レンズ越しのセイレーン
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Report
Report3-1 アキレウス/シャドー
前書き
わたしが知らないアナタのこと
今日のユティはドヴォールに来ていた。先日レイアが捕まえそびれた出資者の猫をこの辺で見かけたという情報が入ったからちょっくら言ってこい、と編集長に放り出されたレイアに同行し、本日は二人で猫探しである。
ユティはレイアと別れ、写真を使って聞き込みをしながらお目当ての猫を探し歩いていた。写真はレイアとの初対面の時、レイアが白猫を一時的に捕獲した姿を収めたものだ。
(白い毛並みで頭頂だけ金茶。蒼い目。ループタイの首輪。左の前足が黒。何より、この白猫の名前が『ユリウス』だってことを考えると、ユリウスに似てるから飼ってる目算が高い)
路地裏を歩きながら、ユティは写真に目を落として考えを巡らせた。
(ただのファンとかならいい。でもそうじゃないなら。ユリウスはもちろん、ルドガーの情報を下手に握ってる人間が飼い主なら。消すことも視野に入れなくちゃ。人一人、痕跡もなく消す方法もちゃんとおじさまから教わった。正史での実践は初めてだけど、おじさま方がユティに教えたことで、できないことがあるわけがない)
路地を曲がったところで、ユティは、彼女にしては珍しく、驚いてその場に立ち尽くした。
「やっと捕まえた。頼むからもう逃げないでくれよ」
お目当ての「ユリウス」は見つかった。しかしながら、本家大元の「ユリウス」まで一緒にいるとは夢にも思わなかったからだ。
ユリウスは白猫を撫でていた。猫も猫で、害のない人間と分かっているのか、撫でられるままにさせている。
ユリウスがルル以外の猫と戯れる。プレミアだ。ユティはすぐさまカメラを構えてシャッターを切った。タイトル「浮気現場ニャ」。
シャッター音で気づいたユリウスがこちらを向き、盛大に顔をしかめた。
「よりによって君か。尾けてきたのか?」
「今回のは偶然。誓って、偶然。その猫、探してたの。飼い主がレイアのスポンサーで、持ってかないとマズイっていうから」
「レイア?」
「『デイリートリグラフ』の記者見習い。ルドガーの新しい仲間。かわいくて元気な、17歳の女の子」
ユティは猫探しに使っていた写真をユリウスに見せた。
「この子」
「リーゼ・マクシア人か」
「よく分かったね」
「グリーン系の目はリーゼ・マクシア人の特徴だからな」
「……ルドガーの目、翠じゃなかった?」
「あいつのは先祖返りだ。母親共々な。始祖クルスニクの目はエメラルドグリーンだったらしい。だからグリーン系の目はリーゼ・マクシア人の特徴、というよりは、始祖クルスニクの血を引く民の、と言うべきなんだろうな」
「ニ・アケリア村に色んな緑の瞳があったの、そのせいだったのね」
返してもらった写真で口元を隠して考える。
(じゃあエルの目が翠なのも肯けるわね。運命の妙ってこういうことかしら。クルスニクの血を最も濃く継いだ血統者たちが審判のクライマックスに生まれて舞台に上がるなんて)
ユリウスは白猫を抱き上げると、ユティに差し出した。ユティはおそるおそる受け取る。
白猫は大人しくユティの腕に納まった。生温かい。緊張する。ワイバーン以外で本物の動物に触るのは初めてだった。
「飼い主がどこにいるかは分かってるのか」
首を横に振る。白猫の飼い主がマルクスという老人で、ドヴォールで慈善事業をしているのはレイアから聞いたが、所在地までは知らない。猫を見つけた後でレイアに聞けばどうせ分かる、と考えて聞かずにおいた。
「そうか。今もこの街に住んでいるなら、住所は――」
ユリウスが述べる番地を耳で覚える。
「ん、分かった。届ける」
「……メモもしないで覚えたのか?」
「覚えた。××××-×××-×××××」
「俺が間違ってたよ」
「他には?」
「何が」
「この猫の飼い主に伝えること、もっとあるんじゃないの。アナタには」
す、と蒼眸が細くなり、ユティを射抜いた。何を知っている、どこで知った、と無言で詰問する目。
「住所知ってるくらいだから、深い知り合いだと思った」
「それだけか」
「この子の名前が『ユリウス』で、アナタそっくり」
やがてユリウスは長い溜息を落とした。
「実家にいた頃の執事頭だったんだ。その時から彼は『ユリウス』を飼っていたからな。こいつもそうだろうと踏んだ。……あの時期、俺の気持ちを察してくれたのは爺やだけだった」
「この子は3世」
「やっぱりまだ続いてたか。爺やもしょうがないな。じゃあ一つ伝言を頼む。『心配をかけてすまない。あなたの孫は元気でやってる』。それで通じるはずだ」
「分かった。確かに伝える」
反射で即答し、はた、とユリウスの発言の中に聞き捨てならないフレーズを拾い上げた。
「……孫? 執事さんじゃないの?」
「色々複雑なんだよ」
「教えては、くれないの?」
父は祖母周辺については詳しく語らなかった。ユースティアには要らない情報だから与えられていないのだ。祖母についてユティが知るのは、「クルスニクの鍵」だった女性で、クロノスとの戦いで死んだという情報だけ。
「……そういう顔をしないでくれ。対応に困る」
「どんな顔もしてない」
「鏡を見てみろ。あからさまに不満だと書いてあるぞ」
メガネを外して袖で顔を乱暴に拭く。ちなみに分かってやっている。詐術の師でもあった男が教えてくれた。相手の油断を誘うリアクションその17。
「してない」
「恐れ入ったよ……」
結局、ユリウスとマルクス老人の関係を詳しく聞き出すことはできなかった。
後書き
番外編初の「つづく」。
時間軸はルドガーがエージェントになる前。原作C6~C7の間の出来事です。
Reportは割とオリ主視点で書けるので楽です。序盤でさっさとネタバラシしておいたのでオリ主の心理描写が親子感情に基づくものだと書けますので。大好きなとーさまのことで自分が知らないことがある、オリ主はモヤモヤしてますが、モヤモヤしてること自体に気づいていません。
知る人ぞ知る猫ユリウスサブイベ。あの猫驚くくらいユリウスそっくりですよね。マルクスじいや…(T_T)
次回はアルヴィンとの関係にクローズアップです。
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