忍術と食を極めし者
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第7巻
ナギ・スプリングフィールド率いる紅き翼がウェスペルタティア王女アリカを救い出すためにダンジョン内で暴れ回る中、ヘラス帝国第三皇女テオドラ姫救出任務を果すため万華鏡写輪眼―神威を使い同じく夜の迷宮に足を踏み入れ中層にまで来たアスカ。
「『ぐぅ……何故、人間が雷体である我に触れる事ができる…』」
「雷ごときが己れの物差しで、俺という人間を測れると思うなよ精霊」
中層に到達した直後、迷宮を住みかにしダンジョンのボスと化していた肉体が雷で構成されている雷の上位精霊に遭遇。暴れ回っている人間たちが数刻前に現れたこともあり、侵入してきたアスカを自分の住みかを荒らす賊の類いかと考え彼に襲いかかるも……
「『まさか……雷に触れられるばかりか、雷で構成されている我の身体にダメージを与えられる人間がいようとは、な。不覚』」
「……己れの無知を卑下することはない。貴様は我が瞳力の前に膝まづき屈せればいい」
「『無念だ……』」
結果、雷チャクラを纏い戦うことができるアスカの前に敗北。雷としての自慢の雷速も、彼の膨大な経験から生まれる直感と魔力を視通す写輪眼により動きを先読みされる形で成すすべなく封じらた。
最後は首掴まられ、写輪眼が成す瞳力の前に屈する最後に。
無駄な時間を浪費させられた上位精霊を投げ捨て、迷宮内最下層を目指す。奥だけではなく地下深くまで予想以上に入り組んでいるため下から上を見て全体を見渡す為だ。
奥に下にと進むにつれ数と危険度が増す罠を神威を用いてやり過ごし、最下層中心部に到達。早速、目標を探し出すため上を見上げ、写輪眼で迷宮内を透かし見し目的の者の魔力を捜索。一緒にアリカが幽閉されているならば、王家の魔力を持つ彼女は他とは違い目立ち目印になる。
― 一緒に囚われたなら二人を纏めて幽閉している可能性が高い……いたな。
迷宮内で王家の魔力を持つ者を即座に発見、直ぐ側に王家の魔力ではないが強い魔力を内包する者が。量が多くなくとも強い魔力を持つ者、ヘラス皇族の血を引き継ぐテオドラしかいない。予想通りアリカとテオドラ、二人の姫は一緒に同じ場所に幽閉されていた。
あとは神威で天井と壁を避けて浮遊術で真っ直ぐに飛んで行けばいい訳なのだが――
「……それで、俺に何か用か?」
「やっぱり、気づかれてたか……なぁに。アンタに興味があるだけさ」
再び彼の邪魔をし立ちはだかる者が現れる。
アスカが視線を向けた先、薄暗くも生み出される物影に身を潜めていた人物がその姿をさらす。出てきたのは、薄く透けるような白い肌に白い眼と白い髪で制服のような詰襟の服を着た女性。
見た目の年は、18ぐらいだろうか、無表情でどこか人形じめているかのように見える。
彼女の容姿に、この感じには記憶がある。彼女から感じるこれは……
「なるほど、奴の使徒の一体だな貴様」
「ふふ、そうさ。確か過去に〝地〟の奴と面識があったんだっけ。しかし……まさか、アンタまで此処に現れるなんてね。我が主と露出魔にマダラには手を出すなと言われてるけど……挨拶ぐらいはしとこうじゃないか!!」
そう言うと彼女はアスカ目掛けて魔力を身に纏い襲いかかる。
「アタシはムム・アーウェルンクス! 〝無〟のアーウェルンクスさ!!」
それが彼女、ムムの正体。造物主が作った使徒、アーウェルンクシリーズの『番外』である〝無〟を冠するアーウェルンクス。アリカとテオドラの見張りとして役目を命じられ此処、夜の迷宮にあてられていた。彼女たち二人の姫を捕らえていたのは、ただの時間稼ぎであったため時間を稼ぎ予定通り孤立化させた紅き翼が二人を助け出しに来た場合は見逃す手はずだったのだが、そこに招かざる客が迷宮に。
主である造物主から直々に、組織の参謀的役割を持ち使徒の纏め役であるデュナメスからマダラには手を出すなと口が酸っぱくなるほど言われ続けた、が。
それを納得することはできなかった。
マダラがとんでもない実力を有する人間であることは、主が警戒する程の人物なのだ理解はしている。だが、自分は造物主が作った使徒であるアーウェルンクス。同じアーウェルンクスの〝地〟を冠するプリームムを越える力を持ち、最高傑作の使徒だと自負している。だからこそ彼女には納得ができなかった、そんな自分が挑まずにして傷害なりかねない相手を避けることなど。
「どうしたのさ、構えもせずに突っ立ってるだけで何もしないなんて!! 余裕のつもりかい!?」
様子見なのか肉体強化のみでアスカに肉薄し、拳を顔目掛けて振るうムム。その彼女を何もせずに自分の間合いに迎え入れ、顔に放たれた右拳を見切り難なく右に一歩動くことで避け、カウンターでアッパー気味の雷チャクラで包んだ左を彼女の鳩尾に打つ。しかし、見えない何かに塞がれ阻まれると同時に雷チャクラが何もせずに消え失せた。
即座に左腕を掴み阻む何かから引き抜くも、ムムの左拳がアスカの顎を狙う。それを右掌で受け防ぎ後退し、脱した左腕を直ぐに写輪眼を発動して視る。
視たところ左腕には異常なく違和感もない。左を阻んだ正体はわかる。造物主の使徒が持つ斑状に張り巡らされている無数の魔法障壁だ。だが、雷チャクラを消したことが解せない、障壁にはそんな能力は備わっていなかったはず。
「アハハハ!! どうだい、驚いたろ! どうやら噂のマダラも大したことなさそうだね、これは!?」
どうやら、彼女には他の使徒には備わっていないアスカが知らぬ能力が備わっているようだ。ならば、能力の正体を探り見極めれば良いだけのこと。
この世界に転生してから戦う度にそうしては、幾度もの難を越えてきた。今回も、それを実践すればいい。
― 火遁・豪火滅却!!
印を瞬時に組み口から吹き出すは、上位の火遁忍術。場を埋め尽くすかのような火の壁がムムに迫る。
「だぁからぁ……無駄なんだよ!! 」
彼女の言う通り、先の雷チャクラ同様に阻まれムム自身に到達する前に火の壁は、かき消され無駄に終わる。
火遁系で上位忍術に当たる豪火滅却をも消し去る程の力を有する能力ようだ。
「確かチャクラつったっけ? アンタの術はアタシには通用しない。例え、チャクラから魔法と気のどちらかにシフトしようともね!!!」
なんとチャクラだけではなく、魔法と気までも消し去ることが可能らしい。よほど自信が有るのか声を大にして、アスカの技は無駄だと言い張るムム。が、その一言がいけなかった。自信が有るのは良いが、完全に優位に立ってる訳でもないのに簡単に能力のヒントになるような台詞を口に出してはいけない。特に冷静な分析力と観察眼を持つ、アスカのような実力者の前ではなおさら。
どのような能力か理解できれば対策など簡単。
瞬身の術の要領で肉体全体にチャクラを巡らせ活性化、全身のグルメ細胞を活性。瞳を写輪眼から輪廻眼に移行させる。準備が終われば即事に行動に移すのみ、瞬身の術でムムに肉薄。
「アンタの攻撃は無駄だっ――でべぇ!?」
ムムの脳に響き渡る轟音。チャクラを無効化する障壁が有るというのに、障壁が無かったかのように近づかれ間合いえの侵入を簡単に許してしまい顔面をとてつもない剛腕で殴り飛ばされる。
「な、なんレ?! どうひ!!」
理解ができない、何故自分が殴られる。彼の技である要であるチャクラを含め全て無効化し消せるずなのに、何故ただの拳打ごときでダメージを喰らい鼻を潰され口内が切れて血を流す。それに自分はアーウェルンクス、ただの拳打程度でダメージを受けるなどあり得るはずがないというのに。
思考が追い付く前にアスカによる追撃、再び顔を殴られる。
― 何で! どうして、主の力を有しているアタシが殴られる続けているの?!
殴られ続けられているせいで声に出せない疑問、困惑を顔に出すもアスカは彼女の疑問には答えない。顔、胴体と性別など関係ないと言わんばかりに女性体であるムムを無言で殴り続ける。拳を防ぐため腕を前に出したガードを殴り飛ばし、骨を砕き白い血を飛び散らかさせていく。
殴られた反動により間が空き背後に展開した魔方陣から魔法を放とうとも、アスカが球体状に自身を被う見えない不可視の場に触れた瞬間、魔力を吸収され無効化されてしまう。それも彼の力を増幅させてしまう形といった最悪な状態で。
アスカはムムの能力を完全に見切った。
初めから感じていた覚えがある感覚に、先ほど口に漏らした彼女の一言。それでムムの能力を把握し、全てを理解した。予想はしていた、ムムの能力の正体は造物主が種とするウェスペルタティア王族が身に宿す王家の魔力。人形ごときに己れの血の力を宿させるとは思いもしなかったが、正体が解ればそれまで。幾らチャクラを含めた放出系統の技を無効化できようが、この身までは無効化するなど不可能。王家の魔力で作られた障壁は輪廻眼の餓鬼道で魔力を吸収してやればいい。あとはチャクラ等を使わずにグルメ界の猛獣たちを相手できる、人間の限界を越えた力を生み出すグルメ細胞を内包する鍛え上げた肉体の膂力のみでことたりる。忍術が、切り札とも言える須佐能乎が封じられようとも、この身一つで切り抜けよう。
しかし魔法世界を創り出した者が、なかなか酷いことをする。〝無〟のアーウェルンクスとして造られたムム・アーウェルンクス、彼女の役割はただの当て馬だ。自ら切り捨てたアスカを彼が自分の元から去り、あれからどれ程の実力を有したか確かめ測るためだけの当て馬でしかない。ただ、それだけの為に彼女は生み出された造物主の劣化体。千住柱間の劣化体であるゼツのような存在に近い。
「ならば……」
思い切り殴り飛ばし間を広げ蹴りを放つ。放った蹴り―レッグナイフ―の斬撃より彼女の胴体が横真っ二つに。ムムを真っ二つにした蹴りの斬撃は彼女を真っ二つにしただけでは止まらず、後ろの壁を奥の奥まで切り裂いていく。
上下二つに別れた上半身の方に近づき髪を鷲掴みにし、自分の目線まで持ち上げる。彼女を含める造物主作の使徒たち人形は、左胸部に存在する人間の心臓にあたる核を破壊されない限り活動を停止。つまり死ぬことはない。
「このまま逃げ帰るなら好きにすればいい、トドメはささん。ただし、奴へ伝言を届けろ。『貴様の絶望は此処までだ。希望を得て死ね』とな」
「な、なんれ…ひょんな――がっ?!」
言いたいことを言い終え、ムムを雑に投げ捨て彼女には、もう用がないと言わんばかりに後ろを向き歩き出す。目指すは依頼である対象のテオドラ。もとより彼には依頼の救出任務以外は眼中に無いのだ。当て馬として役目を終えた人形にメッセンジャーとして新たな役目を与えてやったのだ、文句を言われるような筋合いなど無い。
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アスカがムムを真っ二つにした頃、アリカとテオドラが幽閉されている牢獄代わりの一室。
「よう、助けにきたぜ。無事か姫さん?」
「もう少しまともに壁を壊せぬのか。しかし、遅いぞ我が騎士」
先に彼女たちの所にたどり着いたのはナギ、紅き翼だった。しかし、助けに来てもらった相手に文句をたれるとは、相手がナギだからいいのだろうが一国の姫君がそれで良いのだろうか。
ちなみにテオドラはナギが勢いよく騒音を上げて壁を破壊したというのに爆睡中である。部屋の外では、まだ他のメンバー―特にラカン―が完全なる世界の兵相手に暴れているっていうのにだ。もうスヤスヤと熟睡してるね、ヨダレを垂らして美味しい物を食べてるんじゃないかってぐらいに。
寝る子は育つと言われているがこの場合はどうなんだろう。
アリカもそうだが囚われて幽閉されている自覚があったんだろうかこの駄姫二人は。
ナギがアリカを連れ、グレート=ブリッジ奪還作戦後に仲間になり紅き翼とアリカの橋渡しを担ったメガロメセンブリアの元捜査官であるガトウ・カグラ・ ヴァンデンバーグが熟睡姫テオドラを背負い迷宮を脱出しようとした、その時。彼らにとって―ナギ、ラカンは別―予期せぬ来訪者が。
「……どうやら、一歩遅かったようだな」
造物主の使徒である無のアーウェルンクスのムム・アーウェルンクスにメッセンジャーとして伝言を預け放り投げ放置したマダラ、カガミ・アスカが一歩遅れでの到着である。
「なっ! マダラ!?」
「なにー!! マダラだってー!!」
アスカに先ず反応したのは、ナギとアリカの二人に続いて部屋を出ようとしていたガトウ。彼は完全なる世界の調査をしていながらも、戦局をたった一人でありながら左右してしまうマダラのことは調べていたようでアスカの顔を知っていたようだ。まあ、リーダーが調べろとごねたのもあるのだろうが。さすがである。
次にナギ。ガトウの声に反応しては近くにいたアルビオレにアリカを任せ迅速な速さで部屋に舞い戻ってきた。よほどアスカと戦ってみたかったのか、かなり興奮している御様子。まさに命知らずとは彼ような人物のことを言うのだろう。ナギの大声で完全なる世界の兵の相手をしていたラカンをはじめとするメンバーが一通りぶった押して部屋に近寄ってきた。
避けてきたアスカと会おうとしてきた紅き翼がここに初の対峙を果す。
第7巻
後書き
グルメ細胞って本当にチートだと思う。
自分より数十倍もある猛獣を素手で倒せて環境に適合できるだけじゃなく、自身に合った食材を食べるだけで傷と疲労を回復できるんだから。
本当は紅き翼(ナギとラカン)との対決までもっていく予定でしたが10000文字越えそうだったのでいったん切りました。
無のアーウェルンクスのムム・アーウェルンクス
アスカと造物主を繋げるためのオリキャラです。
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