辻堂雄介の純愛ロード
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第漆話『平和な一日』
―――コポコポコポ
いつものように引いた豆でコーヒーを入れる。
「………なに、ドヤ顔してんのよ」
「おう、恋。いらっしゃい」
いきなり、入ってきて失礼な事を言うコイツは『片瀬恋奈』現在の湘南最大チーム『江乃死魔』の総長であり三大天の一人でもある。てか、ドヤ顔なんてしてたか……俺?
「どうしたんだ?こんな朝早くに家にきて」
「ご飯食べに来たのよ。いつでも来ていいって言ったでしょ」
ああ、そう言えばそんなこと言ってたっけ。
「わかった。そんじゃあ準備するからこれでも飲みながら待っててくれ」
恋に先ほど自分用に入れたコーヒーを渡しキッチンに向かった。
~数十分後~
「そう言えば、西側制覇したんだって?」
できあがった朝ご飯を食べつつ、恋に尋ねる。
「あら、もうソッチまで話しがいってるのね」
「まあな、ウチのクラスにそういったことに詳しいヤツがいて、そいつが話してた。それに辻堂軍団も愛以外全員殺気立ってたし」
「ふふ~ん♪まずは第一段階成功って所かしらね」
「第一段階って、まだなにかやるのか?」
「それを、あんたに言ったら一発で辻堂に知られるじゃない。だから教えないわよ」
尋ねるとこう返ってきた。たしかに聞いたらとりあえず愛には言うけど。まあ、聞かなくてもなにをしようとしているのか大体予想は出来るけどな。
「何をするかは自由だがあんまり無茶はするなよ」
「心配しないで私が使うのは基本的にココだから」
自分の頭を指差す。つまり、頭を使って勝負するということだ。実際恋はそこらにいる不良よりは強いのだが如何せん、愛やマキに比べるとまあ『強さ』の点では天と地ほどの差がある。だから、いつも勝つために様々な策を巡らせている。
それが裏目に出ることが多いけど…。
「ユウー、ハラ減った~」
マキが窓から現れた。何度注意しても聞かねぇなコイツは…。
「こ、腰越!?」
「お、恋奈も来てたのか」
「おはよう、マキ。すぐ用意するから、座って待ってて」
「はーい♪」
恋の隣に大人しく座るマキを見てからキッチンに再び戻ってベーコン多めのベーコンエッグを焼く、その間に食パンをトースターに入れておく。
数分後出来上がりと同時にパンが焼けたのでそれも一緒にテーブルに持って行く。
「ほい、おまたせ」
「わーい、いたーだきまーす♪」
置いたのと同時に勢いよく食べ始めるマキ。その笑顔といったら、見ていて飽きない。
「腰越を見てると不思議に思えてくるのよね」
「ん?何が?」
コーヒーを飲みながら恋が呟いた。
「だって、あんたは辻堂の身内。それだけでも周りを敵に回しているのにもかかわらず私たちと顔見知り。腰越に関しては餌付けしているし」
確かに、奇妙な関係と言えばそうだな。
「ま、腰越がここ最近大人しいから有り難い限りだけどね」
恋が言った通り、マキはここ最近……俺の知る限りでは喧嘩はしていない。なぜなら、俺とマキとである約束が交わされたからだ。その約束とは、喧嘩したことが俺の耳に入った時点で罰としてご飯お預けとなっているからである。
辻堂雄介の純愛ロード
第漆話『平和な一日』
「はよーっす」
クラスメイト達に適当に挨拶して教室に入る。
「な、な、雄介くん。今晩空いてない?由井浜の子と合コンするんだけど、人数足りなくってさ」
席に座るといの一番に南が誘ってきた。
「悪いけど、今日3会の会議があるんだ。だから、大でも誘ってくれ。なっ大」
「え!?俺?」
たまたま、近くに来ていた大に話しを振る。
「お、俺はいいよ。そういうの、どんな話ししたらいいのか分からないし」
「そっか、それじゃあ……板東はどうだ?顔良いし。寄せ餌になるだろ」
「ああ、タロウか……」
ん?なんか、微妙な反応。そう言えば前に誘っていたな。その時にでも何かあったか…。
「ま、気が向いたら連絡くれタイ」
「おう」
そう言うと3人は俺の席から離れていく。
「合コン、出ればよかったんじゃないか?」
そして、入れ替わりに板東が来た。
「だから、今日は会議があるんだって。それに、合コンなら板東が行けばいいだろ、人数空いているらしいぞ」
「凡俗な集いに興味はない。まあ、合コンはともかくとして。ひろも雄介もそろそろ、恋の季節を迎えてみてはどうだ?」
「恋の季節……ねぇ。まっ大はシスコンだから無理じゃね?」
「いや、俺シスコンじゃないから」
「え!?だってお前、冴子先生以外の異性に興味ないんだろ!?」
「あるから!?普通にあるから!?」
――――ガラガラガラッ
予鈴が鳴る寸前、ドアが開き愛が教室に入ってきた。その瞬間、教室全体が静まりかえり緊張が走った。
「………」
当の愛は気にせず自分の席へ向かう、それと同時に大と板東は自分の席に戻った。
そして、愛が席に座った瞬間張り詰めていた緊張が解けて再びざわざわとクラスメイト達が話し始めた。
俺は、身内だし普段の愛がどんな女の子なのか知っているが、他人からしたら纏っている雰囲気だけでも怖いんだろうなぁ。
「実際は可愛いのに…」と心の中で思うが声には出さない。出した瞬間に愛の拳が飛んでくるのは目に見えているからだ。
◇◇◇◇◇
「よし、行くか」
本日、何事もなく放課後になり、俺は会議室に行くために席を立つ。
「雄介くん。3会の会議ですか?」
「そうだけど、どうしたの?」
「いえ、辻堂さんの姿が見えなかったもので、よかったら私が変わりに会議に出ようかと………思ったんですけど」
そういえば愛のヤツ、チャイムと同時に出て行ったな。まあ、どうせ会議には出られないから別に良いんだけど…。
「大丈夫、今日は話し合いだけで特に何か作業する訳じゃないから」
「そうなんですか?わかりました、それでは頑張ってください」
「うん。ありがとう委員長」
委員長にお礼を言い会議室に向かった。
◇◇◇◇◇
「あ~……結構長かったなぁ」
予想以上に会議が長引きもう夕日が沈み始めていた。そんな中俺は鞄を取りに教室に戻ってきていた。
「えーと、確か家に常備しておいた食材もほとんど底をついていたな。今日買い物行かなかったらマキに食べさせてやる物がないし……少し急ぐか…。あ、でもどうせだし愛と一緒に帰るか。この時間ならまだ屋上にいるだろうし。うん、そうしよう」
そう決めて、鞄を持って教室を出ようとしたとき―――
「辻堂おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
生徒も少ない校舎に木霊する、野太い声。まあ、普通の人ならビックリするだろうが俺は別にしない。なぜなら、こういった感じの声はしょっちゅう聞いているからだ。
「愛のやつ、また絡まれてんのか……大変だねぇあいつも」
と呟き、屋上に向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇
「………」
「いたなぁ辻堂」
「ここであったが100年目!勝負せいやぁ!」
「今日こそテメーを倒して、湘南最強は湘南BABYだって証明したらァ!」
屋上に着くと、すでに愛は武器を持った柄の悪い男3人に取り囲まれていた。
「あららぁ……」
相手は全員他校の生徒ウチの学校はこういった事はよくあるのに、なんでセキュリティが緩いんだろうか…まあ、愛がいるから厳しかろうが緩かろうがたいして関係ないけど…な。
「さああ勝負だ。勝負せぃやぁ!!」
「声がデケェ、そんなに叫ばなくても聞こえてんだよ」
囲まれているにもかかわらず、愛はまったく動じず面倒くさそうにぽりぽりと耳を掻いていた。
「ククク、俺達に気付かず軍団から離れるたぁ迂闊だったなぁ」
「3対1とか言い訳すんなよ。ベッコベコのボッコボコにしてやらぁ!!」
「………せェ」
「はぁ?なんか言った―――」
「うるせェ!!」
相手を睨み付けながら、威圧感たっぷりに言い放った。普通の人間ならその場で失神ものだが愛も一応あれでも抑えているみたいで、3人はその場に固まって動くことが出来なくなっていた。かく言う俺も一瞬足が竦み上がった。さすがは、『喧嘩狼辻堂愛』。
「出たー!愛さん77の殺し技のひとつ!鬼メンチ!」
しかも、俺の隣では葛西久美子が騒いでいた。
「あ?なんだテメェは………って、昨日の昼の!」
胸倉を掴まれる俺。しっかし、どうでもいいこと覚えてんなコイツは…。
「なにやってんだクミ」
「愛さん。昨日のヤツですよ。因縁つけに来たみたいです」
「は?」
久美子に言われ俺の存在に気が付く。
「よぉ」
俺はいつも通りの感じで挨拶をする。
「はぁー………放せクミ。そいつはアタシの知り合いでクラスメイトだ」
「そ、そうなんすか。すいません」
手を放す久美子。あー苦しかった。
「悪かったな。うちの奴らはどうも血の気が多くて」
「いや。それは別にいいんだけど……」
「それより、なんでこんな時間まで学校に残ってんだよ」
「3会の会議がちょっとばかし延びてな。もう帰るけど」
「そか。まあ、気を付けて帰れよ」
そう言い残し久美子と共に足早に行ってしまった。
「あ、誘うの忘れてた」
まあ、いいか。メールして返事を待ってから帰るか。
Side辻堂愛
「(ん?メールだ)」
屋上からたまり場に向かう途中、ポケットに入れていた携帯が振動した。確認すると、ディスプレイには『ユウ』と表示されていた。クミに中身を見られないように確認する。
『さっき言うの忘れてたんだけど、今日一緒に帰れるか?帰れるなら、校門から少し離れた所で待ってるから来てくれ。P.S.3分以内に返信が無ければ来るものとしお前が来るまで待ち続ける』
「(ったく、あいつは…)」
アタシはメールに『すぐ行く』と短く打って携帯を閉じた。
「クミ、用事が出来たから先に帰るから」
「あ、お供しますよ。愛さん」
「別に来なくていいよ。他の奴らにもさっさと帰るように言っとけよ」
「はい。お疲れ様でしたっ」
「おう」
クミの挨拶に軽く答えて、少し足早にユウが待っている場所へと向かった。
Side辻堂雄介
「お、愛から返信だ……えーと、なになに…」
屋上を後にした俺は学園から少し離れたところで愛を待っていると、さっき送ったメールの返信がきた。文は『すぐ行く』と簡単なものだった。
「しかし、後半の方、半分冗談だったのにしっかり3分以内で返事をする辺り律儀だよなぁ」
そういうところも可愛いからいいけど……でもなんか、こういう風に待ち合わせしてるとカップルみたいで良いなぁ…。
「……なにニヤけた顔してんだよ」
「うわぁ!?あ、愛」
いつのまにか来ていた愛が呆れたように言う。
「ニヤけてねぇよっ」
「いや、気持ち悪いくらいニヤけてた。そのまま、無視して帰ろうかと思ったぐらい」
「そ、そんなにか?」
「ああ」
「「………」」
お互いに何となくこの会話が何となく気恥ずかしくなってしまい数秒間無言が続く。
「…帰るか」
「そうだな…」
その後愛と共に商店街に行き、買い物を済ませて家路についた。
だが結局俺と愛の間に流れる気恥ずかしいとも言いがたい微妙な空気が変わることはなかった。
ページ上へ戻る