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100年後の管理局

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第二十三話 告白、想定外

 
前書き
機械王とついに戦闘開始。

そして一方ではりんかさんがついに動き出す・・・・!

ではどうぞ。 

 
最低だ、最低だ、最低だ。
りんかは逃げながらそう思う。
今も戦い続けているであろう少年を助けに行かなければ、行かせなければならないのに。
嫉妬に駆られている自分は、少年を見捨てるような真似をしでかした。
醜悪で、劣悪で、最悪だ。
りんかは走ったまま自分を罵り続ける。
とめどなく流れ出す涙は、そんな資格すらないと分かっていても流れ続ける。
「りんか!待て!」
大好きな人が自分を追いかけている。
それがさらに自分の罪深さを増幅させる。
なんで追いかけてくるのか。
醜い自分を見られたくなくて逃げているのに。
追いかけてこなくていい。私はこのまま………。
「待てって言ってるだろ!」
右腕が急に後ろに引かれる。
腕が引かれた勢いのまま、体は大好きな人の腕の中へ投げ出される。
「どうしたんだ?りんか。」
和也は強く優しくりんかを抱きしめる。
その強さはりんかがどれだけ拒絶しようとしても揺るがないほどの強さだった。
どれほど抵抗しようと抱きしめる力に揺るぎは全くなかった。
しばらくしてもはや抵抗は無駄だと悟ったのか、りんかは少し息苦しさを感じつつも、抵抗していた力を抜く。
「どうしたんだ?りんか。」
和也はもう一度同じ質問を繰り返す。
優しく諭すように。
りんかもそれを聞いて答えざるを得ないと思ったのだろう。
己の醜さを吐露する覚悟を決めて、答えることにした。
「………ごめんなさい。」
「りんか?」
「引きとめて……ごめんなさい。……ごめんなさい。」
りんかはうわごとのように謝り続ける。
引きとめたことで誠也を見捨てるような格好になってしまったことを何よりも後悔し、詫び続けていた。
「りんか。大丈夫だ。」
しかし、対する和也の返答は力強かった。
りんかをさらに強く抱きしめ、言葉を続ける。
「誠也は強い。俺よりも。それにアリスも向かってくれてる。だから少しくらい遅れても大丈夫だ。」
「でも………!」
「大丈夫だ。誠也はよっぽどじゃなければ負けない。だからこそ『管理局の白い最終兵器』なんて呼ばれているんだからな。」
和也はりんかに気に病むことはないと力強く諭す。
誠也が本気で制限なしに戦うのなら和也よりもずっと強い。
正確無比な無数の魔法弾に一撃必殺の砲撃は、和也を為すすべもなく完封したことすらあったのだから。
「………。」
りんかもそんな和也の信頼を感じたのだろう。
和也を信じ、少しだけ肩の力を抜く。
けれど、誠也のことがなくなったとはいえ、りんかの嫉妬が無くなるわけじゃない。
「りんか。なんであんなに辛そうな表情をしていたのか。俺に教えてくれないか?」
「………。」
「りんかがあの時何を思っていたのかは俺には分からない。だけど、りんかが何か辛い思いをしていたことくらい分かる。だからそれを俺に教えてほしいんだ。」
「………。」
「俺は何があっても、お前を嫌ったりしないから………。」
和也はさらに力強くりんかを抱きしめる。
この時りんかがどのような気持ちを抱いていたのかは分からない。
ただ、りんかは小さな声で口を開いた。
「……わた……は……」
「ん?」
「……私の事はどう思ってるの?」
りんかは和也を強く抱きしめた。


『我ガ聖域ヲ汚スノハ貴様カ?』
鋼の巨人が誠也に問いかける。
威厳と力強さがその声には満ちていた。
「……お前は一体何者だ?」
レイジングハートを突き出し、強い調子で鋼の巨人に問う。
『人ニ名ヲ問ウノナラバ先ニ自分カラ名乗ルモノデハナイノカ?』
「……高町誠也だ。」
傲岸不遜に逆に問いかけられ、警戒もあらわに誠也は名乗る。
『我ガ名ハ機械王。全テノ機械ヲ統ベル者ダ。』
鋼の巨人は威風堂々として、一歩誠也へと近づく。
『人ノ子ヨ、貴様ニ問ウ。貴様ハ何故我ガ聖域ヲ汚スノダ?』
「……先にこっちの質問に答えてもらおうか。ここで一体何をたくらんでいる?」
誠也のその問いに、鋼の巨人の紅い瞳が不気味に光る。
『フン、王タル我ノ問ニ答エズニ逆ニ我ニ問ウカ。マアヨイ。我ガ悲願ヲ教エテヤロウ。』
誠也は構えを解かずに警戒し続けているが、その逆に機械王は警戒を解き、ゆったりとしながらその一言を告げる。
『我ガ悲願ハタダ一ツ。機械ニヨル機械ノタメノ世界ヲ創造スルコトデアル。ソノタメニ我ハコノ世界ヲ滅ボス。』
それを聞いた誠也の表情は驚愕に染まる。
それはつまり、地球を滅ぼすと言うことにほかならない。
このまま機械王を放っておけば和也やりんか、エリが犠牲になると言うことだ。
『人ノ子ヨ。我ハ貴様ノ問ニ答エタゾ。貴様ノ答エヲ聞カセテモラオウカ。』
機械王が誠也にそう問いかける。
誠也にとってそれは愚問だった。
誠也の答えなどただ一つしかないのだから。
「聖域がどうとかは知らないけど、管理局員として、この世界の住人の友人として、お前を封印する!!」
『accel shooter.』
誠也は機械王から距離を取り、アクセルシューターを展開する。
機械王はそれを聞いて、慌てることもなく威風堂々としたまま、誠也に返す。
『ソウ言ウト思ッテイタゾ、人ノ子ヨ。ナラバ、我ハ貴様ヲ排除スルノミ!』
その言葉を皮切りに、二人の戦いが始まる。


「りんかのことか………?」
「うん………。」
りんかの瞳から流れ落ちた涙が和也の服にしみ込んで行く。
そのしみ込んだ涙の熱を感じながらも突然の問に和也は戸惑う。
「……俺は――」
「私はね、」
りんかは和也の胸元に顔をうずめ、和也に顔を決して見られまいとしていた。
嗚咽混じりの声が和也の耳を揺さぶる。
「和也君の事を諦めていない人って、もう私かエリちゃんくらいだって、ずっと思ってた。それはきっと本当のことで、だから私はずっと安心してた。エリちゃん以外の人なら無理だけど、エリちゃんなら、和也君を取られても絶対嫉妬なんかしないって。絶対応援できるって。そう信じてた。」
りんかの和也を抱きしめる力はさらに強くなり、和也は少しだけ息苦しさを感じた。
けれど、きっとそんな息苦しさはりんかの感じた苦しさの何十分の一もない。
「でもね、無理だった。嫉妬しないなんてできなかったの。和也君がエリちゃんにキスした時、私は?私だけ除け者なの?ってそんな気持ちがいっぱいあふれてた。」
りんかの嗚咽はさらにひどいものに変化していく。
服にしみ込む涙が増え、和也の服をびしょびしょに濡らしていく。
「誠也君が大変な思いをしているのに!敵に囲まれていたのに!私はそんなことしか考えてなかった……。」
りんかの心の奥底からの叫びが辺り一帯に響き渡る。
和也からはりんかの表情をうかがい知ることはできないが、普段のりんかを思えばきっとその涙で頬が濡れ、悲しみで歪んでいることだろう。
「ごめんなさい………。こんな自分勝手な私だけど………。」
そこでりんかは一旦言葉を切って顔を挙げる。
視線と視線が交錯し、和也とりんかは抱き合ったまま、見つめあう格好になる。
りんかの表情はほとんど和也の予想したままのもので、ただ予想よりちょっとだけ涙の量が多かった。
「私は和也君が大好きです。」


「シュート!!」
展開された全ての魔力弾が一斉に鋼の巨人へと向かう。
けれども鋼の巨人はそれを見ても一切よけようとしない。
ただ泰然と構え、魔力弾が直撃するのを待っているように見える。
そして魔力弾は一つ一つ確実に直撃していく。
直撃したそばから魔力弾は爆発を引き起こし、全てが着弾する頃には魔力弾によって引き起こされた爆煙が巨人の巨躯を隠すほどになっていた。
普通の人ならば、ここで油断をするのだろう。
展開した魔力弾が全て命中したのだから、敵はもしかしたら倒れているかも。そう考えるのもある意味では当然である。
ただ、誠也は油断しない。
レイジングハートは構えたままで、相手が動くのを待つ。
『オオッ!!』
煙の中から、気合いを込めて巨躯が襲いかかってくる。
襲いかかる右腕、その速度は早く、常人なら回避することはままならないだろう。
しかし、誠也は冷静にその攻撃を見切って回避する。
回避した先は相手の右側面。そこに砲撃を叩きこむ。
機械王はわずかにぐらつくが、倒れるまでには至らない。
伸ばした右腕を振り抜き、反撃してくる。
「くっ!」
誠也もそれをすぐさま確認し、バックステップで大きく距離を取ってこれをかわす。
「アクセルシューター!!シュート!!」
『ソノ技ハ我ニハ効カヌ!!』
機械王はそう叫び、誠也へと向かっていく。
そしてその言葉通り、誠也から放たれた魔力弾を意にも介さず誠也へと突進する。
「くそっ!」
誠也へと直撃する直前、誠也は大きく跳躍する。
突進する機械王の背後を取るように飛び越え着地し、レイジングハートを向ける。
「ディバイン――」
『Divine buster』
「バスタ―――!!」
ショートバスターよりはチャージタイムは長いが、それでも隙を少なくするために極力チャージを短くした砲撃を打ち込む。
機械王はその攻撃に対し、両腕を交差させて受け止める。
それでもその衝撃は相当のものだったのだろう。
十数トンはありそうな鋼の巨躯を一メートルほど後退させるほどの威力を持っていた。
しかし、一メートルほど後退させるにとどまり、機械王は全くの無傷だった。
「ディバインバスターも効かないのか………。」
誠也にとって、その事実は相当堪えるものがある。
今まで誠也が相手にしてきた中で、ディバインバスターを真正面から受け止めきった相手は非常に少ない。
特に敵として相対した相手の中でそういった相手となるとほぼ皆無に近い。
それがたとえ、威力を絞ったディバインバスターであってもだ。
誠也にとって、それくらいディバインバスターには自負があった。
『興醒メダナ。我ヲ封印スルナドト抜カスカラドレ程ノモノカト思エバ、所詮ハタダノ人。貴様ノ一撃ハソノ程度カ。』
けれども、そう言われてしまうほど機械王にはディバインバスターが通じていない。
誠也は安い挑発と思えども、カチンと頭にきてしまうのに無理はない。
己が自負するディバインバスターを真正面からバカにされたのだから。
「だったら、全力の一撃見せてやる………!」
誠也は機械王から大きく距離を取るように後退する。
レイジングハートを構え、ディバインバスターの体勢に入る。
「これが俺の全力全開―――!!!」
ガキンガキンガキンとカートリッジもロードする。
誠也は目いっぱいのチャージタイムを取り、なおかつカートリッジも使用することで自分の最大威力を相手にぶつけるつもりである。
この最大威力というのは尋常なものではない。普通の魔導師なら十人束になっても耐えきれるものではないし、下手すると百人まとめてノックダウンできるだけの威力を秘めている。
しかし、機械王はそれを見ても微動だにしない。
『0x 8ae4 834b 96bd 836a 8f5d 8343』
それどころか、機械王から意味不明な音声が発せられた。
それはひどく不快なもので、誠也の頭に直接響くような音だ。
しかし、その程度では誠也の集中力が乱れることはない。
不快気にその表情を多少ゆがめる程度が関の山だ。
誠也の集中力を乱して魔法をキャンセルしようとしているならばひどく滑稽な方法だ。
誠也はその音声を一切無視し、ディバインバスターの発射シークエンスに突入する。
「ディバイン――」
『92e2 8e7e 835a 8388』
発射の最終シークエンスに入っても、機械王は意味不明な音声を止めない。
しかも、一切動くこともなく未だ泰然と構え続けている。
誠也はそれを一種の挑発と受け取り、文字通り全力を機械王へとぶつけるつもりで魔力をさらに込めていく。
しかし、ここで予想もしなかった異変が起こる。
『Divine―――』
「レイジングハート!!?」
レイジングハートが突如としてその機能を停止したのだ。
レイジングハートは紅い宝玉へと姿を変え、誠也の右手に収まる。
当然、待機させていた魔力は制御の一端を担っていたレイジングハートの機能停止により、暴走状態へと移行した。
「くっ!」
制御を保とうとしても、巨大な魔力ゆえにすぐさま対応できるものではなく、誠也は魔力の暴発を許してしまう。
「ぐあっ!」
レイジングハートの機能停止に伴い、バリアジャケットすら解除されていた誠也は、暴発した魔力の衝撃に耐えられず、そのまま吹き飛ばされてしまう。
吹き飛ばされながらもなんとか体勢を立て直し、無事着地した誠也は今までで経験したことのない事態に、必死に自らの愛機を呼ぶ。
「レイジングハート!!」
しかし、レイジングハートは誠也の呼び掛けに対し、何も返事をしない。
こんなことは誠也がレイジングハートと出会ってから一度もなかった。
だから誠也は必死にレイジングハートに呼びかける。
しかし、誠也は気付かないうちに二つのミスを犯していた。
一つはレイジングハートの機能停止という、いままで経験したことのない事態に対して、冷静に対処することができなかったということ。
もう一つは暴発による爆煙が誠也の視界を遮り、機械王の姿を見えなくし、さらには機械王に対して注意を向けていなかったということ。
この二つのミスが誠也に決定的な隙を生み出した。
『王タル我ニ逆ラエルモノナドオラヌ。』
誠也がハッとし、気付いた時には鋼の巨人は目の前に迫っていた。
爆煙から飛び出してきた機械王はその左腕を振りかぶる。
『滅ビヨ!』
想定外の事態により対処の遅れた誠也は、その身に巨人の拳を受けることになる。

 
 

 
後書き
機械王が発する謎の言語。
分かる方は恐らく分かると思います。
ちゃんと意味があって、法則性に則り表現しています。
ヒントは十六進法ですね。

一体何と言っているのかは公開しません。
なぜレイジングハートが機能停止したかもこの言語の内容が関わっています。
なので分からない方がいいかなと個人的には思っています。 
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