ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
神珠湾攻撃
「楽しそうじゃあないか」
深々とした中に狂気が混じるその声が響いた時、レンは躊躇わずに傍らと眼前にいたマイとカグラの頭を引っつかみ、身体ごと倒させた。
次の瞬間、耳をつんざくような轟音が響き渡り、先刻までレン達が立っていた真横の壁が外側から破裂した。
もうもうと立ち込める埃。ゴホゴホ咳き込みながら、レンは素早く立ち上がる。
索敵スキルの自動補正が働き、視界がクリアになっていく。そして、レンははっきりと視認する。煙の向こうに立つ、黒タキシードを着込んだ男の姿が。
「マイ、カグラねーちゃん。大丈夫?」
あくまで冷静に、レンは傍らにそう語りかける。すぐに返事があった。
「ま、マイは大丈夫なんだよ」
「な、なんとか………」
そんなやり取りをしているうちにも、視界はどんどん晴れていく。
「ラスボス登場~、ってね」
にやりと笑ったレンの眼前で、完全に視界が晴れる。その向こうには期待を裏切らず、いつものタキシードを着込んだカーディナルがいた。
「久方振りだな、とは言えないか?少年。一日振りだな」
すっとカーディナルは、右手を伸ばす。
その手に、見えないナニカが集まっていく。それがどう言うものかは解からないが、かなりロクデモナイもの、ということは解かる。
周囲の風が、カーディナルの伸ばした右手を中心に集まっていくように吸い込まれていく。
「ま、待ってください、主よ!この子は私に一任してくださるのではなかったのですか!」
「カグラか。残念ながら時間切れだ。《鍵》の回収ついでに《適格者》も回収していく」
「……………………………ッ!!」
キッと鋭い双眸を、さらに鋭くしてカグラはレン達の前に進み出る。
それを見て、カーディナルの目がスッと細められる。
「………何のつもりだ?カグラ」
「………私、カグラ。本日を持って任をお返しいたします!」
そう言ってカグラは長刀をゆっくりと抜き放つ。しゃりん、という涼やかな音。
そして鞘を腰から外し、傍らに投げ捨てる。
それを見てカーディナルはほお、と呟く。
「この私とやるつもりか………?」
カグラは黙って長刀を正眼に構える。その全身から、冷たい秋の夜風のような闘気が吹き付ける。
陽光が部屋を満たしているが、その空気はどんどんと冷たくなってい
く。空間が、二人の情報圧に耐えられないように歪んでいく。
ぎしぎし、と木製の部屋が不吉な音を発する。
「参ります!」
カグラが発した、その短い一言とともにカグラは神速の速さで長刀を振るった。長いその刀身が、テーブルごと切り裂きながら、カーディナルへと迫る。
刀身には、当然のごとく過剰光に包まれていて、空中に輝線を描きながらカーディナルに迫る。
しかし、絶対の威力を誇るその斬撃は、いとも簡単に漆黒タキシード男の掲げた右手に防がれた。
ぎりっと歯軋りするカグラの真後ろから、漆黒の輝線が走り出る。
─── 交響曲 怠惰 ───
ばしぃっ!という音が響き、今度は左手で防がれた。だが───
「む…………」
ぎりぎりとワイヤーが、不可視の結界にめり込んでいく。びし、びし、と亀裂が走り、ぶわっと宙空に衝撃という名の風が広がる。
一瞬の膠着状態。
「ほう!成長したな、少年!」
「そりゃドーモッ!!」
ぎいいぃぃィィーン!ぎゃりぃぃィィーン!
閃光と爆音が次々と鳴り響く。だが、擦り傷はおろか、切り傷すらも付けられない。
カグラも伴って攻撃するも、やはり目に見えた成果は実らない。
「くっ」
焦りをバカ正直に仮想体が読み取り、汗がレンのあごを伝う。このままではジリ貧だ、いずれレンもカグラも行動不能に追い込まれるだろう。
カグラもそれが判ったからなのか、表情が厳しい。
そんな中、当のカーディナルは涼しい顔だ。まるで、受けている攻撃を攻撃と認識していないかのような。
「どうした、少年?この程度のものなのか?」
「ハッ!どーだかねぇ!!」
確かに一般プレイヤーでは、神であるGMには勝てない。
さらには一般プレイヤーより位階が少し上のカグラであっても、やはり自らの創造主たるカーディナルには逆らえない。
そう、一般プレイヤーであれば。
レンは振り向いて、いまだシャツを掴んでいるマイに叫んだ。
「マイちゃん!そのシステムを起動してくれない!?」
切羽詰ったレンの声を聞いたマイは、純白の髪を振り乱して言う。
「だ、だめだよっ!これ以上あれを使ったら、レンの脳が───」
「そんなこと解かってる!!」
「解かってないよっ!」
マイの金と銀の瞳が、鼻がくっ付くような距離で濡れている。
「レンの脳細胞はもう限界なんだよっ!もう一回くらい使ったら、生命活動にも影響が出るかもなんだよ!!」
「それでも!そのBBシステムとかいう物を使わないと、あいつに勝てないし、僕はマイちゃんを失いたくない!!」
そこまで来て、急にマイが黙り込んだ。どうしたんだ、と思ってそちらを見るも、妙にマイの顔が赤い。
隣のカグラがぼそりと一言。
「存外、鈍感なのですね。あなたは」
「なにが?」
心の底から首を傾げるレンに、カグラははぁ、とため息をつく。
その隣ではマイも。二人はそのまま顔を見合わせて、もう一度大きなため息を一つ。
何だ?さっぱりわからない。
どこか諦めたように、マイは言う。
「解かったんだよ。でもレン、いかな《適格者》のレンでも使える時間は一分が限界かも」
「うん、分かった。それだけあれば充分」
レンの返事を聞き、マイは大きく頷くとゆっくりと金銀の瞳を閉じる。
その口から、一転して無表情で無機質な声が洩れ出る。
「周囲五メートルの座標GHVAD.FHHFIA;UFHALGFHA136247354からDKGHNSDJFGADJFGDJVFD:FND:F.SAJF496391152までのアクセスを実行……成功。適格者の大脳ニューロンへのアクセスを検討……成功。同時に脳細胞への結合……成功。ノイズ発生率12.59パーセント。グリーンゾーンと判断。続行を検討……承認。BBシステムの稼働率82.46パーセント。加速倍率は適格者の生体脳ダメージから換算し、五倍に設定………」
その無機質な声を背に受けながら、レンはゆっくりとカーディナルに
向き直る。
ゆるゆると息を吐き、息を吸う。
そして力一杯叫ぶ。
「バースト・リンクっ!!」
あの感覚。脳にナニカが流れ込んで視界がクリアになっていくような、あの。だが、前と違うことが一つ。
あの時が止まった空間が発生しない。少しだけ周囲の動きが鈍くなったように感じられるのみだ。
だが、この前より頭の痛みがひどい。早めにやるより仕方がないか。
レンは半ば本能的に、右手を上げる。
そして、その先の空間が軽くスパークし、瞬く間に歪んでいく。そこから現れるのは、一振りの両手剣。相当にランクが高いのだろう。刀身からもれ出る情報圧だけで、空間が陽炎のように歪むのが目に見えてはっきりと分かる。
なるほど。これがBBシステム、正式名称ブレイン・バースト・システムの本当の使い方らしい。
周囲の空間のコード座標に半強制的にアクセスし、意の通りに歪ませる。
そして、擬似的ではあるが、GMの力を手に入れることができる。
この前より、安定している。
レンはちらりと自分のこぶしを見、握り締める。
それだけで、周囲の空間が歪む。周囲の空間とつながっているような、そんな感覚。
───安定してる………。
もう一度そう思うと、レンは現れて宙に浮かんだままでいる大剣の柄を掴む。
通常のレンならば、重すぎて腰を抜かしそうな大剣は、するりとレンの手に収まる。
同時に、視界にウインドウ。
──Wearing Enhanced Armament《THE IMPULSE》──
それを見ていたカーディナルが、チッと舌打ちした。
「命が惜しくないらしいな、少年」
「お互いにね」
ゴッとレンの体からも、カーディナルの体からも炎のように情報圧が上がる。その脇では、カグラがいまだぶつぶつと呟いているマイを伴って端に下がる。
カーディナルの漆黒のタキシードの腰にも、いつのまにか大振りの直刀が刺さっていた。
恐らく、レンがBBシステムを使って周囲の空間に干渉する前に、自らのGM権限でも使って召喚したのだろう。
互いに、正眼に構える。
「下らないことは抜きにして、次で決着をつけようではないか?少年」
「いいねぇ、なんだか僕までタノシクなってきちゃったよ」
目線が交差し合い、口元が笑みに歪む。
この場の───マイは除くが、全員が分かっているのだ。次の一撃でこの場の決着がつくことに。
緊張という名の静寂が、一瞬だけ部屋の中に荒れ狂う。しかしそれも一瞬のことだった。
陽光が両者の獲物を反射した時、二人は全力でスタートを切った。
「「はぁああぁぁぁァァァーッ!!」」
部屋に、轟音と閃光が充満した。
後書き
なべさん「あい、始まりました~、そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「あれ?元気ないね」
なべさん「風邪ひいたんだよ。あ~、鼻水ずるっずる」
レン「きたねぇな」
なべさん「んなこといったってなぁ。季節の変わり目だし……へ、へ、ヘクシッ」
レン「おいおい、大丈夫かよ。はい、ティッシュ」
なべさん「おう、さんくす……」
ザリッ
なべさん「いいっでえぇぇぇえええ!!??なんだ、ってこれ紙ヤスリじゃねぇか!鼻削れたわ!!」
レン「ちょうどよくなったんじゃないの?」
なべさん「なるか!鼻が一瞬にして、血まみれになったぞ」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね♪」
なべさん「逃げんなコラァア!」
──To be continued──
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