カルメン
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第一幕その一
第一幕その一
第一幕 出会い
スペインセビーリア。今その煙草工場の前で兵士達が集まっている。彼等はここに駐屯地があり街の警護にあたっているのである。
「しかしあれだな」
黄色の派手な軍服である。それは騎兵隊の軍服だ。子供達や女達に人気の軍服でもある。馬に乗ればその人気がさらに高まる。
「何か最近煙草工場の方が騒がしいな」
「そうだな」
兵士達は煙草工場の方を見て話をする。見れば赤茶色の煉瓦の大きな建物がそこにある。
「何かあったのか?」
「この前人を募集していただろ」
「ああ」
黒髪の兵士が茶髪の兵士の言葉に頷く。
「その時に一人の女が入ったんだが」
「誰だい?それは」
「カルメンっていう女さ」
茶髪の兵士はそう同僚に語る。
「そいつが来てから何かと騒がしいんだ」
「そうだったのか」
「あの」
ここで青い服を着て長い金髪を後ろで編んでいる小柄な少女が兵士達のところに来た。そうしておずおずと彼等に声をかけたのであった。
小さな顔は目鼻立ちがはっきりしていて麗しい感じである。特に目が印象的でやけにみらびやかな光を放つ青い目である。兵士達はその少女を見て思わず口笛を吹きそうになったが流石にそれは不謹慎なので止めた。そうして礼儀正しく少女に声を返すのであった。
「はい、お嬢さん」
「私達に何か御用で」
「伍長さんを探しているのですが」
少女はそう兵士達に述べた。
「どちらに」
「伍長なら俺だが」
ここで一人の兵士が出て来た。背が高く立派な鼻をしている。
「悪いけれどお嬢さんみたいな娘は知らないけれど。告白なら受けるよ」
「いえ」
「違うのか。何だ」
少女が首を横に振ったのでまずは落胆してみせるがそれは一瞬のことであった。
「違う伍長さんでして」
「伍長っていっても多いですよね」
「ああ」
その伍長は黒髪の兵士の言葉に応えた。
「それでどの伍長さんかな」
「ドン=ホセです」
少女はその名を出してきた。
「ここにいますか?」
「ああ、あいつならな」
今ここにいる伍長は少女の言葉に応えた。
「中隊は違うけれどもうすぐ来るよ」
「ここにね。当番の交代で」
「そうですか、すぐに」
少女は伍長と茶髪の兵士の言葉に笑顔になった。実に晴れやかな笑顔であった。
「そうだよ。まあもうちょっと待てばね」
「わかりました」
その透き通った白い笑顔で伍長の言葉に応える。
「ではここで待たせてもらいます」
「ここはちょっと寒いんじゃないかな」
伍長はここでふとこう言ってきた。
「すぐ側に教会があるからそこに入っているといいさ」
「教会ですか」
「うん。少なくともここみたいにそのまま風は来ないしね」
そう少女に勧める。
「そこでどうかな」
「わかりました」
少女も笑顔で伍長の言葉に頷いた。
「それでは御言葉に甘えまして」
「うん。交代の時はすぐにわかるから」
伍長は親切にもそれについても言うのだった。
「そこにいていいよ」
「すぐにですか」
「ラッパが鳴るから」
だからだというのだ。
「それに子供達もはしゃぐしね。本当にすぐわかるよ」
「わかりました、ではその時にまた」
「うん、またね」
少女はそこまで話を聞いてまずはこの場から姿を消して教会の中へ入った。古い教会であり煉瓦のあちこちにヒビが入っている。だが彼女はそれを気にせず中に入るのであった。兵士達はその少女を見送った後で伍長に言うのだった。
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