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ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第7章 終わりの始まり
  第54話 そして、警告へ・・・

「騒がしいわね」
「どうしたのでしょう?」
「誰かに聞くしかないでしょう」
俺達は、喧噪の中にいた。

俺は、いつものように着ぐるみをきて、ロマリア城へ向かっていた。
俺は、退位してから半年が経過しているので、着ぐるみを着なくても問題ないだろうといっていたが、セレンとテルルが反対した。
「可愛いから、是非着てください!」
いや、そういう目的で来るわけではないですから、セレンさん。
それと、タンタル。
着ぐるみは1着しかないからといって、疲れた身体を無理に動かしてキャットフライを狩りに行こうとするな。
この冒険が終わったら、いくらでも狩りに行くのを手伝ってやるから。
あ、やばい。死亡フラグだ。
「アーベル、安心はできないわ。
今でもアーベルに反感を持つ貴族達はいるのだから」
テルルさん、行っていることは論理的ですが、ニヤニヤした表情では説得力がありませんよ。
それに、着ぐるみイコールアーベルという認識がロマリア王宮内に浸透しつつある。
逆に正体がばれるだろう。
反論をしたかったが、時間がないため我慢して身につけて王宮までやってきた。
しかし、王宮に来るまでに気がついたことだが、ロマリア兵達の様子がおかしいのだ。

ロマリアに駐在するほとんどの兵が、城と町の入り口とを何度も行き交っている。
俺が、王に就任していた間、これほどの騒ぎは起きたことがない。
俺がロマリア王を退任した時の騒ぎでも、ルーラを使って国外に退去したことを知られていたので、ほとんど兵は動かなかった。


「いったいなにがあったのです?」
「ぬいぐるみを着ている奴に教えることは、・・・アーベル様」
城門で監視をしていた兵は俺を確認すると、慌てて謝った。
「静かに。俺が来たことがわかると、さらに騒ぎが大きくなります」
兵士はうなずく。
「王妃はいるかい?」
「謁見の間で、指揮をとっています。アーベル様が来られたら、すぐに顔を出すようにと王妃からご命令を受けております」
「ありがとう。顔をだすよ」
「はっ」
兵士は俺に最敬礼をする。
周囲の兵士達は、着ぐるみを身につけている者が誰かということがわかったようで、道を譲ってくれた。


「アーベルさん!」
「久しぶりだな、ジンク」
「あなたの仕業ですか?」
ジンクは、開口一番、隣の玉座にすわる夫の頭を指さした。
「王冠だと・・・」
「盗賊団が持っていたのでは?」
テルルが思わず口にした。

俺が、ロマリア王を退位した原因はこの冠が盗賊団に奪われたことが原因だ。
俺はそう言って退位した。
いまだに盗賊団が持ってるはずだ。
俺が丁寧にお願いしたからだ。


俺達の反応をみて、ジンクはため息をつく。
「どうやら、私の勘違いですね」
「説明してくれ」
「ええ」
ジンクは俺達を会議室に案内してくれた。
王は冠の位置をしきりに気にしていた。


「つまり、今朝、金のかんむりが急に城の入り口に落ちていたと」
「そうです」
ジンクは頷いた。
「ひょっとして、俺の仕業である可能性を考えていたと」
「勘違いでしたが」
「仕方ないさ」
ジンクは説明が終わると、俺が書いた手紙を読んでいた。

「思った以上に足が速いな」
「どういうこと、アーベル?」
「恐らく、3姉妹は盗賊団を退治したのだ」
「たった一日で?」
「ルーラかキメラの翼を使えば、すぐにノアニールやロマリアに着くはずだ。いや、勇者を連れ去る前に、盗賊団を倒したのかもしれない。いずれにしても、計画的な犯行なのは間違いない」
「どういうこと」

「なぜ、3姉妹は黙って王冠を返したのか」
「わからないわ」
テルルは首を横に振る。
奪われた王の冠を取り戻す。
それだけで、報酬が得られるだろう。
なのに、それをしなかった。
普通ならあり得ない。

「ジンク、警備を」
俺はジンクに声をかける。
「わかりました。すぐに捜索をやめて、警備に集中するよう手配してください」
「かしこまりました」
衛兵の1人が、会議室から飛び出して素早く指示をだす。
「どうしたの」
「陽動だ」
「陽動?」
セレンは俺にたずねた。

「王冠が突然現れたら、誰でも混乱する。王様は違うようだが」
「そうですね」
俺の手紙を読み終えた、ジンクは苦笑する。
だが、顔が少し赤くなっている。
照れているのだろう。

「話がそれたな。3姉妹は警備を混乱させて、別の何かをねらっているはずだ」
「なるほど」
「だから、捜査を止めさせたのね」
「もう遅いかもしれないけどね」
ジンクは疲れたような声をだす。
「奪われそうなものに、心当たりは?」
「王室ですから、ありすぎて困るぐらいですよ」
「王の誘拐とかは?」
テルルが質問する。
「ないでしょう」
「ないな」
ジンクと俺は頷いた。


「王妃様」
先ほど指示を出していた衛兵が戻ってきた。
慌ててもどったのか、息づかいが荒い。
「どうしました」
「船が、船が奪われました」
「遅かったようですね」
「そうだな」
俺達はため息をついた。


「こうしてはいられない」
俺は、セレンとテルルの肩に手を回す。
「な、何をするのよ」
「・・・」
「ジンク、また後で。あと、艦隊出動の要請書を用意してくれ」
ジンクは頷いた。
「海上封鎖ですね、わかりました。気を付けてください」
「まだ、死にたくないからね」
俺は、ルーラの呪文を唱えて、ロマリア城内から次の目的地に移動した。



「3日目ですね」
「そうだな」
俺達はポルトガの南西にある海峡にいた。
「灯台からの報告も異常ありません」
「そうか」
ポルトガ海軍から俺に情報が伝えられる。
「長期戦になるかもしれないな」
俺はつぶやいていた。


俺達は、ポルトガへルーラで移動すると、王に面会を申し込んだ。
「ひさしぶりじゃの、アーベルよ。また黒こしょうが食べたいのだが」
「それならば、艦隊をお借りしたい」
「バカなことを言うな!」
そばにいた大臣が文句を言う。
「好きにするがいい」
「それでは、買い付けに行きますので」
俺は、許可証を受け取ると、海軍基地へ走り出した。

「まってください」
「どこに、いくのよアーベル!」
「話は後だ!」
後には、嬉しそうな表情をする国王と頭を抱える大臣がいた。


「説明してくれても、いいじゃない」
「そうです」
テルルとセレンは俺を追及した。
「すまない。時間は無かったのだ」
「・・・」
俺の言い訳になんとか、理解はしてくれたようだ。

俺は、ポルトガの艦隊を率いて、海峡を封鎖していた。
目的は、ロマリアを出発した3姉妹の船を沈没させるためである。

俺の行動は、何とか間に合ったらしい。
海峡の南にある灯台の報告では、俺が艦隊を動かしてすぐにロマリアの船を発見したという。
姿を消す呪文や薬があっても、船までは隠すことはできなかった。
出現した船は、俺が率いた艦隊を見つけると、ロマリア方面に帰ったという。

俺は、5隻の艦隊を交替で休ませながら、海峡を封鎖していた。
そうするうちに、ロマリア王国からの艦隊の出動要請がポルトガに届き、現在ではロマリア海軍主導で艦隊行動が続いている。

俺は、1日休暇をもらって、黒こしょうを買いにいった。
方便とはいえ、約束は果たさねばならないからだ。

「うむ、うまい。さすがは、アーベルじゃ」
ポルトガ王は黒こしょうをまぶしたポテトフライをかじりながら、俺をねぎらってくれた。
「引き続き、監視のため乗船させていただきます」
「好きにするがよい」
俺は、頭を下げると港へむかっていた。


「長期戦になりそうですな」
「作戦を変える必要があるかも知れませんね」
「だが、相手は手強いと聞く」
「そうですね。しかも、俺達の裏をかく可能性があります」
「そうですな」
俺は、バルトロという名のポルトガの海軍司令官と話をしていた。

バルトロは40過ぎの物腰の丁寧な男で、渋めの声が大きく整った体格によく似合っていた。
バルトロは最初、俺の強引な艦隊出動に苦言を呈したが、ポルトガがロマリアからの艦隊派遣要請を受けた際に、俺が指揮権を速やかに返上したことで、信頼してくれたようだ。
俺は臨時ロマリア海軍司令官として、派遣されたことになっている。

ちなみに、ロマリア海軍は現在俺1人だ。
ポルトガから送られた船は、近衛兵総統直属の海洋研究所が管理していた。
友好国であるポルトガが、海賊等に対する海洋の安全を保証していた故、都市の再建や陸軍の増強を優先的にして海軍再建は後回しにすることができた。
だが、船の強奪によって裏目に出てしまった。


俺とバルトロは現在の状況を打破するため、作戦を練っていた。
俺が、考えているのは、5隻のうち1隻に俺が乗り3姉妹の追跡を行う。
残りの4隻が海峡での警備を続けて、俺が相手の船を発見した後に包囲する。
戦闘については、俺が空中に浮かんで、魔法の玉を投下して船を沈没させる。
3姉妹がルーラやキメラの翼で脱出する可能性があるが、船を失うことにより彼女たちの行動は大きく制限されるはずだ。

攻撃の際に勇者だけが逃げ遅れる可能性がある。
勇者は助けられたら、救助するが、出来なければあきらめて、次の勇者候補に大魔王討伐をまかせることにする。
非情かもしれないが、タンタルがかつて3姉妹から受けたことを考えると、今の勇者が無事とはとても考えることができない。
それならば、いっそ・・・。

勇者の両親にも申し訳ないが、今の俺達には他に手段が思いつかない。
セレンやテルルは俺の決断にいろいろ言いたいことがあるようだったが、最終的には黙って頷いてくれた。
しかし、やりきれない思いは残っている。
「なんとか、無事でいてくれ」
俺は、そう願いながら、作戦の準備を整えていた。


「アーベルさん」
「タンタルさん。大丈夫ですか?」
俺はタンタルのステータスシートを確認してから、返事をする。
「少し船酔いをしていますが、大丈夫です」
俺が心配そうに話しかけたのを、タンタルはさえぎって明るく話しかける。
普段の様子を取り戻したようだ。
今後の戦力になるのは、ありがたいことだ。
「ソフィアさんから至急にと預かってきました」
タンタルは、一通の手紙を手渡した。

「ありがとう、タンタルさん」
俺は、封を開けて内容を読み始めた。
「・・・。失敗したか」
「大丈夫ですか」
セレンが心配そうに声をかける。
「揺れが激しい甲板で手紙を読んだので、船酔いをしました」
「そっちの話」
俺が、苦笑すると、みんなも苦笑した。
「続きは、船室で話しましょう。バルトロ司令官もお願いします」
「わかった」
バルトロはいつもの渋い声で返事をすると、司令官室へ案内してくれた。


「申し訳ありません。作戦は失敗しました」
「どういうことです、アーベル司令官」
俺が、開口一番でみんなに謝罪すると、バルトロは理由を問いただした。
「彼女たちは、ロマリアと同じ事をしました。アリアハンで」
「もう一隻船を奪ったと」
「そうです」
俺は、悔しさで拳を握りしめる。
「当然、盗難を予想して警備を厳重にしていました。しかし、俺に変装して堂々と船を乗っ取ったとの報告がありました」
俺は、手紙を皆に回した。


「ひどい!」
「悪辣だな」
「・・・」
それぞれ、批難の言葉を口にする。

「済んだことは、取り返しがつきません。バルトロ司令官、お世話になりました」
俺はバルトロに頭を下げる。
「アーベル司令官。これから、どうするのかね」
「とりあえず、ロマリアから強奪した船を捜索します。残っていればですが」
「捜索なら、我が艦隊も手伝おう」
「よろしいのですか」
「ロマリアからの要請は、犯人の討伐又は捕獲に加えて、船の回収もある」
「ありがとうございます」
「なに、ポルトガ海軍の働きをロマリアにも見せつけないとね」
バルトロは、にこやかに微笑んだ。


俺は、バルトロに感謝の言葉を再度伝えながら、これからの事を考えていた。
3姉妹が外洋に出た以上、捜索はあきらめるしかない。
タンタルからの証言により、彼女たちは、不死鳥ラーミアの復活の為にオーブの入手の計画を企てていると推測している。

オーブは6つあり、入手の順番は自由なので、上手くいけば、どれかを入手して、復活を阻止することができるかもしれない。
だが、逆にすれ違いの可能性が高くなる。

そして、俺達がオーブを入手したとしても、相手が何をしてくるかわからない。
勇者を誘拐するくらいだ。
俺達の家族を脅すことなど、何ともおもわないだろう。
結局のところ、別の手段をとるしかない。

それにしても、と思う。
3姉妹は、純粋な戦闘力だけでなく、思考においても俺を凌駕している可能性が高い。
ここまで俺達の行動が読まれた以上は、格上の相手として戦うしかないと覚悟した。
初めての強敵に対してどう戦うか、俺が目的を果たすためには、常に頭を働かせる必要があることを痛感した。 
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