ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第66話 そして、再出発へ・・・
ロマリアでの用事を済ませた俺達は、ダーマの神殿にいた。
俺と、テルルとセレンが転職するためだ。
ちなみに、俺は商人に、テルルは僧侶に、セレンは魔法使いに転職した。
「全員レベル1ですね」
「再出発だからな。お前にあわせたよ」
「アーベルさん。ありがとうございます」
勇者は俺にむかって、ひょこんと頭をさげる。
かわいい妹ができたみたいで、おもわず頭をなでなでしようとおもったら、周囲から殺気がするので、あわててとりやめた。
ロマリアで、ジンクに勇者を紹介したときに、思わず「かわいい妹のようなものだ」と口を滑らしてしまった。
すぐに、勇者が「おにいちゃん」といって、すりよってくるし、セレンやテルルも「私もおにいちゃんと呼んだほうがいいのですか」と変な視線でたずねるし、ジンクなどは「おにいたん」、「おにいさま」、「にいにい」、「あにじゃ~!」など、師匠から教わったであろう、ありとあらゆる表現を駆使して、俺をからかっていた。
トシキは、本当にジンクに何を教えていたのだ。
俺は、みんなに「俺の事を兄と呼ぶことを禁止」させたのだが、勇者を除いた全員から、「勇者を妹扱いするのは禁止」と約束させられた。
その中にはなぜか「勇者の頭をなでなですること」も禁止事項に含まれている。
だから、俺は勇者の頭をなでることができない。
「でも、全員一度に転職なんて大丈夫ですか?」
不安そうに勇者がたずねる。
さすが、レベル1で世界中を旅させられた経験の持ち主だ。
「だいじょうぶだよ、俺が守ってやるから」
今回は、時間に余裕がある。
だから、レベルにあわせて、アリアハンからきちんと順番通りに旅をするつもりだ。
まあ、ボストロールとか、やまたのおろちとかの中ボスモンスターは、すでにたおされているはずだが。
「ありがとうございます、アーベルさん」
勇者が俺の手をとって、尊敬のまなざしで見つめていると、
「あの商人、にやけちゃって」
「かわいい彼女と一緒か。うらやましいかぎりだ」
「手を握ったりして、神殿を何だとおもっているのか。けしからん」
耳に入ってくるひそひそ話を聞く限り、いろいろと周囲に誤解を与えてしまったようだ。
ちなみに、俺が勇者が女であることがわかった日から、勇者は女の子らしい服装をしている。
この前などは、マントの下に7姉妹の次女が身につけていた魔法のビキニを身につけて「どうですか、アーベルさん」と話しかけられたが、俺が答える前に、
「アーベル、何をしているの!」
と、テルルは何故か俺に注意をして、反論しようとする俺に対して、さらに延々と説教を食らわされた。
えん罪の怖さを、身をもって思い知らされた。
転職をすませて、そそくさとアリアハンに戻った俺達は、自宅で休んで翌日から冒険を始めることにした。
旅立ちの日の朝。
勇者の母親だけが見送りに来ていた。
勇者の母親は、当初、娘が冒険に出ることに反対していた。
母親は、娘を男の子のように厳しく育てたのは、無事に冒険から帰ってくる事を願っていたからであり、心配しなかったわけではない。
勇者に対しては、
「あなたの旅はまだおわらないの?」
「魔王はもう、たおしたのでしょう?」
と、何回も引き留めていた。
勇者の懸命な説得工作で、
「・・・そう、まだなのね」
「わかったわ。母さんずっとまっているから・・・」
と納得し、見送りに来ているのだ。
そのかわり、勇者の母親の俺に対する視線は、非常に厳しい。
まるで、「うちの娘をかどわかして、冒険という危険なことに巻き込む存在」と考えているようだ。
それをしたのは、俺達ではなく、3人組の誘拐犯なのだが。
そのことを、テルルに話すと、
「アーベル、本気でいっているの?」
と、逆に心配されてしまった。
ちなみに、俺の母ソフィアに冒険の話をすると、
「結婚相手を連れてくるまで、家に帰らないで」
と言われた。
「俺はまだ、20歳にもなってないのに、気がはやい」
と、言い返すと
「10年後も同じ事を言うから、だめ」
と切り捨てられた。
前世の事を思い出すと、否定できないので、うなずくしかなかった。
俺達が最初に目指したのは、アリアハンの西にあるナジミの塔だった。
目的は、盗賊の鍵の入手である。
塔の最上階に住む魔法使いが持っている。
俺達が冒険した時に、しばらく借りていた鍵だ。
俺が鍵開け呪文「アバカム」を持っているので、はっきり言えば無用のアイテムだ。
と、身もフタもないことを言うと、アリアハンでのイベントが無くなるので、勇者を先頭にして歩いている。
「モンスターいないね」
「・・・。そうだね」
孤島にそびえるナジミの塔に行くためには、地下の通路を通る必要がある。
かつては、モンスターがいたが、今は全く存在しない。
俺が、ウエイイ開放計画を実施していた頃、アリアハンでは、ナジミの塔奪回作戦が展開されていた。
母ソフィアが詳細を教えてくれなかったので、知り合いの兵士に確認したところ、「ほとんどソフィアが1人で、塔を制圧した。魔法も使わずに」と、遠い目をして教えてくれた。
世の中には、知らない方が良かったことがあるようだ。
今回俺達が使用した、塔への移動ルートは、アリアハンの東南にある岬の洞窟から進入している。
実は、アリアハン城内から侵入するルートもあるのだがやめている。
せっかく勇者の母親が見送っているのに、城にもどるのはきまりが悪い。
俺たちは、苦労することなく、ナジミの塔の最上階に到着した。
とうぞくの鍵を持つ魔法使いの老人は、昔と変わらず、居眠りをしていた。
いや、寝たふりをしていた。
「起きてください」
勇者が魔法使いを起こそうと体を動かすが、動かない。
「今回はどうするの?アーベル」
さすが、テルル。
魔法使いの寝たふりを見破ったようだ。
テルル相手に、同じ技は通用しない。
俺は、勇者に声をかける。
「帰るぞ」
「いいのですか」
「無理に起こすのはまずいだろう」
「ですが、とうぞくの鍵が」
「俺が、代わりに開けてやるよ」
寝たふりをしている老人に、容赦ない宣告を聞かせる。
「だから、帰ろうか」
俺は、勇者の肩に手を回して一緒に帰ろうとする。
「・・・。はい、アーベルさん」
勇者は何故か、俯いた表情をしている。
「まちなさい」
魔法使いの老人が、俺達を制止すべく、寝たふりをやめ声をかける。
「次は、何処に行きましょうか?」
俺は老人の声を無視して、勇者の質問に答える。
「それは、リーダーである勇者が決めることだ」
「でも、元リーダーのアーベルさんの意見が聞きたいです」
「そうだな。俺なら無難に、レーベの村で一泊するだろうな」
「そうしましょう」
勇者は俺の提案を嬉しそうに受け入れる。
「待ってくれ」
老人は、俺達を制止するため入り口に立ちふさがった。
「頼むから、わしの話を聞いてくれ」
「はい」
勇者は喜んで頷いた。
「・・・。というわけで、勇者にはとうぞくの鍵を渡そう」
魔法使いの老人は、勇者にとうぞくの鍵を手渡そうとする。
「どうする?」
決定権は勇者に渡している。
当然問題が有れば、俺が意見をいうことにしているが。
「私には、アーベルさんがいるから大丈夫です」
「そうなるよなぁ」
「そうですよねえ」
「アーベルは、あなたのものではありません」
テルルだけ異議があるようだが、とうぞくの鍵がいらないと言う結論だけは、全会一致だ。
「たのむ、ひとりでさみしく何年も暮らしている老人の、最後の頼みを聞いてくれ」
老人も、必死だ。
「どうします、アーベルさん?」
勇者は、俺に意見をもとめた。
勇者としては、人の頼みを断るのがつらいのだろう。
俺としても、勇者の名声を下げる行為はしたくない。
「受け取ったら?」
「わかりました」
勇者は老人から、鍵を受け取るとお礼をいった。
「ありがとうございます」
「いいのじゃよ、夢のとおりの出来事だから」
本当か?
前に俺達と会ったとき、俺達が夢に出ていたことなど一言も話してないが。
俺達は帰ろうとすると、老人が引き留める。
「待ってくれ」
「なんですか」
「実は、夢には続きがあってな」
老人の話では、勇者がお礼に、老人と一緒に休むという話だ。
「・・・。アーベルさん」
勇者は、俺に判断を求める。
「セレン。このご老人は夢と現実の区別がつかないらしい」
「わかりました」
セレンは微笑んだ。
「セレン。ザキはだめよ」
「テルル。わかっています」
セレンは、逃げ出そうとする老人に睡眠呪文「ラリホー」を唱えた。
老人は、深い眠りについた。
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