しく遊んでいた。ルサールカはその上を泳ぎ先へと進む。そして一つの狭く暗い洞窟へと入って行った。
洞窟の中も水に満ちていた。その中を泳いでいく。まるで飛ぶように。やがて奥にある一つの部屋にやって来た。
「おや御前さんは」
そこには一人の老婆がいた。皺だらけの顔に木のようになった手、そしてその身体を濃い青の法衣で覆っていた。
「珍しいじゃないか、こんなところまで」
にこやかに笑ってルサールカに語り掛ける。
「何か用があるのかい?」
「はい」
ルサールカは澄んだ声でお婆さんに応えた。
「ねえお婆さん」
「何だい?」
「お願いがあるのだけれど」
ルサールカは言う。
「お願い」
「ええ。実はね」
「わかったよ、恋だね」
お婆さんはすぐにそれを見抜いた。
「誰かを好きになったんだね」
「それは」
「おっと、今のでわかったよ」
その白い顔を赤らめさせたのを指差して笑って言った。
「そうかい、御前さんにもね」
お婆さんは目を細めて笑う。
「恋をする時が来たのかい。嬉しい限りじゃよ」
「え、ええまあ」
ルサールカは戸惑いながらもそれに答える。
「そして相手は誰だい?」
「言っても驚かない?」
「何で驚くことがあるんだい」
お婆さんは顔を崩して笑った。この時はまだ大したことではないと思っていたのだ。
「恋をするのは私達の若い時の仕事なんだ」
「そうよね」
「さあ行って御覧。相手は誰なんだい?」
「王子様なの」
「王子様!?」
こう言われても最初は何なのかわからなかった。
「そう、王子様」
「水の精霊のかい?」
「ううん、違うわ」
「じゃあ木の精霊の」
「それでもないわ」
「はて」
続けて否定されると何のことかわからなくなった。
「じゃあ一体誰なんだい?何処の王子様なんだか」
「時々ここに来られる王子様なの」
「まさか」
それを聞いて顔を暗くさせる。
「そう、人間の王子様なの」
「馬鹿を言っちゃいけないよ」
お婆さんはお爺さんと同じことをルサールカに言った。
「人間と精霊は一緒にいたらいけないんだよ」
「けれど」
「駄目って言ったら駄目さ」
お婆さんはルサールカを宥める。
「私達は人間とは一緒になれないんだ」
「けれど」
「けれどもどうしたのもないんだ。不幸なことになるよ」
「それでもいいわ」
だがルサールカはそんな苦難もものとはしなかった。
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