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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第二十話「貴様を炭火焼にしてやろう」



 身体から蒸気が立ち上ぼり骨格が『変化』していく。背丈が伸び、髪は短くなる。


 ものの数秒で自身の身体に生じた『変化』が終えると、俺は調子を確めるように拳を握り開きした。


「ふむ……」


 この姿になったのも久しぶりだが身体に問題はないな。ただ服がアレだが。


 一四五センチだった身長が三十センチも伸びたのだ。体つきもしっかりしたため、着ていた制服がいまにも張り裂けそうだった。


 指を鳴らすとが背丈にあった制服に作り替えられる。これでよし。


 そういえば静かだな。


 ふと上空を見上げると、ユーナベールが愕然としていた。


「……だ、誰? なにをしたの?」


 信じられないといった顔のユーナベール。まあそれも無理はない。今の俺の姿――いや、在り方はまったくの別人といってもおかしくないのだから。


 一七五センチの身長に引き締まった体躯。ダークブラウンの短髪に蒼い瞳。堀のある顔つき。これで一見して俺が姫咲レイだと気がつく者はいないだろう。恐らく朱乃姉さんでも例外ではないと思う。


 まあ、今はそんなことより――。


「俺が誰であり何をしたのかなど、君には関係のない話だ。今、俺たちがするべきことはただ戦うことのみ」


 拳を構える。


「大将の身が心配なんでな、悠長に構っている暇はないんだ。悪いが即刻、けりをつけせてもらうぞ」


「――いいでしょう。疑問は尽きないけれど、あなたへの勝利をライザー様の手土産とします」


「その意気や良し、では――」


 参る!


 地面を踏み抜き跳躍、一瞬にして十メートルほどの間合いを詰める。ユーナベールは一瞬で間合いを潰されて驚いているが、俺にとってこのくらいの距離など無に等しい。


 慌てて爆破しようと魔力を向けてくるが、彼女の肩に手を置いて丁度逆立ちのような姿勢になった俺はそのまま背後に回った。そして無防備な背中を蹴りつける。


「きゃあ!」


 真下へと落下したユーナベールは地面に激突した。轟音が轟き土煙が周囲の視界を遮る。


 足裏に魔方陣を一瞬だけ展開し、それを足場にユーナベールの元へ急降下。彼女の腹部に方膝を叩きつけた。


「かはっ……」


 肺中の酸素を洩らすユーナベール。彼女を跨ぐ異様に起立した俺は魔力を凝縮しながら拳を振り上げた。


「夕凪流活殺術枝技――天地一貫」


 彼女の腹部に振り上げた拳を振り下ろす。衝撃が放射状に駆け抜け、地面が所々隆起した。


「がふっ……」


 吐血するユーナベールを見下ろす。ダメージが限界値を越えたためか、その身は光に包まれていた。


「いい勝負だった。また会おう、『女王』ユーナベール」


 俺の言葉に彼女はふと微笑み、退場した。


『ライザー・フェニックス様の〈女王〉、一名リタイア』


 これで、イッセーとの約束は守れたかな?


 さて、イッセーの跡を追うとしよう。木場と姉さんが不在となった今、リアスの身が心配だ。


 校舎へと足を向けると背後でレイヴェルが声を荒げた。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなたたちに勝ち目はないのですよ! こんな無駄に終わることをするなら私とおしゃべりしていたほうが、ずっと健全で安全ですわよ!」


「無駄かどうかなど俺たちが決めることだ。勝ち目があろうとなかろうと、俺はただ戦うのみ」


 ――皆のためになると信じて、な。


「話は終わりか? なら俺は失礼させてもらう」


 俺は振り向かず、リアスたちの元へ向かった。





   †                    †                    †





 校舎の裏手から侵入した俺はひたすら階段を駆け上る。目指すは屋上、部長のもとへ!


「くっふ……」


 壁に寄りかかり込み上げてきたものを吐き出す、血だ。


 くそっ、ダメージを食らいすぎた……!


 レイと別れてから途中、敵の『騎士』と『兵士』二人と遭遇しちまった。一対三はかなり厳しく、なんとか辛勝したものの、俺も見過ごせないほどのダメージをもらってしまった。


 血と汗にまみれた顔を拭う。木場と朱乃さんがいない今、俺と小猫ちゃんとレイだけが部長を守れるんだ。ここで倒れるわけにはいかない!


 震える膝を叱咤して前に進む。もう小猫ちゃんは先に着いているのだろうか?


 屋上へと続く扉が見えてきた。休む間もなく体当たりをするように扉を開く!


「部長ォォォォォ! 兵藤一誠、ただいま到着しましたぁぁぁぁぁッッ!!」


「イッセー!」


「イッセーさん!」


「イッセー先輩……」


 部長とアーシア、小猫ちゃんが歓喜の声を上げた。


 アーシアは小猫ちゃんの傷を治癒していた。見れば小猫ちゃんはボロボロで立っているのがやっとな状態だ。部長は肩で息をしているがアーシアと同様に傷らしい傷がないのが唯一の救いか。


 ライザーが舌打ちをする。


「レイヴェルの奴、見逃したな。ユーナベールの奴はどうした?」


「ああ、それなら――」


『ライザー・フェニックス様の〈女王〉一名、リタイア』


 ナイスタイミングだ、レイ!


 俺はニヤッと唇の端を吊り上げた。


「うちの『戦車』が倒したよ」


「なんだと!? まさか『雷の巫女』以外にユーナベールを打倒できるやつがいるとは……もしかしてあの人間か?」


 俺はそれには答えず、アーシアのもとに向かった。ライザーは特に行動を起こすことなく眺めているだけだ。余裕のつもりか?


 小猫ちゃんの治癒が終わり駆け寄ってきたアーシアがすぐさま俺の傷を治してくれる。やっぱりアーシアの『神器』はすげぇな。あれほど痛かったのにアーシアの淡い光に触れるとたちまち和らぐ。


 さすがに体力までは回復できないみたいだけど、十分だ。これで戦える!


「イッセー、レイは?」


「敵の『女王』を相手に残りました。さっき倒したようですから、もうすぐ来ると思います」


 小声で聴いてくる部長に俺も小声で返す。


 ライザーが如何にも面倒くさそうな顔で言う。


「まだやるつもりか? いい加減、お前らに勝ち目がないことを理解したらどうだ?」


「はっ、何言ってやがる! そっちはお前を含めて二人、こっちはまだ五人いるんだ。これのどこに勝ち目がないってんだ」


 そうさ、数的にはこっちが有利。しかしライザーは溜め息をつくと首を振った


「お前は全然理解していないな。我らフェニックスを相手にすることがいかに無謀かということを。そっちのリアスは理解しているようだが」


 振り向けば部長は唇を噛み締めていた。だけど、だけどなぁ……。


「――知らねえな、そんなもん。俺はまだ戦える、拳を握れる。それで十分だろうが! 部長、踵部はまだ続行ですよね!?」


 部長の顔に活気が宿る。


「ええ、そうね……! 私たちはまだ戦えるわ!」


「……ボッコボコです」


 小猫ちゃんが小さくファインティングポーズを取った。


「ええっと、頑張ります!」


 焦り顔のアーシア、君は回復に専念してね!


「イッセー、みんなでライザーを倒すわよ!」


「はい!」


「……いきます」


 小猫ちゃんとともに駆け出す。この拳をあいつの顔面に!


「いくぜ、ブーステッドギア!」


『Burst!』


 それは死刑宣告にも似た音声だった。籠手から無機質な音声が発せられると同時に身体が重くなり、力が抜けていく。立っていられず、その場で四つん這いになった。


 ――ガフッ。


 血反吐を吐いてしまう。傷は治ったのに、身体はすでに限界かよ……。


冗談じゃない、ここまで来て終われるかよ!


「イッセー!」


「イッセーさん!」


「先輩……!」


 部長たちの悲鳴が聞こえる。はは、女の子たちに心配かけさせちゃいけねえよな。


 途切れそうになる意識を繋ぎ合わせ、立ち上がる。


「行こうぜ、みんな!」


 心配そうな目で見つめてくる部長たちの視線を振り切るように、ライザーのもとへ駆け寄る。そして、拳を振り上げた。


「ぐはぁ!」


 俺の拳はたやすく避けられ、逆にカウンターを腹に叩き込まれてしまった。その場で膝をつく。


「先輩……!」


 小猫ちゃんが反対方向からライザーに襲い掛かるが片手で受け止められ、立ち昇る炎に身を焦がされる。


「あぁ……ッ!」


「小猫!」


 悲鳴を上げる小猫ちゃんにアーシアが駆け寄ろうとするが、彼女の足元に突如魔方陣が展開される。円柱状の結界と思わしきそれはアーシアがいくら叩いてもビクともしなかった。


「そこの『僧侶』の回復は厄介なのでな、封じ込ませてもらった。ちなみにその結界を解けるのは俺かユーナベールしかいない」


 くそ、これじゃあアーシアの『神器』が使えない!


 ボロボロになった小猫ちゃんの体が透けていく。


『リアス・グレモリー様の〈戦車〉一名、リタイア』


 くっ、小猫ちゃん……!


「よそ見する余裕があるのか?」


 頭上からの声。顔を上げる暇も無く、顔面を蹴り飛ばされた。鼻血が吹き出す。


 ああ……とうとう目がイカレちまったか……。


 右目から見える視界はぼやけ、目としての機能を失われた状態だ。しかも三半規管もやられたのか、やけにフラフラしてちゃんと起き上がれない。


「終わりだ、赤龍帝の小僧」


「させんよ」


 第三者の声。鈍い音がしたと思ったら、すぐそこまで迫っていた気配が遠ざかった。


 誰だ……? レイにしては声が低いし……。


 地に伏した状態で声のした方を向く。


 ――カツン、カツン、カツン、カツン……。


 階段を上る靴音が規則正しく続き、次第に音が大きくなる。開け放たれた扉から、その男は現れた。


 背の高い男だ。駒王学園の制服を着た男。ダークブラウンの短髪に蒼い眼。堀のある輪郭はどことなく渋さが窺える。木場とは違ったイケメンだ。なんというか、『漢』っていう感じか? いや、ミルたんのようなタイプでもないけど。


 鷹を連想させる鋭い目は真っ直ぐライザーを射抜いている。


「だ、誰……?」


 部長も戸惑った顔で乱入してきた謎の男を見つめている。アーシアはただ首を傾げているだけだった。


「おい、リアス。こいつはお前の眷属か?」


「いいえ、知らないわ」


 怪訝そうに訊くライザーに部長は首を振った。本当に誰なんだ、この人は……?


 男は俺たちの反応を見ると苦笑した。


「ひどいな、自分の駒の顔も忘れてしまうなんて」


 自分の駒? でも俺たちにもライザーにもこんな人見たことないぞ?


「では、改めて自己紹介しようか」


 男は踵を揃え背筋を伸ばすと、右手を左胸に当てた。


「俺の名は姫咲レイ。リアス・グレモリーが眷属『戦車』を任命されている。以後、よろしく」


 ――え?


「「「ええええええッッ!??」」」


 俺と部長、アーシアの声が空を駆け抜けた。





   †                    †                    †





「レ、レイなの?」


「ああ。まあ信じられないのも無理はないがな。色々と聞きたいことはあるだろうが、まずはコイツを倒してからにしよう」


 それを聞いたライザーは鼻で笑う。


「俺を倒す? はっ、やれるものならやってみろ。ただの人間ではないようだが、フェニックスである俺を倒すなど――」


 瞬動で即座に間合いを詰めた俺はライザーのこめかみに拳を叩きこんだ。


 衝撃でライザーの上顎から上が吹き飛ぶ。が、次の瞬間には傷口から炎が吹き出し、欠損した部位を修復していく。なるほど、これが不死か。


「無駄だ、お前たちの攻撃は俺には通用しない」


 勝ち誇ったその顔に再び拳を振るうが、先程と同じ結果となる。らちがあかんな……。


 ならば――、


 無防備に佇むライザーの腹部に前蹴りを放つ。


「だから無駄だと――ぐふぉっ!?」


 それまで余裕の表情で構えていたライザーが初めて顔を歪めた。腹部を抑えて一歩、二歩と下がる。


「お、お前、何をした!」


「なに、ただ物理的ダメージを精神的なものに換えてやっただけだ」


 いたって単純な考えだ。身体は不死だろうと精神はその限りではない。なら、先に精神の方を駄目にしてしまえばいい。


「さて、どこまで耐えられるかな?」


「くっ、舐めるな人間っ!」


 腕に炎を纏ったライザーが拳を突き出す。俺はその拳に拳を叩き込んだ。


「がぁああああああッッ!」


 五指が中程から折れ曲がり、メキッと骨が砕ける音が。ライザーの絶叫が響き渡った。


「脆い骨だな、カルシウムが足りてない証拠だ。投了するなら今の内だぞ?」


「この、人間風情が……」


「ほう、まだ戦意があるか。なかなか良い根性をしているじゃないか。見直したぞ」


 ライザーの頭を掴み宙にぶら下げる。逃れようと暴れる手足を片手で捌き、のたうつ炎を掻き消しながら、掴んだ右手に力を注いだ。


「その不屈の心を称え、特別にコイツで終わらせてやろう」


 ライザーの足元に魔方陣が浮かぶ。


「とくと味わえ。これが、煉獄の炎だ!」


 頭部を掴んだ右手と地面に展開された魔方陣から蒼い炎吹き出し、ライザーの身を包んだ。


「――――ッッ!!」


 声にならない悲鳴を上げる。炎はライザーの身体と精神の両方を確実に燃やしていった。


 五秒経過したのを確認すると炎を消す。炎の中から現れたライザーの姿は白目を剥き、痙攣した姿だった。


『ライザー・フェニックス様の意識消失を確認しました。リアス・グレモリー様の勝利です』


 ……呆気ない勝利だな。

 
 

 
後書き
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