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万華鏡

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第二十一話 夏休みのはじまりその九

「冷やしたビールでぐい、とね」
「私ビールはあまりだから」
「全く。健康的にワインとかって」
「よく冷えた白ワインとかは」
「悪くないけれどね」
 それは琴乃も言おう。
「結構以上に」
「まあ琴乃ちゃんはワインで」
「枝豆とか冷奴は白でね」
 ソーセージになると赤になる。こうした飲み分けはワインならではであり醍醐味の一つとも言っていい。
「それでだけれど」
「夜か何もない休日にお勉強の後で飲むのよ」
「お酒飲んだら何もできないからね」
 それこそ運動も勉強もだ。酒が入ってそうしたことはとても出来ない。
「それはね」
「そう、まあとにかく願書を書き終えたらお母さんが行くから」
「だからいいわよ。自分のだし自分で行くから」
「けれどお母さんも運動がね」
「ウォーキングね」
「そう、それよ」
「それはわかるけれど」
 それでもだと返す琴乃だった、娘にも娘の言い分がある。
「それでもよ」
「琴乃ちゃんも頑固ね」
「母親に持って行かせるとかしないから」
「それじゃあね」
「それじゃあって?」
「妥協案出すわよ」
 右手の人差し指を上に立たせて言う、出す際に前にも振る。
「いいわね」
「妥協案って何よ」
「二人で行くのよ」
「私とお母さんで?」
「そう、留守番もいるし」
 弟の部屋の方も見て言う。
「だからね」
「それでなのね」
「そう、それでどうかしら」
「ううん、それじゃあね」
「それでいいわよね」
「私が出してそして」
「お母さんは一緒に歩いて」
 それでどうかというのだ。
「しかも一人で歩くより二人の方が安全でしょ」
「あっ、そうね」 
 琴乃は母の今の言葉にはっと気付いた顔になった。
「それはね」
「そうでしょ。まして最近藤会のこともあるし」
「あそこの人今凄い殺され方してるのよね」
「噂でだけれど」
 母は暗い、曇った顔になって娘にこのことを話す。
「首を切られたり皮を剥がれたり」
「凄い殺され方して」
 あくまで公にはなっていないがそうした殺され方をしているとネットや巷で噂になっているのだ。
「犯人見付かってないのよね」
「犯人が何人かもわかってないから」
「殺人鬼?」
「そうみたいよ」
 学園の日常から離れた異様な存在がここで出て来た。
「どうやらね」
「殺人鬼って」
「そんなのが町歩いてるの?」
「それって滅茶苦茶怖いじゃない」
「そうだよな」 
 五人はこのことには顔を見合わせて暗い顔になる。そうした人間に若し襲われれば、と思うとそれだけでだった。 
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