ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険
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第38話 そして、ダーマへ・・・
俺達はバハラタを出発して、北東にあるダーマへ向かっていた。
途中に、いろいろとモンスターが出現したが、全力で呪文を唱える俺や、新調した武器で戦うセレンやテルルたちの敵ではなかった。
ちなみに、俺もスーの村で新しく武器を新調した。
毒針である。
どのモンスターにも確実に1ポイントのダメージをあたえること、そしてボスモンスター以外であれば急所をつけば一撃で倒すことができる。
防御力の極めて高いモンスターである、メタルスライムやはぐれメタル対策に欠かせない一品でもある。
俺達がダーマを目指す理由は、テルルからの相談に関係している。
スーの村で、テルルから聞いた内容をまとめると、つぎのとおりだ。
自分は、レベル20になったが、商人のままでいいのだろうか。
もっと、前衛に適した職業に転職した方がいいのではないだろうか。
という内容であった。
単純に現在のパーティの戦力だけを考えるのであれば、俺は転職を勧めただろう。
だが、俺は別の考えがあった。
冒険者としての商人と、経営を営む商人とはべつのものである。
だから、別の職業に転職しても問題はないはずだ。
だが、平和になれば冒険者の商人には別な役割が生まれると、俺は考えていた。
それは、商人系の呪文の開発である。
たとえば、相手の嘘を見抜く呪文や、アイテムの具体的な効果を調べる呪文、新しいアイテムを既存のアイテムを合成することで生成する呪文などである。
呪文の開発にあたっては、宮廷魔術師である母親のソフィアや、キセノン商会に就職しているエレンズ先輩に、協力を要請している。
エレンズ先輩が協力しているのは、卒業後1年間ほど冒険者として世界中を回ったからだと聞いている。
世界中を回れたのは、卒業後すぐに、当時アリアハンにいた歴戦の冒険者たちに声をかけられたかららしい。
冒険者としてのレベルの高さから、呪文を試す役として期待されているようだ。
本当に新しい呪文が作れるかどうかは今後の研究の成果が待たれるが、ソフィア達の研究報告書を見る限り、かなり期待できるとのことだった。
当然、難しい呪文であれば、高いレベルが求められる。
そのため、俺はテルルに、本当に別の職業に就きたいと思わないかぎり、今のままで十分だと答えた。
「なら、どうしてダーマに向かうの?」
テルルは俺に質問する。
俺は、解説口調で答えた。
「理由はふたつある。一つめは、テルルにダーマ神殿でいろいろな人に話を聞いて欲しいためだ」
「話を聞く?」
「そうだ。あそこには転職を目指す人や、転職した人、そしてそれらの人の事を知っている人たちがいる。話を聞いてから転職をするかどうかを決めればいい」
「なるほどね」
テルルはうなずく。
「もう一つの理由は、戦力の強化だ」
「戦力の強化?」
「これまでは、レベルを上げたり、武器を強化したりした。それでも、物理攻撃力が低下するのなら、新しい仲間を加えればいい」
「そうね」
テルルはうなずいた。
「ダーマ神殿に来ることができる冒険者たちだ。即戦力になるだろう」
性格については、今回はあまり考慮しないことにする。
しばらくすれば、勇者を仲間に加えるからだ。
勇者がもうすぐ16歳になる。
短期間であれば、多少の性格の悪さは目をつむるつもりだ。
「わかったわ。でも約束して」
「何を約束すればいいのかな?」
「新しく仲間を決めるときは、3人が納得すること」
「当然のことだね」
「それと、性別は最初に確認すること」
「・・・。わかった」
俺は何故か冷や汗をかきながら頷いた。
ちなみに、勇者の性別は男だと母ソフィアから聞いている。
勇者についての情報はほとんど秘匿されているが、勇者の家庭などから性別の情報くらいは出回ってしまう。
この程度は仕方ないことだろう。
勇者がパーティに加入する際に、もめることはないだろう。
というか、もめたら俺達が一緒に冒険できなくなってしまう。
一度そのことを、テルルとソフィアに話さなければならないだろう。
「中も広いね」
「そうだね」
俺とセレンは、ダーマ神殿の中にいた。
テルルは、さっそく周囲の人たちに聞き込みを始めていた。
ちなみに俺は、今のところ転職をする予定はない。
少なくても、魔法使いの呪文を全て覚えられるようになるまでは転職をする気にはならない。
転職するとすれば、遊び人を経験してから賢者を目指すか、僧侶を経験してから盗賊を目指すつもりだ。
普通に呪文を極めるのであれば前者を選びたいし、力の種等のドーピングアイテムを収集して戦力を強化するのであれば、後者を選びたい。
理想を言えば、成長の早い魔法使いを続けて、新しい呪文の開発に励みたいところではあった。
ただし、大魔王を相手にする場合、HPの少なさは致命的な弱点となる。
まあ、弱点を補う方法はいくつか考えてはいるのだが。
「やっぱり、アーベルはすごいです」
「たいしたことではないのだが」
俺の将来の計画を話すと、セレンは賞賛してくれた。
いつものことだが、それでも誉められると、うれしいものである。
「あの魔法使い、にやけちゃって」
「かわいい彼女と一緒か。うらやましいかぎりだ」
「腕をくんだりして、神殿を何だとおもっているのか。けしからん」
耳に入ってくるひそひそ話を聞く限り、いろいろ、周囲に誤解を与えてしまったようだ。
どうしようかと考えていると、後ろから声をかけられた。
「すいません。どうか助けてください」
振り向くと、目の前には疲れた表情の武闘家がいた。
「さて、話を聞きましょうか」
俺達は、神殿の2階にある宿屋の前にいた。
ここには、会話をするために用意された椅子とテーブルがあり、軽食を取りながら雑談をすることができる。
俺達は、目の前で食事をしている武闘家の男を観察していた。
男は、鶏肉のような食べ物をお代わりしていた。
「俺の名前は、アーベル」
「テルルよ」
「セレンです」
「タンタルだ」
男は食事に満足したらしく、俺達の質問に答えた。
「まずはお礼をいわせてもらう。食事をありがとう」
「礼はいいから、話を聞かせてください」
俺は、タンタルと名乗った男に話を続けさせる。
俺は最初、俺のことを前のロマリア王であることを知っているのかと思った。
この神殿で俺のことをロマリア王だと知っているのは、セレンとテルルだけのようだった。
とはいえ、油断は禁物だ。
目の前の男は、知らない振りをしているだけかもしれない。
「俺は、昔ロマリアで戦士をしていた」
タンタルは、話を始めた。
「もう1人、友人である戦士と2人で、ロマリア周辺で経験を積んでいた。ところが、仲間だった友人は、ロマリアの近衛兵に就職したのだ」
就職したのは、俺が王になる前の話だ。
ひょっとしたら、知っている奴かもしれない。
「1人になった俺は、仲間を見つけるため、ロマリアの酒場で探していた。
そこで、悲劇がはじまったのだ」
タンタルは頭を抱えた。
「俺は酒場にいた、武闘家の女に声をかけた」
「女は、俺の誘いを了解すると、すぐに酒場を出て行った。人気のないところへ連れて行かれた俺は、ラリホーで眠らされた」
眠らされたことに気付いたのは、相当後になってからだとため息をついて話す。
「目を覚ますと、目の前に武闘家2人と、1人の盗賊が目の前にいた。
後で聞いたら、彼女達は3姉妹で、冒険の仲間を捜していたという」
タンタルは3人の目的にまったく気付くことが出来なかったと、後悔した様子で話した。
「俺が目を覚ますと、見知らぬ塔にいて、いつの間にか、周囲に見たことのないモンスターが現れた
彼女たちは悲鳴をあげるだけで、戦う意志が全くなかった。
俺は勇気を出して、1人だけで戦った」
彼女たちの行動は全て演技だったのだけどね、とタンタルはぼやいていた。
「敵のモンスターは強力で、油断していた俺はあっけなく殺された。
このときは、俺達のパーティは全滅したと思っていた」
タンタルは頭を抱えた。
「本当の地獄のはじまりはこれからだった」
「彼女たちは、俺をザオリクで生き返らせると、再び戦いを見守っていた。
そのため、攻撃をするのは俺だけで、他の3人は防御か自分の回復しかしなかった。
ようやくモンスターを倒したのは、7回死んだあとだった」
タンタルは絞り出すような声で話を続けた。
「俺は、死ぬことはあまり怖いとは思っていなかった。
だが、1回の戦闘でここまで死ぬと、精神が持たなくなった」
「・・・」
俺達は、彼女たちがタンタルを仲間に入れた理由をようやく理解した。
タンタルは自嘲していた。
「その後は、彼女たちのいいなりさ」
「レベルが20まで上がるたびに、ここにつれてこられて転職させられた」
最初は、魔法使いその次は僧侶そして、遊び人にもなったという。
ダーマ神殿で、冒険者の養成所に通った経験が裏目に出たと嘆いていた。
「遊び人から賢者に転職させられるとおもったが、何故か武闘家に転職させられた。
その後、彼女たちに俺のMPが無くなるまで呪文を使わされた」
嫌な予感はしていた。だが、なにも出来なかったとタンタルはいう。
「そして、再びラリホーで眠らされたあと、この場所にひとり残されたのだ」
「俺は装備もないまま、無一文で放り出された。
ここでは誰も相手にされず、ロマリアまで帰る手段のない俺は、最後の望みであなた達にお願いしたのだ」
どうやら、ダーマでは昔、この手の寸借詐欺がはやっていたらしく、誰も相談に乗ってくれなかったそうだ。
「だから、頼む。俺を仲間に加えてくれ」
タンタルは土下座して頼み込んだ。
「俺達を信用するのですか?」
「ただ飯をおごってくれただけでも、信頼に値する。
俺の先祖から伝わる格言には、食事の恩は絶対に忘れるなというものがある」
タンタルは伏したまま話を続ける。
「それに、そこにいる、僧侶とは話をしたことがある」
「えっ、そうなの?」
「セレン。覚えている?」
「いいえ」
「忘れたのも無理はない。
そのときは戦士だったし、あまり良い印象も持たれなかった」
「もしかして、酒場にいた人?」
「あのときはすまなかった」
タンタルは頭を下げたままだ。
「頼む。パーティを組むのが嫌なら、キメラの翼を貸してもらうだけでいい。
ロマリアに戻ったら、必ず返すから」
「どうする、アーベル?」
テルルは俺に意見を求めた。
正直どうしたらいいのかわからない様子だ。
それは俺も同じだが。
「まずは、ステータスシートを見せてくれませんか」
タンタルは、俺達にステータスシートを見せつけた。
「ステータスを確認する限り、話に嘘はないようだな」
ちなみに、性格はくろうにんだった。
性別が男であることは、テルルとセレンが真っ先に確認していた。
「どうするの、アーベル?」
テルルは再び、俺に意見を求めた。
「まあ、セレンの意見を最初に聞くべきだろうね」
俺はセレンに話かける。
「どう思う、セレン。一緒に冒険しても問題ないか」
「・・・。アーベルが問題ないというのなら」
「そうか。テルルはどう思う?」
「そうね、2人が反対しなければ私も反対はしないわ」
「そうか。だったら、俺の意見をいわせてもらう」
俺以外の3人は緊張する。
「しばらくここで、一緒に冒険しましょう。
問題なければ仲間に加えますし、問題があってもキメラの翼と最低限の装備はさしあげます。
セレンとテルルはそれでいいか?」
「いいわよ」
「はい」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
タンタルは俺の足にすがりつくと、泣いてお礼をいっている。
「お礼をいうなら、セレンに言ってください。セレンが嫌だったら、こんな提案はしませんでしたから」
「セレンさん。ありがとうございます」
タンタルは再びセレンに向かって土下座をしていた。
後書き
武闘家2人と、盗賊1人の3姉妹パーティ。
この物語のなかでは、最強のパーティです。
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