久遠の神話
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第三十九話 君子の絆その四
「つつましやかな生活になります」
「贅沢とも縁がないのですね」
「神に仕える者には無縁です」
真面目にしていればだ。そうだというのだ。
「そういうものです」
「そうなんですか」
「はい、多忙であり質素です」
「しかもご家族もですよね」
「神父ならばそうです」
牧師はいざ知らずというのだ。
「他のお仕事の様にはいきません」
「忙しいのはともかくとして」
「質素で。しかも」
「家族も持てないですか」
あくまでだ。生真面目に生きた場合だ。神父として。
「本当に厳しいですね」
「そうです。しかし」
「しかし?」
「非常に充実した仕事です」
微笑だ。何にも代え難いそれがあるというのだ。
「人の心を救い神にお仕えしているのですから」
「だからですか」
「はい、やりがいのある仕事です」
「聖職ですね」
ここで言ってきたのは樹里だった。
「それなんですね」
「そうですね。大袈裟な言葉ですが」
「聖職になるんですね」
「充実した仕事ではあります」
「ですよね、やっぱり」
「はい、非常に」
つまりだ。多忙さや金銭の問題ではないというのだ。
「素晴しい仕事ですよ」
「ですが聖職という言葉にはですか?」
「その言葉には躊躇うものがありますね」
どうしてもだとだ。樹里に述べるのだった。
「聖職かどうかということはです」
「何かあるんですか?」
「それはその職業で決まるのではなく」
「何で決まるんですか?」
「まず。職業に貴賎はありません」
ここからだ。大石は樹里だけでなく上城にも話した。
「どんな職業でも尊いのです」
「暴力団やそうした人達以外にはですね」
「同じなんですね」
「そうです。好き嫌いやそうしたことはありますが」
だがだ。それでもだというのだ。
「貴賎はないのです」
「じゃあ神父さんだからというだけで」
「素晴しいとかはないのですね」
「それを言うと例えばテニスは非常に素晴しいスポーツですが」
大石は実はスポーツも好きだ。スポーツは身体だけでなくストレスも解消させてくれてそのうえで精神も安定させ鍛えてくれる。だから好きなのだ。
その中でも彼が好きなスポーツのうちの一つをだ。ここで例えに出して言ったのである。
「だからといってテニスをやる人が誰もが素晴しいというでしょうか」
「違うと思います」
すぐにだ。上城は己が見たことから考えて答えた。
「剣道も素晴しいですが」
「それでもですね」
「はい、剣道の有段者であっても」
あの教師のことを思い出しての言葉だ。中田が成敗した。
「心の腐った人はいます」
「そうですね。それは私達の世界でも同じです」
「神父さんの世界でもですか」
「今もそうですがかつては特に」
大石は悲しい目にもなって話した。
「バチカンの腐敗は酷いものでしたね」
「あっ、教科書にありますね」
「とにかく酷かったんですよね」
「腐敗。その腐敗たるや」
顔を少し上にあげ遠くを見る目になり、だ。彼は悲しい顔になり言ったのである。
「人間の世界に対する挑戦の様でした」
「確かに。教科書とかを見ていますと」
「ローマ=カトリック教会の腐敗って酷いですよね」
「何かこう。本当に人は何処まで腐敗できるか」
「そうしたことに挑んだみたいな腐敗ですよね」
こうだ。上城と樹里も話した。バチカンの腐敗の恐ろしさは歴史にある通りだ。それはまさに人類社会への挑戦とまで言えるものだった。
「ちょっと。どうしてあそこまで腐敗したのか」
「不思議なんですけれど」
「私もあの腐敗は知っています」
知らない筈がなかった。神に仕える者として。
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