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カルメン

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第一幕その六


第一幕その六

「聞いて下さい!」
「あの女が!」
「あの女だと」
「カルメンが!」
「マヌエリーヌが!」
 互いに激しい言葉を述べ合う。スニーガにはどちらがどちらなのかわからない。それにたまりかねて言い返すのだった。
「もういい、ドン=ホセ伍長」
「はい」
 ホセは彼の言葉に応える。
「兵を連れて酒場の方に行け。そうして事件の張本人が誰か調べてきてくれ」
「わかりました、それでは」
 敬礼をしてすぐに兵達を連れて酒場に向かう。その間も女達は騒いでいるがそれを押しのけて中に進むのであった。喧騒は激しくなるばかりであった。
 暫くしてホセと兵士が戻って来た。カルメンを連れていた。
「ほら、見なさい」
 女達の何割かが誇らしげに主張する。
「やっぱりカルメンじゃない」
「違うって言ってるでしょ」
 すぐに反論が後の何割かから返って来た。
「いい加減にしなさいよ」
「そっちこそ」
「御前等はもういいっ」
 スニーガもたまりかねて女達に言う。それからホセに対して問うのであった。
「それでどうだった?」
「いや、大変でした」
 ホセはまずスニーガにこう述べてきた。
「大変だったか」
「三百人からの女が上を下への大騒ぎで。あまりにも五月蝿いので」
「ここよりもか」
「さらにでした」
 ホセもうんざりした顔で述べるのであった。
「その中で左頬に十字の傷を受けている女がいまして」
「ナイフだな」
「そうです。その前にいたのが」
 ホセはここでカルメンを見る。そこで何か言おうとしたがカルメンの鋭い視線に怯む。だがここでスニーガが上官として彼に問うたのであった。
「その女か?」
「そうです」
 そのうえでやっと答えるのであった。
「この女です」
「ふむ、御前か」
 スニーガはカルメンを見て言うのだった。
「カルメン、御前が」
「喧嘩を売られたからよ」
 カルメンはふてぶてしくスニーガに言葉を返す。
「だからよ。それでしょ?」
 こう述べた上でホセに顔を向けて問う。
「伍長さん。そうよね」
「それは存じませんが」
 ホセはカルメンには答えずにスニーガに対して報告を続けた。
「葉巻を切るナイフを使って」
「それでか」
「はい、ナバラ生まれは嘘は言いません」
 ここで己の生まれを出してまで誓うのであった。
「その血に誓って」
「わかった。ではカルメン」
 スニーガはカルメンに顔を向けて問うてきた。
「何か言いたいことはあるか」
「別に」
 しかしカルメンは相変わらずふてぶてしい態度のままであった。
「何もないわよ」
「しかし怪我をさせたのは事実だな」
「何も言わないわ」
「まあいい。伍長」
 言わないのなら言わないでよかった。スニーガはまたホセに声をかける。
「この女を縛って連れて行け」
「監獄までですね」
「そうだ、暫く頭を冷やしてもらう」
 ジロリとカルメンを見て言うのだった。だがそれでもカルメンのふてぶてしい様子は変わりはしない。少なくとも全く怯えても動じてもいないのがわかる。
 
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